軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第12話 公式も思ったより当てにならない②

「洗脳って……ッ! そんなヤバいやつがあるんですか!?」

「〈魔術師〉の派生で〈幻魔術師〉ってのがあってな。敵に幻覚を見せて翻弄したり、仲間の動きを誤魔化したりするのが得意なんだよ。仲間に居ると頼りになるが、これは使い方次第では洗脳も可能なんじゃないか、っていう風に危険視している奴も居てな。で、実際にそれが可能になっちまった奴が現れた」

タケさんは腕を組み、苦々しい顔で続ける。

「そいつは〈幻魔術師〉が更にランクアップしたらしくて、思考そのものに干渉できるようになっちまったんだ。元々それを危惧していた所に、その力を持った奴が現れた。となれば、何か事が起きる前に対処しようって考える奴が居てもおかしくないだろ? で、議員にそういう奴が居て、繋がっていた自衛隊員を動かしたバカが居たんだよ」

「それは……どうなったんですか?」

「そいつに襲いかかった自衛隊員は返り討ち。んで、指示を出した議員は精神崩壊された」

精神崩壊!? 議員相手にそこまでやっちゃったの!?

「それ……まさかとは思いますけど、一人でやったんじゃないですよね……?」

「そのまさかなんだよな。元々ソロで活動してた奴だから。ビビるよな。あの時ばかりは探索者っていうのがどういう生き物か、改めて思い知ったね」

「いや、マジモンの化け物じゃないですか……っていうかやることがぶっ飛びすぎでしょ……」

「本人は出来るからやった。手っ取り早いからやった。そんな感覚だと思うぞ。なまじ力があるとな……」

それ、力に呑まれてないか? 普通どこかでブレーキがかからないか?

「一応擁護するとな。自衛隊員は後遺症なんてないし、精神崩壊もその議員だけだ。なんでもその議員、本心は自分の手駒にして国を操ろうなんて馬鹿げたことを考えていたらしい。そんな悪党だったら何やってもいいだろうって判断をしたようだ。自業自得ではあるな」

「なるほど。ちゃんと相手は選んだってことですね」

狙われたにも関わらず、命令されただけの自衛隊員は軽い怪我で抑えて、本命の悪党のみぶっ壊した。冷静で最低限の倫理観がないと出来ないよな?

むしろかなり良識的な人じゃないか? 俺だったらそんな力を持っていたら皆殺しを考えるかもしれん。

うむ、とタケさんは頷く。

「アイツが理性的な奴だったから、その程度の混乱で済んだんだ。最悪、国の首脳部全員殺された可能性もあったからな。それを理解しているから、国もアイツのやったことをなかったことにしたのさ。というか力でどうこう出来ないしな。そしてこの事件から、アイツはその強さからこう呼ばれるようになった――“夢幻のサトウ”。間違いなく現役の探索者で最強候補に数えられる奴だ。覚えておくといい」

夢幻のサトウ……ッ! サトウ……佐藤?

「もうちょいなんか無かったんですか? こう、気が抜けるというか」

「いや、俺もそう思うけど。実際そう呼ばれてるからな。本当に誰が考えたんだろうな、このあだ名」

夢幻はともかくとして、佐藤が致命的よな。いや、佐藤さんが悪い訳じゃないんだけど。

心の中ではサトウと呼んでおこう。カタカナだとちょっとカッコよく感じる。

「とまぁそれ以来、〈幻魔術師〉関連は秘匿が決定したんだ。でないとそれを知って目指そうとする奴らが増えるだろ? 国も第二第三のサトウが増えるのは勘弁、って感じだったんだろうな」

なるほど。確かにこれだけのことが出来るようになるなら、目指したくなるような奴がいるよな。

「凄まじいですね。僕もなれるかな?」

「「絶対に目指すなよお前っ!!」」

こういう風になぁ!!

お前絶対に目指すなよ!? 俺も川辺も国を相手にする覚悟はないからな!

「っていうか、なんかタケさん詳しくないですか?」

「まぁな。実際に本人から聞いたし」

「本人!? 知り合いだったんですか!?」

「たまたま仕事場が重なって話したことがあってな。それ以来、顔を合わせたら話す仲になったんだ。連絡先まではしらんけどな。素は物静かで良い奴なんだぞ?」

いや、それにしたってそんなセンシティブなこと話せるか? よっぽど信用されないと……俺、もしかしてとんでもない人と縁が出来たのでは?

「とまぁこれは一例だが、こんな感じで危険視されるものは秘匿される傾向にある。で、〈鑑定士〉はじゃあどうなのかって話なんだが」

「やっぱり、危険視されているのでしょうか?」

「いや、むしろ逆。危険視どころか、有望視されてる」

あれぇ……? 期待されちゃってるのぉ……?

「〈鑑定士〉というか、【人物鑑定】と【魔物鑑定】は情報が少なすぎて公開出来ないパターンだな。あんまり居ないから、俺も噂だけでしか知らんかった。なんでもな、スキル自体は見つかっていたんだが、それを育てられる奴が居ないらしい」

「育てられる奴が居ない?」

どういうことだ? 使えば育つんじゃないのか?

「これも経験的な話だけどな、スキルの成長はおそらく、レベルキャップみたいなのがあるんだよ。ある程度までは使い込めばスキルレベルは成長する。だけどそれ以上に行くには、本人のレベルそのものを上げる必要がある。壁をブチ破らなきゃならないんだ」

「えっと、上げればいいんじゃないですか? 何の問題が?」

「いやいや。〈鑑定士〉のジョブを持った奴が、積極的にレベルを上げると思うか?」

ん? んん~? えっ、上げないの?

「分かってないなこりゃ。いいか? 生産職と一緒だ。〈鑑定士〉はわざわざレベルを上げなくても、【鑑定】のスキルだけで既に稼げるんだよ。職員になってもいいし、古物商だの経営してもいい。んで、ある程度ならレベルを上げなくてもスキルは成長する。な? レベル上げの必要がないだろ?」

「ああ~、なるほど? 言われてみればそうなのか?」

「そうなの! というか〈鑑定士〉になる奴って、そもそも戦いを目的としてない奴が多いらしいぞ。古物商だとか美術商で働いていて、取得したら役立つからとやってみたら運よく取れた、とか。事務方の人間が命令されて仕方なくやったら取れた、とかな。そんな奴が戦えると思うか?」

そりゃ確かに無理だろうな。戦いはそんな甘いものじゃない。

「それでも国や自衛隊は【人物鑑定】や【魔物鑑定】には可能性を感じているから、積極的に育成しようとしているんだよ。奇跡的に〈鑑定士〉を取れた隊員や、フリーの人材をスカウトしたりな。だけどな、そいつらにレベル上げをさせると、なぜか戦闘系のセカンドジョブを手に入れたり、【鑑定】以外のスキルが成長したりするんだと。これはたぶん、そいつら本人の意思が関わってるんじゃないかと俺は思ってる」

「意志、ですか?」

「最初のジョブを取る時、装備で取得ジョブを寄せられるだろ? あれはつまり、こうなりたいっていう意思に反応してるわけよ。同じことがジョブやスキルにも言えるんだよ。元々戦いに向いてない奴を戦場に連れて行ったらどう考える? ますます死にたくない。こんな所から逃げ出したいって考えると思わないか?」

ああ~、確かにそうかも。生き残るために敵を攻撃する、防御する。あるいは逃げる、隠れる。そういう力を望むのが普通か。

「そっちの方面に成長を取られるせいで、せっかくの【人物鑑定】や【魔物鑑定】が成長しないってことになってるんじゃないか? そういう予想が立てられているのが現状だ。そして〈鑑定士〉を取れる奴は少ないから、試行回数が稼げない。だから検証が進まないという訳だ」

「なるほど。……あの、意思で成長が変わるってあたり、どの程度の確信がありますか?」

「証拠を出せって言われても難しいけどよ、当たらずとも遠からず、だと思うぜ? 探索者なら誰もが感じることだし、外国の軍隊や日本の自衛隊のほとんどが〈兵士〉になる。これはもう兵士っていう自覚があるからだろ」

「私も、もっと強力なスキルが欲しいって思っていた時に、攻撃スキルが手に入ったりしたから。信憑性はあると思うよ」

「私も~……ひっそり殺したいって思ったら~……そういうスキル手に入れたよ~……」

ふむ。真帆さん、アキラさんの二人もこう言うのなら、本当にそうなんだろうな。それに〈兵士〉の件も、説得力がある。

しかし、そうなると……。

「俺の場合、なんで【人物鑑定】や【魔物鑑定】が手に入ったんですかね? しかもこんなに早い段階で」

「いや、それはむしろ俺の方が聞きたいんだが。そうだな、確かにジョブにしろスキルにしろ、取得するにも早いんだよな。それこそ戦いを放棄することを考えない限り、そこまで極端な成長のしかたもしないと思うんだが。何か心当たりないか?」

「……サポートに特化しようと思って、武器はもちろん盾を持つことすら止めましたね」

「おっ、おう? 盾すら? えっ、怖くないのか?」

「いや、怖いですけど……ファーストジョブで〈錬金術師〉を取っちゃった以上、戦うことを考えたら半端になるなって。それなら、【人物鑑定】や【魔物鑑定】を狙ったり、第三のジョブで“アイテム使い”とか“運び人”みたいなものとか狙った方がいいかなって。実際に【鑑定】は取れましたし」

「“アイテム使い”に“運び人”……なるほど。考えなしじゃない。むしろ期待値的にはおつりがくる。賭ける価値はありすぎるな。でも、いくらなんでも思い切りが良すぎないか? よくそれをやろうと思ったな?」

「いや~、もしこいつらのレベルが上がるなら、俺もついていくにはそれくらいしないとじゃないですか? それに、そんなに勝算が低い訳じゃないと思うんですよ。ゲーム的に考えたら、逆にこれくらい特化したからこそ手に入らないとか嘘でしょって感じで」

「ゲーム的……今はともかく、もう少しレベルが上がったら冗談抜きに死ぬかもしれないぞ? 生産職のステータス的な上昇は本当に低い。ついていくのもきつくなる」

「それが問題ですよね。でも、無理ならきっぱり諦めてダンジョンから引退を決めてますから大丈夫です。どんなスキル覚えるのか気になるから、安全マージンのギリギリまではいきますけどね」

「あ~、なるほど……うん、うん……なるほどなぁ~……」

タケさんは腕を組みながら、天井を見上げ始めた。真帆さんは眉間を揉み、アキラさんは心なしか表情が引いている気がする。

なんだろう。ちょっと思った反応じゃなくて怖い。

「あのさ。俺なんか変なこと言った?」

「いや? 分からん。矛盾はないと思うけど」

「うん。僕も改めて聞いて賭ける価値はあると思ったよ」

「同じ穴の狢だったか。なるほど。同類がここまで揃ったからこそか」

天井を見上げていたタケさんが、ポツリとそう呟く。そしてなんとも言えない顔で、困ったように俺を見た。

「どうしよう。叱ろうにも叱れない。すっげぇ複雑だわ」

「えっ? 俺の考えどこか変でしたか? 何か間違いがありました?」

「ちっげぇよ! そうじゃなくてさ! あえて悪く言うけど、お前ら全員ダンジョンをゲームだと思いすぎてんだよ!」

「えっ? ……いや、そんなことないと思いますけど」

流石に心外だわ。命の危険性くらい弁えている。

俺の様子を見てか、真帆さんが諭すように言う。

「あのね。いくらその公算が高いからって、普通は武器や防具を身につけないなんて極端な真似できないのよ。僅かな安全に手を伸ばすものなの。だって下手すれば死んじゃうから。だけどあなたは根本的に、自分は死なないだろうって思っているのよ。これってゲームの発想でしょ?」

「私なら絶対にやらない……自分から死の可能性を増やすとか無理……」

今度こそ、アキラさんは間違いなくドン引きしてこっちを見てくる。

死なないとは思ってないけどなぁ。この一か月で、草狼や角ウサギに殺されかけてるわけだし。

「えっと、さっきも言いましたけど安全マージンは稼ぎますよ? 駄目なら即引退って全員賛同してますし」

「だから叱ろうにも叱れないんだよ! お前らゲーム感覚で見てるくせに、命を守るためのラインだけは絶対守るって感じだろ? ゲーム感覚のガキって多いけど、絶対に調子に乗って大怪我するか、死ぬんだよ。だけどお前らはそのラインだけは超えないだろ?」

いや、それはそのガキどもが馬鹿なだけだろ?

現実とゲームはちゃんと分けないと。

「あとあれだ。お前、戦っていればそのうちレベルは確実に上がるって思ってるだろ?」

「えっ? ……いや、それはそうですよね? 上がるでしょ?」

「上がるよ? 上がりますとも! 上がりますけどね!」

なんなのその三段活用。さすがにこれは間違ってないだろ。

俺の不満を感じてか、真帆さんが補足した。

「レベルって何度も殺し合いをしてようやく上がるもので、思っている以上に上がり辛いって感じるものなの。自分達じゃ無理なんじゃって不安になって、そこで諦めちゃう人も多いのよ。その陰が一切ないっていうのが本当にゲーム的というか、逆になんでそうなってないの?」

ええ、何でだろ? 言わんとするところは分からなくもないけどな。

……のんびりやればいいやって思ってるからかな? 挫折する奴らってたぶん、すぐに結果が出るとか思ってるんじゃね? 自分からハードル上げてりゃそら挫けるわ。

「なんていうか、ゲーム好きの子供がそのまま大人になって安全管理を学んだ、みたいな感じだな。根っこはガキのまんまなのに、大人の小賢しさを身につけて実践しているというか。誰がやっても安全にやれるよう、そういう仕組みづくりを徹底しているというか」

あっ。いまのはしっくりきたわ。

完全に俺らじゃん。

「自分と志を同じにする信頼できる仲間が最初から居て、だからこそできる思い切った選択。それによって実際に成果を得て、ゲーマー気質からくる死生観とレベル上げに対するモチベの高さ。そして徹底した安全管理か。奇跡みたいなバランスだな。生産職が上を目指せる状況が出来上がっちまってる」

「これ、誰も真似出来ないわね。こんなバカ三人がそうそう揃う訳ないもの」

「ハッキリ言って~……イカレてる~……」

そ、そこまで言うか。でもこれ、褒められているのか? どっちだ?

むぅぅ、と唸っていたタケさんだったが、パンと膝を叩いた。

「よしっ、決めた! 止めようかと思ったけど、応援する。小畑さん、アンタ……いや、アンタら三人、凄いことをやっているよ。これを止めるのははっきり言って勿体無い」

「えへへっ、そうですかね? 方向性に関しては勘が大きいと思うんですけど」

「そんなことはない。実際に【鑑定】は自力で辿りついたし、“運び人”はともかく“アイテム使い”は……いや、これは止めておこう」

「えっ!? ちょっと待ってください! 今何を言おうとしました!?」

めっちゃ重要な情報を落とそうとしなかった!?

「知ってしまうと、それに縛られるだろ? 小畑さんは特に、自力で開拓させたほうが思いもよらない成果を上げそうな気がする。だからこれ以上は言わない」

「えぇ……俺、仕方なく手さぐりでやってるだけで、確実なルートがあるならそっちに行きたいんですが」

「そんなものはない。ダンジョンが出来てまだ二年。ハッキリ言って分かっていないことの方が多いし、判明している情報も実は間違っている可能性だってあるんだ。小畑さんは自分が遅れているって思っているかもしれないが、今ダンジョンに潜ってる奴らは、全員が先発組なんだよ。そう見えないだけで、誰しもが開拓する立場なんだ」

そう言われてしまうとな。

確かに公式の情報もあてにならんわけだし、ならこのままでもいいのか?

「三人共、今これ以上なく素晴らしい階段を上っていると思う。連絡先を教えるから、何か相談したいことがあったら連絡してくれ。いつでも力になるよ」

「あ、ありがとうございますっ」

タケさんはそう言うと、すぐに連絡先を交換してくれた。もちろん俺だけじゃなく、川辺と伊波も。さらには真帆さんとアキラさんまで。

全員の連絡先交換を見届け、さらりとタケさんは続ける。

「さしあたっては【人物鑑定】だな。同レベル帯の探索者を中心に、明らかに格上とヤバそうな奴だけは避けて【鑑定】しちまおう。もしバレたら俺の名前を出していい。これでも顔は広い方だから、大抵の奴は抑えられる。最悪、武力行使も辞さない」

マジか。これは相当心強い。少なくとも渋谷支部で練習相手に困ることはなくなりそうだ。

「何から何までありがとうございます。でも、どうしてここまで?」

「どうしても何も、自分の価値を低く見積もりすぎだ。本当にレベルを上げてスキルが成長したら、これ以上頼りになる仲間は居ないぞ。そりゃ今の内に恩を売っておくだろ」

「あ、ああ。そりゃそうですね。」

「正直それが一番難しいとは思うが、まぁそれ抜きにしても小畑さん達は信用できそうだからな。力を貸すのに不満はないよ」

タ、タケさん……! 怖い人だと思ってごめんなさい。天使みたいな人でした。顔はやっぱりクマみたいな感じだけど。

「あの、皆さん俺のことは呼び捨てでいいですよ。小畑でも楓太でもお好きな方で」

「あっ、俺たちもそうしてください」

「ええ。恐れ多いので」

「そうか? じゃあそうしようかな! 楓太もタケでいいぞ」

「いえ、タケさんはタケさんで」

「なんでだ」

なんでも何も、畏れ多すぎて呼び捨てなんてとてもとても。タケさんまでであだ名みたいなところがあるわ。

店長〜! とタケさんが呼ぶと、すぐに肉と野菜が運ばれてきた。もしかして密談が終わるまで待機してくれていたのか?

そんな疑問がどうでも良くなるくらい、俺は運ばれてきた食材に目を奪われる。色といい艶といい、明らかに普通ではない。しかもこれ、牛とか豚じゃないな。まさか魔物素材か?

「それなりに深い層にいる魔物の肉だ。店長の依頼で俺たちが取って来たりするんだぜ。さっ、遠慮なく喰ってくれ」

「はいっ、いただきます」

ここは遠慮する方が失礼だろう。俺達は一枚ずつ丁寧に運び、しっかりと味わう。

「……旨っ」

「おお、これは……」

「言葉に出来ない……これを表現できる語彙が僕にはない……」

最近主食にしてる角ウサギも旨いが、それとは比べものにならない。肉に対する価値観が変わる味としか。高レベルの探索者はこんな物を当たり前に食べているのか!

「はっはっは! 旨いよな! 俺も初めて食った時はそうなったわ!」

「駆け出しでろくに稼げない時に食べたら尚更美味しく感じるでしょう? これからしばらくは苦労するだろうし、今日くらいは遠慮せずに食べていいからね?」

「はいっ。金銭面で苦労することはないでしょうけど、確かに感動する旨さですね。遠慮なくご馳走になります!」

――――――――。

それまで賑やかに話してたはずなのに、何故かタケさん達は笑顔のまま無言になった。

俺達が咀嚼する音と、ジュージューと肉が焼ける音だけが静かな部屋に響く。

謎の緊張感が漂う中、タケさんはキョトンとした声を出した。

「えっ? もしかして稼げてるのか?」

「稼げてますね」

「う、嘘でしょう? 駆け出しがそんなはず……あっ、たまたま先月だけ運よく稼げたとかじゃない? それで見栄を張ってるのよね? そうよね?」

「違いますね」

「これからも~……稼げる確信が~……?」

「ありますね」

「バカな。ありえないだろ。一体どうやって……あっ!? 〈錬金術師〉だからか!?」

「金儲けには強いみたいで」

「嘘、生産ってそんなに……ち、ちなみに何を作っているのかしら?」

「低級体力回復ポーションです。協会が一本三万で引き取ってくれます」

「一本三万……せ、先月の稼ぎは~……?」

「だいたい百三十万くらいです」

この人達なら言っても大丈夫だろ。俺達とは比べ物にならないくらい稼いでるだろうし。

そう思ったので全てに素直に答えていたら、ズンと重い空気を漂わせ、三人とも項垂れ始めた。

「探索者を始めて一ヶ月目で百三十万? 俺達がそれくらい稼げたのってどれくらいになってからだ?」

「たぶん半年くらいかな。今でも思い出したくない。あの時は女を捨てていたわね。というかようやく理解できたわ。生活に余裕があればそりゃ焦る必要はないもんね。ゲーム感覚でレベル上げも出来るでしょうよ」

「私〜……モヤシが主食になったの〜……人生で初めてだった……」

お、おおっ。タケさん達でも思った以上に悲惨な生活を送ってたのか。

いや、むしろこれが普通なんだろうな。こればかりは〈錬金術師〉で良かったと心から思うわ。

「楓太……いや、小畑さん。ポーションなんですけど、俺たちにも売ってくれませんか。四万で買いますので、いかがでしょう?」

「何でまたさん付けに戻ってるんですか。高く買い取ってくれるならこちらからお願いしたいくらいです。最低限の性能になってしまいますけどよろしいですか?」

「構いません。そもそも品薄で買えないことの方が多いので。是非ともよろしくお願いします」

「じゃあ必要な本数を後で教えてください。揃えておきますので。あと普通に呼んでくださいよ。何で敬語になってんすか」

「いや、初月に百万以上を稼ぐ人を呼び捨てなんて……改めて敬意を込めて小畑さんと呼ばせてもらいます……」

「小畑さん。食事でマウント取ろうとしてごめんなさい。私が愚かでした……」

「小畑さんは〜……私たちとは〜……格が違った〜……これでさらに稼げるね〜……」

やめてくれ。最後のは嫌味だろ普通に。

というかこの食事マウント含んでたのか。意外に性格悪いなこの女ども。

「他にも困ってることがあれば言ってください。俺ごときが小畑さんのような方の力になれるとは思えませんが……」

「とりあえずその小芝居やめません? 困ってることか……他に何かある?」

「いや、俺は思いつかん」

「楓太。レベル上げについて聞けばいいんじゃないか?」

あ、そうか。そういえばそれで悩んでたな。

「タケさん。実はレベル上げで魔物と戦えなくて悩んでるんです。なので他のダンジョンに行くかを迷っていて……」

「ああ〜、取り合いか。俺達の場合はアキラが居たからそれで困ったことないんだよな。斥候系のジョブを仲間に入れるしかないんだが、そうゆう奴らは低レベルだと勧誘が激しいんだよ。今から小畑さんが探すのも難しいかもな」

年齢的に俺達と合うかってのもあるからな。確かに勧誘は難しいわ。

アキラさんを見ると、いぇーい……とダブルピースを作っている。こんな人が必要なのかぁ。

「そうなると狩場を変えるってのが妥当だが、それ必要か?」

「と、いうと?」

「だってお前らすでに渋谷で稼げているだろ? 無茶をしてレベルを上げようとする奴らはな、生活に困っているから早く抜け出したくてそうするんだよ。生活に困らないんだから、お前らは焦る必要がないじゃないか。元々そういう方針なら、無理に変えずに安全に、確実にレベルを上げればいいだろ。……普通はそれが出来ねぇんだけどな。何言ってんだろ俺」

ふむ、やはりタケさんでもそう思うか。

結局、伊波の考えが正しいんだよな。焦る必要なんかない。調子を崩す方が問題だ。

まぁもしあるならって程度の軽い気持ちで聞いたから、そこまで残念でもない。このまま面白おかしくのんびりやるか。

そう納得しかけていたところに、いつの間にか立ち直ったのやら、真帆さんはハッと表情を変えて言った。

「ねぇ、タケ。あの子達はどう? 小畑さん達ならなんとか出来るんじゃない?」

「ん? ……ああ〜、あいつらか! いや、確かにこれ以上ない人選かもしれん。──小畑さん、一つ頼み事があるんだが」

こうして、俺達はいつの間にかタケさんのお願いを受けることになった。

俺達にとってもメリットのある話ではあるが、正直、不安の方が大きいぞこれ。

♦ ♦

【探索のヒント! その九】

〈鑑定士〉

ありとあらゆる物の価値を定める者。真贋を見極める者。なお、その対象には生物も含む。

ダンジョン黎明期において、【人物鑑定】や【魔物鑑定】が見つからなかったことから、がっかり〈鑑定士〉と揶揄され、その評価は今なお払拭されない。

だが国や組織、一部の探索者はその存在を確認しており、その可能性に目を付け日々あらゆる手段を用いて成長させようと躍起になっている。が、残念ながらその育成に成功している者はほぼ居ない。

その理由はレベル上昇による魔力成長の配分を他の能力に注がれるため、【人物鑑定】、【魔物鑑定】の成長する余地がないからである。

しかしそれも無理はない。生物にとって生きたい、死にたくないという生存本能は何よりも優先される。

レベルを上げ魔力を成長させ、身体を進化させなければスキルは伸びない。しかしそれはつまり、自ら死地へ飛び込むということになる。命のかかった戦いにおいて、生存能力へ進化のリソースを振らずにいられる人間など居ない。

生き残る力を伸ばさずに、観察に特化する力を進化させる。それは破滅を恐れぬ飽くなき探求心か、それに代わる何かが無い限り土台無理な話だ。無意識の本能だからこそ、その壁は高く分厚い。にも関わらずそれを達成できたとすれば、その者の精神性は常軌を逸している可能性がある。もはや狂人であると言っていい。

しかしだからこそ、それを成し遂げた者の情報アドバンテージは他の追随を許さない。

一目見るだけで、その対象自身すら知り得ない情報を問答無用に引っこ抜くなど、理不尽にも程がある。〈鑑定士〉の前では秘密などあってないような物だ。それは戦闘力を放棄し、それに身を捧げることでようやく得られる怪物の力である。

高レベルの【魔物鑑定】による探索者が得られる優位性は言うに及ばず、【人物鑑定】は対人において最強レベルのぶっ壊れと化すのは間違いない。

これを持っている者とそうでない者では、もはや見ている世界が違う。そこから変化する行動の指針は、それまでの遅れをあっさりと覆す程の推進力を見せるだろう。

なお、〈錬金術師〉はあらゆる素材を見極める必要があるその特性上、第二、第三のジョブで〈鑑定士〉を得やすい隠れ性質を持つジョブである。しかし重要なのは、レベルを上げることが出来るかどうか。結局のところ本人の性質によるところが大きい。

〈鑑定士〉でありながら前に進むことを選んだ者。もしその者をいち早く手中に収めたのならば、ダンジョンの全てを掌握することも夢ではない。