軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

腰痛、それとドラゴンハンター

先日張り切って雑草を収集したカエデです、無事にココルカバン一杯の雑草を集めて、疲れたから銭湯で疲れを取るか! なんて思って銭湯を楽しんだがしかし、次の日は腰が痛くて動く気になんてならなかった。ベッドで休んでいたら、延長するなら宿代を……と部屋を訪ねてきた受付の女性に、10日分の宿代100タミルを払い、その日は一日休んだ。

そして今日、普通に歩けるまでに回復してまず始めにする事である食事をいつものパン屋で済ませ、ギルドに来ていた。

窓口には再びクリスさんがいて、安心して依頼を頼む。

「お久しぶりです、今日はどういったご用件でしょうか?」

「はい、セリーさんとランジさんという方に、街の隣の川に行って帰って来るまでの護衛を頼みたいんですけど」

「ご指名での護衛依頼ですね」

クリスさんは、ひげもじゃのおじいさんの時同様、引き出しから罫線の引かれた紙を出し、上部に私の名前と依頼内容が記載された。

「ご指名の依頼ですと、報酬について、詳しくは……」

「あらカエデさん?」

クリスさんの言葉を遮って後ろから聞こえたのは、セリーさんの声だ。振り返ると、ランジさんも一緒にこちらへ向かってきた。

「今依頼だしてるの?」

「はい、セリーさんとランジさんのこと指名しましたよ」

「ありがとう。今話している途中だったかしら?」

セリーさんは申し訳なさそうに一歩下がった。

「はい、ちょっと待っててくれますか?」

「ええ」

タイミングを見計らい、クリスさんが再び話を再開する。

「えー、ご指名での依頼ですと、詳しい報酬内容はご指名された方と話し合いをして頂く必要がございます」

「え、じゃあセリーさん、また同じ内容の依頼、60タミルとポーション20個でどうですか?」

セリーさんはグッと親指を立てた。

「全然良いわよ」

クリスさんは私たちのやり取りを微笑ましそうに見ていた。

「では、受注なさいますか?」

「ええ、良いわよねランジ」

「ああ」

「かしこまりました、ではご依頼の手続きは以上になります」

「はい、ありがとうございました」

窓口から一旦離れると、セリーはニコニコして迫ってきた。

「じゃあ行きましょうか」

「はい、お願いします」

西門をくぐり街の外に出ると、前回と同じ場所を目指す。

「ところでカエデさん、ハイポーションは作れないの?」

相変わらずモンスターの一匹も居なさそうな道のりを歩きながら、そんな事を言われた。

「うーん、材料は分かってるんですけど、私は取りに行けないから諦めてるんです」

「あら、材料って何が必要なの?」

「アオギリ草と清水です」

「清水はともかく、アオギリ草なんか森に行けばちらほら見かけるじゃない」

「だって私、森に行ったら死ぬ自信あります」

「あー……」

納得の表情を見せてくれたが、見たら分かりそうなものだろうに。

「ポーションとハイポーションって、どれくらい違うんですか?」

「え、カエデさん、ポーション作ってるのに分からないの?」

どうやら私は信じられないと思われるようなことを聞いてしまったらしい、しかし分からないものは分からないのだ、今聞いておいたほうが後々に役立つだろう。

「ポーションは多少の傷なら治る程度、そうねえ、オオイモムシに噛まれたくらいなら治るわ。ハイポーションは狼に噛まれた傷でも治るわよ」

「え、狼?」

オオイモムシに噛まれた傷は想像出来ないが、狼に噛まれたらどうなるかくらい想像出来る、ひどいことになるだろう。そんな傷をハイポーションは治せるだと?

「じゃあマキシマムポーションはもっとすごいんですね」

「さあ? 使ったことないから分からないわ」

「そうですか、残念です」

あからさまにうな垂れると、今まで黙っていたランジさんが口を開いた。

「マキシマムポーションは、ポーションやハイポーションと違って飲み物で、飲むと千切れた手足も生えてくる」

手足の再生が出来るだと!? いやそれ以前にポーションって飲み物じゃなかったんだ。ボロ出す前に知ってよかった。

「嘘よそんなのー」

「嘘じゃない、俺の親父の腕が生えるの見たことあるんだからな」

腕が生えるのなんて想像出来ない、マキシマムポーションってすごいんだ。

「まあ、千切れたまま傷が治ったら再生出来ないらしいが」

「じゃあ千切れたらすぐに飲まないといけないのね」

「ちょ、ちょっと千切れたとかやめませんか」

「あらごめんなさい」

セリーさんは自分の口を自分の手で閉じさせ、しかしすぐに喋りだした。

「けどカエデさんから始めた話よ? ポーションの効果が分からないとか言うから」

「す、すいません。けど出来ればハイポーションも作れたほうが良いんだろうなって事は分かりました」

「それは何よりだわ、でもアオギリ草が手に入ったらすぐ作れるんじゃないの? 清水なんて清め石があれば作れるんだし」

「簡単に言いますけどセリーさん、清め石って1000タミルもするんですよ?」

「い、意外と高いのね……」

やはりハイポーションは作れたほうがいいようだ、しかし何度も言うが値段が高い。

「清め石が買えたと仮定しますよね、そしたらアオギリ草が欲しいわけですよ、でも私、森にはどんなモンスターがいるか知らないんですよ。少し教えてもらえますか?」

清め石は頑張れば買えそうだ、そうしたらアオギリ草も必要になる、このふたりなら森についても知っているだろうし、聞いて損はないはずだ。

「うーん、入り口らへんならオオイモムシやコウモリ、あと野ウサギくらいかしら、たまに大蛇も出るけど」

「大蛇!?」

「ええ、でもカエデさん一人でも死にはしないんじゃないかしら、私も一回しか見たことないし」

万が一を考えると、怖くて森になど入れたものではない。

他にもどんな注意が必要なのかなど聞いている内に川が近くなってきたので、雑談は一旦中止して、駆け足で川辺に下りた。

袈裟懸けのココルカバンをひっくり返し、雑草をすべて出した。

「うわ、すごい量ね」

「はい、採取するのも苦労しました」

雑草の山から少し取る。

「生成」

ちゃんと数えながら、なおかつ大量に生成したポーションの数は510個。ちなみに雑草は少し余ったので、余った雑草で報酬分の20個を作って渡しておいた。

ココルカバン2つは問題無いのだが、リュックサックがとても重い、ふらふらしているとランジさんが持ってくれた。

「あ、ありがとうございます」

「いや」

「あらランジ優しいじゃない」

セリーさんは茶化すのではなく、ただ意外そうに言う。

「お前の小さい頃思い出してな」

「やだもう!」

顔を赤くしたセリーさんはランジさんの背中をバシンと叩いたが、ランジさんは少し笑っただけで何も言わない。

なんだろうこの居たたまれない空気は。

「ふたりは幼馴染なんですか?」

「え、ええ。お隣同士でね、ランジは昔から無口だったのよ」

ギルドに戻るまでの短い時間だったが、セリーさんは楽しそうに昔話を聞かせてくれた。

本当は剣より弓矢の方が向いているらしいのだが、それを聞いた途端ランジさんはそんなことはないと割って入り、セリーさんを確実に守れるのは剣だとぶつぶつ呟いていた。

お前ら結婚しちまえ。

「じゃあ今日もありがとうございました」

「いいのよ、また依頼することがあったらぜひ指名してね」

「はい」

残りの報酬60タミルを渡して別れた。

返してくれたリュックサックを、気合で背負いなおし、真っ先に薬屋を目指す。

しかし途中、何の騒ぎか南門の通りが人混みでとても通りづらくなっていた。

皆一様に向こう側を気にしているようだが、何も見えない。

「あの、何かあったんですか?」

隣にいたおじさんに聞いてみた。

「ん?ああ、王都からランク1のドラゴンハンターご一行が来たらしいんだが、見えねえなあ。街に入って結構経つんだが」

「じゃあ一目見ようって人がこれだけ集まってるんですか?」

「そりゃあ王都からこの田舎に来たんだから、見ないと損だろ?」

田舎……? リクフォニアは田舎なの?

「ありがとうございます、事情はわかりました」

「おう」

とにかく無理にでも帰らないと、こんな重いリュックサックをいつまでも背負っていられない。

「すいません、通してください。すいません」

薬屋のほうに行けば行くほど人が密集していて、大きく膨らんだリュックサックを背負う私を邪険に押してくる人もいるようだ。

しかしそんな私の目に、ようやっと薬屋が見えた。

「すいません通して……っ」

なんとかドアノブを引き、薬屋に入ることが出来た。

「おいじょうちゃん、大丈夫か?」

薬屋のおじさんは外と私を交互に見て苦笑いした。

「大変だったろう」

「はい、でもなんとか」

息を整えて、リュックサックを下ろした。

「はあー、ちょっと置かせてください」

「かまわないが、今日はどうした?」

「はい、おじさんに言われた後、露店を開いてみたんですけど、おかげですべて売り切ることが出来ました」

「そうかそうか、よかったな。でもそんなもん背負ってきたってことは、今日はここに卸してくれるのか?」

おじさんは大きく膨らんだリュックサックを指差した。

「はい」

おじさんはあんなに重いはずのリュックサックを簡単にカウンターの上に運び、中を確認し始めた。

「おじさん、ドラゴンハンターってこんなに人が集まるほど凄いんですか?」

「ああ、俺は具体的にどれだけのもんか知らないが、10年前に王都を襲った巨大なドラゴンを退治した連中が混じってるらしいから、相当なもんだろうな」

「………………」

10年前の話を私は分からないが、これだけの人が集まっても可笑しくない人たちの集まりだと言うことはわかった。

おじさんはカウンターにポーションを並べて数を数えているので、話を続けるのは止めた。

「全部で53個か、これだけ作るのは相当苦労しただろう。いいのか? 全部」

「え?」

苦労?草を集めて大量の水を使ったから、苦労といえば苦労だったが。おじさんがそう言って労うほどの苦労ではない。

「ああ、作ってるのは親御さんだから分からんか」

「そ、そうですね、ええ、大変だったと思います。全部お願いします」

おじさんはすぐお金を用意してくれたので、424タミルを財布に入れた。

「おじさん、ポーションってどうやって作ってるんですか?」

「ん?親御さんの仕事は見たこと無いのか?」

「はい、あんまりいい顔しないので」

「そうか。まず薬草を乾燥させてそれを粉末にするんだ、そうしたら煎じて濾す。濾した後も時間を置いて、更に沈殿物を取り除いたらポーションの出来上がりだ」

全然違う、私のポーションは雑草と川の水だ。

「そうやって出来てるんですね、知りませんでした」

この事はもしや知られるとまずいかもしれない、にじみ出た冷や汗を拭い、空になったリュックサックを背負いなおした。

「もう行くのか?」

「はい、早く帰りたくて」

「この人混みの中、大丈夫か?」

大丈夫なわけはない、しかし宿はこの店のすぐ裏だからと言って無理に出た。

そしてギュウギュウ押されながらも店の脇の道に入って宿がある通りになると、さっきまでの人混みが嘘のように解消された。

「つかれたー、珍しいもの見たさにあんな苦しい思いするなんて、バカじゃないの」

たった一本通りが違うだけでこれだ、悪態をついた私は悪くないと思いたい。

まだ日は沈んでいないが、夕暮れも近い、銭湯で汗を流すべく準備を整えた。

銭湯のお湯に浸かっていると、女性二人の話し声が聞こえてきた。

「ねえ奥さん、さっきの人混み見ました?」

「みましたよー、私の家あそこの通りだから大変だったんですよー」

「あらま災難でしたね。でも結局ドラゴンハンターの姿は見えなかったらしいじゃないですか」

「そうなんですよー、うちの子が窓からずっと見てたけど、それらしい集まりなんて見なかったってー」

「じゃあデマだったのかしら?」

「でもこの街に立ち寄らないとホノゴ山まではなにも無いですしー、こっそり入ったんじゃないですかねー」

のんびり話す奥さんのほうがドラゴンハンターにの行動に詳しいらしく、ホノゴ山という場所に行く理由は当然、ドラゴン退治らしい。しかしそのドラゴンが何をして討伐対象になっているかは分からなかった。

じっくりお湯に浸かっていたので、外はすっかり真っ暗で、民家から漏れる明かりを頼りに、のんびり髪を拭きながら宿に戻っていると、宿の前で薬屋のおじさんと出くわした。

「おじさん、どうしたんですか?」

「あ、ああじょうちゃん、ちょっと店に親御さんをつれて来てくれないか」

「え、それは、ちょっと……」

ポーションになにか不備があったのか、親がいるなど嘘なので連れてなど行けない。

「今は居ないので、無理です」

「そうなのか、困ったな」

「あの、売ったポーションに何かあったんですか?」

「いやそうじゃないんだ、だがドラゴンハンターの方が、ポーションの製作者を知っているなら教えてくれと」

「それが、私の親ですか」

「ああ、明日なら居るか?」

「明日も、ちょっと……」

おじさんは本当に困ったように眉間にしわを寄せ、ため息をついた。

「よ、用件を教えて貰えれば、帰ってきた親にすぐ事情を伝えられますので、教えていただけますか?」

「いや、それは俺も聞いてない、直接話したいらしいからな」

「なら私が直接聞くことは出来ますか?」

「どうだろうな、とりあえず来てくれ」

「はい」

薬屋の脇の道を通り、おじさんの後を付いて店に入った。

中に居たのは祖父と孫ほど年の離れた剣士二人と、真っ青なマントを羽織った背の高いエルフの男性。雑貨屋でみたエルフの女性とは違って髪は白い。若い剣士はさっぱりと短い茶髪で、人が良さそうな顔だが、年配の剣士は後退気味の黒髪に難しい顔をしている、絶対に血のつながりはないな。

「ああご主人、製作者の方は……」

若い剣士が何か言いかけたようだが、私の顔を見て、一旦口を閉じた。

「えーと、ご主人?」

「この子の親が製作者なんですが、今は不在だそうで」

若い剣士の疑問を汲み取り、おじさんが説明してくれた

「この子の親が帰ってきたらすぐに事情の説明が出来るように、とりあえずこの子に用件を伝えたらどうでしょうかね」

「うーん……」

若い剣士は、エルフにちらりと目をやった。エルフは小さくため息をつき、私を見下ろす。

「君、名前は?」

「カエデです」

「じゃあカエデ、君の親がいつ帰ってくるか分からないから、用件を伝えよう」

妙に高圧的というか、すこし見下されている気がする。

「どうやってこのポーションを作ったか聞きたい、それだけだ」

「作り方? どうしてそんな事聞くんですか?」

「君は親の作り方を知らないんだろう?なら言っても無駄だ」

そんな言い方しなくてもいいのに、私のむっとした顔に慌てた若い剣士が、エルフの頭を叩いた。

「痛、何をするダリット」

「アスルこそ、こんな女の子にそんな態度じゃ泣かせるだろ!」

若い剣士はダリット、エルフはアスルというらしい。

「ごめんねカエデちゃん、でもどうしても聞いておきたいんだ」

「だから、どうしてですか」

ダリットは私の不機嫌顔によほど慌てたのか、しどろもどろに答えた。

「あのね、ポーションと違うって言うか、いや同じなんだけどね!けどこう……」

「ハッキリ言ってください」

いらいらする、子供になんとかごまかすような言い方だが、私はそこまで子供ではないし、実際は自分で作ったポーションだ、さっさと言ってもらうためにダリットを睨んだ。

「あのね、君のお父さんかお母さんか分からないけど、普通とは異なった作り方をしてるんじゃないかと思ってるんだ」

ぞわっと、鳥肌がたった。