軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第22話 大物①

「いやー、やってみると結構きつかったね」

徹夜でのポーション作りが祟り、二日の休養を挟んで今日も今日とてダンジョン探索。

なんとかミライさんの緊急依頼をこなした訳だが、このままじゃやばくね? と思ったので、トシさんの分も同じ日に提出することにした。そのおかげで徹夜での作業と相成ったわけだ。

それだけミライさんの発言が不穏だったからな……。

最悪、トシさんを敵に回すかもしれんと危惧して、報告することにしたよ。

前日のうちにトシさんに連絡を入れ、ミライさんにポーションを渡したその一時間後に、依頼のポーションを引き渡した。おまけに五本ほど追加でポーションを渡して。

その際、ミライさんにぼかしたが情報を渡してしまったこと。今日トシさんに渡すことはまだ言ってない、ということも伝えた。

脅されてしかたなかった。あくまで俺は被害者なんです。俺は頑張ったんです。とアピールすることも忘れない。

『そうか、よく話してくれたな。あまり気にすんなよ。あの行き遅れが全て悪い』

その結果、トシさんは俺を許してくれた。あのババア、と鬼の形相で呟いた時にはおしっこちびれそうになったが、楓太は被害者だからと笑いかけてくれた。

あの時のトシさんの優しさは忘れない。でも、ただし次はない、と言う言葉も忘れられない。くっ、俺はどっちを取ればいいんだ……ッ!

「知るかそんなの。自業自得だろ」

「その通りだ。乳に負けた君が悪い」

「負けてねぇよ! 全力で抗ったろうが!」

他の男だったら洗いざらい全て吐いてるわ!

俺の鋼の精神力だからあそこまで耐えられたものだぞ!

「男って結局みんな一緒なのよね。あんなのに引っかかるなんて」

「私もこれは流石に庇えないです……」

そして女性陣の評価は駄々下りだ。せっかく上がりまくっていた俺の評価がっ!!

「す、好き勝手言ってくれるな? じゃあ二人ともみすみす百五十万を見逃せって言うのか? あそこで断ったらこの金は手に入らなかったんだぞ?」

「それは、そうですけど……」

「おっ、お前ら、誰のおかげでまともな生活が送れていると思ってるんだ! ええ? 言ってみろよ!」

「それはっ! ……ふ、楓太さんのおかげです」

「楓太さんには感謝しています……」

「そ、そうだ……俺のおかげだよ! 分かったら黙って俺の言うこと聞いてろ! 二度と俺をバカにするなよ!」

「楓太落ち着け。その道はまずい」

「完全に小悪党ルートだ。あのヤリチンどもと変わらないぞ」

おっ、おお。ちょっと役に入り込みすぎたか。結構楽しかったんだが。

「当然冗談ですよ?」

「ふふっ! もちろん分かってますよ。三人とも、あのクズ共とは違います」

「そうですね〜。というか、楓太さんはそんなこと言う度胸が――あっ、ピーちゃんが敵を見つけたみたいです」

待ってチヨちゃん。今なんて言おうとしたの?

もしや本気で舐められているのでは?

邪魔をする訳にもいかないからそこは後で追及するとして、俺たちは狩りに集中する。

そうして本気で戦えば、もはや苦戦することはなくなってきた。

俺が薬を投げ、七緒ちゃんが歌って、二人でバフデバフの援護。川辺が受け、トドメを刺す。足りなかったら伊波が手を貸して、チヨちゃんとピーちゃんが周囲警戒、余裕があれば撹乱。

このパターンが完全に出来上がっており、この辺りの敵なら崩れる余地がない。

ハッキリ言って盤石だ。新人でここまで上手く回しているパーティーはそうないと思う。

順調に連戦を続けて一息ついたところで、七緒ちゃんは夢心地に呟いた。

「こんな簡単に戦えるなんて嘘みたい。私たち、少し前まで生活するのも困っていたのに」

「うん。これならすぐにレベル五までいけちゃうかも」

「いや、そんな大袈裟な。レベル五くらいすぐに届くから、せめてレベル十は目標にして欲しいな」

実際、あと二回か三回くらい探索に来れば、レベル五なら余裕でいくだろう。そんな程度で満足されても困る。

俺の言葉に、七緒ちゃんとチヨちゃんはポカンとした顔見せ、笑い出した。

「レベル五くらい……ふふっ、そうですね」

「よーし! 私、もっと頑張っちゃいますよ〜!」

「いやいや、頑張り過ぎないが俺たちのモットーだから、次で終わりにして採集に回ろう。というわけで、ピーちゃんよろしく」

「――ペッ」

「マジで態度悪いなお前」

このクソ鳥、唾吐いてきやがった。

「焼き鳥にしてやろうか……」

「ご、ごめんなさい。ちゃんと叱りますから。ピーちゃん! だめだよ!」

「ピッピー! ――ピ? ――ピェエエエエエ!?」

明らかにこちらをバカにした顔で飛び立ったピーちゃんが、ギョッとした様子で叫び声を上げた。

あまりの急変に全員が注視する中、チヨちゃんが真っ先に尋ねる。

「ピーちゃん、どうしたの?」

「ピー! ピーピー!」

「――えっ!? あの、何か大きな魔物がこっちに走って来てるって!」

「はぁ?」

草原エリアで大きな魔物って……ッ!

俺は慌ててピーちゃんが向いている方を見る。すると、確かに遠くで土埃が立っていた。まだ小さい黒い影に【鑑定】をかける。

【魔物鑑定】

名称:カームライノ

性別:オス

年齢:生後半年

「カームライノ!? 一番ヤバい奴じゃねえか!」

硬質化した皮膚と角を持つシロサイ。それが〈カームライノ〉だ。草原エリアで強さは一、二を争う危険な魔物。絶対手を出しちゃいけないやつだ。

大きく、硬く、そして強い。シンプルで恐ろしい魔物だが、典型的なこちらから手を出さない限り安全という魔物でもある。

名前の通り温和な性格で大人しいのだが、その代わり縄張りに侵入したり攻撃してきたやつには狂ったように排除しようとする危険がある。

そんな奴が、こっちに向かって走ってきている。――なんで?

「いやいや、なんでだよ! ニュートラルの魔物だろあれ!」

「分からないが、僕らが何か気に入らないことをしてしまったのかもしれないな……」

血の気が引いている川辺に、冷静に伊波が答える。いや、こいつ冷静じゃねえな。恐怖で現実逃避しているだけだ。

「もしかして、お姉ちゃんの歌が聞こえちゃったとか?」

「え!? 私!? 私のせいなの!?」

それは……ありえるのか? だとしたらとんでもないデメリットがあったということになるが。

「原因を探るのは後にしよう。それよりもどうするかだ」

「今から逃げれば……いや、間に合わないか。あっちのほうが早い」

悔しそうに呟く伊波の言う通り、黒い影にしか見えなかったカームライノは、既にその姿がハッキリと見えてきている。今から逃げたところで、後ろから追いかけられて轢き殺される可能性の方が高いだろう。

「バラバラに逃げれば、なんとかなるだろうが……」

「追いかけられたやつは確実に死ぬよな」

要は一人を囮にして逃げるかどうかだ。とはいえそれも危険だろうな。俺や七緒ちゃん、チヨちゃんがバラバラに逃げたところで、他の敵に遭遇したら無惨に殺されるだけだ。

それを察してか二人が青ざめる。そしてそれを見て、川辺は諦めたように息を吐き、盾を構えた。

「俺が残る。【挑発】を使えば確実に俺を狙うからな。お前らは二人を連れて一緒に逃げろ。キモオタでも女を守るくらいの根性は見せろよ」

「いや、あり得ないから。あとお前に言われたくない」

「うん、話にならないね。あと見た目で言えば一番オタクっぽいの君だから」

「はぁ!? お前ら人が勇気出して言ったのに何言ってんの!?」

「どのみち盾役のお前が居ないと危うい状況には変わりないんだよ。それなら五人で協力して戦った方がまだマジだろ」

わりかし無茶な話でもない。確かにこのエリアでは避けるべき強敵だが、絶対無理な相手ではないとも聞いている。俺達は既にレベル四。もうすぐ草原卒業のレベルだ。アタッカーに〈魔術師〉の伊波も居る。なら五人で戦えば勝機は十分にある。

「と言うわけだから、ごめん。覚悟を決めて一緒に戦って欲しい。先に逃げろと言えなくて申し訳ないけど」

「……上等よ! 囮になれって言われるよりはよっぽどマシ!」

「私も! ピーちゃんと一緒に頑張りますよ!」

二人とも逃げたいだろうに、震えながらもそう返してくる。姉妹揃って強い女だ。

しかしこの場面では本当に助かる。これなら勝ちの目が出て来た。

そんな二人を見てか。伊波もまた、フッと小さく笑って言う。

「そう心配することはない。今こそ我が新スキルを開帳する時。強敵だろうが我が【魔術】で薙ぎ払ってくれよう」

「「――はぁ!?」」

俺と川辺が揃って声を上げる。

いや、上げたくもなるわ! 聞いてないもの!

「お前マジでふざけてんのか! そういう大事なことは早く言えよ!」

「大概にしろよなマジで! それで、期待していいんだろうな!?」

「う、うん。すまない。まだ試してないが、威力は間違いない。ただ、時間が相応にかかるかもしれない」

試しておけよこのバカタレが! しかしなんであれ、希望は見えたな。

「川辺! とにかく生き残ることだけ考えろよ!」

「いつも通りってことな! もう来るぞ!」

カームライノの姿が、ズンズンと大きくなってくる。近づくにつれ、その大きさと迫力、速度がはっきりと分かる。

思った以上にデカい……それ以上に速い! まて、あんなの食らったら一溜りも……ッ!

「うっ――うぉおおおおおおおおおおおお!!!!

恐怖を誤魔化すように川辺は叫び、俺達から離れていく。川辺から発する赤い光がカームライノを導くように、その進行方向を大きく曲げた。結果、俺達は直撃コースを避け、カームライノは川辺だけを轢き殺すかのように突進する。

「――ブォオオオオオオ!!」

「グッ――!!」

ドンッ! と凄まじい衝突音がしたと思ったら、川辺の身体は激しい勢いで後方に弾き飛ばされる。抵抗すら出来ない圧倒的な体重差。交通事故を思わせるそれは、川辺の死を予感させた。

「嘘っ……川辺さん……ッ!」

「いや、生きてる! 川辺! すぐに立て! 次が来るぞ!」

「ぐっ……ぐっ、あぁぁあ……ッ!! ああああああああああああ!!」

声を出すのも苦しいだろうに、川辺はやけくそのような声を上げ、なんとか立ち上がった。身体は土で汚れ、受け止めた盾はボコりと大きくへこんでいる。骨や筋肉に異常が出ていてもおかしくはない。

それでもアイツは立ち上がってくれた。まだ死んでないとばかりの目に、カームライノも反応する。足で何度か地面をかき、続けて川辺に突進する。

しかしその時、七緒ちゃんの歌が発動した。川辺の身体に白い光が纏われ、効果を感じた川辺は自ら前に出た。

「来いやぁああああああ!!」

「ブォオオオオオオ!!」

川辺の怒声に応えるように、カームライノも咆哮を上げて突っ込む。今度こそ仕留めてやると言わんばかりの突進だが、しかし今回はそうはならなかった。

七緒ちゃんの歌により敏捷性が上がった川辺は、正面から受け止めるのではなく、カームライノの突進を受け流すように立ち回り始めた。

上手い! あれなら受け続けることができる!

【挑発】のおかげでカームライノは川辺以外を狙うことがない。後ろに守る者が居ないからこそ可能な立ち回りだ。そしてここまで引き寄せてくれるなら、こっちも安心して援護が出来る。

「まずは回復!」

カームライノと川辺がすれ違った僅かな猶予時間、貴重なフラスコに入れたポーションを川辺に投げつける。身体に当たりパリンとガラスが割れ、中身のポーションが川辺にかけられる。怪我した箇所にピンポイントでかかることはなくても、これで痛めた体も楽になる。絵面が最悪ということを除けば問題もない。

「――感謝しづれぇ!!」

「我慢しろそれくらい!! だけどもう大丈夫だな!? 後は隙見て自分で飲め!」

少しでも回復できれば、自分で持っている携帯ポーションを飲む余裕ができるだろう。

おうっ! という威勢の良い返事を聞き、俺は改めてカームライノを見た。

またしても、カームライノは川辺に突っ込もうとしている。好都合だ。俺はカームライノの進行方向から斜め前に位置取り、顔に目掛けて薬物を投げつけた。

「お前にはこいつだ!」

カームライノの顔面に当たって弾けたのは、いつも通りの〈鈍化薬〉ともう一つ。軽い体調不良の効果を与える〈弱毒薬〉。

扱いやすさと危険度からいつもは〈鈍化薬〉のみだが、お前には特別サービスだ! 現実なら一度にいくらでもアイテムを使えるぞぉ! たっぷりと食らうがいい!

二種類の毒薬が混ざった粉を、カームライノは吸い込んだ。川辺に当たる直前でその勢いを落とし、ゴフッ、ゴフッとその場でせき込み始める。

「ブフッ! ブフッ! ブフッ、ブフン!」

「うっ、やべっ!」

「どっち見てんだテメェ! 戦うのは俺だろうが!!」

「――ッ! ブォオオオオン!」

ぎろりと俺を睨み、体をこちらに向けようとしたところで再び川辺の【挑発】が入る。誰を倒さないといけないのかを悟ったのか、カームライノは威嚇の声を上げてまた川辺を襲い始めた。

だが、その動きは明らかに鈍くなっている。〈鈍化薬〉を食らった魔物特有のぎこちない動きに加え、ゴフッ、という咳が絶えない。バフとデバフが見事に決まり、ダメージも回復出来た川辺は捌きやすくなっている。

「よしっ! これなら――うぉ!? こいつっ……ぐえっ! ぐっ、ぅうううう!!」

この調子ならいけると思ったが、自分の不調を理解したようだ。今までの突進攻撃から一転、じわじわと距離を詰め、細かく頭を振って角で攻撃し始めた。

ただでさえ体重差が大きく力比べは不利なのだから、ああやって細かく攻撃されては躱しにくいし、ジャブのような攻撃でも川辺にとっては致命傷になりかねない。正直、一番やられたくない攻撃方法だった。

あれでは盾に隠れて受けるしかない。川辺の体力も長くはもたないぞ!

「伊波! まだかかるの――」

伊波に当たるような声を出してしまったが、その姿を見て思わず固まった。

俺でも感じられるほど強い魔力を、伊波が必死に制御しようとしているのが分かった。目を瞑り、一心に集中している。おそらく俺の声は聞こえていないだろう。あれから放たれる【魔術】であれば、確かにカームライノを仕留めることも可能かもしれない。

だけど、そこまで川辺が耐えられるかどうか――

「――ピィイイイイイイイイイイ!!」

すっかり聞きなれてしまった鳥の鳴き声が、辺り一面に響いた。

その次の瞬間、視界の外から矢が飛び、カームライノの目を抉る。その瞬間に矢は真上に跳ね返り、カームライノは目を抉られた痛みからか、悲鳴を上げていた。

「ピーちゃん!? お前なんて無茶を!」

「無理しないようにって言ったのに! でも偉いよ! 頑張ったね!」

チヨちゃんの元に戻ってきたピーちゃんに、遠慮なくポーションをぶっかける。当たった場所が脆いとはいえ、これだけのサイズ差がある相手に【飛鳥】なんか使ったんだ。反動のダメージも当然大きい。しかし、だからこそ成果はでかい!

「ブッ――ブフッ! ブォオオオオオ!」

「ぐっ! ふっ! おおっ!」

片目を失った影響か、カームライノの命中が悪くなっている。川辺も幾分か楽になったようで、先ほどまでより余裕がある。

川辺の奮闘、ピーちゃんの捨て身の献身により、ようやくその時が訪れた。

「――よし! 川辺! 巻き込まれるなよ!」

伊波の頭上に、これまでとは比べ物にならない氷塊が作られる。分厚く、鋭いそれはまさに氷の槍を思い起こさせた。

「――アイスジャベリン!!」

それほどまでに巨大な氷塊が、これまでの【魔術】とは比べ物にならない速度で飛んでいく。【挑発】をかけられ、片目を失いなおかつ俺の薬で鈍った体では、到底避けることなどできない。

伊波の【魔術】はカームライノの胴体に深々と突き刺さり、体を貫通する。それにとどまらず、当たった箇所からその肉体を凍らせた。

川辺すら耐えるのがやっとだったあの怪物を、たった一撃で?

信じられない威力だ。一体どんなスキルを使えばこんな……!

「伊波! 凄いなおま――」

「おっふん」

伊波に賞賛の声を浴びせようと振り返った瞬間、いきなり変な声を上げてその場に倒れこんだ。

「伊波っ! どうした!?」

「すまない。おそらく魔力切れだ。立つ気力が全く湧かない。魔力切れってこんな感じなんだね……」

「あっ、ああ。そういうことか。いや、よくやったよ」

魔力を使い果たすほどの大魔術だったということか。それならあの威力にも納得だ。感謝すれども、バカにするなどあり得ない。

……でも、せっかくの大活躍が台無しだったな。なんだよ、おふんって。やっぱり所詮は伊波ですわ。