軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

至らない

アリスさんは不思議とモンスターに襲われること無く、森で取れる物を食べて、何も無い時期になれば街で買ってきていたりして過ごしていたそうだ。その内にラティさんとかなり仲良くなった。

今いるうろはその時から使っていたらしく、中が広いのは街に行ったとき拡張石を買ってきて、このうろに使ったからだとか。

そこまで聞いて、はて、と思う。

「なにか収入源ってあったんですか?」

「あ、ラティから高く売れる草の事聞いて、それ売ってお金にしたんだ。ラティには色々教えて貰って世話になったよ」

「へえ、そんなのあるんですね」

「ああ、アモネネってのがすっごい高く売れてさぁ、あの時のお金はポケットにも入りきらなくて、店の人に袋貰っちゃったよ」

「アモネネ?」

確か魔力ポーションに必要な材料だったはずだ。アモネネの蜜、とたしかそう書いてあったのだから、蜜が豊富な花なのだろう。

「アモネネってどんな植物なんですか?」

「あー、ハエトリグサの口の中が袋になってるみたいな草かな、申し訳程度の花も咲いてたけど」

「へえ、それでその口の中に蜜が沢山あるですか?」

「よく知ってるなぁ」

「はい、欲しいなって思いますし」

「へぇ」

たださぁ、と、付け足す。

「あれ、噛むんだよ」

噛まれたことがあったのか、遠い目をして両手をこすり合わせている。

「まああの草の話は後にしてだ、この家を快適なまでになんとか改造して、死んだのは多分2年くらい前だったと思う」

一瞬にして空気は張り詰め、私は居住まいを正した。

「俺の話を聞いて、不思議に思ったところはあると思う。モンスターに襲われないとかな、それは自分でも何故か分からないしこれから先も分かる気がしない」

私はうなずいた。

「でもそれはモンスターにであって、人にも通用するもんじゃなかった」

「人?」

今度はアリスさんがうなずく。まさか誰かに殺されたのか、そんな予感がした。

「俺が金持ってんの見られたみたいで、後ろから刺されたんだ」

舌打ちが静かな室内に一度響き、しかし取り繕うように笑顔を見せた。

「そ、それで、死んだんですか?」

聞いていいのか、迷いながらも口から零れた言葉を、アリスさんは笑顔を崩すことなく拾った。

「いやぁ、その時は死ななかったんだ、痛かったし苦しくもあったんだけど」

しかし私は緊張で体が固いままだ、アリスさんは笑顔でいるが、絶対に笑ってなんかいない。

「俺はその後も生きてる2年の内に3回、同じ目にあった。けど死ななかった」

「急所が外れていたか?」

「いいや違う」

カルデノの質問は即答された。

「急所だのは関係ない」

すでに笑顔はなく、険しい顔はこちらを睨んでいるかのように錯覚してしまい、わずかに顔を俯けた。

「血は時間が経てば止まって、傷も塞がったし痛みも無くなった。俺は殺されても死ななかったんだ」

「なら何故死んだ? 死なないんじゃなかったのか」

その問いに、直ぐに答えは返ってこなかった。

ほんの少しの沈黙の後、アリスさんはため息と共に口を開いた。

「死んだ後に色々考えたんだ、死ぬ回数に上限があったかもしれないって」

何が原因で死んだのか、どこでそうなったのかなど、核心には触れなかった。

「確かに刺されたのは3回だ、けど他にも猛毒のあるものを食ってたなら、知らない間に死病にかかってたなら、些細な傷から入った菌や今まで転んだ内の何回かでも致命傷だったなら、俺が死んだ回数は3回じゃない」

つまり、上限はあったが何度死んでも生き返る事、それとモンスターに襲われなかったこと、それがアリスさんがこの世界に来て授かった、私の生成する能力に変わるものなのだろう。

「長々言ったけど、これが俺の不思議な力というかなんと言うか。死んでからは毎日特に何もなく過ごしてるかなぁ」

でさぁ、と、胡坐をかいていた足を投げだし、私を指差した。

「カエデちゃんは、何か俺みたいに不思議な力ある?」

アリスさんはすべて話してくれて、私が話さない道理はない。

この世界に来てから今までの事、物を生成出来る事を話した。

「へぇー」

話を聞き終わった後、アリスさんはどこか楽しそうに表情を輝かせていた。

「俺もそっちがよかったなぁ」

立ち位置の話か、能力の話かわからないが、私は曖昧に笑って返事の代わりにした。

「カエデちゃんはラッキーガールだなぁ」

何故そう思ったか聞き返す。

「だって目が覚めたのは街の中、ドラゴンハンターって人たちにカエデちゃんの作ったポーションが行き届いたのも、ドラゴン目の前にして死ななかったのも、俺みたいに後ろから刺されなかったのも、カルデノさんだっけ? その人が特価で買えたのも、他にも沢山あるかもしれないけど、兎に角運が良かったって思うことあるんじゃない?」

言われるとそうだったかもしれない、まず私の作ったポーションがアスルに渡らなければ、私は王都にさえ来ていなかった、ずっとあの街にいただろう。

「確かに、そう言われると私は運が良かったように思います。でもこれから先、運だけで元の世界に帰る方法が見つかるかと言われたら分かりませんよね? 私は、帰りたいんです」

「俺がその方法を知らないかって、聞きたいの?」

アリスさんが眉間に皺をよせる。

「あ、いえ…」

「逆に知ってると思う? 知ってるなら俺死ぬ前に帰ってると思うんだけど」

「ご、ごめんなさい、でも何か手がかりでも知らないかと思って」

怒らせてしまっただろうか、目をそらした。しかしこれは聞いておかないと私が後悔する。

恐る恐る目を合わせると、アリスさんは先ほどと同じ、眉間に皺を寄せたままだった。

「俺はさ、君に偉そうに言えるだけ色々なことを試したり、調べたりはしてない。精々ラティに俺が来た時の様子やこうなる事の心当たりが無いかを聞いたり、周囲を調べまわったりしただけだ。だから本当に何も分からない」

「そう、ですか」

何も知らない、分からない。その言葉が耳に入るなり肩から力が抜けた。

「君は? 今まで何を調べたの? 何か分かったことあった?」

「私ですか、私は…」

私は今までなにを調べただろう。目が覚めた場所を念入りに調べまわったりした? いいやしてない。

じゃあその他で何か聞きまわったりしただろうか。それもしていない。

「わ、私、あの。私…」

図書館で何か調べられるかもしれない、それだってカルデノが提案してくれなかったら図書館があることさえ知らなかった。

唯一、だとするなら、今アリスさんに会いに来ていることくらいだ。何か帰る手段を知っているかもしれない、それでなくてもせめて手がかりが無いか。

「私、自分じゃ何も、帰りたい気持ちはあるのに、自分じゃ何もしてなかった。アリスさんなら何かしってるかもって思って来たけど、それも結局他人に頼ってました」

目に涙が溜まって、視界がぼやけ始め、服の袖で拭う。

「他人に頼るのは悪いことじゃない」

アリスさんにそう言われ、早く泣き止もうと何度もごしごしとぬぐっていると、カルデノが私の手を止めた。

「そんなに擦ると痛めるぞ」

「ありがと…」

か細い声でカルデノにお礼を言うと、アリスさんは言葉を続けた。

「カエデちゃんがここに来て、どれくらい経ったのかな?」

大雑把な先ほどの話では日数までは分からなかったのだろう、私は出来るだけ事細かに今までの事を思い出す。

「3ヶ月、4ヶ月くらい、ですかね」

カレンダーを見て過ごしたわけではないので、実際はもっと日数が経っているかもしれない、自信を持って答えることは出来なかった。

「それで街を移って家を買ってお金を稼いでって言ったら、まだ何か調べるほどの余裕もなかっただろうし、仕方ないって」

そうですね、とは簡単に返せなかった。

「これからだよ、これから沢山の事を見て聞いて触れてさ。俺は怖くて、結局この森から離れることは出来なかった」

「どうしてですか?」

「だって俺が落ちた泉が、日本に一番近い場所だと思ったから。もしかしたら突然帰れるかも知れないって、だからずっとこの森にいたんだ」

離れていれば、もっと色々なものを見たなら、聞いたなら、アリスさんの泣きそうな表情からそんな後悔が読み取れた。

私は何を言ったらいいか、もしくは何も言わないほうがいいのか、膝の上で手を遊ばせるだけだった。

しばしの沈黙の後、アリスさんは突然立ち上がった。

「さっきアモネネが欲しいって言ってたよね、生えてる場所に案内しようか?」

「いいんですか?」

浮かせかけた腰だったが、カルデノに腕を引かれて逆戻りした。

「もう帰ったほうがいい、場所は説明してもらうだけにしよう」

どれだけの時間話し込んでいたのかと、時計を確認すると、針は1時半をさしていた。

「ほら、昼食もとってないし、あまりゆっくりしてると今度帰るのが遅くなるぞ」

「うーん、そうだね」

自覚すると、空腹でぐうっとお腹が鳴った。

「じゃあ場所だけ説明するよ」

アリスさんは部屋の隅に積んである荷物の方を指差した。

「あの中にカバンがあるんだけど、中に色々メモした紙があると思うから出してくれる?」

私は頷いて、荷物の中から革で出来た大き目のカバンを出した。ぺしゃんこで、何か入っているようには見えなかったが、ほこりが舞うのを気にせず開けた。

中には数枚の紙がダンゴの状態で転がっていて、それすべてを出して丁寧に開いた。

「うわぁ、俺そんなくしゃくしゃにして保管してたのかぁ」

まさか自分でこのようにしていたとは思いもしていなかったらしく、紙を丁寧に開いていく私に一度謝った。

そして4枚、その紙を開き終わった所で、アリスさんはその中の一枚を指差した。

「これ、俺がメモした、アモネネの生えてる場所」

「へえ、これが…」

紙の左下に適当な円が描かれ、その中には「ラティの泉」と記してある。そしてそこから紙の右上に向かって、1から10まで数字が並んでいる。その周りには適当に描かれた木の絵や何かの区切り線なのか波打った線など、とにかく本人にしか分からないであろう地図だった。

「これ一応地図なんだけど、このラティの居る泉からこの数字が書かれた木が見えるんだ。で、この数字の書かれた木からまた次の数字が書かれた木が見える、そうやって辿って行けばアモネネの生えてる場所に行き着くよ」

「でもそれ、他の人にばれたりしてないですか?」

「あからさまに数字を書いてるんじゃなくて、数字の数だけ線を引いてあるだけだから、単独で見ても分からないんじゃないかな」

「それじゃあ行っても無かったら、他の人がもう採って行ったってことですね」

「そうなるかもね。けどただ木を辿っただけじゃアモネネは見えない」

「どうしてですか?」

私は首をかしげた。

「ほら、なんて言うのかな。肉食の植物が沢山いるから、その中で小さなアモネネを探すのは一苦労だろ? それにそんな場所だから、あまり人も行かないんじゃないかな」

肉食だと、今いやな言葉を聞いた。

頭からばっくりと食べられる図が一瞬にして脳内を駆け、ぶるりを身震いした。

「そうか、お前は襲われない体質だからこそ、そう簡単に採取出来たのか」

「そうそう、けどアモネネがそうだったけど、俺から手を出したらその効果も無効みたいだ」

カルデノの質問に答え、また噛まれた時の事を思い出したのか両手を擦り合わせた。

「それあげるから、役立ててね」

「はい、ありがとうございます」

貰った地図を袈裟懸けのココルカバンに入れるために口を開けると、いつの間に入ったのか、カスミが飛び出してきた。

「あれ、その子も妖精?」

アリスさんはまじまじとカスミを見る。

「はい、カスミって言うんです。ね?」

カスミはアリスさんを、上から下までじーっと観察し、やがて笑顔で手を差し出した。

「あ、握手?ごめんな、俺なにも触れないから握手とか出来ないんだけど」

そうは言いつつ一応差し出した手、カスミはその人差し指を握るように手を重ねた。

「うん、よろしくな」

カスミは満足したのか、私の肩に座った。

「そういえば、俺が泉に案内した時に、もう3人くらい一緒にいたよな? 一緒に行動してた人たちじゃなかったのか?」

「あれは、あの時だけでした。もう故郷に帰ったから、多分会えないかもしれません」

「そうかぁ」

あの時は結構な人数だったし、もしかしたらラティの泉に住み着いたモンスターを追い払ってくれるかと思って指をさしたのだそうだ。

無事にアモネネが採れたら、お礼を言いにまた来て見ようと思った。