軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

落ち着いてから再会

露店を開くならここがいいと教えられた場所に来たのだが、まだ朝だと言うのにとても人通りが多い。

道の脇にはテントを張っていたり屋台で商売していたりと、まるでお祭りでも開いているかのような賑わいだ。

もちろん地面に布を敷いているだけの露店もあるし、私もスペースを見つけて座った。

買ってあった黒板に、チョークで「ポーションひとつ10タミル」

と書く。

値段の改変は必要ないとアイスさんに言われていたので値段はそのままだ。

布を敷いてポーションを並べている途中から、妙齢の女性がポーションをくれと言って来た。

「10タミルなんて安いわねー、他の店ぼったくってんじゃないの?」

「それはちょっと分からないですけど…」

少し怖そうな人だが、20個買ってくれた。

それからその女性の声が聞こえていたのか何人かが買って、それを見ていた人が何を売っているのか気になって集まってと連鎖的にどんどん売れていった。

「ハイポーションは売ってないの?」

そんな事を言われたが、無いと言うと残念そうだった。

「ポーションが安いからハイポーションも安いかと思ったのにな」

「すいません、いつかは売りたいと思ってるんですけど」

その客は楽しみにしていると言っていたので、なんとかアオギリ草を手に入れたい。

400個以上あったはずのポーションはあっという間に無くなってしまい、昼過ぎには店じまいした。

人口の多さもそうだが、一度に沢山買う人が少なくなかった。

空になったカバンをココルカバン一つに纏めて、地図を頼りにリックさんの家に歩いている途中、肉を串に刺して、じゅうじゅうといい音を出して焼いている屋台が目に入った。

見やすいように掛けられた黒板には、ロップの串焼き3タミルと書かれている。

すごくおいしそうだ。

「すいません」

「はいいらっしゃい」

店を開いている人の顔が犬にしか見えなくて驚いたが、それよりもお腹が空いていて串焼きが食べたかった。

「この串焼きって美味しいですか?」

「食べたこと無いのかい?」

「はい」

「とっても美味しいよ、やわらかくってさー」

「買います」

2本買って、歩きながら一口食べた。

本当に柔らかくて、甘辛いような濃い味も肉にあっていた。しかし美味しいのは確かだが何味なのか語れる知識がなかった。

2本とも食べ終わった後串をどうしたらいいか分からずかばんの中に突っ込んだ。

それから後も見たことの無いものがあれば引き寄せられてかなり寄り道してしまい随分時間をかけてしまった。

その内見覚えのある道に行き着き、そこからは駆け足でリックさんの家に向かった。

玄関のドアは新しいものに変わっていて、遠慮なくノックした。

「ごめんください、この間家を買ったカエデですけども」

少し時間を置いてからドアが開いた。

私の姿を確認したあと、キョロキョロと辺りを見回してほっとしていた。

「やー、どうしたの?」

「どうも、お金が出来たので少しですけど払いに来ました」

「え、もう?」

「はい」

もう財布代わりだった筆記用具入れに入りきるものではなくカバンに直接入れていた中から5000タミルを払ったのだが、リックさんはそれを受け取るのがしぶしぶだった。

「こんなに払うの無理してない?」

「大丈夫です、明日も露店開く予定ですし」

私の生活の糧がなんなのか分からないリックさんは首を傾げたので、ポーションを売っているのだと説明すると、どうやら納得したようだ。

「まあどっち道、無理しない程度でいいからね」

「はい、ありがとうございます」

この至近距離で手を振ってくれたので、私も手を振り返すとパタンとドアは閉まった。

それを見届けてから、新しく財布を買おうと、帰る途中で適当な雑貨屋に入った。

財布といってもただの袋みたいなものから、がま口のものなど沢山あった。

悩んだ末に、手くらいの大きさのがま口と、大きい袋を買うことにした。

それから店内を歩くと「髪用石鹸アレーシムの香り」があったので、香りの確認だけしてこれも買うことにする。

それと大きな寸胴鍋、お風呂に水を移すのに使うだろうとまとめてカウンターに持って行った。

「184タミルになりまーす」

どうやら石鹸と鍋が高かったようだ。

ココルカバンにしまって、妖精のためにまたクッキーを買って帰ることにした。

「ただいまー」

と言っても返事はないのだが、一応言ってみた。

そしたら妖精が出迎えてくれた、かわいい。

「クッキー買ってきたから食べていいよ」

クッキーの袋を渡すと、嬉しそうにテーブルの上に移動した。

私はそのまま井戸の方に回って、集めた草と井戸水でポーションを作る。

人の目も気にならないのでとてもいい。

ココルカバン一つを一杯にしたところで、妖精が肩に乗っているのに気がついた。

「あれ?もうクッキーいいの?」

すると妖精はお腹をぽんぽんと叩く、どうやらお腹が一杯になったようだ。

そしてその仕草で思い出した、自分の食べるものを何も買ってきていないのを。

「しまったなー」

しかし今から買いに行ったのでは遅くなってしまうかもしれない。

今晩の食事は諦める事にした。

暗くなってからようやっとココルカバン2つを一杯にし、次は寸胴鍋で浴槽に水を溜める作業に移った。

さすがに大きな浴槽だけあって、何往復したかわからない、しかしこれでお風呂に入れば疲れも取れるだろう。

水を溜めた浴槽に、火石と呼ばれる石を入れる。

これを水に入れると熱を発し、お風呂が沸かせると言うので買った。

しかし水から出すときは熱いので決して素手で触ってはいけない。そのためにそれを掴むためのトングのようなものまであるのだ。

着替えや体を拭くための手ぬぐい、石鹸を用意してお湯が沸くのを待つ間、妖精のためにベッドを作る。

布を2枚合わせて縫い、細切れにした布をいれて閉じ、形を整えてテーブルに置いた。

「どうこれ、使う?」

妖精は小さなベッドに寝そべり、布を一枚かぶってから親指をグッと立てた。

「あ、よかった気に入ったんだ」

湯加減も良かったのでゆったり浸かり、その日を終えた。

毎日ポーションを作っては売り、庭の草も少しずつ綺麗になり家のお金も払い終わった、そんな王都での生活も慣れてきたころ、ポーションを売りに行こうと思って準備をしていたところ、ドアがノックされた。

家を訪ねてくる心当たりはアイスさんかリックさんしかいなかったので簡単にドアを開けた。

「あ!」

「久しぶりだな」

なんといたのは背中に袋を背負ったアスルだった。

「久しぶりだね、なんで私の家知ってるの?」

「アイスさんが会うたびにお前のことを話しているから知ってた。聞いたらここだと言うから来たんだ。用事もあったしな」

そう言ってアスルが背負っていた袋を下ろした。

「あ、ハイポーション?」

「そうだ、頼みたかったんだが、今から出かけるのか?」

どうやらリビングのテーブルに荷物を纏めてあるのが見えたらしい。

「うん、今からポーション売りに行こうと思って。ここ人が多くて毎日すぐに売れるね」

「そうか、なら気をつけろよ、女の一人暮らしで稼いでいると知れれば目を付けられるからな」

「え…」

怖いことを聞いてしまい体が硬直した。

アスルはそれに焦ったようで、滅多に無いから恐らく大丈夫と付け足した。

「それで、いつもどれくらいで売り切るんだ?」

「大体お昼か少し前かな。安いからって沢山買ってくれるから」

「そうか。それなら俺も一緒に行く」

「え、いいの?忙しくないの?」

「俺だって休みくらいする」

ため息をつかれた、そうだろうが今日が暇かどうか分るわけが無いだろう。

アスルと一緒にいつも露店を開く所に行くと、さっそく人が寄ってきた。

「ねえポーション10個ちょうだいな」

「はい、ちょっと待ってて下さい」

いそいそと準備をして、ポーションを10個売ると次の客。

「すごい売れ行きだな」

アスルが呟く。

「え、もしかしてあんた、ドラゴンハンターのアスル?」

客の一人がアスルを見てぎょっと目を見開いた。

「ん?ああ」

「俺あんたのファンなんだよー!」

「そうか」

アスルはそれに慣れているようで、簡単に立ち話をして終わった。

「アスルって有名人だね」

「…まあな」

アスルが有名人なお陰で人が寄ってきて、いつもより早く売り切ってしまった。

帰りにパンを沢山買って家に帰り、寸胴鍋と清め石を持って井戸の方に回り、アスルに水を汲んでもらった。

「人にやってもらうと楽だね」

「それはそうだろうな」

寸胴鍋一杯に水が溜まったら清め石を入れて、じわじわと淡い青色が広がる。

色が行き渡ったらアオギリ草の入った袋を寄せる。

「生成」

一度ではアオギリ草はなくならず、何度も繰り返して大量のハイポーションが出来上がった。

「アスルってアオギリ草どこから採ってくるの?」

一緒に散らばるハイポーションを拾いながら聞いてみた。

「どこって、普通に外の森なんかでだ」

「そうなんだ。ハイポーションは売ってないのかって結構言われるんだけど、私アオギリ草取りにいけないじゃん、ギルドに依頼しても毎日大量に頼んだらきっとお金がかさむだろうし、悩んでるんだよね」

「相当稼いでいるはずなのに、なんだかけち臭いな」

「うるさいな!」

アスルはハイポーションを拾う手を突然止めた。

「どうしたの?」

「いや、カエデは一人暮らしだし、そうやって単独で外にも行けないなら、いっそ奴隷でも買ったらどうかと思ってな」

「奴隷?」

アスルの口からまさか奴隷を買えばいいなんて出てくるとは思わず、私もハイポーションを拾う手を止めた。

「でも奴隷って、人身売買だよね?」

「それはそうだが」

私の浮かない顔を見て何か思ったらしい、私の肩を叩いた。

「確かにひどく扱う奴らもいる、しかしカエデはそんなことするとは俺は思えないが?」

「え?」

聞けば奴隷を連れているのは珍しくないらしい、その中でも人ではないような扱いをするのもごく一部で、どんな扱いをするかは所有者次第なのだとか。

「アイスさんの家のメイド達も確か奴隷だったはずだ」

「そうなの!?」

あのピシッとメイド服を着こなした人たちが奴隷とは知った後でも信じられない。

それにアスルに言われた言葉を反芻してみた。

一人暮らしは危ない、金があるとわかれば狙われる。

「んー…」

「強い奴隷が一人いれば、自分でアオギリ草も採りに行けるじゃないか」

「そうだね、アイスさんの家のメイドさんを見たら、奴隷って私が思ってたのと違うなー」

ハイポーションを再び拾い始めながら、それならばと値段が気になり出した。

「アスル、値段ってどれくらいかな」

「上から下まで様々だな、それだけは店による」

「そう、アイスさん相談に乗ってくれるかな」

「ああ、カエデに頼まれたら平気で買ってやりそうだな」

ありそうだ。

すべて袋に入れると、アスルは代金はいくらかと聞いてきたので、今度何かあったときに助けてくれたらいいとだけ言って帰ってもらった。

家に戻ると、パンの袋に入ってガサガサしている妖精がいたので声をかけた。

「なにやってるの?」

パンを引きずって袋から出てきた妖精は、このパンが食べたいとばかりに指をさす。

クッキーも買ってきたんだけどなーと思いつつ千切って分けると、おいしそうに食べ始めた。

私もパンでお腹を満たして、少し早いがお風呂の準備をするために外に出た。

「ちょっと君」

外に出た途端ドアの横によりかかっていた男にびくりと体が跳ねた。

「な、なんですか?」

いつのまにここに来たのか分からないが、男は気持ちの悪い笑顔で私の腕を掴んだ。

「君最近露店開いてる子だよね?」

ぞわっと鳥肌が立った、危ない、逃げなきゃ。

そう思っても掴まれた腕がびくともしない。

「はなして!」

「大人しくしてね、金さえくれたら殺さないから」

「こ、ころすって…」

手がふるふると震え出し、頭の中はどうしようどうしようと、そればかりグルグル回ってる。

「だから金出せば殺さないっていってるだろ」

男が腰からナイフを抜いたのが見えた。

「やだ、やだ!」

「じゃあ死にたいって事か、別に殺してから家を探しても…」

男が言葉を言い切る前に、突然吹っ飛んだ。

強い力で腕を掴まれていた私も引きずられて地面に倒れたが、すぐに顔を上げて男を確認した。

仰向けに倒れて呻いているが背中を打って動けないようだ。

「なに…」

何故突然男が吹っ飛んだのか分からず混乱していると、肩に妖精が降りてきた。

「き、君が?」

妖精は得意そうにして胸を張った。

「ありがとう」

しかしここにいるのは危険に思い、財布を持ってアイスさんの家に走った。

いつ追いかけて来るかとはらはらしながら息を切らしてアイスさんの家についた。

ドアのベルを鳴らして少しすると、メイドが出てきて、私をみてすぐにアイスさんの部屋に案内してくれた。

アイスさんも私を見てすぐに何があったのかと問い詰めてきた。

どうやら泣きそうで顔色も悪かったらしい。

アイスさんと並んでソファに座り、さっきあった事を事細かく説明すると、頭をやさしく撫でられた。

「怖かったわね、ここは安全だから、安心してね」

「はい」

少し涙が出てしまった。

アイスさんはメイドにその男のことを告げ、私の家の様子を見るようにと命じた。

別のメイドが入れてくれた温かいお茶を飲んで、アイスさんに奴隷の事を聞いてみた。

「アイスさん、実は今日アスルが来て」

「ああ、行ってたのね」

「はい、それで私は一人暮らしだから、強い奴隷をひとり買ったらいいんじゃないかって…」

怒られないかな、なんて根拠の無いことを心配した私に、アイスさんは腕を組んでなにやら考え始めた。

「そうね、それはいいかもしれないけど、今お金ある?」

「はい、家のお金を払い終わったので貯まってきてます」

「もう払い終わったの?3万2000よ?」

「はい、毎日露店開いて、結構経ちますし」

アイスさんはすごいわね、と呟いた。

「ちなみに今いくらあるの?」

「えーと、たしか3万はあったと思いますけど」

アイスさんは力強く頷くと、私の肩をがっしり掴んだ。

「なら明日さっそく行きましょう、またいつこんなことがあるか分からないもの」

「い、行くって、奴隷を、買いにですか?」

「そうよ、今日は家でゆっくり休んで」

私も今から家に行ってひとりで寝るのは嫌なので、大人しくベッドを貸してもらうことにした。