軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四話:転生王子のインターバル

初めての大規模な戦いから一週間が経っていた。

あれから散発的な攻撃があったが、どれも規模が小さい。

理由は明白で、すでに敵は攻められる状況じゃない。

足手まといを抱えすぎている上、食料が尽きかけている。

何より士気が低い。

そういう状況に俺たちは追い込んだ。

「敵軍が帰っていくわね」

「このあたりが限界だろう」

俺とヒバナは城壁の上から、帰路につくグリニッジ王国軍を見ていた。

傷ついた仲間に肩を貸し、行列を作り森へと消えていく。

「どうせ撤退をするなら、初戦が終わってからすぐにそうすべきだったわ。あの時点で、そういう判断もできたはずよ」

「そうだろうな。だがな、奴らにもメンツがある。負けるにしても、最低限の粘りを見せないといけない」

それこそがこの一週間、彼らが行った散発的な戦闘の意味。

そして、ようやく言い訳できる状態になったから、彼らは帰路につく。

「追撃はしないの?」

「その必要はないさ。……得るものが少なすぎる」

もう、あの兵たちは心が折れており、わざわざ殺さなくても使い物にならない。

そんな兵を減らすメリットよりも、こちらの兵を失うリスクのほうが大きいのだ。

「ここにいたのかい」

「アガタ兄さんか。呼んでくれたら出向いたのに」

「いや、僕もたまには陽の光を浴びないとね。ちょうどいい気分転換だ。君に見せたいものがある」

それは手紙だった。

差し出し人はグリニッジ王国軍の指揮をとっていたフェイアル公爵のものだった。

……バリスタの奇襲で死んでくれていたら楽だったが、そうそううまくはいかないようだ。

俺たちは五日ほど前に彼らへと降伏勧告を出した。

降伏を受け入れれば、いくつかの条件と引き換えに、こちらから攻撃は加えないし、負傷者の治療、食料の支給を行うと約束する文面。

きっと、この手紙はその返事だろう。

長く、きざったらしい文章ではあるが、要約すると至ってシンプル。

「今回のは前哨戦だから調子に乗るな。次が本番だ。大軍を引き連れて戻ってくる。この屈辱は絶対に忘れない、八つ裂きにしてやる。か……こうまで予想通りだと、逆に疑いたくなるな」

「こうやって突っぱねられるのは既定路線だしね。今だと傷が浅いし、彼らにとって彼の地を手放すことは大した痛手じゃない。だけど、彼らは僕たちみたいな弱小国に負けることが許されない」

大国ゆえの不自由。

強さというのが、国のブランドであり、抑止力になっている。

負けを認めたら最後、他国に舐められ、今まで力で抑圧していたさまざまな問題が噴出しかねない。

だからこそ、ここから先は利益を度外視してでも、俺たちを潰すしかない。

予想通りなのは、それしか彼らに選択肢がないというだけだ。

「彼らの本気ぶりはあれを見たらわかるだろう?」

アガタ兄さんは俺がプレゼントした望遠鏡で彼らの野営地を見ていた。

あの敗戦後、ここからかなり離れた位置に、森の木々を使って粗末な野営地を彼らは作り上げており、雨露ぐらいは凌げるようになっている。

そこには、数百人の兵が残っていた。

「ああ、俺も気づいてる。あの人数ってことは、城を落とすために用意したわけじゃないな」

「……なら、なんのためかしら?」

「俺たちに籠城を解かせないためだ。完全に敵兵がいなくなったら、俺たちは城から出て食料と物資を集めにいけるだろう? でも、たった数百でも敵がいれば、うかつに城から出られない。かと言って、数百とはいえ、こっちの軍よりも多い。城から出て地の利を捨てて挑もうものなら大きな損害を受けてしまう。だから、こっちから打ってでるわけにもいかない。本気で勝つつもりだからこその戦略だと思う」

どれだけ急いでも今回以上の大軍を用意するとなれば一、二ヶ月はかかる。それはグリニッジ王国ほどの国力があってもだ。

想定される敵兵数は五千ほど。その五千を他の守りが薄くならないように集めつつ、五千人分の食料や武器をかき集めなければならない。

そして、その一、二ヶ月があれば俺たちはより強固な守りを用意し、食料を補充することができる。

それを防ぐために、あれだけの兵を残したのだ。

敵はこちらが貧乏国であり、わずかな食料しかもたずに籠城して、放っておけば干上がると思っている。その前提であれば極めて合理的な一手だ。

「あえて聞くけど、あれを叩き潰すことはできるかい?」

「可能だ。だが、せっかくここまで隠してきた魔剣や魔道具を駆使しないと厳しい。こっちは兵を減らすことすら許されないんだから」

兵の数を補給できない。

こっちはすでに総力戦をしているのだから。

だが、それでも魔剣と魔道具、あるいはわざわざ温存した策を使えば勝利は容易いが、それをしたら最後、本番の五千人との戦いでは対策をされて著しく勝率が落ちる。

「ある意味、大軍とかじゃなくて、ある程度の数で攻めないで睨まれ続けるのが僕たちにとって一番きついのかもしれないね」

「そうだな。……地下で食料を作れるようにしておいて本当に良かった」

人口が千人しかいないというのは致命的な弱点。国としての形をなしていない。

せめて、三千人。それだけいればできることはもっと増える。

だからこそ、この戦争に勝って、奪われた領地を取り戻したいものだ。

「もどかしいわね。こうして敵が力を蓄えて戻ってくるのを指を咥えて見ているしかないって」

「いや、そうでもないさ。敵の数が減ったのも事実だ。今なら、いろいろできる」

籠城は解除できない。

だが、別に籠城中だろうと食料を始めとした物資を補充する術はある。

そして、時間がありさえすれば、彼らなら面白いものを作ってくれるだろう。

翌日、タクム兄さんから斥候を使って集めた情報を聞いた上でこれからのことを決めた。

バルムートを呼び出し指示を与えた。バルムートは四人の部下を連れて、秘密の地下通路から海側へと向かわせる。

「では、我が主よ。土産を期待しておいてください」

「間違っても、出るところを見られるなよ」

「はははっ、私がそのようなヘマをするとでも。たとえ見られても殺すので安心なさい。行ってまいります」

彼らの役目は船を使っての食料、物資、鉄の補充。

斥候からの情報で、引いたのがブラフではないことを確認したため、補充できるうちに補充しておく。

海に続く地下トンネルの出入り口は埋めてしまってはいるが、城からの秘密通路から地下トンネルへアクセスできるし、隠し出口を用意してある。

これらは秘密裏に食料を補充するためにも使える。

問題は秘密通路は狭いため、馬車が通れず、運搬に手間がかかることだがそれぐらいの不便は我慢できる。

「……こっちの用途で使えているうちはいいんだがな。もしものときは」

この秘密トンネルにはさらに重大な役割がある。

万が一敗戦が濃厚になった場合に地下通路から港まで民を逃し、船に乗せて逃げるために存在している。

アガタ兄さん、タクム兄さんにもこの判断は伝えていた。

船であれば、無理をすれば四百人は乗せられる……逆に言えば、四百人しか乗せられない。

そうして、船でドワーフたちのいる島へ逃げる。そうすることで国の滅亡だけは避けられる。そうすることの許可をドワーフたちにも得ていた。

確実に勝つために努力を積み上げてはいるが、負けたときのことも考えておかねばならない。最後の最後の保険がこれなのだ。

バルムートと別れたあとは工房に来ていた。

「精がでるな」

「はい、やっぱり実戦って大事ですね。いろいろと設計時にはわからなかった問題が見えました」

ドワーフたちが図面とにらめっこしていた。

今回、防衛のために作った装備たちは訓練では使用したが、実戦では使ったことがないものばかり。

当初想定していなかった問題がいろいろと出てしまった。

例えば、バリスタに使われている弦。計算上は強度に問題はなかったのだが、短時間に連続使用すると弦の張力が弱まってきて射撃精度にブレがでるなどだ。

そして、そういう問題を改修することで次に備えている。

「どれぐらいかかりそうだ」

「……そうですね。一週間ほどもらえれば、手直しまで含めてなんとかしてみせます」

「そうか、それが終わったら一つ頼みたいことがある」

「その顔、すっごく面倒で、すっごく面白い、すっごくやばいのを作ってほしいってときの顔ですね」

サーヤの目が好奇心に染まり、尻尾が揺れている。

まだ会って数ヶ月の付き合いだというのに、俺の考えが見抜かれてしまうようになっていた。

「ああ、実はな。こういうものを作りたい」

実戦で見えたのは、作り上げた装置の問題点だけじゃない。

そもそも、こういうものがあればもっと楽に戦えたのではないか? そういうものが見える。

やはり、机上ではなく戦わないとわからないものも多いのだ。

サーヤは俺が渡した仕様書を見る。

「あの、言いたいことがあるんですが」

「ああ、なんでも言ってくれ」

「雑! めっちゃくちゃ雑ですよ、この仕様書、ふんわりしすぎ!」

サーヤがそう言うのも無理はない。

なにせ、俺が書いた仕様書は、前世のおぼろげな記憶で、こういう感じ? っていうひどく曖昧なものだ。

「でも、作れるだろう?」

「まあ、なんとかできないこともなくはないような気がしないでもないです!」

「めちゃくちゃふんわりしてるな」

「ヒーロさんの仕様書よりマシです!」

いつもなら、【回答者】の力を使うことでちゃんとした設計図を作る。

だが、サーヤならできると信じた。

そして、サーヤができるのであれば回数制限がある【回答者】を温存できると考えたのだ。

「無理なら、こっちでちゃんとした設計書を作る。本当にできないのか?」

「……やります。やって見せます。でも、その代わりご褒美を要求します。すごいの!」

いったい、この子は何を頼むつもりなのだろう。

「わかった。なんでも聞いてやる」

「俄然、やる気が湧いてきましたよ。……じゃあ、まずは速攻改修を終わらせちゃいます。あとで逃げないでくださいね」

背筋がぞわっとした。

まるで蛇に睨まれたカエルのような気分だ。そういえば、キツネは肉食獣だったな。

「あっ、ああ、約束する」

「ふっふっふっ、楽しみです。よっこらふぉっくす、こんこんこん♪」

サーヤが怪しげな歌を口ずさみながら作業に戻る。

何はともあれ、やる気があるのはいいことだ。

あれができれば次の戦いで役に立つ。

無事完成できるよう、サーヤのサポートをしつつ、俺は俺で別の仕事をしておこう。