軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私のポーションが欲しい人へ

ダリットは、私が作ったポーションを、普通とは違う作り方だと言った。

どうしてばれたか、それより、明らかに様子の変わった私を、薬屋のおじさんが心配そうに伺う。

「お父さんやお母さんがどうやってポーションを作ってるか、知らない?」

「知らない!」

力強く答えた後にハッとした、怪しい答え方だったかもしれない。

目だけでダリットを見ると、申し訳なさそうに屈み、私と目線の高さを合わせてきた。

「ごめんね、お父さんとお母さんと、少し話をしたかっただけなんだ」

私の反応は、さながら親を悪く言われた小さな子供だろうか。ばれていないのなら問題は無い。親を心配するふりで、ダリットに話しかける。

「もしその、普通とは違う作り方をしていたとしたら、どうするの?」

「その時は君のお父さんとお母さんに詳しい話を聞くことになるかな、でも大丈夫だよ、それならそれで協力して欲しいだけだから」

「協力?」

「うん。実はアスルなんだけど……」

「ダリット、それは製作者が現れてからでいいだろう」

アスルがなんだろう。いつまでも親が居ないことを隠しては行けない、いつかばれるとしても、今この場でそれを明かす勇気は無い。私が明かしても大丈夫だという、確信がほしかった。

「アスル?この人がなんですか?」

「カエデ、それは君ではなく君の親に言う」

「父や母が知るなら、いずれ私も知ることになるかと思います、多少前後しても問題無いんじゃないんですか?」

アスルは口を閉ざした。ダリットがアスルの顔色を伺いながら、続きを話し始めた。

「アスルはポーションの類がほとんど効かないんだけど、それを前提で聞いてくれるかな?」

「はい」

「リクフォニアに来る途中で爪鳥の群れに襲われたんだ」

リクフォニアに来る途中で爪鳥と言う大きな鳥の群れに襲われ、丁度体調不良で幌馬車で寝ていたアスルが結構深い怪我をし、爪鳥の群れを全滅させた後も血が止まらず困っていた所、通りかかった旅人からポーションを買ったらしい。ここで前提、アスルはポーションが効かないのではなく「ほとんど」効かない。つまり何十個も消費すればいずれ傷は癒える。

話を戻す。旅人からポーションを10個買取り、血が止まればいいという程度で使ったポーション1個で、アスルにしてはありえないほど傷が癒えた。それで慌てて旅人に話を聞いたら、この店で小さな女の子から買ったという話を聞き、今に至るらしい。

「だから、どうしてもポーションの製作者と話がしたかったんだ」

「でも、その時ポーションが効くようになってたってことは無いんですか?」

「そんな事はとっくに試した」

アスルが割り込んできた。

「しかし結果は変わらなかった。俺の怪我を癒したのは君の売っていたポーションだけだったんだ」

「じゃあ誰がどんな変わった作り方をしていても、文句も何も言わないんですね?」

「ああ、だから君の親に……」

「私です」

「は?」

話を遮られたアスルはいらだっているようだ。

「だから、ポーションを作ってるのは私です」

その場に居た誰もが目を見開いた。そして始めに口を開いたのは、意外にも今まで一言も話していなかった、年配の剣士だった。

「カエデちゃん、それは本当かの?」

「はい」

年配の剣士は怖い見た目とは違い、優しげな口調だった。

「材料さえあれば、目の前で作って見せても構いません」

「にわかには信じられん話じゃ、ぜひ見せて貰いたい」

「はい、ちょっと待っててください。おじさん、水ありますか?」

「え、ああ、用意してくる」

おじさんも信じられないようだ、私は外に出て、そのへんに生えていた雑草を抜いて店に戻ったのだが、アスルもダリットも年配の剣士も、私が持つ雑草に疑問を抱いているようだ。

「ほらじょうちゃん、これで足りるか?」

おじさんはコップ一杯の水を見せた。

「十分です、すこしカウンター借りますね」

水と雑草をカウンターに置くと、いつもの様に唱えた。

「生成」

水と雑草が光り、見慣れたポーションが出来上がった。

「出来ました」

手に乗せたポーションを、皆がまじまじと見る。

「今、一体何があったんだ?まずポーションとは本来薬草が必要じゃないのか?何故君のような子供がこんな……、それに親はどうした?」

「今ポーションを生成しました、本来薬草が必要でも私は使いません。親がいるのはうそです。それと私は17歳です」

「17歳!?僕と1つしか違わないの!?」

「うるさいぞダリット!それよりも生成ってどういうことだ!?」

「そうじゃない!薬草を使わないポーションはポーションじゃないぞ!じょうちゃん!」

「うるさいのはお前らじゃ」

「じゃあ、薬屋のご主人に勘違いされたのをいままで利用してたってことだね」

「はい」

ダリットが簡潔に話してくれた事で、騒がしさは収まった。

「17歳なんでしょ?敬語じゃなくていいよ」

「あ、そう?わかった」

「しかし、その作り方は生まれつきって、何か特別な訓練をしたんじゃないのか?」

「違う、それにさっきアスルは、誰がどんな変わった作り方してても文句も何も言わないっていったよね?」

「確かに言ったが、それとこれとは……」

「言ったよね、何も言わないって言ったよね?」

アスルが勢いをなくしたので、気になる事を聞いてみた。

「それで、さっき協力してもらいたい的な事言ってたけど、それってアスルにポーションを作れって事?」

「あ、うん。アスルはすごく強いんだけど、ポーションの類がほとんど効かない事があって、前衛にはあまり出られないんだ」

「そうだね、自然治癒しか手がないようなものだもんね」

「うん、もうすぐドラゴン討伐のためにこの街を出なきゃならないから、それまでになんとか」

「具体的には?何日後?」

「具体的には、ちょっと……」

ダリットはアスルに助けを求めるように目を向けた。

「ドラゴンハンターの全員が準備を整え次第出発だ、だから具体的な事は分からない」

ならそういえばいいだろうに、ダリットは何を言いよどんでいたのか。

「ポーションは今日作ったばかりで、まだ450個はあるから、いくつ必要か言って」

「そんなにあるのなら100は買ってもいいな。ちなみにハイポーションは無いのか?」

「ない、材料が手に入らないもの」

そう材料、アオギリ草と清水だ。清水を作るための清め石は値段が高いし、アオギリ草は私が命をかけて採取しなければならないので、両方ともまったく手に入る予定が無い。

「材料とは?」

「アオギリ草と清水」

「ならその材料があれば作れるんだな?」

「え?うん」

アスルは腕を組み、得意そうに笑った。

「俺はギルドランク1だぞ、アオギリ草など明日中にたんまり採ってきてやる」

「清水は?」

「清水は清め石を買うだけで出来るだろう」

私は盛大にため息をついた。

「その清め石が1000タミルもするから材料が手に入らないっていってんの」

「ならその1000タミルを俺が出す、それでどうだ」

「え……?」

今、1000タミルをくれると言った?まじで?その上アオギリ草も……、実はいい人だったのかな。ちょいちょいイライラさせられたけど。

「分かった、作るよ」

「約束だからな」

明日アオギリ草が採取出来次第、私の宿に来るらしいので、明日は大人しく宿でのんびりしていようと思う。

私は今まで金勘定ばかりで、自分が作ったポーションが人の役に立つのだと深く考えたことは無かったが、帰り際に私からポーションを20個買っていったアスルを見て、作ってよかったと感じた。

とても嬉しそうに笑っていたのだから。

昼前、空腹で目が覚めた。何となくお腹をさすると、ぐうっと腹の虫が鳴いた。

昨日のことを思い出して、アスルがいつ訪ねてくるのか不明である以上無闇に動くことは出来ない。

しかしだ、ぐうっとまた鳴いた腹の虫、財布を持って宿を出た。ここからいつも行くパン屋までは5分程度かかる、往復で10分、パンを選ぶ時間を合わせても15分ほどで戻れるだろう。その15分の間にアスルが訪ねてくる可能性の方が低い。

「どこへ行くんだ」

まさかの低い確率の内にアスルが訪ねてきた。宿を出て10歩で出くわした。

「お腹すいたからパン屋に行くの」

「丁度いい、帰りに清め石を買えばすぐにハイポーションを作れるな」

背中に大きく膨らんだ麻袋を背負っているが、まさかすべてアオギリ草なのだろうか、いったいいくつ作らせるつもりだ。

「ああでも水も沢山用意して清め石を……」

あ、清め石を漬けるなら入れ物を用意しなければならないのをすっかり失念していた。

「沢山水を入れられる物持ってる?」

「…………水がめがどこかに売ってないか」

「知らないよ、あってもアスルがお金払ってね」

「まあいいだろう」

何か聞き取れないほどの声量でぶつぶつ言っていたが、文句であるのは十中八九間違いないだろう。

それよりもお腹が空いたのでパン屋に足を向けると、アスルが付いてきた。

「あのさ、その大きい袋担いだまま付いてくるの?」

「そうだ、一旦置こうにも俺の使ってる宿は、ここから遠いからな」

「そうなんだ、なら私が泊まってる宿の部屋に置いて行こうよ」

アスルは一瞬迷い、しかしすぐに頷いた。

宿に戻ると、受付の女性がぽっと頬を赤らめて鍵を渡してくれた。エルフは皆こんなに綺麗な見た目なのだろうか。

2階に上がって部屋の鍵を開けると、ポーションを作り始めた日から床に放置されたままのノートや教科書が目に入り、アスルが部屋に入る前にドアを思いっきり閉めた。

「ちょ、何故閉めるんだ!」

「少しまって散らかってるから片付ける!」

一目散に教科書とノートを纏めて持ち上げ、この狭い部屋のどこに隠そうかと焦る、焦ったすえ、リュックサックに詰め込んで更にベッドに置いて掛け布団を掛ける、これしかやりようが無い、ゆっくり暖かいベッドで寝ててね。

「よし、いいよ」

アスルがムスっとした顔で入ってきた。

「せま」

「うるさい」

テーブルの上の畳まれた衣類、ベッドの横に纏めて置かれたココルカバン、そしてベッド、それらをしっかり見てからアスルは首をかしげた。

「この少ない荷物をどうしたら散らかるんだ?」

もっともだ、実際は散らかっていたわけではないので私は少し言いよどみ、咳払いをして気を取り直した。

「どうでもいいでしょ、その荷物はテーブルの近くに置いてくれたらいいから」

「ああ、では早く清め石を買いに行くぞ」

「うん、その前にパンだけどね」

受付の女性はさっきの二割増し華やかな笑顔で送り出してくれた、綺麗な人ってすごい。

「ちなみにパン屋はどこのパン屋だ?ラスクは売ってるか?」

「ラスク?どうだったかな」

パン屋に着くまでずっとラスクについての思い出や美味しさを聞かされた、しらねえよ。

「パン屋ついたよ」

「ん、ああ」

店内に入ると、いつものように香ばしい香りが鼻をくすぐり、またお腹が鳴りそうになる。

パンは二つ折りの紙に挟まれて棚に並んでいる、それを掴んでお盆に乗せて会計に持っていくという風になっている。

私はいつも丸くて固いパンと同じ形で柔らかいパン、それとその日の気分でもう一つ買うのだが、今日はベーコンを挟んだサンドイッチのような物を買うことにした。

アスルはラスクを見つけたらしく、結構な量をすでに会計していた。

「お会計21タミルになります」

パンで20タミルを越えるだと……?

アスルの次に私、お盆をカウンターに下ろすと。

「いつもご利用ありがとうございます、こちらのパン3つでお会計10タミルになります」

どうやらベーコンサンドイッチは少し高いものだったようだ。

紙袋に包まれたパンを受け取り、お店を出た。

「さてカエデ、魔法石店はどこだ?」

「あっち、付いてきて」

特に指を指すでもなく歩き出した私に付いてくるアスル。すでにラスクを食べていてガリゴリとうるさい。

私も柔らかいパンを食べながら、水がめが売ってそうなお店を探しつつ魔法石店に足を進めるが、水がめの気配などしないまま魔法石店に着いた。

店内に入って2歩3歩歩くとすぐにカウンターに行き着き、客が魔石を好き勝手見れないようになってる。欲しい魔石を店員に伝えて、それを店員が店の奥から持ってきて初めて商品を目の当たりにするのだ。

「清め石が欲しいのだが、あるか?」

「はい、ございますよ。今お持ちします」

店員が店の奥から小さい箱に入った清め石を持ってくる。

「こちらです」

アスルの横から覗き込んだ。前に見たときのように表面をガラスで覆われたような真っ白い石はやはり小さい。

「いくらだ」

「900タミルです」

「は、なんで?」

私が聞いたのは1000タミルだったのに今回は900タミル、値段が明らかに違い思わず口から疑問が出たが、アスルがこちらをちろっと見ただけで、さっさと会計を済ませて外に出た。

「私が聞いたときより安かった」

「子供に見えたものだから、なめられたのかもしれないか」

「え?子供だとなめられるの?」

「そういうこともある」

アスルは清め石の入った小さな箱を私に渡してどこかへ歩き出す。

「ねえ、私何歳くらいに見えてるの?」

後を追って、なんとなく思っただけのことを聞いてみた。

「俺は13歳くらいかと思った、ダリットは12歳くらいに見えたらしいが」

「うわ……」

ショックだ、そんなに下に見られていたのか。

「なんで? 17に見えない?」

「んー」

アスルはしばし私の顔を見つめる。

「なんというか、顔が浅いというか…………」

「あ、浅い?」

「身長が低いのもあるかもな、あと…………」

アスルの私を顔を見る目は少し下さがり、丁度胸の位置。

「胸がな」

「大きなお世話だ」

よく考えたら東洋人顔をした人をこちらで見ていないし、のっぺりした顔のせいで子供に見えているのだろうか。

まあそのおかげで怪しまれずに薬屋のおじさんと受け答え出来たこともあった、同じ日本人からしたら歳相応に見えるはずなのだからよしとしよう。

「さてあとは水がめだが、どこにあるか」

「うーん……」

別に水がめにこだわる必要はない、要は大量の水を清水に出来ればいいのだ。しかし川は流れているから使えない、コップでちまちまも時間がかかるので出来れば避けたい。

なにか、大量の水を溜めておける物……。

「銭湯、使えないかな」

「ん?銭湯?」

アスルは足を止めた。

「銭湯とは確か、湯に浸かる所だったな。確かに使えたら一度に大量の水を清水に出来るだろう。さっそく使わせてもらえるか聞きにいくぞ案内しろ」

「うん」

番頭のおばあちゃんは優しそうだったけど、あの銭湯は昼には確実に開店していたので、使わせてもらえる確率は低そうだ。だが一縷の望み、駆け足で銭湯へ向かう。