軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二話:転生王子は迎撃する

夜明けと共に目を覚ます。

深夜の奇襲のせいで少々寝不足だ。

窓の外では、まだ雨が降っていた。

「……一晩中、やつらは雨に打たれたのか、大変だったろうな」

寒さと飢えによるストレスと疲労というのは耐え難いものだ。

きっと奴らはこの苦しみから早く逃れようと、死にものぐるいで襲いかかってくる。

ゆえに今日の戦いだけならば、敵軍の士気は非常に高くなってしまっている。一日ぐらいなら疲労を無視して、気持ちで戦うことができるからだ。

だが、士気が高くなるというのはいいことばかりではない。

早く終わらせる。その考えに支配されてしまうと視野が狭くなる。まっすぐ突っ込んでくるイノシシなど、ただの的に過ぎない。

「ヒーロ王子、敵襲です。敵軍は東に戦力を集め、一点突破を狙っております」

伝令兵がやってくる。

此度の戦いでは、軍を使った攻めではタクム兄さんが指揮を取り、城壁やバリスタなどの設備を使った防衛は俺が指揮を取る。

「わかった。急ごう」

今までは前哨戦に過ぎない。こちらはこそこそ隠れながら殴って逃げていただけだ。

しかし、ここからは軍と軍がぶつかり合う本当の戦争だ。

雨が弱まってきた。

小雨に撃たれながら城壁に登る。

城壁は、放物線を描いてとんでくる矢などを防ぐために壁が反っており、頭上を守るように設計されていた。

そのおかげで雨も凌げる。

城壁の上には、二百人強がいる。その半分以上はクロスボウを構えた一般市民たち。

長期戦のため、三グループにわけてローテーションでことにあたるため、捻出できる最大兵力七百人ではなく、この人数で迎撃する。

全兵力を投入するのが一番、効率がいいとはいえ、この長丁場でそんなことをすれば、あっという間に使い物にならなくなる。

城壁にはクロスボウの矢を通すための穴があり、その穴から民たちは敵軍を睨んでいた。

その表情には怯えがある。

無理もない、彼らは軍人ではないのだから。

「全員、配置についたな!」

俺の叫びに、みんなが応えてくれる。

「この壁を越えられてしまえば終わりだ。……だがな、この城壁、そして、俺が作った武器を持つお前たちがいれば、必ず防げる。さあ、いきなりの正念場だ。叩き潰して、勝利を掴もう!」

その返事は歓声。

俺たち、カルタロッサ王国は負け続けて、奪われ続けてきた。

だが、それもここまでだ。

ここで勝ち、すべてを変えていくのだ。

敵が怒号と共に突進してくる。

敵兵の数はおおよそだが、千五百ほど。

後方に予備兵力を残すのは常道だ。

『思ったとおり、短期決戦狙いか』

俺は、長期決戦を見越してローテーションを組んだ。

しかし、奴らはこれだけの戦力をぶちこんでいる。慎重に行くのであれば、向こうもローテーションを組んで、二十四時間絶えずプレッシャーを与えてくる。

あえてそれをしていない。

それは、今日にでも決着を着けてしまいたいという意思の現れにほかならない。

短期決戦を行うこと自体は必ずしも悪手ではない。だが、そう選択するようにこちらが手を打っているのに、苦しさから逃れるためにそうしたというのは愚かとしか言いようがない。

「バリスタ隊は射撃を始めろ。狙うのは、ハシゴを持っている連中だ。クロスボウ隊はまだだ、訓練を思い出せ!」

民たちのトリガーにかかる指が震えている。

恐怖を振り払うために、一秒でも早く矢を放ってしまいたいというのが見てとれる。

だが、それは許さない。

まだ、有効射程の外。矢の数は有限だ。大量に鉄をストックし、矢を作っているとはいえ、無駄に使っていい矢など存在しない。

……最悪、鉄がなくなれば錬金魔術を使い、土や石を固めた矢を作れるとはいえ、それではクロスボウの持ち味である威力を殺してしまう。

クロスボウは、一般人ですら金属鎧を貫く矢を放つことができる。しかし、土や石の矢ではそれが叶わない。

まずはバリスタの矢が放たれた。

それらは、俺の指示どおり、ハシゴを数人がかりで運んでいる連中を狙う。

『ハシゴに、 投石機(カタパルト) 。よく用意できたな』

昨日、敵軍物資のほとんどは燃やしたが、一部なんとか回収したものと、昨晩のうちに森の木々を切って作ったものがあるようだ。

雨の中、あんなものを作るとは頭が下がる思いだ。それも凄まじい数。

だからといって容赦はしない。十メートルを軽く超える城壁、それを超えるために作ったハシゴも当然、それを超える長さ。

しかも、鎧を着込んだ兵が何人も乗ることを想定し、簡単には壊されない強度に仕上げてある。……となると必然的にとても重くなってしまう。

あまりにも遅い。精度が求められる荷車などは作れなかったようで、人の手による運搬をしているせいだ。つまり、いい的なのだ。

さっそく、バリスタの矢が命中。

「昨日のでみんなだいぶ勘がよくなりました! 今回の的は動くのによくあたりますよ」

「あれだけやればそうなるか」

昨日、敵兵を近づけないようにテントや倉庫をバリスタで打ちまくったのが、今ここで生きている。

ドワーフたちの射撃精度が大きく向上していた。

面白いようにバリスタの矢がハシゴやそれを運ぶ兵たちにあたり、一撃でばらばらにしていく。

敵兵たちはそれでも突進を止めない。

バリスタは威力精度はあるが、連射速度があまりにも遅い。二分で一発程度が限界なのだ。そのせいで、精度をあげてもすべてを破壊することはできない。

敵の先頭との距離が二百メートルを切る。

そのあたりから、 投石機(カタパルト) で巨大な岩がどんどん飛んできた。

投石機(カタパルト) は一般的に有効な攻城兵器ではある。何発も打ち込めば石壁ぐらいならぶち壊せるのだ。

しかし、俺とサーヤを始めとするドワーフたちが作った城壁はそんなものではヒビすら入らない。

まったく 投石機(カタパルト) が効果をなさないところを見て、わずかだが敵軍が動揺をしていた。

「クロスボウ隊、放て!」

ようやく、有効射程に入ってくれた。俺の指示で民たちがクロスボウを放つ。

民たちには狙いすぎない訓練をしてある。

ある程度の人数で小隊を作り、常にその小隊は等間隔かつ一斉に矢を放つ。

矢でのピンポイント射撃ではなく、網を張るイメージ。

それが一番効率がいい。

そうして、放たれた矢は素人が撃っているにもかかわらず、それなりの命中率を誇っている。

あちこちで悲鳴があがる。

この矢にも毒を塗ってある。

矢というのは一本、二本で確実に敵を無力化できるようなものではないし、金属鎧で急所を守られると効果が激減する。

しかしだ、クロスボウであれば金属鎧を貫き、わずかでも傷をつければ毒が敵を無力化する。一矢必殺。

だからこそ、少人数で圧倒的な戦果を挙げられる。

「……ハシゴをもっている人が多すぎて。バリスタが追いつきません!」

サーヤが悲鳴を上げる。

他のドワーフたちからも同じような報告が次々とあがってくる。

敵はカタパルトがまったく通用しなかったことで、城壁を壊すのではなく、ハシゴをかけることを選び、それを徹底している。

……よくもまあ、これだけの数、ハシゴを用意したものだ。

ほとんど不眠不休だっただろうに。

「最悪、アレを使う。慌てず、できることをしろ」

「はいっ!」

ついに敵軍の先頭が城壁に取り付いた。

それはセオリーの一つ。

本来、完全に城壁に張り付かれると、矢などでは非常に狙いにくい。

真下というのは案外死角なのだ。とくに城壁に穴をあけて隠れながら撃つような仕組みの場合はそれが顕著になる。

だからこそ☆型が活きる。張り付かれたとしても別の☆の頂点から狙い放題。

☆型は死角を潰すためにこそあるのだ。

張り付いた兵たちも次々に矢の餌食になっていく。

それでも、迎撃が追いつかない。

ついに、巨大ハシゴが最前列まで届いてしまい、それを数人がかりで城壁に立てかけようとする。

「雪豹隊、ハシゴを立てている連中を優先しろ」

クロスボウ隊は、あくまで網を張るイメージでピンポイントでは狙わない。

しかし、例外はある。

ごく少数、才能があり十分に狙えるだけの腕前を持つものがいた。

そういうものは雪豹隊に任命しており、彼らだけは遊撃隊として、個人での射撃を認めている。

ハシゴが完全に持ち上がったところで、それを支えている兵士の肩に毒矢が突き刺さり、悲鳴とともに転倒。そして、支える人間が減ったことでハシゴが倒れて、何人かがハシゴの下敷きになる。

……それでも、すぐに別の兵が代わりにハシゴを持ち上げ、驚いたことにその作業をする人間への射線をふさぐ位置に肉壁として立ちふさがるものたちが現れだした。

凄まじい自己犠牲精神。

雪豹隊を中心として、必死になってハシゴを立てかけられないようにするが、ついにハシゴを立てかけられてしまう。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

裂帛の気合と共に、そのハシゴを駆け上がるものがあらわれた。

凄まじい魔力を感じる。

ハシゴを掴んでよじ登るというよりは、垂直に疾走するなんていう離れ業、最後の一歩は思いっきりハシゴを蹴り飛ばし宙に舞い、見下ろしてくる。

もし、徹底して鏡面のように城壁を磨き上げ、でっぱりや摩擦を殺す工夫をしていなければ、ハシゴなどなくても簡単に彼は城壁を走って登られてしまっただろう。

こいつは間違いなく敵の精鋭。肉壁に守られて矢を防ぎながら、活躍の場を待ち続けていた。

彼の役割は一つ、誰よりも先に城壁に登り、非力や弓使い及び、厄介なボウガンの破壊。

「頼む! 獅子隊」

だが、そういう手を使うのも想定済み。

その精鋭兵が矢避けのために反っている部分に着地すると同時に真っ二つになった。

「へっ」

わけがわからない顔と、あっけにとられた声、それが敵精兵の最後。

それをなした剣士は剣を鞘に入れると、ハシゴに向かって突きを放つ。

不可解な現象が起きた、衝撃がハシゴの先まで伝播していき、ハシゴ全体がひび割れ、ついには粉々に砕けた。剣一本、一撃で十メートル越えのハシゴを木っ端微塵にするなんてもはや超常現象。

……衝撃と魔力を伝導させ内側からの爆発させた。理屈はわかるが真似できる気はまったくしない。

「お疲れ、ヒバナ」

「ちょうど、暇していたところよ。意外と楽だったわ。だって、どこから敵が来るかわかっていて、しかも私は敵の死角にいる。気配を殺して、着地の瞬間を狙えば、簡単に殺せるわ」

「あのクラスの剣士相手にそれをできるのはヒバナぐらいだ。それにハシゴを壊した技はもはや曲芸だな」

「バルムートに教えてもらったの。こういう戦いだとできたほうがいいと言うから、タクム王子も習っていたわよ。本来は斬撃が通用しないほど固い鎧を纏っている相手を内側から壊す技らしいわ……斬撃にばかりこだわっていたけど、打撃というのも便利なものね。こういう鞘の使い方は目から鱗だったわ」

俺は笑う。

教えたバルムートの引き出しと慧眼もさすがだが、こんな技をあっさり習得するヒバナとタクム兄さんも突き抜けている。

獅子隊、それはうちの最強戦力達のことだ。

各☆の頂点に一瞬で駆けつけられるよう、最強戦力たちを配置している。

そして、こうやって向こうの精鋭たちが城壁に登れば迎撃する役割を果たす。

この物量差、どうやっても城壁を登ってくるものが現れる。

その場合、ドワーフや民などの非戦闘員が多く、一方的に蹂躙されてしまいかねない。

だから、つねに超一級の戦力を配置し、そして彼らは消耗しないように、クロスボウでの迎撃などには参加せず、ゆっくりと休んでもらっている。

ちなみに、タクム兄さんとバルムートはべつの☆の頂点にいて、この状況でぐっすりと昼寝中だ。休むべきときに休み、力を振るうべきところで万全の力を振るう。休むというのもまた、剣士として必要な資質。

彼らの場合、それでしっかり休息がとれるため、使い減りがしにくい。

「って、いちゃついている場合じゃないですよ。今、三箇所同時にハシゴかけられようとしてます。そろそろあれ使ってもいいじゃないですか!?」

「いや、もう少し引きつけろ。まだ、通常装備で迎撃できる。あれは一発芸だからな、使うのはもっと敵が集まってからだ」

この城壁には二つ、劣勢をひっくり返すための機構を盛り込んでいる。

やばい奴と、すごくやばい奴。

すごくやばい奴のほうはまだまだ使えない。しかし、やばい奴のほうはそろそろ使うべきだろう。

こっちの目論見通り、敵軍は殺気立って今の戦力を惜しみ無くつぎ込んでくれているのだ、ならまとめて屠るのが礼儀というものだ。