軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

図書館2

しかし結果的に行き着いたのは植物関係で、その区画に設置してあった長テーブルの、はじっこの椅子に腰掛けた。

本を開いて気になるものをいくつか見たところで、カルデノが椅子に座らないで後ろで立っているのが気になった。

「座らないの?」

「ああ、ここではやめておく」

いつもそんな事、一度も言ったことすらなかったのにと疑問に思うと、カルデノは辺りに目を向けた。

「貴族さえ訪れる場所で奴隷が椅子に座ってみろ、何を言われるか」

私もカルデノ同様図書館の中を見回すと、ぽつぽつ座ってる人達の横には、確かに立ったまま控えている人がいる。

「立ったままで疲れない?」

なんだか本も読みづらい。しかしカルデノは首を横に振った。

「気にするな、好きなだけ本を読んだらいい」

「本当にいいの? 本当に?」

「本当だ」

立ったままでいるなら早めに帰ろうかとも思ったが、ここはカルデノのお言葉に甘えるとしよう。

開いていたページを次々捲っていると、アモネネの記載を見つけた。

アモネネは食人植物に分類され、口の中に分泌される蜜の匂いで獲物を誘い、口に分泌される過程で幻覚を見せる成分を発生、捕食する。

しかし他の食人植物に比べてサイズは小さく、大きくとも高さ70センチほどにしかならない、幻覚は気付薬で避けることができる。また、茎の太くなった部分にも蜜が溜まっていて、その部分の蜜は高級甘味料としての他、微量ながら心を落ち着ける効果もあるようだ。

「アモネネって大きくても70センチくらいにしかならないんだって、食人ってイメージじゃないね」

「襲っては来るがな」

よく覚えていないが、先日蜜を採りに行ったとき、私がわざわざカルデノから離れた理由はきっとこれだ。幻覚、私は母を見た気がしたのだ、もちろんそんなことはあり得ない。

幻覚を見せ、それで私を誘って食べるつもりだったのだろう、背中が粟立った。

それにしてもアモネネの蜜は甘味料として使えるのか、これはいいことを聞いた、いや見た。

忘れないようにササっとメモして、次のページに進む。

カブラという、これも食人植物の一種らしく、描かれた絵を見る限り見た目はウツボカズラのようだ。これは捕食対象が近づくと襲い掛かり丸呑みして中の消化粘液で溶かす、蜜の匂いを漂わせる植物の近くに自生するという恐ろしい植物であった。

私の腕に管を刺していたあの植物は何なのかと気になって調べると、生き物の血を吸う植物だった。

それとマンドラゴラも記載されていた。

聞けば死ぬというほどではないが、やはり引っこ抜けば相当な鳴き声を発するらしく、頭の花は吸い上げた魔力で咲く、だから花は魔力の固まりのようなものなのだそうだ。

ちなみに摘んだ花を生花で保存したい場合には清水に漬けておけば長期間の保存が可能。

分布は魔力の溜まりやすい土地ならどこにでもあるらしいが、魔力の溜まる土地とは何だろう。この近くにあるのか。

「カルデノ、魔力の溜まりやすい土地ってどんな所?」

「ん? そうだな、それは知らない」

カルデノは魔法関連の本を見たほうがいいと進めてきたので、私は読んでいた本を閉じ、元の本棚に戻すために壁際の本棚に歩き出した。

すると途中の本棚のかげから突然出てきた人物にぶつかってしまった。

「あっ」

落としそうになった本をなんとか抱えなおし、ぶつかってしまったことを直ぐに謝った。

「ごめんなさい、ぶつかってしまって」

「いえ、こちらこそよく見ていなかったものですから」

ぶつかったのは若い男性で、金髪のセミロング、青い切れ長の目、白いシャツを着ていて申し訳なさそうに形の整った眉を寄せて眉間に皺を作っていた。

第一印象としては、優しそうな綺麗な人だ。

が、しかし。

「って、子供? しかもみすぼらしい」

早くも印象が崩れた。

「なんでこんな所にいるの? 利用権もお金もなさそうなのに。あ、もしかして誰かの奴隷? それにしては首輪も無いし、召使?」

「すいません急いでるんで」

これはかかわらないほうがいい。

「カエデ、あっちに魔法関連…」

いいタイミングでこちらに来たカルデノに目で助けを求めた。

「…主人になにか」

男性はカルデノを見上げて少し驚いたようだ。

「え、奴隷? 君が主人で? そんなみすぼらしいのに。って言うかでかい」

みすぼらしいやらでかいやら、煩いなこの人は。

むっとするが、恐らくこの人は貴族だ、アイスさんが面倒を起こして欲しくないと言っていた。

ここではカルデノも下手なことは言えないし私もだ。

「あの、ぶつかって本当にすいませんでした。行こうカルデノ」

駆け足気味に本棚に向かい、本を元の場所に戻した。

「って言うか本読めるの?」

「え…」

なんでついて来てるのこの人。ニコニコなのかニヤニヤなのか分からないが笑っていて、一歩下がった。

「な、なんですか」

「いや、本読めるのかって質問してるだろ?」

「読めますけど」

「ふうーん」

なんのための質問なのか、腰を折って私と目の高さをあわせて来たが、それすら何か意味のある行動に思えてしまう。

「ちょっと利用権見せてよ、僕が不正入手じゃないか確かめてあげるからさ。カバンの中?」

袈裟懸けのココルカバンを掴もうと伸ばしてきた手を避けるために大きく、また一歩下がる。

「か、勝手に荷物に、触らないで下さい」

男性はきょとんとした目で私を見たあと、喉の奥でクツクツとわずかに笑った。

「へえ、嫌なんだ。僕が誰か知ってる?」

知るわけがない、肯定も否定もせずにいると、男性はすっと背筋を伸ばした。

「僕はサージス・クエストフェック、知ってるかな?」

「知らな…」

「サージス様。ここにいましたか」

本棚を縫い現れた、私と変わらない背丈の少女がサージスと名乗る男性の斜め後ろで立ち止まり、かちっと着こなしたメイド服を揺らした。

ちらっと私を見たあと、小さくため息をついた。

「自宅での勉強が嫌だと言ったからここに来たのですよ。それなのに少し目を離したらこんな所でだらだらと」

サージスにさっきまでの顔はなく、奥歯をかみ締めたかのように渋い顔でメイドの少女を見下ろしている。

「僕はちゃんと勉強してた、この事は言うなよ」

「サージスさまの努力次第でしょう。早くお戻りになって下さい」

「分かってる」

踵をかえして、去り際に私をむっとした表情で見たことで、私はカルデノの後ろに隠れてしまった。

すっかり居なくなったのを確認し、しゃがみ込んで息を吐いた。

「……面倒、起こしてないよね?」

「大丈夫だろう」

カルデノは魔法関連の本がどこにあるか確認してくれたようだったが、私はサージスというあの男性に鉢合わせるかもしれないと怖気付いてしまい、中々そこから動くことが出来ない。

「カエデ、すまなかった」

「なんで謝るの、大丈夫だよ」

ゆっくり立ち上がった。

「魔法関連の本、どこにあったの?」

「こっちだ」

カルデノは耳をそばだてながら私を案内してくれた。

先ほどの場所とは、吹き抜けを挟んでほぼ反対側にそこはあり、サージスは見当たらない。カルデノは魔法と書かれた札がさっきの場所から見えたのだろう。

ほっと息をついて本に目を滑らせていく。

魔力の溜まりやすい土地、何度も頭の中で繰り返しながら本の背表紙を見ていくと、「魔法石のあれこれ」なるものがあり、何となく手にとってみた。

戦闘に役立つ魔晶石や晶石、明かりを灯す、湯を沸かすなど生活には欠かせない石たち、総じて「魔法石」という。

まず魔晶石と晶石の違いは、石を通して自身の魔力を要する必要があるかないか。

魔晶石は中に魔法を閉じ込めただけのものであり、使用者の魔力が石を通して魔法になる。

一方晶石は石の中に魔法と魔力がすでに込められており、使用者の魔力を必要としない。魔力保持量の少ない者は重宝する。

これにより魔法は才能が無ければ使えない物とされてきたが、今では魔法を「買う」などの認識も増えてきている。

しかし魔晶石、晶石共に消耗品であり、本当の魔法に比べてもバリエーションは少ない。

それなら、と私は疑問を持った。

私は魔力がない、ラティさんにはっきりそう言われた。もちろん感じ取れないだけ少ないだけの可能性はあるが、それほどまでに魔力の無い私が、晶石を作った時、中にあると言う魔力はどこから来るのだろうか。それが仮に素材のひとつである「牙」や「色石」で補われているとしても、同じく中に入っている魔法はどこから?

もちろんそれはポーションにも言えた事である、無いはずのビンがポーションと共に現れるのだから。

今となっては何の違和感も無くなったが、明らかにおかしいではないか。

私の「生成」する能力は便利だ。便利だが、魔力を消費するでもない、なんの代償もなく「生成」出来るのは何故? 知らず知らず、私の中の何かを失ってはいないだろうか。

そこまで考えて、それらを振り払うように少し頭を振った。

今まで何とも無かった、今更何かあるものか。

私は本の続きを読む。

生活に必要な、例えば明かりを灯す石や湯を沸かす石。これらも消耗品であるため、ある程度の日数が経ったら、または効果が薄れたと感じたらすぐに取り替えたほうがいいらしい。

「ねえカルデノ」

「ん?」

「家にある、明かりをつけたりお風呂沸かしたりする石って、魔力が必要ないんだね」

「それはそうだろう、魔力保持量が少ない人もいるんだ。ランプを使う人との数は半々だと思うが、それでも石の方が明るいし、お湯を沸かすのも楽だろう。それなのにいちいち魔力切れするんじゃたまらないだろうしな」

「そっかー」

「で、魔力の溜まりやすい土地について調べるんじゃなかったのか?」

そうだった。

本を戻し、本来探すはずだったものを探す。しかし探し方が悪いのか何なのか、それらしいことが書いている本は見当たらない。

「ない」

「ないな」

なんとなく時間を確かめると、もう6時になろうとしていたので、帰ることにした。

帰りに受付で荷物の点検と身体検査を受け、買い物をして家に帰った。

玄関扉を開けると、カスミが満面の笑みでお出迎えしてくれた。

「ただいまー。お土産にクッキー買ってきたよー」

ココルカバンから出してみせると、とても嬉しそうに飛びついてきた。

「カエデ、すぐ風呂の準備をするか?」

「あ、じゃあお願い」

買ってきた食料を戸棚にしまい、カバンを部屋に置く。

床に放置したままのリュックサックを見て、カルデノに日本の話をした時の事を思い出す。

持ってきたものすべて見せたうえで、そうかと、ただ一言だけしか言わなかったのだ。

リュックサックをクローゼットにしまう。

リビングに戻ると、カスミがさっそくクッキーをおいしそうにほお張っていた。

井戸の水を汲んでいるであろうカルデノのもとへ行く。

カルデノは寸胴鍋に水を移していた。

「ねえカルデノ」

「うん?」

「明日も図書館に行かない?」

「ああ、構わない」

カルデノは水を汲みながら頷く。

「あのね、アモネネの蜜って甘味料として使われるんだって、きっとパンとかに塗って食べたら美味しいんじゃないかな」

それはそれは美味しいだろう。かき氷のシロップとしても良いかもしれない。

「そうだな」

「あ、そうだ。アモネネの蜜とマンドラゴラの花で、魔力ポーションってのが作れるんだけど、カルデノはどんなのか知ってる?」

「魔力ポーション?」

カルデノは水を汲む手を止めた。

「聞いた事が無いな」

「そうなの? でも名前からして魔力を回復するんだと思うんだけど」

「魔力は普通自然回復だと思うが、私が知らないだけかもな。それで魔力の溜まりやすい土地について調べたかったんだな」

「うん」

それにしてもカルデノが知らないとなると、意外とマイナーな物なのかも知れない。

明日も早めに昼食を食べてから行って、しばらくポーションや材料について調べたら、私のような人間がいたなんて話の書かれた本が無いかを探そう。

レシピ本の「薬」のカテゴリーに書かれてある物をノートに移しておいた。