軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第80話 査問会②

「ぬぐぐっ……ッ! ぜってぇ後悔するぞ」

「諦めろ。もう決まったことだ」

「それによくよく考えれば、理想の嫁が欲しいという動機だ。小畑会の理念に照らし合わせれば、下手すりゃ俺らより誠実だぞ」

「確かに。ロリコンだろうとそこは紛れもない事実か……」

別にいいんじゃね? むしろ相応しいんじゃね? そんな意見があちこちで漏れる。

すっかり受け入れムードになってしまい、トシさんは舌打ちをした。

「チッ、仕方ねぇ。兵藤、不本意だが認めてやる。とっとと席につけ」

「ああ。それじゃあ失礼して」

余ったパイプ椅子を持ち、適当なスペースに兵藤さんが座る。

それを見届け、トシさんが小さく頷いた。

「よし。予想外の奴が現れてすっかり遅くなったが――集会を始めようか」

その瞬間、部屋の空気がまた変わった。

先ほどのふざけた空気から、まるでダンジョンのような張り詰めた空気に。

……あっ。ここからが本番でしたか。

「今回の提案者たる俺が、この会議の意図を説明させてもらう。改めて言うまでもないが、この小畑会は楓太の野望を達成させる為に作られた組織だ。俺達は楓太に協力し、見返りになる物を楓太は用意する。もちろん純粋に応援したい気持ちもあるが、俺達にも得る物があるから楓太に協力している。つまりウィンウィンの関係だ。この大前提は崩されてはならない」

うん。まじで今更だな。誰もが怖い顔で小さく頷いている。

ところが――と、トシさんは更に続けた。

「小畑会の中に、楓太がもたらす利益を独占する不届者が居る。これは小畑会の団結を揺るがす裏切り行為だ。断じて見逃すわけにはいかないっ!」

「はぁ? 誰よソイツ。許せないわね」

「お前だよクソババア! すっとぼけてんじゃねぇぞコラァ!」

ブチ切れたトシさんはパイプ椅子を折り畳み、手裏剣のようにミライさんに投げつけた。

ミライさんはそれを座ったまま、パシリと片手で掴み取る。

投げる方も投げる方だが、あっさり掴む方もスゲェな。どういう身体能力してんだよ。

パイプ椅子を投げられたミライさんは、それを後ろのパーティメンバーに渡すと、不機嫌そうにトシさんを睨みつけた。

「ちょっと、危ないでしょ。いい歳した大人なんだから、落ち着いて話しなさいよ」

「お前が怒らせてんだよ! お前が! どの口でほざいてやがる!?」

「なんなのホントに。そもそも私が独占ってなんの話よ? 言いがかりも甚だしいわ」

「だから惚けてんじゃねぇ! ネタは上がってんだよ! グーフストリオのホムンクルスを手に入れたそうだなぁ!?」

ああ、なるほど。そういうことか。

確かにベイグルを連れ回してたら目立つもんな。そりゃ噂になるか。

それを聞き、兵藤さんが小さく頷いた。

「それなら俺も小耳に挟んでいる。てっきりミライのところの誰かが〈調教師〉になったのかと思っていたが、ホムンクルスだったのか。性能はどんな感じなんだ?」

「そうね。少し扱いづらいところもあるけど、私たちに余裕でついてきて、大量の荷を運ぶのも苦にしないわ。実際、一回の遠征で収入が倍になったわね」

「倍だと? いや、確かに運搬役の〈調教師〉が居ればそれくらいは稼げるか。そして〈調教師〉を雇う出費がないと考えると……なるほど」

いえ、兵藤さん。その人さらりと嘘ついてますよ。少しじゃないです。だいぶ扱いにくいです。

興奮するように何度も頷いていた兵藤さんだったが、スッと冷静になって言った。

「いや、それを独占しているなら斧田の言い分はもっともじゃないか? 普通にダメだろ。というか俺も欲しいんだが」

「よく言った兵藤! その通りだ! 百歩譲って製作者の楓太が使うのはいいとして、俺らに黙って抜け駆けしてこいつが使うのは違うだろ!」

ある意味公平な立場からの加勢により、トシさんが勢いづく。

しかし、ミライさんは呆れたと言わんばかりの溜息をついた。

「あのね。準備が終わったら、私達が楓太君達と深層までの遠征に行くのよ? それなら乗り物のテストを私がやるのは当然じゃない。それに独占って言うけど、拝賀だって楓太君のアイテムを受け取ってるんだから、独占なんかしてないわよ」

「なにぃ……?」

トシさんに続き、他の人達まで拝賀君を睨みつけた。

あのババア、マジで最悪だな。拝賀君を生贄にしやがった。

後ろで控えている拝賀君の仲間は怯えている。だが肝心の拝賀君は、むしろ胸を張っていた。

「そうですね。僕もミライさん同様、【洗浄】スキル付きの下着を貰っています。ですがそれが何か問題でも?」

「大有りに決まってんだろうが! 楓太に喧嘩を売ったクソガキの分際で、なに俺らよりいい思いしてんだ!」

「ああ、確かにそんな時もありましたね。ですがそれは昔の話。今の僕は小畑さんの懐刀。それくらいの褒美があって然るべきだと思いますが?」

初耳なんだが?

いつから君は俺の懐刀になったんだ。やっぱり調子が良いなこの子は。

ああ、でも頑張ってるのは事実か。拝賀君には本当に助けられている。

「分かりましたか? あなた方と僕では、小畑さんから向けられる信頼が違うんですよ。分かったら分を弁えろ! 僕に逆らうということは小畑さんに逆らうということだぞ!」

「このガキ。見事に虎の威を借りまくってやがる」

「やっぱりあの時、処した方が良かったか?」

「反省してるからと甘くしてやったのが間違いだったか」

「まぁ待てお前ら。拝賀が雑用で小畑さんの役に立ってるらしいとは聞いているだろう? 少しくらい調子に乗るのは許してやれ。ところで小畑さん。【洗浄】付き下着ってのは?」

危ない目を拝賀君に向ける連中を宥めつつ、世永さんが尋ねてくる。

まぁそりゃ気になるよな。

「そのままの意味で、【洗浄】のスキルが入った下着です。洗濯せずに済む方法はないかと思って、それらしい素材を使って作ったんですよ。魔力を込めれば汚れが消える下着になりました」

「え。なんだそれ、めっちゃ便利じゃん」

「それで武器とか防具とか作ったら、手入れ要らずになるんじゃないか?」

「拝賀。実際使ってるんだろ? 使い心地はどうなんだよ」

「一度スキルを発動させれば、新品レベルで綺麗になりますよ。あくまで汚れだけで、履き続ければ生地も消耗していくみたいですけどね。だけどそれが分かっていても、便利すぎて他を着ようと思いません。マジックアイテムだけあって丈夫だし、着心地が良いんですよ。すでに普段使いで履き続けてます。生理的に思うところが無い訳でもないですが、慣れたら気になりませんし」

分かる。本当にそうなるんだよ。

ちょっと汗かいたなって思えば、ズボンを脱いでスキルを発動させればスッキリするから。

これがあまりにも便利すぎて、もうずっとこれで良いやってなる。

自慢げな拝賀君の話に、ほうっ、と皆が興味をもった。

だからだろう。世永さんは当然のように言った。

「実際に確かめてみたいな。今も履いてるんだろう?」

「ええ、もちろんですけど?」

「よし。脱げ」

「え」

拝賀君は固まった。まぁ当然の反応である。

そして世永さんは無情だった。

「えっ? いや、脱げって何を? ――どこまで!?」

「いいから早く脱げ。効果を見たいんだよ」

「い、いやっ! ちょっと待て! なんで僕が脱がないと……や、やめろおおおおおおお!」

近くの大人達がガチめの動きで拝賀君を追い詰める。

流石の拝賀君も多勢に無勢。すぐに捕まって服を脱がされ、パンツ一丁の格好にさせられた。

「――いやおかしいでしょう!? 百歩譲ってズボンを脱げばそれでいいじゃないですか! なんでパンツ一枚にさせられてんだよ!」

「んんー。汚さないと綺麗にしても分からんな。おーい、誰かコーヒーでも持ってないか?」

「缶コーヒーならあるぞー」

「聞けよ人の話を!」

拝賀君をガン無視して世永さん達は準備を進めていく。缶コーヒーを受け取った世永さんは、不満そうに首を傾げた。

「んー。まぁ当たり前だがぬるいな。誰かこれホットにしてくれないか?」

「任せろ。自販より温かくしてやる。――出来たぞ」

「出来たぞじゃないんですよ! それをどうするつもりだ!?」

「大丈夫だ拝賀。最悪チ〇コが火傷するだけだから。よっと」

「ぎゃあああああああ! 熱っうっ!? マジで火傷する!? せ、【洗浄】!」

「おおっ!? マジで綺麗になってるぞ!?」

「こいつはスゲェや! 今見たけどとても信じられねぇ!」

「そうか? よし、そんじゃあもう一度――」

「もうやめてぇえええええええ!」

「大丈夫大丈夫。芸人だったらわりと普通だから」

えげつねぇ……。

なんだかんだ、やっぱり世永さんも怒ってたんだな。全然逃す気ないもんな。

それはそれとして、拝賀君が体を張った【洗浄】スキルの効果には、皆が感心の声を上げていた。

「嘘でしょ。本当にあっという間に綺麗になった」

「これは〜……便利すぎるね〜……女の子は本当に助かる〜……」

「男だって欲しいぞ。服の洗濯が必要なくなるのはありがたすぎる。特に遠征には有用だ」

「ホムンクルスだけじゃなくてこれまで独占とか、流石にダメでしょう」

責めるような視線が再びミライさんに集まる。

そんな中、真帆さんがパイプ椅子から立ち上がり、バンッとテーブルを叩いた。

「ミライさん。これは見過ごせませんよ。私達は貴方のことを信じて任せていたんです。それなのに、ホムンクルスもその下着のことも、報告すらしていないじゃないですか。これは独占の意思ありとしか思えません」

キッ、と真帆さんが鋭い目で睨みつける。同じような感情を、集まった女性陣も抱えているようだった。

ミライさんが俺の深層遠征における護衛役として認められたのは、隠そうとしていた男衆の負い目と、男は当てにならないけどミライさんなら、という女衆の信頼があってだからな。

その信頼を裏切られたんだから、同じ女であっても怒るのは当然だ。真帆さんの言葉は女衆の意見を代弁したものなのだろう。

「やりすぎましたねミライさん。当然ですが、貴方を楓太さん達の遠征の護衛役から外し――」

「ああ、報告が遅れてごめんなさいね。でも安心して。私が楓太君に頼んで、女の子の分の下着は作ってもらっておいたから。欲しい人は買えるわよ」

「…………」

「えっ、ええ。まぁそうですね。さすがに時間が無かったので全員分は無理でしたけど、作れるだけは作ってきました。これがそうです」

無言でじっと見てくる真帆さんに恐怖を覚えつつ、下着が入った紙袋をテーブルの上に置く。

それから視線を離さない真帆さんに、今度はミライさんが足元に置いた紙袋を取り出し、親しみやすい笑みを作る。

「それからほら、見てこれ。楓太君が作ってくれた美肌薬なの。すっごく効果があるのよ。こっちは皆の分があるから、渡そうと思って今日持ってきたの。新入りの子達の分まではないけど、またすぐに作ってくれるから、今日は試すだけで我慢してくれないかしら?」

「美肌薬……なるほど……」

――カタンッ。

「いや座るな座るな!? 真帆お前! 私がビシッと言ってやる、って言ってたじゃねぇか!?」

「ん。まぁ、ミライさんが本当に独占していたならね。でもやっぱり、ミライさんは信用出来る人だったわ」

「嘘つけ! 自分の分はあるから黙ってるだけだろ! っていうか明らかに美肌薬ってのに釣られただけだろ!」

「というか美肌薬ってなんだよ!? それこそ完全に楓太を独占している証拠じゃねぇか! んなくだらないものを作ってる場合じゃねぇだろ!」

「ちょっと〜……くだらなくなんかないよ〜……今までで一番すごいアイテムでしょ〜……?」

「そのとおりよ。これを作らずして何を作るっていうの?」

「ええ。ミライさんは正しい判断をしたと思うわ」

「ふざけんなよクソアマども! んな言い分が通じると思ってんのか!?」

「だいたい美肌薬なんか何に使うつもりだ! お前らブスに使っても意味ねぇだろ!」

「おいテメェ今なんつったブ男! マジで殺すぞ!?」

なっ、なんということだ……ッ!

小畑会の全員がミライさんに不満を持っていたはずだったのに、たった一手で女達の信頼を取り戻してしまった。

おかげで男女に勢力が別れ、お互いマジギレの罵り合いに。いつ乱闘が始まってもおかしくない。

そんな争いを、ミライさんはおかしそうに笑いながら見ていた。 悪魔かこの女。

「拝賀は素材採集の雑用で。私はそれに加えて生産拠点の提供と、楓太君に大きく貢献しているわ。それに対し、文句を言っているだけの貴方達は何をしたの?」

その指摘に、男達はぐっと息を呑んだ。

まぁ、確かに貢献度っていう意味では拝賀君とミライさんがダントツだよな。

ただ、それを出すのもちょっとずるい気がする。

「小畑会になんの貢献もしてないくせに、物だけ寄越せとか図々しいのよ。恥を知りなさい」

「だから! お前が! その機会を奪ってんだろうが! 俺らだって楓太に頼まれればなんだってするわ!」

トシさんが一言ずつ強調するが、いや、ホントそれなんだよね。

そもそもの機会をミライさんが封じているっていう。

まぁ、別に手伝ってくれるなら誰でもいいからそのままにしておいたけど。

……そうか。手柄を上げる機会は平等に与えないと、こうやって身内争いになるのか。

きっと有名な武将も、こうやって部下のコントロールに頭を悩ませていたんだろうな。今日は勉強になる日だ。

女衆の心を再び掴んだことで、ミライさんも油断があったのだろう。

だからこそ、不用意な一言を発してしまった。

「ふふふっ。貴方達がなんと言おうと、私が最も楓太君に貢献しているのは事実。この調子だといずれ手に入る人型ホムンクルスも、私が一番先に――」

――ドカァ!

長テーブルに全力で拳を叩きつけられ、盛大な音を立てて砕ける。

度を超えた破壊行為に、誰もが意識を奪われた。

皆の注目が集まる中――天城さんが血走った目でミライさんを睨みつけていた。

「――楓太の次は俺だぁああああああああああああ!!!!!!!!」

これ以上なくシンプルな叫びだった。

その咆哮には、体だけではなく魂の芯まで揺さぶるような力があった。

あのミライさんでさえ、一筋の汗を流し、緊張した顔で小さく頷くしかなかった。

「…………そうね」

「――ンゴォオオオオオオオオオ!」

両手を天にあげ、勝利の雄叫びを上げる。

まるで宿敵を討ち果たした戦士を彷彿とさせる天城さんだった。

「流石だ天城の爺さん。勝てる気がしねぇ」

「ああ。とてもじゃないが真似したいとも思えねぇ。恥ずかしくて」

「やはり恥も外聞もないやつが一番強いのか」

「こ、この私が……胆で負けた……? こんなネット陰キャイキリジジイに……この私が……?」

「お姉様っ! しっかりしてくださいっ!」

「だいじょうぶですよ! 不意打ちを食らっただけですっ! 二度は通じませんからっ!」

男達は畏怖の念を向け、争いの張本人たるミライさんは精神的なショックで震えている。そして女達はドン引きだ。

どれだけの悲しみを背負えばあんな哀れな姿になるんだ。まぁ争いが止められたのなら、なんでもいいか。