軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23.日々は進みます

日々を過ごしていく間に、私のお披露目パーティーの準備は進んでいく。

城内は大忙しだ。

とはいえ八歳児に仕事があるわけもなく、私は城内の忙しさに戦慄するばかりだった。目下、私の最重要任務はパーティーの参加者と段取りを覚えること。

パーティーに参加するのは国内の貴族・有力者がおよそ四千人。

さらには諸外国からも数百人。

これでも警備の都合上、招待人数は絞ったという。とんでもない規模だった。

前世では絶対にありえない規模のパーティーだ。

一方で、この身体の記憶力は良い。

言われたことをするすると覚えていける。

ここ最近は毎日、パーティーのリハーサルをしていた。

入場から挨拶、退場まで。

所々カンペはあるけれど、頭と足に進行を叩き込む。

で、今日はついにドレスを着て大広間に赴く。

白とうっすら桃色のひらひらドレス。所々に星を思わせる銀の意匠。

布地の手触りの良さは天上の雫のようで。

銀の意匠の細かさは極上の職人が丹精を込めたものだとすぐ分かります。

髪飾りのシュシュだけはまだだけど。

それでも王妃様の選んでくれたこのドレス、とても似合ってます。

鏡でどこを向いても一分の隙もありません。

完全無欠に上品な貴族のお嬢様です。

王妃様もかなり満足そうに私を眺めています。

「リリアちゃん、どうかしら? ドレスアップした自分は?」

「……本当に驚いています。これが私なんですよね?」

鏡の中で首を傾げたり、回ったり。

自分でもちょっとびっくりです。

動きづらそうなんですけれど……意外と動けます。

「着飾るというのは信頼を得る近道よ。気品ある服とセンスある装飾品は相手の心を開いてくれるわ。もちろん、自分の楽しみでもあるけれど」

このドレスを仕立ててくれた職人が頭を下げて、私たちに礼をした。恰幅の良い六十代の女性だ。

「リリア殿下の晴れの日のお召し物を手掛ける機会を頂き、恐悦至極に存じます。殿下の可愛らしさをさらに引き立てるようにいたしましたが、いかがでしょうか?」

「いつもながらいい仕事をするわね。満足よ」

「殿下はいかがでしょうか。お気になられた点はございますか?」

「いえ! そんな……!!」

首をぶんぶん振る。

正直、私は数百万は下らないだろうこのドレスにビビっていた。

物申すなんて、とんでもないです!

「リリアちゃんはまだお洒落に興味がないようなの。でもいずれはエンバリー王国の華となってくれるわ」

ひえええーー。

それは無理です。無理無理無理。

私にそういうセンスはありません。

なにせ前世でもありませんでしたから。

国全体の華なんて、とても無理です。

「殿下は今でも可憐でお美しい。きっと国中の令嬢が殿下の出で立ちにため息をつくでしょう」

お世辞にしても言い過ぎと思ったけれど、どうもそんな感じではない。

本当にそう思っているようだ。

確かにリリアの容姿は王国でも指折り。

そういう未来のはず……でも親や自身の行いで評判は悪かった。

華なんてとんでもない。

な、慣れない……。

容姿で褒められるなんて、ほとんどなかったから。

そんなふうに思っていると、王妃様が私の前に目線を合わせる。

「……控えめな所はシャーレ譲りかしら」

「え?」

「着飾れば誰よりも美しく咲き誇るのに、彼女はあまりそうしたがらなかったの。私はいつも、もったいないって言ってたわ」

「そんなことが……」

「ふふっ、昔話よ。リリアちゃんもいつか、自分を自分の思う通りに魅せたいと思う日が来るかもだし。そうじゃなくても、心はいつも美しく――ね」

すっと王妃様が立ち上がる。

窓の光に照らされる、その所作だけで目を奪われてしまうほどだ。

王妃様はいつも格好いい。

すらっとしてペルシャ猫のような、いつも眩しくて気品がある。

私もあんな風になれたら、とはいつも思う。

思う。思いはするけれど。

ううーん……。

ま、まぁ……徐々に頑張ろう。

そして私が公爵邸を出てから約三週間後。

王妃様の最側近であるセバスさんがノルラント治療院から戻ってきた。

北の果てに行って来て、三週間。

とんでもない僻地にノルラント治療院はある。

私は王妃様の執務室でセバスさんの帰還を出迎える。

……私が同席するのはハーマについての報告があるからだ。

セバスさんは白髪交じりの細身の紳士、大叔父様と似た世代だと思う。

彼はかつて名を馳せた騎士だったという。それでいて学識もあり、王妃様の側近として抜擢されたとか……。

財務省にいれば筆頭財務官にもなっていたかもという侍女の話を聞いて、とんでもない文武両道の人なんだなぁと思った。

そのセバスさんが折り目正しく王妃様に報告をする。

「王妃様、ハーマ夫人をしかとノルラント治療院へお届けいたしました」

「セバス、ご苦労だったわね」

「もったいなきお言葉にございます」

これでハーマは北の地で『治療』に励むことになるだろう。

実態としては、極寒の地で寿命をすり減らすことに他ならないけれど。

肌を刺す風と水。終わりのない魔力を抽出する労働。

ここに送られた貴族は自分の不始末を嘆きながら、魔力を絞り出す労働者になる。

それがノルラント治療院だ。

「ハーマの様子はどうだった?」

「同情を買う素振りを見せたり、グズを言ったり……見るに堪えないものでした」

ばっさりとセバスさんが切って捨てる。

ハーマならそんな気がする。

「逃亡は試みなかったの?」

「一度だけ試みましたが、問題なく制圧いたしました。しかしその際、足を滑らせて少々お怪我を……」

「あら、運のないことね。重傷かしら?」

「いいえ、命に別状はございません。しかし輸送中の出来事ゆえに、《《やや》》左脚が曲がってしまったかと」

「……それは大変ね」

「魔道具による専門治療を受ければ完治するでしょうが、私の判断で一般治療にとどめるよう指示をいたしました。そのほうが《《今後、逃亡の恐れはありませんので》》」

あー……。はいはいはい。

ハーマの脚が不自由になりました、と。

かわいそうだとは思わない。

それも自業自得。

……でも、なんとなく出来すぎているような。

王妃様もこの報告に驚いていない。普通はびっくりすると思うけれど、眉ひとつ動いてない。

もしかして。これは想像のしすぎだろうか。

わざとハーマが逃げるよう仕向けたかな?

でもセバスさんの独断でそうするとは思えない。

王妃様がわざと逃げるような隙を作るよう指示して、そうしたのかな。

それでちょこちょこっと……。

このほうが筋が通っている気がする。

なるほどねぇ。

「それでいいわよ。ゆっくり休みなさい、セバス」

「はっ」

セバスさんが退室する。

それを見届けてから、王妃様は不機嫌そうな顔をした。

これは私に向けた顔じゃない。遠くにいるハーマを思い出しての顔だ。

王妃様はまだ怒りが収まらないらしい。

「リリアちゃんにはどういうことか、読めたみたいね?」

「何のことかよくわかりませんが……足についてなら、仕方ないと思います。事故のようなものですから」

「そうね、ちょっとしたアクシデントというやつよ」

そう言うと、王妃様がきゅっと口角を上げて微笑んだ。

今の王妃様は本当にラスボスみたいだ。

もう怖くはないけれど……。風格は変わってない。

「ふふっ、リリアちゃんの将来が楽しみね」

それってどういう意味なのでしょう?

まぁ、知らない振りをしておきます。

ハーマの脚の件は、不幸な事故ですからね。