作品タイトル不明
第65話 ワクワク小会議②
「そ、そうか……スキル付き装備品……! それを狙って作れば良かったのか……ッ!」
性能を上げることばかり追求していたけど、たとえ性能を落としてもスキル付きの装備作る価値はあるな。むしろゲーム的に言えば性能とスキルのすり合わせで最強装備を探るのが当然だ。
「バカめ。なぜもっと早く気づかなかったのか……ッ!」
「俺がもっと早く気づけば……ッ!」
「僕としたことが、まさか七緒ちゃん如きに指摘されるとは……ッ!」
「如きって何!? 私、褒められるべきでは!?」
いや、違うんだ。ゲーマーとしてのプライドで自分が許せないだけなんだ。
決して乙女ゲーばっかやってる夢女子のくせに、とか見下してるわけじゃないんだ。
打ちひしがれている俺たちに、チヨちゃんは苦笑しつつ言った。
「えっと。とはいえ、そう簡単に作れないんじゃないですか? いくら楓太さんでも研究が必要だったり」
「そうなんだけど、実はちょっと心当たりがある」
遠征の最後の方から見えるようになった、素材ごとにあるスキルらしき項目。
アラートミーアは【警戒】。
スレッドスパイダーからは【蜘蛛糸】。
これ、素材として使用した時の付与できるスキルじゃねぇかな。アイテムや装備、ホムンクルス作成時に付与できる感じの。
帰ってきたらすぐにでもこの辺りを検証して確認するつもりだったんだよな。拝賀君に脅されたからそれどころじゃなかったけど。
「いや、それ確認するまでもないだろ」
まるでバカを見ているかのような目で、川辺が言った。なんだこのブタ野郎。
「どう考えてもそれ以外あり得ないだろ! なんでもっと早く言わねぇかなそういう大事なことを!」
「仕方ないだろ! そもそもなんで急に見えたのかも分かってねぇんだよ!」
別に【素材鑑定】のスキルが成長したわけじゃないからな。本当に急に見えるようになったんだよな。本当に何でだ?
「あのタイミングだと〈アイテム使い〉を取得した後くらいだろ? じゃあ【アイテム理解】のスキルしかないだろう。君はゴミだとか言ってたけど、【鑑定】スキルとのシナジーが発生したんじゃないか?」
伊波の冷静な意見に、俺は反論が全く浮かばなかった。マジでそれじゃん。それしかないじゃん。
「そんな……ッ!? 【アイテム理解】さんがこんな有能スキルだったなんて。お、俺は彼に対してなんて酷いことを……!」
「本当だよ。自分の力をここまで理解してないとか。あり得ないだろ」
「ダンジョンマスターは力を与える相手を間違えた。楓太に〈錬金術師〉は宝の持ち腐れ過ぎる」
「そこまで言う必要ある!? 俺だからこそホムンクルスが見つかったんだろうが!」
俺の拗らせ具合があったからこそ! ホムンクルスという光を見たんだぞ!? その事実は否定できまい!
「問題は、どんな魔物から洗浄みたいなスキルが取れるかだよな?」
「綺麗好きな動物とかですよね。例えば――」
「――アライグマとかですかね! あと猫とか!」
七緒ちゃんから引き継ぐように、嬉しそうにチヨちゃんが言う。やっぱりこの手の話題に動物好きは食いつきが良いよね。これからその皮を剥ぎ取るぜって話だけど。
「服となると、繊維系の素材も必要だな。別に一階層の蜘蛛からでもいいんだけど、どうせなら五層でもっとたくさん糸を採ってくれば良かったな」
「もし狙い通りの物が作れたら、皆欲しがるんじゃないか? 正直いくらあっても足りなくなると思うぜ」
そうだよな。作ろうとするたびに素材を取りに行くことになる。そんなのいくら時間があっても足りないわ。
まぁ素材は持ち込みにして貰えばいいだろう。その時に多めに納品してもらって、俺達の分に回すこともできるし。
そう考えていた俺だったが、それなんだが――と伊波は口を挟み、素晴らしい発想を見せた。
「いちいち採集をするのではなく、蜘蛛型のホムンクルスを作ればいいんじゃないか? で、その蜘蛛に糸を分けて貰えばいい。これなら採集することなく糸素材には困らなくなる」
「――天才かお前!」
言われてみれば単純だが、これ以上の答えはない。来ちまったな。俺の時代が!!
「蜘蛛型ホムンクルスに糸を吐き出させて、俺が生産。それを売った金でホムンクルスを養う。完全なる地産地消。永久機関が完成しちゃうな」
「実際に出来るかどうかまだ分かりませんけど、賭ける価値があり過ぎますね。やり過ぎると素材の市場価値が大きく変わって、他の探索者に迷惑が掛かりそうな気もしますが……」
「蜘蛛がもし上手くいったら、羊毛とか鶏の卵とかも出来そうですね。魔物型ホムンクルスの牧場とか作ったら楽しそう!」
金の亡者たる七緒ちゃんはともかく、チヨちゃんですらこの可能性の価値に気づくほどだ。探索者の常識をまた一つ変えることになるだろう。
というか牧場か。そうなったら本当にとんでもないぞ。どんどん夢が広がるな!
「まぁまずは洗浄付きの下着を作るところからだな。スキルもそうだけど、下着そのものを作るところから練習しないと」
まぁ服なら七緒ちゃんやチヨちゃんの装備で経験があるし、そんなに心配することもないだろうけどな。
シャツに靴下とパンツなら、そこまで難しくは……。
「どうした? そんな気まずそうな顔をして?」
「何かまずいことでもあったのかい?」
「いや、まずいことっていうか……下着を作るってことは、その……」
七緒ちゃんとチヨちゃんの下着を、俺が作ることになるわけで。自作の下着を作って女性に渡すおっさんとか、キモくない?
というか、それを受け取ってくれるのかこの子らは?
どう伝えたものかと、微妙な表情で俺はついつい二人の顔を窺う。
その視線で察してくれたのか、七緒ちゃんもまた困ったような顔になった。
「あ。ああ、なるほど。そういうことですか……」
「あはは〜。ちょっと恥ずかしいですね~」
チヨちゃんも苦笑して気にしてない風を装っているが、マルを撫でる手つきが少し乱暴になっている。
俺も恥ずかしいというか、罪悪感で死にたくなるが、恥をかくのであれば年長者たる俺だろう。必要なことなら、覚悟して聞かねばなるまい。
「ごめん。その、流石に女性用の下着は詳しくなくて……サイズも分からないし、嫌だとは思うんだけど参考までに君らが普段から使っている下着を貸して――」
「フリーサイズの下着でお願いします」
「――そうだね!その手が合ったね!」
気づかんかったわ。そういえばフリーサイズという便利なものがあるんだな。なぜか女性の下着はピッタリじゃないといけないと思い込んでいた。
ほっとしていると、川辺と伊波がゴミを見る目を俺に向けているのに気付いた。
なんだその目は……尊敬するリーダーに向ける目じゃねぇだろ。
「な、なんだよ」
「お前流石にそれはねぇよ。救いようがない。そこまでして二人の下着が欲しかったか? マジでキメェ」
「金で生下着買うパパ活親父となんら変わらないよ君。とうとう本性出しちゃったね」
「ちっげぇよ!! マジで気づかなかったんだって!! 動転してたんだよ!!」
不名誉にも程ある!
流石にそこまで落ちてねぇわ!
ていうか下着を着ている女性が好きなんであって、下着その物が欲しい訳じゃないんだよ! 触ってみたいとかは思うけど!
「こ、これはマジで違うから! お願いだから許して!」
「大丈夫ですよ。ちゃんと分かってますから」
「楓太さんにそんな度胸ありませんもんね~」
七緒ちゃんは苦笑し、チヨちゃんもケラケラと笑って流してくれた。
有難いことなんだが、そう言われるとなんか腹立つな。
ほっとしていると、七緒ちゃんが期待するような目を向けてくる。
「あ。ですけど申し訳ないからお詫びしたいっていうなら、【錬金術】で私が欲しい物をプレゼントしてくれてもいいですよ?」
「強かだね……。いいよ、言ってみ。作れるかは分からないけど、とりあえず調べてあげる」
「本当ですか? それじゃあ、日焼け止め」
「――作れるね」
しかも簡単に採取できる素材だ。在庫もあるし、これならすぐにでも作れる。
作れると聞き、チヨちゃんが嬉しそうな声を上げた。
「わぁ! 【錬金術】の日焼け止め! きっと効果も凄いんでしょうね。それじゃあ、乳液とかどうです?」
「作れる」
「化粧水」
「作れる」
「ヘアオイル!」
「作れる」
「ボディクリーム」
「作れる」
「クレンジングオイル! 洗顔料! 脱毛剤!」
「作れる」
マジでなんでも作れるな。とはいえどれも材料的にはありふれた物。効果はたぶんそこまで高くないんじゃないか?
なのにキャッキャと二人は手を繋いではしゃいでいる。可愛いけど、期待されすぎても裏切った時が怖いんだが止めてほしいわ。
「本当に何でも作れるんですね~! 凄いですっ!」
「ええ! 流石楓太さんだわ! それじゃあ次は――美肌薬」
「作――」
――――ッッ!!
「――れないみたいだね」
「そうですか。それじゃあシミ抜きの薬」
「作れない」
「美髪薬」
「作れない」
「痩せ薬」
「作れない」
「豊胸剤。あるいは減胸剤」
「作れない」
「若返りの秘薬。あるいは不老長寿の薬」
「作れる訳ねぇだろ」
「駄目かぁ~」
いつの間にか、怖い程真剣な目をしていた二人は、ガックシと落ち込んだ。
「どれか一つでも作れたら、とんでもない大金持ちになれたのに」
「私も使いたかったな~」
「流石に化粧品というレベルを超えた物はそう簡単に作れないってことなんだろうね」
というか、チヨちゃんは何を使いたかったのだ。まさか減胸じゃあるまいな……?
作らないし、使わせないから!
「仕方ない。貴重な素材を採れるようになったらまたお願いしますね」
「はいはい。取れるようになったらね。――おっ」
ピコン、とスマホが鳴ったので覗いてみる。
それは小畑会からの報告だった。
「どうやら上手く行ったようだぞ。明日、ミライさんが拝賀君のパーティーを連れて謝罪こさせるってよ」
「おおっ、良かった良かった」
「これで憂いはなくなったね」
ふぅ、と皆で息を吐く。ほとんど心配は要らなかったとはいえ、やはり明確な敵の存在は心に負担をかけるな。解決して良かった。
「無事に解決したようですし、明日ということなら、私達はこれで失礼しますね」
「あら、そうなの? 何か用事?」
出前でも取って夕飯くらいは御馳走しようと思ったのだが。
「不動産屋を回ってみようと思いまして。本当に、余裕がある訳じゃないので……」
「お姉ちゃんが行くのに私が行かない訳には……」
「お、おう。そうだね。頑張って」
背中に悲しみを背負いながら、七緒ちゃん達は部屋を出ていった。
二人と二匹の音が聞こえなくなったころ、伊波が俺に顔を向けて尋ねる。
「それで? 七緒ちゃんが頼んだ薬は実際にはどうだったんだい?」
「やっぱりバレてたか」
「一瞬だが間が空いたからな。流石に俺達は気づくわ」
「まっ、お前らならそうだよな。ちょっと待ってろ」
そう言って、俺は携帯用の〈錬金窯〉と、処理済みの植物素材をいくつか取り出す。
全て〈錬金窯〉にぶち込み、水を注いで魔力を流し込む。二人の目の前で十分ほど【錬金術】を発動させ、それは完成した。
「はい、出来た。これが〈美肌薬〉だ」
「ほう、これがか」
「思った以上に簡単に出来るんだね」
【アイテム鑑定】
〈美肌薬〉――肌を美しくする。保湿、保温、軽度のシミ抜き、ツヤ出し、シワ消しの他、肌年齢を僅かに若くする効果あり。塗り続ければ体に残った軽度の傷跡も消すことが可能。
「とまぁ、効果はこんな感じなんだけど」
「お前それ、結構凄いんじゃないの……?」
「生憎と化粧には詳しくないが……いや、でも……」
なっ? やっぱりそう思うよな?
俺もこれを素直に言うのはまずいと思ったんだよな。
「材料は簡単に集まるとはいえ、これを渡したらどうなると思う?」
「どの程度の効果にもよるが……まぁ、継続的に強請られるんじゃね?」
「なんだったら他の女性探索者にも要求されるね」
だよな。瞬時にそこに気づいて咄嗟に嘘吐いたんだよ。我ながらよく思いついたし、英断だった。
別にちょっと作ってあげるくらいならいいんだけど、他の皆の分までってなると、話がさらに広がって作り続ける可能性があるからな。これだけを作り続ける機械になりたくないし。
あ、でもあれか。拠点用〈錬金窯〉があれば一度に大量に作れるから、バラしてもいいのか? 需要は間違いなくあるだろうし重要な資金源になるかも……?
「ちなみに他の薬はどうだったんだい?」
「それがな。若返りと不老長寿以外は全部作れるんだよ。これと同じレベルの材料で」
「お前……マジでヤバいんじゃないか……?」
だよな。どれも絶対に欲しがる奴らは居るしな。
でもこれだけ作るのが簡単なら、協会のカタログに載っていても不思議ではないと思うんだが……これは〈精力剤〉と同じ扱いかな?
「やっぱり黙っておくか。下手に騒ぎになるのはゴメンだ」
「それでいいと思うよ。なんでも知らせるのが正しい訳じゃない」
「なぁ? 痩せ薬だけは作ってくれね? 健康診断で医者に説教されるのは億劫なんだ」
「お前が誰だか分からなくなるから駄目」
「酷くねぇ!? お前デブかどうかで俺を判別してるの!?」
「君が痩せたら間違いなく他にバレるだろ。キャラが弱くなるのも間違いないし」
そうそう。太っていることがお前のアイデンティティみたいなもんなんだから、そのままでいいよお前は。だいたい本気で痩せたいとか思ってるわけじゃないだろ。
俺もちょっと前だったら使いたかったが、探索者になってから運動したせいか、腹回りが引き締まってきたから必要ねぇんだよな。むしろなぜこいつは一向に痩せないのか……デブの才能かなぁ。
しかしよくよく考えてみれば、誰しもが抱える悩みを簡単に解決出来るのは凄いな。コンプレックスなんか多かれ少なかれ誰しも持つし、そこを解決出来るアイテムはバカ売れするんじゃ……ふむ……。
――ハゲに効く薬。
「……【錬金術】を以てしてもハゲを救うのは難しい、か。切なくなるな」
「密かになんちゅうことをやってんだ」
「それこそ全世界で求められるよ。万が一でもばらしちゃ駄目だ。でも研究は続けてほしい。全世界の男の為に。未来の僕らの為に」
そうだな。いつか簡単に作れるようになるかもしれないし、男なら誰しもが可能性のある悩みだ。その助けになれるなら探し続けようか。
一人でも多くのハゲを、俺は救いたい!
「ところでこの〈美肌薬〉どうしようか?」
「売る、訳にはいかねぇよな」
「じゃあ捨てるしかないんじゃないか? 少しもったいないと思うが」
だよな。誰かに渡すのは論外なんだけど、作っておきながら捨てるのはちょっと罪悪感が……いや、待てよ。
「偶然ですが、少量だけ作ったこの〈美肌薬〉。ちょうど三人分くらいの量があります」
「ほう、三人分か……」
「ふむ、なるほど。なるほどね……」
♦ ♦
「あっ! 三人共おはようございまーす!」
翌日。待ち合わせの場所には、既にチヨちゃんと七緒ちゃんが待っていた。
チヨちゃんに続き、七緒ちゃんも挨拶をしてくる。
「おはようございます。では行きましょ――」
途中で言葉を切ったと思ったら、怪訝な顔で俺を見つめる。
訳が分からなかったので、当然俺は尋ねた。
「おはよう。どうしたの急に黙って」
「あっ、いえ。その、楓太さん、何か変わりました?」
「えっ? いや、いつも通りだけど?」
「そうですか。……いや、絶対に何か変です。何か――ッ!? あ、あの、なんだか肌が綺麗になってません?」
「――ホントだ! 綺麗になってる! っていうか楓太さんだけじゃなくてそっちの二人も!」
肌が綺麗? 何を言ってるんだ?
「やぁねぇ。たった一日でそんなに変わる訳ないでしょ。魔法でも掛けられた訳じゃあるまいし。ねぇ川美?」
「そうね。楓佳の言う通りだわ。いつもこんな感じよ。むしろ智子。貴方また夜更かししたんじゃない? ちょっとお肌のノリが悪いわよ?」
「んやだもうっ。そんなこと言わないで。ちょっと気にしてたんだからっ」
「その小芝居! 絶対に何かやってるじゃないですか! でないとそんな急には――ッ!? 美肌! 美肌薬! 作れたんでしょ!? そうですよねっ!? ねぇ!?」
「昨日のは嘘だったんですか!? 私にも分けてください! お金もちゃんと払いますから!」
「まぁっ、失礼しちゃうわっ! 私達の普段の努力も知らずに!」
「ホントに失礼な子達ねっ! 行きましょう。もう構ってられないわ!」
「まったく、怠けようとする子ほどすぐ道具に頼ろうとするのよね」
「誤魔化さないでください! ねぇ! ちょっと! 話を聞いて!」
「お願いですっ! 私に出来ることならなんでもしますからっ!」
まったく、仕方のない子達ね。
そんな都合の良い薬があるわけないでしょうがっ!
♦ ♦
【探索のヒント! その三十】
〈美肌薬〉
生産スキルによって作り出されたマジックアイテムとしての化粧品の一種。
低階層の素材で作成可能ながらこれ一本で他の化粧品ほとんどを賄える優れ物。これですらまだ効能としては弱い方なのだから、深層の素材を使用した時の効果はどれだけのものか予想がつかない。
楓太が予想した通り、精力剤と同じく存在を一部以外には秘匿されているアイテム。もし知られればその需要は精力剤とは比べ物にならない。女性の美の執着を甘く見てはいけない。
それ程の品質であるが故、いくら払っても手に入れたいという富裕層の女性はいくらでもいる。故に協会は入手困難な商品だと偽り、吹っ掛けた値段でそれらを流している。実のところ協会の主な収入源となっている。
もしこの事実が広く知られれば、精力剤とは違う理由で暴動が起こる可能性が高い。また協会の収入源が減ることになるので、情報公開した者に確執を持つことになる。
存在を秘匿すると決めた楓太は賢明な判断をしたと言えるだろう。