軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第84話 脳筋的解決法

「そういえば、遠征に行くのは渋谷ダンジョンで良かったんですか?」

ミライさん達による俺達の装備の品定めも終わったところで、いよいよ深層に向かって出発した。

雑談をしながら進んでいたが、二層の途中で気になったことを聞いてみる。

何の相談もなく、遠征先が渋谷ダンジョンになっていることを疑問に思わなかったけど、よくよく考えれば他に良いダンジョンがあったんじゃないか?

俺達としては半ばホームになりつつある場所だし、そこの情報が得られることは正直有り難い。もしかしたら、そこを踏まえて渋谷ダンジョンを提案してくれたのかもな。だとしたらちょっと申し訳ない……。

俺の問いかけに、ミライさんは微笑みながら答えた。

「ええ、もちろん。レベリングのしやすさという点を考えると、渋谷ダンジョンはおそらくどんなダンジョンよりも向いている所だからね」

「えっと、それはどういう意味です?」

「環境的に攻略しやすいという事です」

拝賀君が説明を引き継ぎ、続けた。

「レベリングはいかに魔物を効率良く倒せるか、ということに尽きるでしょう? そういう意味では、渋谷ダンジョンはやりやすいんですよ。平原、サバンナ地帯のフィールドで、環境的に他と比べて楽なので」

「火山や雪原、毒沼だったら、対策無しだと移動することすらままならないわ。その点ここは魔物だけに集中できるからね。だからこそ初心者向けになっているんだけど、レベリング目的なら都合が良いわね」

ああ、なるほど。

確かに言われてみればその通りだわ。

「火山地帯とか砂漠だったら、干からびて死ぬ自信があるわ俺」

「僕は氷のフィールドは嫌だな。凍えて死ぬと思う」

インドアオタクたる二人はゲンナリした顔で言った。確かに想像するだけで億劫だ。

ちなみに俺は川辺と同じで暑いところは嫌だ。なるべく汗をかきたくない。つくづく探索者に向いてねぇな……。

「でも、楓太さんの装備なら熱いところも寒いところも対応できそうですよね?」

「もしかして、【耐寒】と【耐暑】って凄いんでしょうか?」

「もちろん凄いよっ!」

七海姉妹の発言に、カコちゃんは大きく頷いた。

「あっついといっぱい汗かくし、寒いといっぱい服を着なくちゃいけないし! どちらにせよいっぱい服を用意しなくちゃだから!」

「ふふっ。環境が過酷だと、洗濯する余裕もないからね。そうすると臭いが凄いことになるんだよ」

「そう考えると改めて【洗浄】が優秀すぎますね。これに加えて【耐寒】【耐暑】による環境対策も兼ねているなんて……楓太さんの装備がどの程度の寒暖差に対応できるか、一度確かめてみたいですね」

獲物を見るような目で刻子さんが俺を見てくる。ちょっと怖いわ。

でもそうか。快適に過ごしたい程度の浅い考えだったが、ダンジョンによっては必須級のスキルになるのか。

思った以上に凄い装備を作ったのかもしれないな……。

「そう。それだけの価値がある装備なのよ。だからね楓太君。帰ったら私達の装備を作ってくれないかしら? ほら、これから深層に向かうことだし、そこの素材もいっぱい取れるでしょ? 貴方達の分まで狩るし、もちろん依頼料も払うわ」

「良いですよ。それは俺も望むところなんで。でも深層素材だと失敗するかもなんで、そこは許してください」

「ええ、もちろん。そんな無茶なことは言わないわよ。あっ、でも出来れば私達の装備が完成するまで他の連中には黙っていて欲しいわね」

「本当に懲りないですね。また怒られますよ。……小畑さん、出来れば僕と仲間の分もお願いします」

狡猾なミライさんに、拝賀君が呆れたように呟く。でも君もお願いしてるんだから同類だぞ。

まぁ別にいいんだけどな。というか、今回も携帯用〈錬金窯〉を持ってきているから、なんだったら遠征中に装備を作れる。

流石に盾だの剣だのは〈錬金窯〉のサイズ的に無理だが。でもミライさんのドレスとか、カコちゃんや刻子さんのローブは作れる。

遠征中にだいたい作れるなら、そんなに手間でもないだろ。スキルは後で必要な素材持ち込んでもらって【再錬成】すればいいし。勝ったな、ガハハハ!

「さて、体もほぐれてきた頃だろうし、そろそろ本格的に探索を始めましょうか」

本格的って何? もう始めてるよな……?

頭に疑問符を浮かべている俺達とは裏腹に、ミライさんのパーティはやるべきことが分かっているのだろう。 ベイグルの背に刻子さんと日向さんが乗り、カコちゃんと今西さん、ついでに拝賀君は体をさらに解している。

「あの、ミライさん。本当に何をするつもりです?」

「それはもちろん、走るのよ。少しでも早く目的地に着くためにね」

走んの? マジで?

「深層遠征はいかに早く目的地に行くかが大切、ってのは分かるでしょ?」

「まぁ、はい。そうですね」

物資や体力、モチベにもそれぞれ限界がある。ダラダラして遅れるくらいなら早く着くに越したことはない。早く到着すれば、それだけじっくりと探索も出来るしな。

「もちろん途中での戦闘を考えて、体力を温存するのも大事だけど、流石にこの階層なら私達を襲ってくる魔物も居ないからね。だから安全が確保されている場所では走って距離を稼ぐのよ。トップレベルの探索者なら皆やってるわよ」

「ああ、そういうことですか」

魔物を無視できるような強さがない俺らには無かった発想だわ。

思った以上に脳筋でビックリしたけど。

だけどそれなら、ピーちゃんに警戒してもらう必要もないな? いつも通り空を飛んでいるけど、呼び戻して休んでもらった方がいいかな?

……いや、鳥なんだし飛んでいた方が移動は楽か。疲れたら勝手に帰ってくるだろ。

「といっても、いくら時間短縮の為とはいえ、それで体力を使い切ったら良くないわ。だから体力が一番低い人に合わせて、無理のないペースで走り続けるのが大事ね」

「となると、俺とチヨちゃんはゲロゲロに乗っているから――」

「僕か」

伊波が緊張した様子で呟いた。

まぁ俺達の中でも一番運動に縁のない男だからな。それが突然、重要なペースメーカーをやれと言われた時の気持ちは察する。

固まっている伊波に、ミライさんはおかしそうな笑みを浮かべた。

「大丈夫よ。難しいことなんて何もないから。それよりも、自分達が手にしたステータスがどういうものか、改めて知る良い機会だと思うわ」

♦ ♦

「うん。中々のペースね。十分くらい休憩を入れましょうか」

ミライさんがそう提案したのは、かれこれ一時間ほど走り続けたところだった。

そしてさらに驚くことに、俺達は既に五階層に辿り着いている。以前は二日もかかったのに、わずか一時間足らずまでタイムを縮めるとは。

小走り程度でそこまで変わるか? と思っていたんだが、どうやら俺とチヨちゃんがゲロゲロに乗るようになって、三人は遠慮なく速度を出せるようになったらしい。

最初は歩きよりは早い程度の速度だったんだが……伊波が首を傾げつつもグングンスピードを上げ、気づけばマラソンランナーもかくやといった速度で走り続けていた。

その結果がこれだ。ここまで短縮できるなら走る価値もあるが、体力的な問題は大丈夫か?

「伊波、大丈夫か? 結構な速度で走ってたけど」

「はぁ、はぁ、はぁ……うん、大丈夫だ。軽く息切れはしてるけど、そこまで辛くない。走ろうと思えばまだまだ走れるよ」

ええっ、マジで……?

お前そんなに体力あんの? ステータス的には三人の中でも一番体力が低いはずなんだが?

「私も大丈夫ですね。自分でもちょっとビックリですけど」

「俺も余裕だな。ただ体力はともかく、スピードを出すのが少し辛かった」

七緒ちゃんと川辺もそこまで疲労した様子はない。川辺の速度云々は、【DEX】のステータスが低いのもあるだろうが……ただの太り過ぎかな。だとしてもそれをカバーできるだけの体力があるのは凄いわ。

「皆さん凄いですね」

「うん、本当にね。化け物かな?」

まさかここまでとはな。今のこいつらなら、オリンピックに出ても余裕で勝てるだろ。マラソン選手がデブに長距離で負ける所は正直見てみたいな。

ゲロゲロに乗っている俺とチヨちゃんは罪悪感を抱いていたくらいなのだが、余計な心配だったようだ。感心を通り越して呆れるわ。

「どう? 意外と体力があってビックリしたでしょ?」

揃って驚いている俺達を、ミライさんは悪戯っぽい顔で見ていた。

「ステータスを取得しても、以前の自分を基準に考えちゃうから、意外と自分の能力を把握してない人が多いのよね。でもこれくらいのペースだったら一日中走れちゃうのよ」

「確かに。僕なんかここまで走れるなんて考えもしませんでした」

「思い返せば、意識的に速度を上げて探索したことなんてなかったな。無理しないように普通に歩いていたけど、それ自体が既にのんびりとしたペースになっていたのか」

「レベル5にもなれば、その身体能力は常人からかけ離れているわ。もはや別の生き物と思った方がいいわよ」

ミライさんに言われ、伊波と川辺は感心したように自分の体を見下ろす。

こんな盲点があったとは。今までもしかして勿体無いことをしていたのでは?

「これだけ早く進めるなら、深層もあっという間に着きそうですね」

「そう思うでしょうね。だけど、進めば進むほどダンジョンは広くなるってことを忘れてない?」

あ。そういえばそうだったわ。

意地悪そうな笑みを浮かべるミライさんに尋ねる。

「詳しく調べたことなかったんですけど、渋谷ダンジョンだとどのくらいの広さになるんですかね?」

「五階層ごとに倍々で広くなるってかんじかしらね。ただ、それも二十層まで。二十一層からは小さい都道府県くらいの広さになってくるわ。ここまでになると次の入り口に辿り着くのも一苦労よ」

ああ、マジでそのくらいの広さになるのか。

もしかしたら誇張した表現だと思っていたんだが、そうか。マジなのか。

「そのレベルの広さだと、次の入り口を見つけるのは本当に大変でね。だからこそ最深層の入り口の発見は、高く評価されるのよ。それだけで莫大な報酬が出るくらいね。とある探索者がそれを狙って、その階層中を探し回ったけど見つからず、他の探索者が探してみたら入り口のすぐ傍の瓦礫の下に埋まっていた、なんて笑い話もあったわ」

うわっ。その探索者もガックシ来ただろうな。

俺がその立場だったら膝から崩れ落ちるわ。

「その入り口を見逃したバカな探索者は、トシっていうんだけどね」

トシさんかいっ! 知ってる人だったわ!

あの人も結構アホっぽいことやらかすな……。

「ちなみに、その隠れていた入り口を見つけたのが私達よ」

アンタかよ! どうりで詳しいと思ったわ!

「あれは凄く美味しかったね!」

「ふふっ。どれだけ苦労するかと思ったら、まさか数分で終わるとは思いもよらなかったよ」

「ボーナスみたいなものですね。本当にラッキーでした。あの報酬を使って皆で行った旅行は楽しかったですね」

「そ、そのおかげでっ。トシさんからは睨まれるようになりましたけどっ……」

「失礼な奴よね。アイツらの尻拭いをしてあげたような物なのに。教えに行ってあげたら、お礼を言うどころか罵ってきたのよ。だから野蛮な男は嫌なのよ」

そんな因縁があったのか。どうりでやけにトシさんもミライさんに喧嘩売るなぁと思った。

大した苦労もせず掻っ攫われて、煽られたらそりゃトシさんなら根に持つわ。俺だってそうなるわ。

「さて、そろそろ出発しましょうか。ここからは更に飛ばしていくわよ。三人が疲れて走れなくなったら、刻子と日向に代わってうちのベイグルに乗りなさい。拝賀はつべこべ言わずに走りなさい」

「言われなくても分かってますよ。というか文句なんか一言も言ってないでしょ」

ミライさん達の家族なのに、ベイグルを借りるのはなんだか悪いな。

でも、実際は俺らに合わせてもらっているから、この程度の進みなのか。

いくら刻子さんと日向さんが体力に自信がないと言っても、このレベル差だ。その体力は川辺すら上回るはず。

……ああ、そうか。俺とチヨちゃんはこれからもゲロゲロに乗る想定で、三人の限界を知ってもらう為にあえて走らせているのか。ただ早く行くだけなら、最初からベイグルに乗せた方が良いもんな。

ようは練習させてもらっているんだな。気を遣わせないよう、あえてそのことを言わないでいてくれているのか。

どうしよう。ここまでこっちに配慮してくれているのに、これをお願いするのは申し訳ないな。

……いや、結局はその方が小畑会の為になるんだから、言い辛いとか言ってる場合じゃないか。

「ミライさん。すみませんけどここから先、多少遠回りになるかもしれなくても、スライムが固まっている場所に寄れそうなら寄ってくれませんか?」

「スライム……ああ。そういえば楓太君たちはスライムでレベリングしたって言ってたわね」

「えっ。何ですかそれ。僕知らないんですけど」

ああ、そういえば拝賀君には言ってなかったか。

皆に教えたのは拝賀君が加入する前だったからな。

「というかスライム? 本当ですか? あんな倒し辛い奴で?」

「カコは見たーい! 実は気になってたんですよっ!」

「確かにね。相応の階層に生息している個体なら、僕達でも未だに手こずる相手だ。正直、気になるよ」

「わ、私はどちらでもっ……気になりますがっ、アイツら怖いのでっ……!」

「ミライさん。どの道、楓太さんのレベル上げもする必要がありますし、寄ってもいいのでは?」

「反対するつもりはないわよ。私も気になっているしね。五階層までは探索したことがあるのよね? 場所は分かるの?」

「はい。もちろんです。ちょうど次の階層への途中にありますので。こっちです」

良かった。幸い興味はあったらしい。まぁ当然か。自分達でも使えるレベリングになるかもしれないからな。

この階層の敵ではミライさん達のレベルも上がらんだろうし、これで心おきなく俺達もレベル上げが出来る。

安全を確保した状態での大量経験値獲得。滅多にない機会だ。存分に利用させてもらおう。お礼はアイテムで返すさ。

♦ ♦

――ピギィアアアアアアアアアアアア!

――カッ!

――アレ!? オレアガッテネェ!

「よし、レベルアップだ」

「僕もだ。幸先が良いね」

「私も上がりました」

「私は上がってないでーす。良いな~」

「そういえば俺とチヨちゃんは、ゲロゲロの暴走の時に二人だけ上がっちゃったんだっけ。その差が出たかな」

まぁでも誤差だろ。次の場所では同じタイミングで上がるんじゃないか?

ここから誰も手を付けてないスライムポイントを連続して狩れるんだ。このくらいの差は些細なことだ。この遠征でどれだけ楽してレベルが挙げられるか、本当に楽しみだな。

「お待たせしました。それじゃあ行きましょ――」

経験値を吸われないよう、少し離れた場所で見守ってもらっていたミライさん達に声を掛けようとしたところで、俺はビクッと肩を揺らした。

全員が無表情で、俺達をじっと見ていた。

「――ずっる……」

日向さんのボソッと呟いた一言が、皆の心境を代弁していた。

いや、ずるいと言われても……。

「……刻子、地図を出して。確かスライムのメモも入っていたわよね?」

「ええ、入れてますよ。危険地帯だから近づくな、という意味でいれた筈だったんですけどね。はい、どうぞ」

「ありがとう。……うん、この先も寄れそうなところがいっぱいあるわね。それじゃあ予定変更ね。何日掛かってもいいから、全部寄って行きましょうか。いいわね?」

『はい』

ミライさんの決定に、拝賀君も含めて当然のように頷く。

でも、なんでだろうな~。

迷いなく頷いてくれたのに、不服そうにも見えるんだよな。気のせいかな~?

……すみません。本当にありがとうございます。