軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第90話 俺は人間をやめるぞジョーー

「本当に凄かったです! キラキラ光って、ダンスも上手くて! 繊細な動きなのに迫力もあって!」

「だよねだよね! カコも何度見ても見惚れちゃうんだ!」

「ふふふっ、ありがとう。そこまで喜んでくれると頑張った甲斐があるわね」

チヨちゃんとカコちゃんの賞賛に、ミライさんは満更でもなさそうにしている。

ドレッドホーンの解体のため、俺達はちょっとした小休憩を取ることになった。本当はバルクホーンも解体したいんだが、時間がかかりすぎるということでこれだけだ。

貴重な中層素材なんだが、これから深層素材が手に入るからと言われちゃったらな。ボス素材だけは許してもらった感じだ。

これだけで川辺の装備が更にアップグレードするからな。あれだけの強さを持ったドレッドホーンで、どれだけ強化されるか楽しみだ。

……まぁ、そんな魔物もミライさんにかかれば、格下の魔物に過ぎなかったわけだが。

なんなんだよあのオバさん。強すぎるし戦い方が面白すぎるんだよ。

今も二人にチヤホヤされ、機嫌が良さそうなミライさんに、刻子さんが嗜めるように言った。

「とはいえ遊びすぎですよ。五分もあれば、踊る必要もなく倒せたでしょうに」

「まぁいいじゃない。私の戦い方を知ってくれた方が、この先やりやすくなるでしょ?」

マジで手抜きだったんかい。どんだけ舐めプしてんだ。

「その通りです。お蔭でミライさんの力をしっかり理解できました。しかもそれだけではなくデンプシーロールまで見れるとは! 感無量ですっ!」

伊波のその言葉で、俺はハッとなる。

そうだ、その通りだ。それだけで手抜きなんてどうでもよくなる。というか全てが許される!

「ミライさん。他にスマッシュとかコークスクリューとか打てないでしょうか? ホワイ〇ファングとか、ドラゴ〇フィッシュブローとか!」

「あっ、ずりぃ! オレもオレも! 最強〇ンボとか、孤塁〇きとか、流〇制空圏とか!」

「マッ〇突きとか、無〇波とか、金〇とか、煉〇とか!」

伊波の要求に続き、川辺と俺も希望を伝える。どれか一つでも見れるなら――!

「結構知らない奴が混じってるわね……。たぶん打撃系なら再現出来るけど、さすがに練習が要るわよ。でも再現する意味もあまり無いのよね。普通にスキルを使って殴った方が強いし、人型の魔物でもやっぱり人とは違うのよ。格闘技が通用しない奴がいるのよね」

マジかよ……やはりゴリラ。パワーは全てを解決する。

いつかゴリラ型の魔物と戦って、真のゴリラ決定戦を行ってもらいたい。

「それでどうだった? 私達の戦いは参考になったかしら」

ミライさんではなく、〈百花繚乱〉の戦い方という意味か。

そうだな。参考にはなったけど、タイプが違い過ぎて真似は出来ないという感じか。

日向さんとカコちゃんのバフ、デバフの援護。そして刻子さんの後方射撃。この辺りはあまり俺らと変わらない。最大の違いはやはり【挑発】の有無か。

「川辺みたいに【挑発】で引き付けるのではなく、後ろを狙った魔物を今西さんが止める形なんですね」

「そうだよ。【挑発】がない以上、ああやって僕が走るしかないからね。不安かもしれないけど、安心してほしい。何かあっても僕が駆けつけるから」

「あっ、はい」

そこは別に疑っていないけどな。むしろそれが得意なジョブな訳だし。

今西さんの動きを改めて振り返ったのか、ふと思いついたように川辺が言う。

「その装備とあの守りに行った時の速さからして、今西さんは〈軽剣士〉っすか?」

「ふふっ、そうだよ」

〈軽剣士〉――〈戦士〉の中でも速度を重視した人が取得する上位ジョブだ。速さを生かした連続攻撃だけではなく、軽快な体捌きで敵の攻撃を避け、その速度で仲間のカバーに立ち回ることを得意とする。

後ろに抜け出したバルクホーンに追いつけたのも、【カバーリング】というスキルの力だ。このスキルは仲間が敵に狙われた時、守ろうとする行動に補正が入る。それがあの尋常じゃない速度の正体だ。

〈軽剣士〉であると聞き、伊波は頷きかけるも、小さく首を傾げる。

「〈軽剣士〉であるのは納得しましたが、所々で入ったバフは何ですか? どうしてバフが入ったのかも分からないし、そもそも〈軽剣士〉にあんなスキルがあるとは聞いたことがないんですけど」

「ああー、それはまた別の……言っても?」

「ふふっ、もちろんいいよ」

今西さんは全く気にした様子もなく、微笑んでくれた。

まぁ、許可を頂いたことなので。

「今西さんは〈軽剣士〉の他に、〈演装士〉っていうジョブを持っているんだよ」

「えんそうし……聞いたことがないジョブだね」

そうだな。俺も初めて見た時はびっくりしたわ。なんせ協会のデータベースにも載ってないんだから。もしかしたら今西さんが初めての取得者かもしれん。

「で、簡単に言うとこのジョブ、役者みたいに演じるスキルなんだよ。自分を何らかの役に当てはめて、その通りに演じることでバフが入るんだ」

「ほうっ、なるほど。そんな面白いジョブがあるのか。となると、今西さんが演じているのは……」

「見ての通り、姫を守る騎士さ。――分かり辛かったかな?」

「そんなことありませんっ! 凄く分かりますっ!」

七緒ちゃんは祈るように手を組み、頬を紅潮させながら言った。

嬉しそうだな。まぁ君はああいうの好きそうだもんね……。

「これもミライさんのダンスと同じでさ。演じる役によってかかるバフも変わってくるらしい」

「もっとも、一度役を決めたら変更するのに時間がかかるから、そう次々に変えられる訳じゃないけどね。騎士スタイルが一番バランスが良いし、僕も好きだから普段はこれにしているんだ」

「ずっとそのままで良いと思います」

コクコクと頷き七緒ちゃんは言う。

そんな七緒ちゃんに呆れながらも、川辺は羨ましそうに言った。

「ミライさんといい今西さんといい、自由にバフを変えられるのは便利で羨ましいな。俺もそんなの欲しいわ」

「いや、でも結構デメリットもあるぞ。今西さんのスキルは演技に失敗したら逆にデバフが掛かるんだよ。そしてこの成功判定は、どうやら周りの反応も影響する」

「……ん? どういう意味だ?」

「だからさ。今西さんがいくら完璧な反応をしても、周りが白けた態度を取ったら失敗の判定になるんだよ。つまり全員、今西さんに守られたら演技に付き合わないといけません」

「え? わはははっ、マジで? 嘘だろ?」

冗談だよなと、半ば笑いながら川辺は確認する。

まぁでも笑うしかないわこんなん。いい歳した大人がお遊戯に付き合えってのはな。

「いやー、便利ってのは撤回するわ。かなり扱いにくいジョブだな」

「同感です。僕は絶対巻き込まれないようにしようと思います」

「なぜだい? ちょっと演技に付き合えばいいだけだよ?」

ちょっと照れ笑いをする川辺に、本気で嫌そうにしている拝賀君。そんな二人に、伊波は信じられない物を見たかのような目を向ける。それが容易く出来るのはお前だけなんだよなぁ……。

「ちなみに、演技の完成度によってバフの上昇量が決まってくるらしいので、全員逃げられません。真面目に戦うために本気で演じましょう」

「なんちゅう傍迷惑なジョブだ。ミライさん達はこれを受け入れてきたのか?」

「守ってもらったら丁寧にお礼を伝えるだけよ。別に問題ないじゃない」

「蒼ちゃんに合わせて演じるの、カコも楽しいよっ!」

「少し恥ずかしくなる時もありますけど、もう慣れましたね」

「く、苦渋の決断です……死にたくないのでっ……!」

〈百花繚乱〉でも賛否は分かれているようだ。性格が見えるわ。

組む人によってはパーティが回らなくなりそうな問題だよな。

まぁでも、なんだかんだ俺らは大丈夫かな。

「伊波は全く問題ない。俺もちょっと恥ずかしいが、やらないといけないなら本気でやらないとな!」

「それもそうだな! よし、やるならいっそ本気でふざけるか。今の内に台本考えておこう」

そう、普段から悪ふざけしている俺らは、必要とあるなら演技をするのは問題ない。むしろ大義名分があるなら全力でふざけてやろうじゃないか。

正直ちょっとワクワクしてきたわ。だけど俺も台本は考えておこう。アドリブが出来るのなんて伊波くらいだ。

「チヨちゃんもカコちゃんと同じレベルで良いなら全然出来そうだよね。七緒ちゃんは……言うまでもないか」

「ちょっと。どういう意味ですか?」

「君はノリノリでやるでしょ?」

「やりませんよ! 私だって恥ずかしいですっ!」

いいや、絶対に嘘だねっ。君は間違いなく完璧にこなす。なんだったら今西さんより上手くやるよっ。

ハッキリと見えた未来を想像していると、伊波が不思議そうに首をひねる。

「しかし、どうやったらこんなジョブを手に入れるんですか? 普段から演技でもしていたというのか? 今の今西さんは偽りの姿……?」

ああ、それは確かに俺も気になる。どんな心境、行動をしたら取得出来るのか、全く想像つかない。

「実は僕は元々コスプレイヤーでね。おそらくその経験が引き出されたんじゃないかと思っているよ」

想像できたわ。

むしろ取得できて当然だわ。願ったり叶ったりだろ。

「僕はカッコイイ男の子のキャラクターが好きでね。常々そんな振る舞いの似合う女性になりたいと思っていたのさ。とはいえ、日常生活でさえそんなことをしていたら、ただの痛い人だろう? だからコスプレを趣味にして、その欲求を満たす生活をしていたのさ」

ああ、その辺の分別はあったのね。ちゃんと常識人だったのか。

現在進行形の中二病である伊波よりは遥かにマシだな。

「だけど、コスプレ自体は楽しいのに、どこかモヤモヤする物を感じていたんだ。漠然としたそれが何なのか自分でも分からないまま、日々を過ごしていたんだけど、そんな時にダンジョンが現れてね。ダイエットと身体づくり、演技の参考になるかもと思って探索者を始めたんだよ。そこでミライお姉様に出会って気づかされたんだ。ああ、僕に足らなかったのは、このあるがままに振舞う強い姿だとね」

ああ、なるほど。

悪い所から影響を受けちゃったんですね。

「自信に溢れたミライお姉様を見ているうちに思ったんだ。少しでも自分を偽って生きていくことを受け入れたその瞬間から、本当の自分を殺しているんじゃないかと。それに気づいてからは常識人ぶって振舞うことを止めて、普段からカッコイイと思う自分になろうとしたのさ。それから毎日が楽しいよ。こうしてなりたい自分に成れたのだからね」

なるほどなぁ。まぁ良い話ではあるのか。

やっぱり見本にした人が悪すぎる気はするけど。もうちょい他にいなかったんか?

「そしてそんな僕でも、皆は快く受け入れてくれた。おかげであるがままの僕でいられる。僕は仲間に恵まれたね」

「蒼ちゃんカッコイイからねー! そっちの方がいいよっ!」

「私も魔女に憧れて探索者になった口ですからね。共感はすれど、否定はありえませんよ」

「素晴らしい向上心じゃない。否定する要素が無いわ」

「私は今でも傍に居ると普通に恥ずかしいですけど……」

周りから見たらイタい人だろうに、そんな今西さんを受け入れるんだから、この人達も良い人達だな。約一名そうでもない人が混じっているけど、まぁ上手く行っているならなによりだ。

っていうか、刻子さんも魔女になりたかったのか。……あの、その魔女って今のような伝統的な魔女ですよね? まさかニチアサ枠?

実はこういう人って結構多いのかな? ……探索者自体がそんなもんか。

ミライさんだけではなく、メンバーもかなり癖のある濃い人達ではある。だが、この人達なら間違いなく、俺達を安全に深層まで運んでくれるだろうとハッキリと分かった。

♦ ♦

ミライさん達の戦闘を見せてもらった後、俺達は順調に探索を続けた。

この辺りの魔物では〈百花繚乱〉が苦戦する筈もなく、道中も安全そのもの。キャンプでの休息も俺の【錬金術】で豊かな生活となっているため、実に快適な旅路だ。

むしろ厄介だったのは、階層の広さだ。聞いてはいたが十五階層を超え、階層が更に広くなった。その分時間がかかる。

まぁそれはいい。ちょっとした旅行と思えたし、道中に薬草の採取もさせてもらったお蔭で、〈中級体力回復ポーション〉の作成も出来た。俺達の分だけではなく、ミライさん達にも配れる充実ぶりだ。ミライさん達も喜んでくれたし、これでさらに万全になったのでいうことはない。

ただ、一つだけ問題が発生している。これは欲ばりな話ではあるんだが――俺達のレベル上げに陰りが見えたことだ。

「レベル23か。もう18階層なのにこの程度となると、ちょっと残念だな」

「充分でしょ……ッ! あんなに楽な方法で僕と同じになってるんですから……ッ!」

いや、それはそうかもしれないけどさ。

俺らの目的を考えると上がるに越したことないじゃん。機嫌直してよ……。

まぁスライム巡りが目的じゃなくて、今はどんどん先に進むことを目的にしているからな。その分、寄れる箇所が少なかったのも理由ではある。

とはいえ、いよいよ高レベルならではの障害が出てきた感が否めない。

悩む俺に、チヨちゃんが尋ねる。

「中層を超えたことで、スライムの経験値が低くなっちゃったんでしょうか?」

「いや、どっちかっていうと、俺達の必要経験値が多くなっちゃったのが原因だね」

スライムの経験値は変わらない。今も美味しい感じだ。だが、俺達の必要経験値が20を超えた段階で大きく跳ね上がった。

【人物鑑定】

名称:小畑楓太

レベル:23(次のレベルまで38596)

20から本当にきつくなる、とは聞いていたが、マジで桁が一つ変わるほどエグい要求量だ。そりゃ皆が口を揃えて同じことを言う訳だ。

俺はまだ数値が見えるから頑張れるけど、何も分からない状態で戦い続ける皆は本当にしんどかっただろうな。

この状態でよくスライムを避けてレベル上げが出来たなと思うんだが……いや、そうでもないのか。

「少し前から思っていたけど、他の魔物の経験値が上がってきているね。中にはスライムとあまり大差ない奴もいっぱいいる」

「それじゃあ、もうスライムレベリングは使えなくなるってことですか?」

「いや、そんなことはないよ。スライムレベリングは一度に多くを狩れるってことと、戦闘時間が比べ物にならないほど短いし、誰でも出来るってところが強みだから。これからも最高効率のレベリングであることには変わりない」

ただこの傾向からすると、この先はスライムだと割に合わない状況が来るかもしれない。弱いのを倒すより、強いのを倒した方が効率が良いっていう感じに。

それこそ、深層に入ったらそうなってもおかしくないんじゃないか?

それまでにどこまで上げられるかってところだな。

頭を悩ませる俺に、ミライさんが言い辛そうに告げた。

「残念なお知らせになっちゃうけど、そろそろスライムレベリングも止めた方がいいわ。レベル23だと、この辺りが限度だから」

「え? そうなんですか? というか限度って何の?」

保護者が帯同する絶好の機会なのに? できれば続けさせて欲しいんだけどな。

ま、まさかっ!? 急速に強くなっていく俺らに嫉妬して……ッ!?

「経験値をたくさん持っている敵を探すってなった時、まずまっさきに何が思いつく?」

「え? それは……」

スライムみたいなのは、【鑑定】を持っている俺しか気づけないからな。

そうじゃなくて、もっと普通の人でも考える相手か。

咄嗟に出てこない俺だったが、川辺はあっさりと答える。

「格上の敵を倒す、とかじゃね?」

「うむ。格上だけど弱い敵なら、安全にレベリングが出来る」

ああ、それだな。最近はスライムばっかり倒してて逆に思いつかなかった。ゲームなら当然思いつく発想だ。

川辺と伊波の答えに、ミライさんは小さく頷く。

「そうなるわよね。でも、ダンジョンではそれが出来ないのよ。どうもあまり格上の敵の経験値となると、体が受け付けてくれなくなるみたいでね。それを吸おうとすると酔うの。逆にあえて吸わないっていうことは出来るんだけどね」

はぁ~。それは初耳だわ。言われてみればパワレベの話とかって聞いたことなかったな。

強い人が混じると経験値がそっちに吸われることが理由だと思っていたけど、そもそも上の経験値を吸う事ができないからなのか。

「でも、そんなに我慢できないものなんですか?」

「確かに。酔うと言ってましたが、逆に言えば吸えない訳ではないのでしょう? だったらチャレンジしてみるのも悪くないのでは?」

「だよな。もしかしたら我慢すればいけんじゃね?」

いけんじゃね? やれんじゃね? そういう期待感を俺達は持った。

もし上手くいけば、またレベリングに革命が起きるからな。試したくなるのも当然だ。

怒られるかと思いきや、意外にもミライさんは笑っていた。

「そう思うのも無理はないわよね。それじゃあ試してみる?」

「え? いいんですか?」

「気持ちは分かるし、一回試して駄目なら諦めもつくでしょう? 見ていない所で試されても困るし、今ならやってもいいわよ」

えーほんとにー。それじゃあやってみようかなー。

乗り気な俺達に、拝賀君は青い顔で忠告してくれた。

「あの、小畑さん。善意で言いますが、本当に止めた方がいいですよ。絶対に後悔しますので」

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。ヤバそうならすぐに止めるから」

「いや、そういう次元では……はぁ。仕方ないか」

拝賀君は大人しく引き下がった。

心配してくれてありがたいが、俺らは基本的に小心者だからな。本当にムリだと思ったら止めるから、安心してほしい。

「それじゃあ楓太君。見える範囲でいいから戦いやすくてレベルの高い奴を探してくれる? 周りの連中は先に私達が片づけてあげるから、群れでも大丈夫よ」

「そうですか? それじゃあお言葉に甘えて……」

いやー、至れり尽くせりで申し訳ないな。とはいえ、あまり強いやつと戦う気も起きないし、楽に戦えそうなやつを――

【魔物鑑定】

名称:デューンファング

レベル:29(魔力保有値2963)

いた。中層における狼系の上位種。砂を操る能力を持っているらしいが、それ以外は今までの狼系の魔物と大きく動きは変わらない。群れも三匹しかいないし、あれなら余裕でやれる。

「決めましたミライさん。あそこの奴を。真ん中が一番レベルが高いです」

「ああ、良い相手ね。それじゃあ他の二匹は刻子が仕留めるから。三人は残ったのと戦ってみなさい。七緒ちゃんとチヨちゃんはこっちにいらっしゃい」

「えっ? あの私達は……」

「参加しなくていいんですか? 危なくないですか?」

ミライさんに手招きされ、七緒ちゃんとチヨちゃんは戸惑った。

まあここ最近は皆で戦っていた上に、俺が混ざっているからな。心配するのも当然だ。

だが――これが本来の俺達の姿だということを忘れていやしないかい?

「安心しなよ、二人共。俺達はまったく問題ないからさ」

「その通り。オレたちは元々、三人でずっとやってきたんだぜ?」

「ああ。久しぶりに昔に戻るのも悪くない」

そう、元は俺達三人で始まったパーティ。むしろこれが原型と言える。三人だけとはいえ、弱いということは全くない。

久しぶりの戦い方だと思うと、気合が入る。髪を掻き上げたり、肩を鳴らしたり、眼鏡の位置を直したり。そうして俺らは敵を見据える。

意図せずして、三人で自然と決めポーズを取っているような形になってしまった。たぶん、ドンッ! って効果音が俺達の後ろに流れていると思う。

「あっ。なんかカッコつけてます」

「心配して損したわね」

「それでは一射目いきます。すぐに走り出してくださいね」

せっかくカッコよく決めたというのに、皆冷めた反応だった。

ちょっとは受けてもいいんじゃ……。

ドパンッ! ドパンッ! と、刻子さんの矢で続けざまに二匹が落ちる。

最後の一匹が逃げ出す前に、俺達は襲い掛かった。

「「「おりゃああああああああ!!!!」」」

「少しふざけ過ぎかしらね……」

「うちの人達がすみません。たぶん、久しぶりに男三人だけだからはしゃいでいるのかと」

「ちょっとだけ寂しいです……」

なんか聞こえたような気がしたが、気にしない。

これは俺達の戦いだからなぁ!

狼は一瞬狼狽えたようだが、向かってきているのが自分よりも弱い存在だからか、すぐに牙を剥いて迎え撃とうとする。

だが、それは好都合だ。

「――まずはコイツだぁ!」

道中手に入れた薬草で作り上げた〈中級鈍化薬〉。それを眼前に投げつけ、煙が発生。狼は狙い通り煙を吸い込み、動きを止める。

「――くたばれぇい!!」

そこを川辺がメイスを振り下ろす。スキルではないが、重量級の〈戦士〉による渾身の一撃は、頭部にズゴンッ、と重い音を立て致命的な隙を晒す。

「トドメは僕だ! ――アイスアロー!」

今までと比べてもより鋭く、速く飛んでいく氷の矢。もはや鉱石に匹敵する硬さを持ったそれが、胴体を貫通して突き刺さる。

見たかこの完璧な連携を! まさしく現代のジェットス〇リームアタック! 俺達のコンビネーションの前にはたとえ格上の狼だろうと――

「グッ――グルゥウウウウウ……ッ!」

「あっ、やべっ! 意外と元気っ!? 川辺! トドメッ! トドメッ!」

「このっ! このっ! あっ、本当にしぶといコイツ!? 伊波! 早く早く!」

「おおっ!? まっ、任せろ! ――アイちゅ……アイスダガー!」

「ドタバタしてるわねぇ。凄い不器用だわ。見ている分には面白いけど」

「本人達は本気だと思いますけどね。だけど正直僕も混ざりたいですねぇ、あの感じ」

俺達が必死だというのに、離れたところでミライさんと拝賀君はのんびりと眺めている。アイツら、こっちの気も知らずに……ッ!

川辺と伊波の奮闘、俺の応援により、なんとか狼は倒れる。一歩間違えればこっちが危なかったかもしれない。恐ろしい強敵だった――ッ!

「さらば狼。お前の存在は忘れな――おっ!?」

瞬間、経験値が体の中に入り込み、ドシッとした重さすら感じる。

まるで体中が沸騰するかのような熱さ。そして、グググッと体の中を作り替えるような感覚。なるほど、今まで感じてきたものとは明らかに何かが違う。これが上位の経験値か!

「これは確かに……ッ!」

「ああ、明らかに普通じゃねぇ……ッ!」

「これを受け入れたなら……僕達は……ッ!」

ああ、これを飲み込めば、俺達は段飛ばしで上に行ける可能性がある。

これを飲み込みさえすれば……飲み……こっ……こっ……えっ……ッ!

「「「――おぼろろろろろ……!」」」

「うわっ、汚いっ……」

「混じらなくて良かったです……」

七緒ちゃんとチヨちゃんのドン引きした声が聞こえた気がした。

汚いとはなんだあの小娘共……だっ、駄目だ。余裕がない……なんだこの吐き気と苦しみは……ッ!?

どうやらこの症状は三人一緒らしい。今にも倒れそうな顔色をした川辺が、苦し気な声を絞り出す。

「こ、これは……飲み過ぎて死にそうになっている時のそれ……」

「僕、ゲロを吐いたの数年前にインフルエンザにかかって以来なんだけど……」

「俺なんか学生時代だよ……運動部の仲間と初めて酒を飲んだ時……」

あの時は若かった。酒のことなんかなんも知らないから、案外行けるわって安物の焼酎をスポドリで割って飲むという暴挙をしたからな。おかげで翌朝に便所で吐いたわ。親の冷めた目がちょっと悲しかった。

「どう? かなりキツイでしょう?」

苦しんでいる俺達の元にミライさん達が近寄ってくる。が、傍までは来ない。まぁ近づきたくないよね。

「楓太さん。お水飲みましょうか。ほら、背中摩ってあげますから」

「あっ、ありが……うっ、おええええっ……!」

「我慢せず吐いちゃいましょー。そっちの方が楽ですよー」

「そこの二人……こっちにも苦しんでいるデブとガリが居るぞー……」

「扱いの差を感じるね……うっ、おえっ……」

まぁそこは社長と役員の差かな。甘えずに自分でなんとかしたまえ。

二人に介護されながら、ミライさんの話を聞く。

「ね? とても我慢できるものじゃないでしょ? 格上の敵が居る階層でこんな目に合ったら、他の魔物に狙われて死にかねないわ。だから明らかに格上と戦う時は、吸い込まないように気をつけるのよ」

「身をもって味わいました……」

酒のそれと全く一緒。まさしく酔う、だな。こんなことならやらなきゃよかった。

「こうなると分かっていたなら止めてほしかった……」

「いや。僕は止めたじゃないですか。それでもやったのは小畑さん達でしょ」

「それでも止めるんだよ……ッ! 上司が間違っているなら止めるのが部下の役目でしょうが……ッ!」

「理不尽すぎませんか……」

「楓太さん。嫌な社長になってますよ」

「部下に八つ当たりするようなカッコ悪いリーダーは嫌ですっ」

八つ当たりもしたくなるわこんな目に合ったら!

俺と同じ立場になってから言ってみろや!