軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第39話 小畑会結成②

「お久しぶりです。小畑さん」

集合時間までもう少しというところで、俺達の最初の恩人と呼べる人がやってきた。

「東さんっ! 東さんじゃないか!」

「久しぶりじゃないか東さん!」

「東ぁ! よしよししてやるぞ東ぁあああ!!」

「なんですかこの流れ……」

俺達は東さんを囲んで頭を撫でまわす。

東さんは大人しく受け入れていたが、終始困惑していた。おっさんからこんなことされたらそりゃこうなる。

「東さんのおかげでタケさんと縁が出来たので、お礼が言いたかったんですよね。なのに東さんとは取引の機会もなかったし、ようやく会えたと思ったらつい高まってしまいまして」

「感謝ならもっと別の形で示してほしかったですね……。まぁこの会合に呼んでくれたのでよしとしましょう」

苦笑していた東さんは、会議室の探索者を見回す。

「〈錬金術師〉ですから需要があるとは思っていましたが、ここまで早くこれだけの影響力を持つとは思ってませんでした」

「それもこれも東さんがタケさんに話を通してくれたからですよ」

【人物鑑定】に目覚めた時、タケさんが俺に配慮してくれなかったら、今頃どうなっていたことか。下手をすれば……だもんな。

「気づいてますか? このレベルの探索者をこれだけ動員出来るとしたら、その人は確実に国からマークされる存在ですよ」

「いや、動員って大袈裟ですよ。俺が皆に命令出来る訳じゃないので」

畏れ多いわそんなん。ただ皆が気を使ってくれているだけだってのに。命令なんかしてみろ。たちまち調子に乗るなとシメられるわ。

「……ふふふっ、そうですね。小畑さんは変わってないみたいで安心しました。でも、そんな小畑さんがわざわざこうして人を集めた理由が何なのか。だからこそ気になりますね。楽しみにしてますよ」

意味深な笑みを浮かべて、東さんも席に着く。

なにやら過大評価されているっぽい気がするが、楽しみにしているらしいから、精々驚いてもらおう。そして俺の仲間に引き入れてやる。

「よし。揃ったようだから始めさせてもらうぞ」

時間になる前に予定の参加者が揃ったのを確認し、タケさんがそう言った。

好き勝手喋らせると話が進まなくなるからと、今日はタケさんが議長を買って出てくれた。集めたタケさんなら文句も出ないだろうし、正直助かる。

「急な呼び出しにも関わらず応じてくれたことに感謝する。事前に伝えた通り、今日は楓太が重要な相談があるということで、皆にこうして集まってもらった。そんなお前らに対して更にこれを頼むのは申し訳ないが、会合を始める前に全員この書類にサインをしてほしい」

そう言うと、タケさんの後ろに控えていた人が書類を取り出す。

その書類が各自に配られたのを見て、タケさんは続けた。

「〈呪術師の契約書〉だ。読んで納得した奴はサインをしてくれ。サイン出来ない奴は、残念だがここから退出してほしい」

「おいおい、わざわざこんな物を用意したのかよ?」

「なんだ、よっぽどだな。確かに重大な要件だが、ここまでのことか?」

ザワザワと会議室が騒ぎ始める。が、それも無理はない。

タケさんが用意した〈呪術師の契約書〉。これは〈呪術師〉のスキル【呪術】を応用して作られた絶対の契約書だ。

契約した内容を何が何でも守らせるし、もし契約を破棄しようとすれば重いペナルティが降りかかる。双方合意の契約という形を取ってする為、その執行力は絶対。敵を一方的に呪うのとは桁違いの力を発揮する。

例えば秘密の厳守という項目を盛り込んだ場合、本人が無意識レベルであろうと、情報を漏らしてしまう前に声が出なくなるため、失言による情報漏洩は無くなるだろう。これは悪意のないうっかりさんにとっては助かる話だし、これだけでサインをする意味がある。

だが、明確に情報を他者に流そうとしたり、契約そのものを破棄しようと行動すれば……言わずもがなだ。

「内容は会合で得た情報の秘匿に、自衛以外での小畑さんとの敵対禁止か。まぁ普通だな」

「んでペナルティは……発声禁止とステータスの封印!? マジかこれ!?」

ザワッ! と会議室がにわかに湧き始める。無理もない。流石に命までは取らないといっても、実質探索者としては死んだも同然の内容だ。契約書という形とはいえ、これが出来てしまうのだから〈呪術師〉とは恐ろしいものだ。

「別に構わねぇだろ。裏切らなけりゃいい話だ」

「トシの言う通りだな。そもそも小畑さんを敵に回したところでいいことがない。秘密厳守なんて当然のことだしな」

動揺する者も多い中、トシさんと世永さんはなんでもない顔でサインをし、パーティーメンバーに回していく。

それを見て、そりゃそうだなと皆がサインをし始めた。

それでも難しい顔をして契約書を見たままの人も居る。まぁペナルティの重さ考えればムリもないから、別にこれで思うこともない。

ためらっているのは個人勢の人がほとんどか。ステータス封印なんかされたら個人はどうしようもないからな。ただし天城さんは除く。あの人はひっそりと一番早くにサインしてた。信頼した人への警戒がなさすぎるのよ……。

「別にムリしなくてもいいぞ、東。したくない気持ちも分かるからな。これで縁が切れる訳でもない。ただこの件に関しては遠慮してもらうだけだ」

「……ま、仕方ありませんね」

東さんが溜息を一つ吐き、サインする。それを見て釣られるように、躊躇っていた人達もサインした。

全員がサインした書類を集め、タケさんは頷く。

「よし、いいだろう。斥候の連中【消音】を頼む」

何人かが流れるように集まりから抜け出し、それぞれ身振りで相談しつつ八方に散り、壁際に立つ。そこでスキルを発動したようだ。

「斥候系ジョブの【消音】だ。パーティーメンバーの出す音を消す。この人数で分担すればこの会議室から外に音は漏れない。手っ取り早くて確実な盗聴対策だな」

「へぇ。便利ですね」

これほど手軽で完璧な対策もないだろうな。この人数を集めるのが大変そうではあるが。

「よし。準備が整ったな。それじゃあこの会合の目的だが――」

「タケ。ここまで付き合ってやったんだから十分だろう。まだるっこしいのはもうやめにしようぜ」

ゴキリ、とトシさんが首を鳴らす。それが合図かのように、ゴキゴキと手を鳴らしたり、肩を回したり、誰もが戦う前の準備体操のようなことをしだした。

戦意がぶつかり合い、ゴゴゴッと部屋の空気が変わった気がする。なんで?

「おい、待て。お前ら何を――」

「まずは俺から行かせてもらうぜぇ!!」

混乱する俺の代わりに、タケさんが冷めた目をしつつ真意を確かめようとしたところで、トシさんが叫んだ。

「――五千万!!!!」

ドン、と効果音が付きそうな勢いだった。

五千万――円かな?

俺がそう考えた時、クククッと世永さんが笑う。

「甘いな。その程度じゃあジャブにもならん。――六千万!!」

バン、と負けじと音が鳴った気がした。

一千万増えたなぁと感心していたら、マサ君がふふっと失笑する。

「大口叩いて大して変わらないじゃないですか。本気の姿勢というのはこういうことですよ。――八千万!!」

ザワリ、と部屋が騒いだ。

この数字には流石にトシさんと世永さんの顔色が変わる。

「おうおう、随分と頑張るじゃねえか。ガキが格好つけてムリすんなよ」

「刻まなかったことは褒めてやる。だが背伸びをするもんじゃねぇぜ? 子供には高い買い物だろう?」

「高い? 小畑さん達の価値を考えればまだまだ安いものですよ。言ったはずです。ここからあなた方をブチ抜くと。多少ムリをしてでも、僕は取りに行く!」

野心を剥き出しにするマサ君に、会議室の探索者達の目の色が変わる。

だがそこで、静かに天城さんが動いた。指を一本立てる。ただそれだけの動きが、誰よりも注目を集めた。

「――一億」

なっ――!? と、皆が目を瞠った。

動揺を隠しつつもからかうように、トシさんは笑う。

「おいおい、天城の爺さんよ。いくらなんでも飛ばし過ぎじゃねぇのか?」

「まさか爺さんがそこまで本気を見せるとはな。それほど高く評価していたということか」

「……俺について来れるのは楓太達くらいだ」

探るような世永さんに、チラリと目を向けて天城さんはそう言った。

まるで自分が上だ、とでもいうようなセリフだけど、コミュ障だもんね。知ってる俺らくらいしか付き合えないよね。

背景を知ってるだけでこんなに意味が変わるとはなぁ。言葉って難しい。

だけど、知らない者からすれば挑発にも等しい。

マサ君はぎりっと歯を噛みしめ、声を張り上げた。

「いくら天城さんでも……いえ、天城さんを超える為にも、ここで引くわけにはいかないんですよ。――一億一千万!」

一億一千二百万! 一千四百万! 二千万! 二千五百万! 三千まンゴ! しゃらくせぇ、五千万だおらぁ! 舐めんな六千万だぁ!

全員ヒートアップしてどんどん値段が上がっていく。すげぇ額になってきてんなぁと、俺はそれを他人事のように眺めているだけだったが、待て待て――と、タケさんが介入した。

「さっきからお前ら何やってんだ? というか何でいきなりオークションが始まってんだ?」

「あ? 何でって……楓太のパーティーを引き取る契約金だが? 今日は楓太とそのパーティーを丸ごとスカウト出来る権利を争うための話し合いだろ?」

「違うが?」

違うの? と、タケさんに視線が集まった。

ボルテージが下がっていくのを見て、はぁ、と息を吐いてタケさんは頭痛を堪えるように額に手を当てる。

「俺は楓太が相談したいことがあるからとしか伝えてねぇだろ。なんでそうなるんだよ」

「いや、俺はそう聞いたからだが……おい、誰が言い出したんだ?」

俺はあいつから聞いた――俺は言ってない。伝えたぞちゃんと――いや、わざわざ集まる必要はないから、そうじゃないかって――小畑さんが引退するからって――仲間ごと引っこ抜く――じゃあオークションか入札形式だよなって――トシが言い出したからオークションだったのかと――

口々に皆が喋りだし、さり気ない犯人捜しと責任の押し付け合いが始まる。

聞こえてくる内容から察するに、俺が探索者を続けて手伝うことなら予め話がついていたんだから、わざわざ集める必要がない。ということは引退を決めたんだろう。そうなると、生産者としてどこかの専属で働きたいとかそういう話じゃないか。

だとしたら契約金で札束の叩き合いになるだろう。俺だけじゃなく、他の四人纏めて仲間に出来るなら将来性がありすぎる。いくら出しても惜しくないから何がなんでも手に入れたい。その結果でこうなったと。

推測と憶測から始まった噂を真に受けた結果か。めちゃくちゃ高く評価されて嬉しいけど、アホらしいというかなんというか。

「違う違う。そんな話じゃない。別件で相談したいことがあるからお前らを呼んだんだよ」

「なんでぇ。マジで違ったのかよ。気合入れて損したわ」

「資金をかき集めた意味がなくなったな」

はぁぁ、と。今度は皆の方が気が抜けていく。

そんな彼らを、タケさんは呆れた目で見ていた。

「そんな話だったらあんな契約書なんか用意する必要ないだろうがよ。そもそも楓太を一億程度のはした金でスカウトしようって方が烏滸がましいわ。今の楓太を雇おうっていうなら百億あっても足らねぇよ」

この節穴共はとでもいうように、タケさんは鼻を鳴らす。

そんなタケさんの姿に、皆は失笑していた。

「なにしたり顔で理解者ぶってんだよ。ダッセ」

「は?」

「ただのパシリのくせに、よくもまぁそこまで偉そうに振舞えるな」

「あ?」

「小畑さんの凄さは分かってますけど、流石に百億はないでしょ。分かってないのはどっちですかね」

「はぁ?」

「無能乙」

「――誰が無能だコラァ!!」

皆からバカにされ、とうとうタケさんがブチ切れた。ちなみに最後の言葉は天城さんだ。普段は無口の癖に優勢と見るやすぐに調子に乗る。これだからネット民は……。

元々血の気が多い連中が熱狂していたところだ。タケさんの怒りで再び着火した。トシさんを始めとした好戦的な奴らが掴み合い、罵り合っている。いつ殴り合いが始まってもおかしくないだろう。

「おい。これまずくないか……?」

「本格的な喧嘩に巻き込まれたら僕らじゃ一溜りもないぞ」

川辺と伊波もすっかり顔を青くしていた。東さんを始めとした冷静な人達も、巻き込まれまいと離れて見ているだけだからな。ちなみにいつの間にか天城さんもそこに混ざって迷惑そうに眺めている。お爺ちゃんさぁ……。

これを止められる者はそう居ない。本人たちが納得いくまで吐き出さない限り、この争いは何処までも続くだろう。

だが、こんなくだらない諍いに時間を使っている暇はない。

――バンッ!!!!

俺は全力で両手をテーブルに叩きつける。そこそこ大きい音であったこと。そしてまさかの俺がそんな行動をしたことで、全員の注目が集まり、一瞬の静寂が満ちる。

そんな中、俺は告げた。

「【 人工生命体(ホムンクルス) 創造】のスキルを入手した」