軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いい話があるんだ(脅迫)

サージスは手を捻り上げられた痛みからか、表情を歪めてカルデノを睨んだ。

「なんで、ここに…」

「あのスリ、お前が仕組んだのか」

カルデノは取り返してきた財布を私に手渡してきた、今度はしっかりとココルカバンの中にいれた。

「見事に失敗したけどね」

あっさりと認めたのは意外だった。

サージスは掴まれた腕を振り払い、カルデノもすぐに手を離した。

「奴隷が僕に触りやがって。カエデちゃんの奴隷だから見逃してあげるよ」

ずいぶんと上から物を言う態度にカルデノが舌打ちをしたが、私も同じ気持ちだ。

これが先ほどまで物をたずねようとしていた人物の態度とはとても思えない。

「で、たかが奴隷の私を遠ざけてまで、カエデに何をしようとしていたんだ」

だがカルデノの挑発的な態度もいただけない、私はカルデノの腕を慌てて引いた。

「カルデノ、面倒を起こすなって言われてたでしょ」

するとカルデノは少しむすっとして私を見た。

「あいつが言ってたのは「図書館で面倒を起こすな」だろう、ここは図書館じゃない」

「そんな揚げ足とって…、アイスさんがそんな限定的な意味で言ったわけないじゃん」

「おい」

サージスはカルデノを押しのけて私に詰め寄ってこようとしたが、カルデノがサージスの肩を押し返した。

「アイスって、あのアイスかい?」

肩を押し返したことはさして気にはしていないようだが、サージスの言う、あのアイスとは何だろうか。首をかしげた。

「鬼人のアイスかって聞いてるんだ」

「まあ、確かにアイスさんは鬼人族だって言ってましたけど」

「じゃあ今の、図書館で面倒を起こすなって、鬼人のアイスが利用権の保証人なの?」

事実なので迷い無く頷くと、サージスはため息をついた。

「あの人の…、じゃあ僕が聞かなくても、もう君のポーションの作り方は他に渡ってるんだね」

「え?」

思わず聞き返した。

「え?」

そしてさらに聞き返された。

「ひょっとして、アイス…さんにも教えてないの?」

「教えてないって言うか、なんて言うか」

私のポーションの作り方はアイスさんも知っているので、どうやってだの何だの、聞かれた事も無い。

「じゃあ誰も君のポーションの作り方は知らないってことだね」

「いやあ、まあ、うーん…?」

作っている本人ですらよく分かっていないのだから、きっと誰も分かってはいないだろう。

これ以上作り方について掘り下げられるのはマズイ、なんとかサージスから逃げる方法を考えていると、なにやらサージスの目が輝いているのが目に付き、聞きたくも無いが、一応何か言いたいのかと問う。

「今ここで話すわけには行かないけれど、明日図書館に来てくれない?」

「え、なんでですか? 待ち合わせって事ですか?」

「そうなるね」

サージスは喉の奥でくつくつと笑い、楽しそうに投げキスを残して立ち去った。

その背中が見えなくなってから、何となく服を手で払った。

「今の投げキス付いてないかな、大丈夫かな気持ち悪いんだけど」

「まあ見えないから、付いてないとは思う」

それはその通りだ。

「で、明日行くのか?」

「いやあ……」

行きたくないが、行かなければ今後出くわした時に何を言われるか分かった物ではない。

結局は行くという選択肢しかないような気がした。

「やあ、来てくれたんだね」

翌日の午後、図書館の外で待っていたサージスがにこやかに出迎えてくれた。

「あなたが来いって言ったような気がするんですけど」

「本当に来てくれて嬉しいよ、さっそく中に入ろう」

無視された。カルデノはサージスを睨んでるし、今日は疲れそうだ。

二階に行き、階段と一番遠い席に向かい合わせで座った。

カルデノはいつものように私の後ろに立ったままで話を聞く。

「で、昨日言ってた話だけどね、君のポーションを露店ではなくてちゃんとしたお店で売らないかって話なんだ」

「はあ、どうしてです?」

「君と僕と買い求める人のためさ」

私は露店を開くのは不定期、しかも一度に売る数も多くはなくすぐに売切れてしまう。

それでは買える人の数が限られる、しかし店に卸せば高い価格にして一人当たりの購入数を抑え、多くの人に行き渡るようにできる。それでいままで中々手にできなかった人も買えるし、営業時間内ならば手に入る確率も高い。お店の売り上げも上がるし私にも売り上げ金の何割かを渡す、もしくは買取。

そこまで聞いて一旦サージスの話を遮る。

「確かに私は露店を開くのは不定期ですから、何度も買いに来てくれる人には申し訳ないとは思います、けど沢山の人に売りたいなら一人が買える数に制限をかけるとか出来ますし、売り上げの何割とは言わず自分でやれば丸々自分の儲けですよ」

「じゃあ君は使ってくれる人なんて関係なくて、お金が大事だって言いたいんだね」

「え、いやお金は大事ですけど、そこまでは…」

「そうだよね」

サージスはにんまりと笑い、テーブルに頬杖をついた。

「だからね、お店に卸して、一人が買える数に制限をつけて、長い時間販売して、その間君は君の好きなことが出来てお金もしっかり入る。いいじゃない?」

いい、のかな。一瞬そう思ったが、はじめに言ったサージスの言葉を思い出す。

「私とあなたと買い求める人のためって言ってましたよね? 今のところあなたの利点が分からないんですけど」

「そうだね、言ってなかった」

サージスは頬杖をやめ、少し背筋を伸ばす。

「その代わりに、僕にポーションの作り方を教えて欲しいんだ。いいと思わない?」

得意げに、あとは私が頷くのを待つだけだと言いたげに髪を触るサージスに、思わず顔をしかめた。

「無理です。ポーションの作り方は教えられません」

嘘は言っていない、教えられないのは本当だ。

しかしサージスは髪を触っていた手をぐっと握り締め、テーブルに叩き付けた。

ドンっという音が静かな図書館にわずかに響き、私の肩を一瞬震わせた。

「どうして?」

「ど、どうしてって、だって…」

サージスの声はいたって普通で、それが恐怖心をあおる。

「あ、ごめんね。怖かったかな」

怖かったかなじゃない、今も怖くて仕方が無い。

膝の上で握りこぶしを作る。

「でも、ポーションの作り方を教えてくれたら今の話しは実現するんだ、よく考えてみてよ」

「む、無理なものは、無理ですから…!」

サージスの顔を見ないようにして席を立ち、カルデノの手を引いて図書館から飛び出した。

私は何も言わず、カルデノも何も言わない、しかし帰りの馬車で、カルデノが私の顔を覗き込んできた。

「大丈夫か? 具合でも悪いか?」

「大丈夫、ちょっと怖かった」

カルデノは背中を優しくぽんぽんと叩いてくれた。

その夜だ。眠っていた私の耳に、ガタンとなにやら物音が飛び込んできた。

驚いて飛び起き、布団を握り締めた。

今の音はリビングから聞こえてきた、なので目は自然と扉に向かい耳に心臓の音が聞こえる。

そっとベッドから降り、ゆっくりドアノブを回してゆっくりと扉を開ける。

何もない、何もない、おばけなんてない。怖くない。

リビングを覗き込むと、真っ暗ななか、テーブル近くの床で何かがうごめく。

「ひっ」

よく見たら玄関扉も開いているし、まさか泥棒でも入ってきたか、それはマズイ、私の引きつった声が聞こえてしまったかもしれない。

「カエデ、起きたのか」

「か、カルデノ?」

床にうごめくものからカルデノの声がし、肩の力がふっと抜ける。

「どうしたの、こんな暗い中で」

手探りでテーブルに置いている石を見つけ、明かりをつけた。

「ちょっと不審者がな」

「え?」

あかりのついた石をもってカルデノを照らすと、誰かを組み敷いてナイフを突きつける姿がはっきりと目に入った。

「え、え?」

カルデノが組み敷いているのは猫族の少年で、昼間に私の財布を盗んだ少年に見えた。

うつぶせの少年の上にどっかりと座るカルデノ。何故か自由になりそうな両腕は動かす気配はない。

「は、なせ」

その声は力なく、どうやらカルデノが少年の首輪に手をかけて首を絞めているようだ。

さらに右手にはナイフを持ち、少年の眼前に構えている。

「お前、あの貴族の奴隷だな」

少年の口からはひゅうひゅうとやっと呼吸している音しか聞こえない。

「あ、え。カルデノ、首離してあげて、苦しそうだよ」

どうしたらいいか、何を言ったらいいかわからず、とりあえず呼吸をまともにさせないと死んでしまうと思い、恐る恐るだが言う。

「…ああ」

カルデノが言うとおり首輪から手を離すと、少年は勢いよく息を吸い、数回咳き込んだ。

「降りろ!」

じたばたと足を暴れさせて背中のカルデノを振り落とそうとするがそう簡単に降りるわけはない。

「黙れ、足も折られたいのか」

「う…」

暴れていた足はその言葉でぱたりととまり、鼻をすする音がかすかに聞こえた。

「足も、って、もしかして腕折ったの?」

「……折った」

ばつが悪そうに答えたカルデノはこちらに目を向けない。

そこまでしなくてもよかったのではないかと思いはしたが、どんな状況か見ていなかった私がどうこうと強くは言えない。

抵抗出来ないように腕を折ったのだろうが、悲鳴のひとつも聞こえなかった。

「今ポーションもって来るから、少し待ってて」

部屋に戻って森に行ったとき用のポーションをいくつか持ち出し、はたと思う。腕を治していいのかと。

いや勿論治すべきだろうが、今治して抵抗されないか、そんな風に思ってしまったのだ。

「カルデノ、その腕、治したいんだけど…」

カルデノは一度頷く。

「抵抗しないならその腕を治してやる、治すか?」

少年は何度も頷き、カルデノは少年の上から立ち上がった。

恐る恐る少年に近づき、片腕ずつポーションをかけていくと、だらりと力なかった腕がグッと動いた。

「どう? もう痛くない?」

「…大丈夫」

ゆっくり体を起こし、床に座ってこちらを見る。

「ありがと、ございます」

「で、あの貴族の奴隷だな? 昼間は着ていた服のせいで首輪は見えなかったが、今ははっきりしてる」

言うとおり少年の首には少し太めの首輪が巻きついていて、カルデノは未だにナイフを手に持ったまま、いつでも殺せると言うように鋭い眼差しで少年を見下ろす。

しかし少年は何も答えない。歯を食いしばっているだけだ。

「ねえ、名前は?」

「名前…、言ったら怒られるから」

「そうなの? 誰に?」

「サージス様に……あっ」

少年の名前は分からなかったが、どうやら主人はサージスであっていたようだ。