軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

買ったよ

アイスさんが以前奴隷を買ったという奴隷商を訪れた私は、怖いやら緊張やらで無意識にアイスさんに張り付いて歩いていた。

外観はホテルと似通って見えたが、中に入ってから、時々何かの声がするのが心臓に悪い。

堂々と歩くアイスさんにくっ付いていると、とある部屋に入った。

部屋の中はソファとテーブルがあって、今入ってきたのとは別のドアが2つあった。

その部屋の中に、少々肥満気味の中年男性がいて、アイスさんに挨拶をした。

「お久しぶりですアイス様、今日はどういった者をご所望でしょうか」

「久しぶりね、今日は私じゃなくてこの子が選ぶの」

そう言って私を押し出した。

「は? あの、こちらは…」

「カエデちゃんよ、これでも立派な女性なのだから失礼な事は言わないでね」

「は、はい。ではカエデ様、どのような者をご所望でしょうか」

「え、と」

今更頭の中で整理する。

「具体的にはなんとも…、でも強い人がいいです」

「強いですか、少々お待ちください、何人か連れてきますので」

中年男性は入ってきたのとは別のドアから出て行き、ソファに座ってからそう時間をかけずに戻ってきた。

犬族の男性が2人、猫族の少年がひとり、巨人族の少年がひとり、皆手に枷をつけている。

「いかがですか? この犬族の男はこの細身で…」

「あの」

これはいかん、と私は中年男性の話を遮った。

「はい、どうなされました?」

「女性はいないんですか?」

「え…」

中年男性が何故か驚く。

「え?」

それに私も驚く、どこか変なところがあっただろうか。

しかし中年男性は気を取り直し、連れてきた奴隷を連れてまた出て行った。

「アイスさん、私なにかまずい事を言いましたか?」

「さあ、言ってないと思うけど」

アイスさんも分からないようだ。

次に中年男性は、羊族の女性、猫族の女性、狼族の女性の三人を連れて来て紹介した。

その中でも狼族の女性は容姿が人間に近くて身長が高い、筋肉も付いていていかにも強そうな見た目をしていた。

「今度はどうです?この羊族は魔法が得意で、保持する魔力も高い。そして猫族は素早い動きで、うちのどの猫族よりも強いです」

次は狼族の女性の紹介かと思ったのだが、中年男性は私に狼族は余りおすすめ出来ないと前置きした。

「どうしてですか?」

「いえ、この狼族は村ひとつ潰した大変凶暴な者でして」

「そ、そうなんですか?」

「はい、単純な強さならば保証いたします」

私は恐る恐る狼族の女性を見た。

まず身長が高い、190センチはあるのではないだろうか。

そして赤い髪は乱雑に肩につくくらいまでの長さまであって、肉厚でつんと尖った同じく赤い耳、しかし前髪から覗く両目は金色と言ってもいいかもしれない、その力強い両目は私をただジッと見ていた。

布を2枚合わせただけの簡単な服の上からでも分かるほどその体は引き締まっていて、隣りに並ぶ猫族と羊族の女性が、見劣りしてしまう。

「あの、名前は?」

私は狼族の女性から目を離さなかった。

「…カルデノ」

声はやや低めで、しかしはっきりとしていた。

「お前、妖精の匂いがするな」

妖精の匂いがすると言われて家にいる妖精の事を思い出した。

もしかしたら、あの妖精と仲良くなれるかもしれない、それに何より強そうだ。

私は決心して膝の上で拳を握った。

「すいません、この人はいくらですか?」

「え!? 買うんですか!?」

中年男性は信じられないと声を荒げたが、アイスさんがうるさいと一言呟くとピタリと口を閉じた。

「駄目なんですか?」

「い、いえ。この狼族は2万8000タミルです。ほとんど売れ残っていたようなものですから、ええ」

額に汗がにじんでいる、それほどアイスさんが怖いのだろうか。

その値段を了承し、お金を出すと、中年男性は震える手でそれを受け取った。

それから購入証明書という書類にサインして、奴隷には必ず付けなければならないという首輪がカルデノの首に付けられてから枷を外された。

カルデノは手首を何度かさすり、両腕をぐーっと上に伸ばす。

「ではこれで手続きが終了しましたので」

「はい、ありがとうごさいました」

「じゃあ行きましょカエデちゃん」

「はい」

カルデノは私の隣りを付いてきたので、そのまま外に出た。

「アイス様、もうお時間がせまっています」

外にはメイドがいて、アイスさんを見るや否やそう切り出した。

「もう?まだ何とかならない?」

「もう10時ですから、無理です」

アイスさんは私に申し訳なさそうに、仕事があると言ってきた。

付き合ってもらったのは私で、そのせいで仕事に遅れそうなのだと分かると慌てたのは私だ。

アイスさんには仕事に向かってもらい、その場に私とカルデノだけが残った。

私がカルデノの顔を見上げたら、カルデノは私を見ていたようだ。

「わ、私はカエデ、よろしく」

「よろしく」

カルデノの身長が高いことは先ほども思ったが、私の頭がカルデノの胸らへんにあるので本当に190センチくらいあるようだ。

しかしそのせいで服が目に入り、先に服を買いに行くことにした。

「いい? お湯かけるよ」

「ああ」

ざばーっと頭からお湯をかけると、次に石鹸を手に取る。

服を買いに行ったらあんまり身長が高いもので、女性用で合うサイズがないと言われ、下着と短いズボン、それにシャツを買ったが少しヘソの出る服になった。

靴も男性用のショートブーツを買うしかなかった。

カルデノは動きやすいからいいと言ったのでいいのだが、それにしても巨人族がいるくらいなのだからもっと様々なサイズがあるものと勝手に思っていた。

それから髪を切るためのハサミと櫛、新しく石鹸と手ぬぐいを買って、返ってきてすぐにお湯を沸かし今に至る。

耳に泡が入らないように気をつけながら髪を洗い、またざばーっとお湯をかけて石鹸を流した

体も洗って綺麗になったところでお湯に浸からせた。

「気持ちいい?」

「……ああ」

目を瞑って気持ち良さそうにしているので気に入ったのだろう。

「のぼせないように気をつけてね、好きなときに上がったらいいから」

「わかった」

するーと背中を滑らせて肩まで浸かったので私は風呂場から出た。

カルデノがお風呂から上がったら次は髪を切る予定なのでハサミなど用意していたのだが、ふと昨日の強盗はどうしたんだろうと思った。

帰ってくるときにはもういなかったし、でもアイスさんからは何も聞いていない。

きっと逃げたのだろうが、もう二度と来ないで欲しい。

カルデノが上がって髪を切ったのだが、あまり綺麗に出来たとは言えない。

まあ素人なのだからこんなもので勘弁してもらおう。

カルデノは切り終わって短くなった髪を触り、尻尾を左右に揺らしている。

「髪も切ったし、パンでも食べる?」

沢山買ってあったパンを見せると、何度も頷いた。

好きなだけ食べるといい、そう言うとすごい勢いで食べ始め、8つ目を食べ終わったところで止めた。

「ちょっと待って、もしかしてカルデノってすごく沢山食べる?」

「結構食べるほうかもしれない、パンまだ食べていいか?」

残るパンはあと3つ。

仕方ないので頷いた。

「これ食べ終わったら食べ物買いに行こうか」

「行く」

12個、遅めの昼食のパンを食べ終えたカルデノは、出かける準備をする私に早く早くと目で急かす。

「今行くよ」

何回か利用しているパン屋に着くと私はカルデノに食べたいものは無いかと聞き、食べたいと言う物を次々お盆に乗せ、大量のパンはココルカバンに収納された。

カルデノに一番でかいパンを齧らせながら、果物が売っている店を探していると、カルデノの目が肉の串焼きに釘付けになってるのが目に入った。

「あれ食べる?」

「……うん」

ちょっと今までとは違った返事が帰って来た。

ちらっと尻尾を見るとすごく揺れている、表情にはまったく出ていないが尻尾は隠せないようだ。

「すいません串焼き10本下さい」

「はいよー」

さすがに腹が落ち着いたようで黙って付いてくるカルデノ、それに安心して果物も買い、けれどカルデノのことを考えると、肉くらい焼けた方がいいだろうか。

「カルデノは肉とパンどっちが好き?」

「肉」

即答だった、私だって肉は好きだが、肉を主食にするほどではないし、カルデノはパンだって食べるんだし別にいいだろう。

「カエデ」

「え?」

「私はなにをしたらいい?」

カルデノは無表情、肉のことを考えていた私には突然のことで、何も言えないでいるとカルデノは自分の首に付けられている首輪を触った。

「私は買われたんだ、何をしたらいい?」

そう言えば何をして欲しいか、まだ話していなかった。

「えーと、私の護衛、かな」

「それだけか?」

ずいと詰め寄ってくるカルデノに一歩引いた。

「い、今のところは、思いついたらそのつど伝えるから」

「わかった」

身長が高いものだから、詰め寄られると威圧されているような気になってしまい、とても怖い。

一歩はなれたカルデノにほっとした。

「近いうちに外に出たいと思うんだけど、私を守りながら外に出るって出来る?」

「問題ない」

「そっか、じゃあ武器とかいるかな?」

「どうだろう…」

「行ってみる?」

武器屋に行けばしっくり来るものがあるかもしれないし、カルデノが頷いたので地図を見ながら大きなお店に来てみた。

中には鎧を身にまとった人が結構いて、自分だけ場違いなのをヒシヒシと感じる。

壁に立てかけて沢山の武器があって、珍しくて見ていると、カルデノが大きな剣を持ち上げた。

「ええ!?」

持ち上げた剣は剣と言うか、もう扱える人がいるのか不思議なレベルででかくて分厚くて見るからに重そうだ。

それを両手で持ち上げたカルデノを見て驚いたのは私だけではなく、店の中のほぼ全員だ。

「カルデノ、それ降ろそう、元の場所に戻して」

「……わかった」

素直に戻してくれたが、声色がすこし残念そうだった。

「もうちょっとさ、小ぶりなのでいいんじゃない?私を守りながらになるんだし、あんな大きいのだと巻き込まれそうだよ」

「そうだな」

カルデノは店内を見回し、壁にかかっていた刃渡り30センチほどで、ナイフというには少し大振りなそれを見せた。

「ならこれにする」

こんなにあっさり決めてしまうとは思わず、本当にこれでいいのかと再度確認した。

「いい、これなら使い勝手がよさそうだ」

「そっか」

一緒に腰に吊るすためのベルトも買ったが、やはりあの大きい剣が気になるようでジッと見ている。

まったく買う気はないし、そもそも売り物なのかも怪しい。

そしてヘソ出し足出しの姿のカルデノに防具はいるかと聞けば、動きづらくなるからいらない言われたので、厚手の上着を買うだけにした。

私もアオギリ草の採取で外に行くのだからと、頑丈な服とブーツ、それから手袋を買っておいた。

その後はカルデノの興味が引かれるものを次々見て、すっかり腹をすかせたカルデノにパンを食べさせながら家路についた。

家について、そして気がついた、カルデノの寝床がないことに。

空いている部屋である二階はカルデノには窮屈な天井の高さ、本人は何とも思っていないようだが申し訳なくて胸が苦しい。

「ごめん、絶対ベッド買うから」

「気にしなくていい、寝床が寒い地下じゃないだけで幸せだ」

「…うん、セミダブル買って上げるから」

あんまり申し訳なくてパンをひとつあげたら喜んでくれた。

せめて掛け布団だけでもと思って渡すと、私のベッドのすぐ横で丸くなって寝てしまった。

190センチもある長身、初めて見たときの力強い眼差し、何もかも同じだというのに、たった一日一緒にいただけで怖いと言う気持ちは薄れていた。

食べたいものを片っ端からあげたお陰か、カルデノも私を嫌ったりはしていないようなので、つい嬉しくて笑みがこぼれた。

「おやすみー」

「…うん」

また違った返事だ。

なにが違うんだろう。