軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第59話 勧誘①

帰還報告を終えた後に話しかけてきたその男は、小綺麗な若い男だった。

年齢はマサ君と同じくらい。二十代前半だろう。ネイビーのジャケットを羽織り、白シャツにグレーのスラックス。足元はブラウンの革靴。茶髪に染めて流した感じのマッシュカットが知的な印象を与える。

目はやや細いが顔周りに無駄な肉は一切なく、輪郭がシュッとしている。身だしなみにしっかりと気を使った、今時のお洒落な若い男の子って感じだ。マサ君とは違った路線の、アイドルと勘違いされてもおかしくないイケメンに見える。

ただマサ君と決定的に違うのは、こっちを下に見ている態度が透けて見えるところだ。

慇懃無礼というのはまさにこういう奴のことを言うのだろう。よろしいですか、なんて言っておきながら、断られることなんて考えていないのが目を見れば分かる。

所詮その程度か、みたいな。そんな見下した視線だ。目は口程に物を言うというが、こんなに分かりやすい奴が居るんだな。

「あの、すみません。どちら様でしょうか? 初対面ですよね?」

まぁいくら気に食わないクソガキだと思っても、それだけで突っぱねることは出来ない。形式だけでも話を聞く姿勢くらいは見せてやらんと。

俺の当然の疑問に、その男は一瞬きょとんとした顔を見せたあと、おかしそうに笑った。

「ああ、そうですね。私は 拝賀耀友(はいがあきとも) と申します。今後とも、どうぞよろしく」

「拝賀さんですか。知っているようですが、小畑と申します。……あの、すみません。面白いことでもありました?」

「これは失礼しました。僕達に挨拶は要らないだろうと考えていたので、当たり前のことを言われてついおかしくなってしまいまして」

何言ってんだコイツ? 初対面なら最低限の自己紹介に挨拶は必要だろ。

なんかこれだけでコイツが信用できなくなってきたな。

「はぁ、なるほど。よく分かりませんけど、お時間を頂きたいとは?」

「ええ。貴方と話したいことがありまして。突然で申し訳ありませんが、一緒に来て頂けませんか?」

「えっと、すみませんがちょうど遠征帰りでして。流石に今からはちょっと。時間は取りますので後日にしてくれませんか?」

こちとら遠征で疲れ切っているというのに、今から話してられるか。空気読めよボケが!

内心を押し殺して提案したと言うのに、この拝賀という青年はいっそうおかしそうに笑う。

「ふふっ、勘違いしているようですが、貴方に拒否権はありません。言ってる意味、分かりますよね? それに貴方にとっても得のある話です。大人しく従った方が賢明かと」

「……脅しですか? 素直にそれに従うとでも――ッッ!?」

タケさん級とまではいかなくても、おそらく中堅レベル。明らかに俺らよりは格上。断るのも危険だが、ここは人の目がある地上。無闇に暴力は振るえまい。

むしろ大人しく従う方が危険。そう判断し突っぱねようとしたところで、一瞬だが体を貫かれるような寒気が走る。

見抜かれた、という初めての感覚。直感だが間違いない! これは――ッ!

伺うように拝賀の顔を見る。

拝賀は、嫌らしく目を細めて笑っていた。

「伝わったようで何よりです。もちろん来てくれますよね?」

「……分かりました。ただし条件があります。話す場所はこっちが選びます。それと、俺達全員で話を聞きますが、貴方は一人でお願いします」

「ふふっ、いいですよ。不安なのは分かりますからね。それに貴方達なら僕一人でなんとでもなりますし」

拝賀はまるで背伸びする子供を見るような目を俺たちに向けてくる。

この野郎。いちいちムカつく奴だな。だがまぁいい。最低条件はクリアした。

「それともう一つ」

「おや。まだあるのですか? これでもかなり気遣っているつもりです。あまり調子に乗られるのも面白くは――」

「せめてシャワーを浴びさせてくれまんか? 流石にこのままはちょっと。荷物も置きたいですし」

「……ふっ、ふふふっ! 良いでしょう。私も臭い人と一緒に居たくはありませんしね。ここで待っていますので、三十分以内に用意してください」

「はい。それでは一旦失礼します」

俺は拝賀に背を向け、支部に備わっているシャワー室へ向かう。

口を出したい気持ちもあっただろうに、四人とも俺に合わせて動いてくれる。そして拝賀から完全に姿を消したところで、チヨちゃんが口をへの字にして呟いた。

「私、あの人嫌いです」

「芹澤とは別ベクトルで嫌なやつだったわ」

姉妹揃って怒りを隠そうともしない。まぁ気にしていたところで、臭いって言われたらね。

それに気づかないふりをしつつ、川辺は俺に話を振った。

「でも意外だったな。あんな失礼な奴、俺はてっきり突っぱねると思ってたんだが」

「疲れてるし、本当はそうしたかったんだけどな。そうもいかなくなったんだよ。見られたって感じがあった。たぶんアイツ俺と同じだ」

自分の目元を指先でトントンと指しながらそう伝える。

チラホラとすれ違う人が居るから口には出せない。だがこれで十分伝わるだろう。

意味を正確に読み取り、伊波が眼を瞠った。

「それは……ッ! なるほど、確かに断れないな」

「だろ? 俺と同じスキルを持っている奴が、わざわざ俺のことを調べて接触してきたんだ。最低限の情報収集はしないと」

どこまで俺のことを調べているのか? 目的はなんなのか? アイツはどこまで見えているのか?

それら次第で、俺たちが取るべき対応も変わってくる。

もし、俺たちの障害になるようなら……。

「場合によっては容赦無く潰してやる。誰だろうと俺の夢を止められると思うなよ!」

「いざとなったら任せろ。高レベルだろうが俺が守ってやる。俺が死なない限りな!」

「あまりやる気を見せすぎないようにね川辺。幸いにも、アイツは僕らを舐めて油断しているようだ。こっちが怯えたふりをしていれば、調子良く喋ってくれるよ」

俺達の意思は完全に一致している。何を企んでいるのかは知らないが、あんな小僧の思い通りにさせてたまるか!

「これだけ見てるとカッコいいのに、その内情を知っているとなんとも……」

「でもお姉ちゃん。この人達はこういう人達だからこそ、凄いことをやろうとしているんだよ」

七緒ちゃんとチヨちゃんのボヤキは聞こえない事にする。

さて、潰してやるとは言ったが、相手は紛れもなく格上。警戒しすぎて損はない。備えはしっかりしておかないとな。

「あ、もしもしタケさん? 突然すみません。実はちょっと問題が起きまして――」

♦ ♦

シャワーを浴びて荷物を預け、俺、川辺、伊波の三人は拝賀と共に近くのカラオケに入った。

七緒ちゃんとチヨちゃんは同席しないことにした。全員で聞くつもりだったんだが……その、流石に犬と鳥を連れては無理だった。

受付で店員に指摘されるまで気づかなかったわ。皆で唖然としていたところに、拝賀の失笑は正直恥ずかしかった。

ペット可のホテルを探さないといけないしということで、二人は不参加となった。悔しそうにしていたが、まぁ仕方ない。

「さて。改めて名乗らせて頂きます。拝賀耀友と申します。どうぞよろしく」

「……小畑楓太です。こっちは川辺。それから伊波といいます。よろしく」

両隣に座る川辺と伊波は、対面の拝賀に目礼する。拝賀もそれに頷いたが、どうにもおざなりな感じに見えた。こいつにとって、二人はどうでもいい存在なのだろう。

「それで拝賀さん。お話とはなんでしょうか? あんな風に脅しまでしたんです。よっぽどの内容だと思いますが」

「ふふふっ。そう怒らないでください。脅すような真似をしたのは謝罪します。ですがそうする必要がある程、私も必死なのだとご理解して頂ければ」

「どんな理由があるかは知りませんけど、それで脅しが許される訳ではありませんよ。まぁいいです。それで、結局あなたは何の目的で俺に声をかけたんですか?」

「ふむ。どうやら回りくどい話はお嫌いなようなので、率直に言わせてもらいます。小畑さん。貴方に僕の仲間になってもらうためです」

勧誘目的か。

命を狙われるよりはよっぽどマシだが……。

「なんでまた俺なんかを? 戦いに貢献できない〈錬金術師〉ですよ? アイテムを自前で用意できるという点では役に立てますが」

「はははっ。もちろんその点だけでも勧誘するに値しますが、無駄に誤魔化すのは止めましょうよ。本当は貴方も分かっているでしょう?」

笑っているが、若干の苛立ちが混じっているようにも見える。下らない質問なんかするな、と言っているんだろうな。

「支部で会った時、見られたという感覚がありました。アレは【人物鑑定】ですね?」

「ええ。貴方も持っているでしょう? おそらくは【魔物鑑定】も」

ようやく満足のいく答えを聞いてか、拝賀は楽しそうに笑う。

「出会い頭に【鑑定】をかけたことは謝ります。これから勧誘をしようという人に対してすることではないですよね。ですが僕とあなたとで、あれ以上にお互いを知る手段はないでしょう?」

「そうですね。それは認めます。思った以上に不快でしたけど」

「おや。随分嫌われてしまったみたいですね。困ったな。どう謝罪すれば……ああそうだ、お詫びと言ってはなんですが、僕を見ても良いですよ」

「――! いいんですか? それなら遠慮なく見ますけど」

「ええ。仲間になってもらおうという人に対して、このままだとフェアではありませんからね。見られて困る物でもありませんし」

そう言う拝賀は、小馬鹿にするような視線を俺に向けていた。

本当に、どこまでも舐め腐ってやがるなこのクソガキ。

おそらくは自分の力を理解させたほうが脅しやすい。最悪力づくでどうとでも出来る、という考えなのだろうが、情報の価値を甘く見過ぎだ。

見て良いっていうなら、存分に見せてもらおうじゃないか!

【人物鑑定】

名称:拝賀耀友

レベル:24

ステータス:【MP】 223【STR】140【CON】135【POW】182【DEX】252 【INT】192

〈忍者〉

【遁術】レベル2【身代わりの術】レベル4【隠れ身の術】レベル3【影潜り】レベル4【忍び走り】レベル3【影討ち】レベル2【暗器術】レベル2【毒術】レベル2【毒耐性】レベル2【隠蔽】レベル4【気配察知】レベル4【マーキング】レベル2【追跡】レベル2

〈ギフトスキル〉

【鑑定(偽)】レベル―

よし! 見抜いた!

レベル24。中堅から上位に入りかけってところだな。それでも俺達より一回りは強いか。ステータスも相応だ。ジョブは〈忍者〉か! 存在は確認されているけど、結構珍しいジョブだった筈――

「おや、どうしました? 見なくてもいいのですか? 遠慮しないでもいいのですよ?」

――え?

いや、見ましたけど? 遠慮なく全部見せてもらいましたけど? なんだったら見てない項目がないくらいですけど?

もしかして、俺が【鑑定】をしたことに気づいていない? 格上で同じスキル持ちだし、気づかれないはずがないと思うんだが、クリティカル引いたか?

………………。

「――ふぅ。いえ、結構です」

「えっ!? お前何言っちゃってんの!?」

「楓太。正気かい? 向こうから見てもいいといっているのに?」

「いいんだよ。というか見るまでもないだろ。こうして目の前に居るだけで十分に伝わってくる――その底知れない強さが」

「……ふふっ。まぁ小畑さんが必要ないというならいいでしょう。私は構わないので、気が変わったらいつでも見てください」

ありえない発言に狼狽えた二人だが、長い付き合いだ。俺の言動と表情からおおよそを察したらしく、空気を読んで黙ってくれた。

それに対し拝賀の浮かれっぷりよ。まるでキャバ嬢に乗せられているバカな男のようだ。完全に俺の言うことを信じたらしい。

相手の更なる油断を誘い、自分だけが情報を見抜いたと錯覚させた。情報戦では既に俺が優位に立っている。

さて、ここからどこまで引っ張れるか。演技は得意じゃないんだけど、やるしかない。

はぁ、と緊張しているようなため息を吐き、俺は怯えたように言う。

「正直な所、支部で【鑑定】をかけられた時は背筋が凍りましたよ。まさか俺以外に【人物鑑定】を使える人が居るとは思いませんでしたから」

「ふふふっ、自分だけが特別な人間だと思わない方がいいですよ? その驕りが取り返しのつかない事態を呼ぶことになることもありますから」

「……返す言葉もありませんね」

いちいちムカつくなこのガキ。今に見てろよ。絶対に後悔させてやるからな!

「とはいえ、納得できないこともあります。貴方は俺と違って強すぎる。それは明らかに〈鑑定士〉を持つ強さじゃないでしょう?」

「なるほど。そういうあなたは〈鑑定士〉も持っているのですね?」

「それは……ッ! くっ、そうです」

「駄目ですよ。言葉には気を付けなければ。僅かな失言で気づけることもあるのですから」

拝賀の笑みに、ますます嘲りの色が濃くなる。

わざとだ間抜け。俺の弱さなら【鑑定】をせずとも〈鑑定士〉だということは容易に察せられる。知られても問題ない情報を見抜いた気になって安心しているがいい。

「しかし小畑さんの疑問は正しい。僕は貴方と違い〈オーブ〉から【鑑定】のスキルを得たのですよ」

〈オーブ〉。フロアボスが稀に落とすという、使用した者にスキルやジョブを習得させることが出来るレアアイテムだ。

滅多に落とさないらしく、その効果もまだはっきりとは分かっていないが、その多くが使用者に有用なスキルをもたらしているらしい。

俺も探索者生命を賭け、少し前に渋谷ダンジョン一層のフロアボスで狙っていたものだが、結局は手に入らなかった。まぁ【人工生命体創造】という至高のスキルを手に入れたからどうでもいいが。

で、こいつは〈オーブ〉を使って【鑑定】を手にしたと。なるほど。どおりで強いと思った。んでもってどおりでショボいと思った。

【人物鑑定】

名称:拝賀耀友

〈ギフトスキル〉

【鑑定(偽)】レベル―

【鑑定(偽)】

適性のない者が外部からの影響により、不自然な形で習得したスキル。適性がないゆえに本来のスキルの力を発揮できず、またこれ以上成長することもない。

これだけでなんか色々と分かってきたな。