軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

身分証が欲しい

あった、ギルドがあった。

大きなレンガ作りの建物で、外観からして3階建てのようだ。

入り口は両開きのドアで、緊張してそのドアの片方を引いた。

恐る恐る中に入ると、結構にぎやかだ、笑って話をする人、設置されたテーブルを真剣な顔で囲む人、壁に貼られた紙を見ながらあーだこうだといがみ合う人。これがギルドかとすこし感動した。

とりあえず入り口から真っ直ぐ進んで、いくつか並ぶ窓口の一つに寄る。

途中でこちらに気づいた窓口のお姉さんがにこりと笑いかけてくれた。

「あの、ギルドの登録ってすぐに出来ますか?」

「そうですね、時間はあまりかからないように努めております」

「私でも登録できますか?」

「12歳以上であればどなたでもご登録できますよ、ご登録なさいますか?」

「はい」

答えるとすぐに脇の引き出しから紙を一枚取り出し、窓口に置かれる。

「では、私クリスが担当させていただきます」

「あ、よろしくお願いします」

「ご丁寧にありがとうございます。ではこちらにご記入下さい」

ペンを手渡され、紙を見た。名前、年齢、性別、種族、出身地、職業、得意魔法。

種族までは書いたが、後半が怪しい。

「あの、出身地って分からなかったらどうしたら……」

「え?わからない?」

どうやら出身地がわからないのは問題らしい、どうしたものか。

「はい、私が生まれた時から親は旅をしていて、それが当たり前で気にしたことがなかったんです。今は私一人でこの街にいるんですけど」

「そうですか、でしたらこの街の名前、リクフォニアで結構ですよ」

「分かりました、リクフォニアですね」

この街の名前、リクフォニアっていうんだ。

「それと、職業と得意魔法は……」

「そこは無記入でも構いませんよ」

「そうですか、じゃあこれでお願いします」

紙を返すと、クリスさんはそれをチェックする。

「カエデ・ヤクモ様ですね」

「はい」

「では少々ギルドのことについてお話させて頂きます」

ギルドカードにはランクが書かれていて、はじめは誰でもランク5からのスタートらしい。で、仕事に応じてポイントが加算され、それが貯まるとランクがひとつ上がる。それを繰り返せばいずれランク1になるとか、ならないとか。

そして私のように身分証として発行する人も居て、そういった人はなんの依頼もこなさないこともあると言う、そんな場合は年に1回更新手続きをしてもらう決まりだ。

それと仕事中のトラブルはギルドが介入するが、それ以外は一切関与しないので、節度ある行動を心がけること。その説明を聞いて頷くと、ギルドカードを発行してくれるらしくクリスさんが立ち上がった。

「少々お待ち下さい」

クリスさんは笑顔で奥に引っ込んだ。

戻ってくるまで、またギルドの中を見回す。2階まで吹き抜けで、その2階に本棚の並ぶ場所があるので少々気になる、誰でも閲覧可能なのだろうか。

あと見えるのは、休憩所として設けられているのかは分からないが、椅子がちらほら。

ギルド内の人たちはほとんど武装していて、中にはビキニアーマーのお姉さんまでいる、あれは防具としてどうなんだろう。

そうして5分ほど時間を潰したところで、クリスさんが戻ってきた。

「お待たせしました、こちらギルドカードと身分証になります」

窓口に2種類出された。

「ありがとうございます」

受け取ったカードはテレホンカードくらいの大きさで、ステンレスのような見た目、3ミリくらいの厚みがある、結構厚い。それに名前と種族名が彫られていて、顔写真も貼ってある。

顔写真!? いつの間に!?

そして身分証のほうは、学校で見慣れた生徒手帳のような見た目だ、中を開くと、さっき紙に記入した事と、いつどこで誰が担当してこれを発行したかが、少しゴワゴワした紙に書かれている。そして余白のページが何枚か。

「って。紙?」

そういえばあのぼろい宿でも、受付で紙が使われていた。白くて綺麗な紙ではなかったが、普通こんなファンタジーな世界って、紙は高級なんじゃないの?

疑問に首を傾げると、クリスさんは嬉しそうに笑った。

「気づきました?実はリクフォニアは紙の製造に関して、世界でトップなんですよ。原材料は質がよく、職人も優秀ですから」

「へえ、すごいですね。じゃあリクフォニアで買うのと他で買うのは値段も違います?」

「もちろんです、ギニシア国内でもリクフォニアが一番安価ですし、国外となればとても高価です」

「へえ!」

とりあえず関心。そしてこの国はギニシアというらしいことが分かったのでまた一つ収穫だ。

「あ、それと2階の本って何があるんですか?」

「様々なモンスターや薬草の図鑑等がございます、他にも深く掘り下げた書物もございますので、ぜひご覧ください」

「はい、ありがとうございます、またお世話になる際もお願いします」

さっそく2階でアオギリ草について調べよう。

2階に上がってざっと本棚を見ると種類別に置かれているようなので、ぱっと目に付いた「薬草図鑑」を開いてみた。

「えー、マンドラゴラとは魔力をすった根が……、違うマンドラゴラとかいらん、つーかこれ薬草なの?」

適当に開いたのがいけなかったようで、目次を見たらアイウエオ順だった。なのでアオギリ草はすぐに見つかった。

アオギリ草は世界中に分布していて、標高の高い場所で採れた物ほど品質がいいと言われている。天龍草と似た見た目だが価値は全く違うので注意。

セットにされているアオギリ草の絵を見ても、黒っぽいニラにしか見えない。

本を閉じ、本棚に戻すと、次に探すのは清水についてだ。

しかし清水はどの種類に分けられるのか、もしかしたら水だから無いかも知れない、困った。

「うーん、清水……。あ、清め石だ」

そうだ石について調べよう。恐らく魔石に分類されているだろう。されるかな。

魔石に分類されている本棚に移動し、背表紙を見ていく。すると一冊「清め石について」と背表紙に記されたものがあった、引き抜いて知りたい記載を探す。

清め石は女神の涙とも言われ、どんなに汚れた水も浄化する。他の魔石のように効果が切れることもない、らしい。

魔法石店で見た清め石は親指の爪ほどの大きさで1000タミル、その値段に若干引いたが、使い切るような物ではないならいずれ欲しい。

しかし1000タミルだ、今私が作るポーションは1個8タミル、125個のポーションを作って売ればいいだろう、時間はかかるが。

これで清め石の目処は付いた。アオギリ草は近くだとどこにあるのだろう。

本を戻し、クリスさんの所へ行く。

「あの、アオギリ草ってこの辺りだと、どこにありますか?」

「アオギリ草ですか?近くでしたら街の外にある森ですね」

変わらず笑顔で対応してくれる。

「そうですか」

「はい、入り口らへんならコウモリやイモムシなど、比較的弱いモンスターばかりですから、練習するにはいいかも知れませんね」

「うーん、肝心のアオギリ草は入り口らへんにありますかね?」

「数は少ないかも知れませんが、あると思いますよ」

「分かりました、ありがとうございます」

「いえ、また疑問などございましたら、お気軽にお声掛けください」

「はい」

ギルドを出てパン屋に向かう、そして考えた。ハイポーションを簡単に作れるようになるには外に行かなければならない、それには身を守るための装備が必要だ、だがそこまで考えて自分に疑問。

ポーションだけで確実に毎日生きていくだけのお金は手に入る、危険な目に遭うかもしれない外に、行く必要はあるだろうか?

無いんじゃないか?

思い出そう、父や母はどんな事をしていたか。まず収入を得ていた、毎日ご飯を作ってくれた、車があった、家は一軒家……、家。

家を買うのは?家を買ったら自炊できるし、毎日の宿代は必要ない、それに水も好きに使える。いいんじゃないか?

これは、やはり簡単にハイポーションを作れるようになる必要がある、そうで無ければポーションを大量生産出来るようになりたい。

これは、いい目標が出来たのではないか。

そしてパン屋で7タミル分のパンを買い、帰り際に雑草を毟った、ココルカバンから出したリュックサックがパンッパンだ、前のようにサラッと一杯にしたのとは訳が違う。

あとは水だが、これは今のところ宿で地道に貰うしかないだろう。

宿に帰って受付の女性から鍵を受け取る前に、聞きたいことがあった。

「あの、この辺で体を洗えるところってないですか?」

すると女性はピンと来たように人差し指を立てた。

「ああ!それでしたら、銭湯を知ってますよ」

「本当ですか!?教えて下さい!」

女性の話だと、宿を出てひたすら左に歩くと銭湯はあるらしい、だがお湯に浸かる習慣が無い人のほうが多く、あまり人気はないのだとか。

その後部屋に戻り、パンを食べながら悩んでいた。

銭湯は本当にお湯があるだけなので、必要なものはすべて持ち込みしなければならない、しかし手持ちは140タミル、これで着替えやタオル、石鹸があるなら買えるのかが不安であった。

パンを3つ食べ終えたところで、ココルカバンとお金を持ち、2泊分延長して20タミル払い、もう一度街に出た。

服を売っていた店は見つけてあったので、そこで着替えを買うことにした。

宿から歩いて10分くらいの距離にある、簡単にドレスのような絵が描かれた看板の下がる店に入った。

「すいません」

大量の服が所狭しと置かれた店内で、すぐに恰幅のいいおばさんが寄ってきた。

「あの、服を買いたいんですけど」

「あらあら、どんなのをお探し?」

とても安心感のある体型と、優しそうな笑顔を浮かべるおばさんに要望を伝える。

「動きやすそうな服と、あと下着があれば下着も」

「わかったわ、ついておいで」

あまり広くない通路を少し進むと、ワンピースの並ぶ場所に案内された。

「この辺の服ならあなたのサイズに合う物があるはずよ」

例えば、と見せられたのは桃色で長袖のワンピース。

「うーん、色がちょっと……、色々見ていいですか?」

「ええ、好きなだけ見て頂戴、私はカウンターにいるから」

「はい」

おばさんは戻ったので、桃色のワンピースが並んでいた一帯を見る。一着ずつかき分けてみると。すこし暗めの青色のワンピースがあった、形は先ほどのものと同じように見える。

丸襟でゆったりしていて膝丈、袖は絞られている。これでいいかと納得し、色違いで深緑色も選ぶ。

まだうろうろすると、七分丈くらいの白っぽいズボンがあったので、腰に当ててみた。うん、入りそうだ、2着手に取ると、カウンターに向かった。

「あら、決まった?」

「はい、これを」

「わかったわ、えーと全部で36タミルね。それと下着だったわよね?」

「はい」

「用意していたんだけど、これでどうかしら?」

見せられたのは、かぼちゃパンツをまだ絞ったようなパンツと、前か後ろか分からないが紐で絞るようになっている、チューブトップのような物。

「えーと、これは……」

チューブトップを指差す。

「ああこれ!最近流行ってる下着なのよ、今まではコルセットなんて苦しかったけど、これは胸に当てて、自分の好みに締めるだけ、柔らかい布だから痛くないしね」

どうやら最近のものらしく、おばさんは楽しそうに熱弁する。

「へー、じゃあそれぞれ3着ずつ下さい」

「はいよ。じゃあ合計で62タミルね」

痛い、62タミル、痛すぎる。

財布代わりの筆記用具入れから62タミルを出した。

「まいど」

おばさんは笑顔でお金を受け取った。

「そうだ、この辺でタオル売ってるところ知りませんか?」

「タオル?」

首を傾げられたので、慌てて言い直す。

「いや、手ぬぐい、というか、体を拭くための布、を……」

「ああ手ぬぐいね、うちにもあるわよ。いるの?」

「は、はい。三枚ほど」

「はいよ」

おばさんはカウンターの下から竹編みのかごを出した。

「好きなのどうぞ」

籠には沢山の手ぬぐいが入っていて、無難に白っぽい物を選んだ。

「三枚で6タミルね」

「はい」

残り52タミル、ずいぶん減ってしまった。買った物をココルカバンに入れ、石鹸についても聞いてみた。

「石鹸ってどこに売ってますか?」

「石鹸?あんな高いの買うの?」

「やっぱり、高いですか?」

「そうよー、こーんな小さいので30タミルもするんだから」

おばさんは指で大きさを伝えてきた、大体だが、いつも使っていた石鹸の半分ほどの大きさだろうか。

そんなのに30タミルも使う余裕はない、銭湯には石鹸無しで行くしかないようだ。

「そうですか、使ってみたいなーと思ったんですけどね」

「そうねえ、髪用の石鹸なら私もいつか使ってみたいわ。あんなにツヤツヤな髪……」

おばさんはうっとりとそう言った、髪用の石鹸?

「髪用ですか?」

「ええ、貴族の方が使うよく使う石鹸でね、髪はツヤツヤになって、いい香りもするらしいのよ」

「へえ、いいなー、ちなみにいくらなんですか?」

「たしか、60タミルだったかしら」

たっかい!

店を出た後、その足で銭湯に向かい、さっぱりしてその日を終えた。