軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十六話:転生王子は潜入する

馬車で街道を走る。

特別製の馬車……と言いたいところだが、今回は普通の馬車だ。

今回の目的は餌を撒くことであり、おそらくは馬車を捨てることになる。

馬車というのは逃走には向かない。魔力持ちなら走ったほうがずっと速く、しかもその大きさ故に隠れることも難しい。

そうなると、捨てた馬車は接収されてしまうだろう。

それ自体も大きな損失だが、俺の馬車は先進的な技術をいくつも盛り込んでおり、技術を盗まれたくない。

「やっぱり、普通の馬車は遅くて揺れるわね」

「これでも、既存技術の範囲でわりと頑張ってるんだぞ?」

新技術を漏らさないように留意しつつ、旅を少しでも速く快適にするために工夫をしてあった。

可能な限りの軽量化とパーツごとの精度向上。

この馬車はなんの変哲もない馬車ではあるが、純粋に質がいい。

「そうね、贅沢を覚えすぎてしまっているわ。いつもの馬車が恋しい」

いつもの馬車とは、船から積荷をカルタロッサ王国まで運ぶのに使っている馬車のことを言う。

あれはサスペンションを搭載し、衝撃を吸収するタイヤを履かせていて乗り心地は天と地ほどの差がある。

「我が主よ、その隣国とやらについて教えていただいてよろしいかな?」

「そう言えば、おまえには話してなかったな。隣国……その名をグルニッジ王国と言う。こっちの大陸じゃもっとも好戦的な国だ。もともとは年中戦争を仕掛け、侵略を続けた軍事国家だった」

「もともとはとは?」

「国を広げすぎて、どの方面に進むにも大国とぶつかるようになってしまったんだ。だから、ここ二、三年ほどは大人しくしてる。……ただ、内情は火の車だ。なにせ、軍が肥大化しすぎて、維持費だけでも馬鹿にならない。今までは侵略して奪うことでどうにかなっていたし、戦うことに国力の全てを注ぎ込んでいたから国内の産業も育てられていない。あそこは戦い続けて、奪い続けないと成り立たない、そういう国だ」

グルニッジ王国は、奪い続け、大きくなり続けてきた。

むろん、侵略した国や街から搾取はしている。しかし、あの国は侵略する際にやりすぎる。根こそぎ財産を奪い、戦いで大地に爪痕を残す。一時的には多くのものを得られるが、傷ついた大地は実りを育まず、根こそぎ財産を奪われた人々は立て直す余力もない。

なにより、侵略した後のことが雑なのだ。

だから、グルニッジ王国に奪われた大地はその輝きを失うし、反乱も多い。それは税収の低下という形で首を締めている。

「なるほど、そういう国はいくつか見てきましたので想像がつきますな。……だから、獲物に飢えているというわけですな」

「ああ、あいつらは大怪我を負ってでも、強い国に挑まないといけないところまで追い込まれているんだ。……そこに豊かになったカルタロッサが現れたら、ここぞとばかりに骨までしゃぶりつくしにくる。恥ずかしい話だが、今までカルタロッサ王国が生き残ったのは、侵略する価値もない国だったからだよ」

痩せた土地で、ろくな資源もなく、その上定期的に魔物が溢れてくる。国庫の中はいつも空っぽ。

戦争を仕掛けても赤字。だからこそ見逃されていた。

「ふむ、そういうことでしたか。なら、多少わざとらしくとも問題ないですな」

「ああ、塩、メロン、金塊、こんなものを大々的に売りだせば怪しまれる。だが、隣国は怪しくても食いつかないといけない。そういう状況だ。だからこそ勝算があるとも言える。それに、グルニッジ王国の配下にある街や村は五十を超えるし、人口なんて三十万人とも言われている。普通に考えれば、人口千人のうちが喧嘩を売るなんて馬鹿げている……だが、そのスケールや数ほど体力はない」

「ははは、なるほど。面白い。我が主はそこまで見えていた上で戦おうというのですな。……これは楽しい戦いになりそうだ」

バルムートは笑う。

ふつう、これだけ圧倒的なスケール差を聞けば怯みそうだが、彼はそうではないらしい。

「ただ、どうせ戦うのであればヒバナどのが留学していた騎士の国とやらが良かったですな」

「それはやめたほうがいいと思うわ。あの国は強いわよ」

「だからこそいいのです」

「そう言うと思ったわ。でも、戦争なんて必要ないの。騎士の国じゃ毎年、世界大会を開くわ。目的は自国の騎士に外の技を経験させるため。出場するには、どこかの国の推薦が必要だけど、ヒーロが推薦してくれるはずよ。勝ち残っていけば化け物と戦えるわ」

「それはそれは……是非、お願いしたいものですな」

「というわけよ。戦争が終わったら、推薦を頼むわ。二人ほど」

「ヒバナも出るつもりなんだな」

「当然よ。今の私が、かつて見上げるしかできなかった人たちにどこまで通用するか試したいもの」

「戦争に勝てば、必ず推薦状を書くと約束する」

ヒバナとバルムートが強く頷く。

騎士の国か、そう言えばあそこを自分の目で見たことはなかったな。

もし、二人があの大会に出るのであれば俺も観戦するとしよう。

五日ほどの旅を経て、ようやくグルニッジ王国の王都にたどり着いた。

この王都は城を守る城壁だけじゃなく、街全体を包む巨大な防壁を用意していた。

技術的には稚拙もいいところ。ただ規模がでかい、高くて分厚いだけ。

しかし、その防壁がグルニッジ王国の国力を誇示していた。なにせ、この街は五万人が暮らしている。

五万人が住む街全てをこんなもので覆えるというのは凄まじい。

「サーヤに見せてやりたかったな」

「あの子なら、自分の作った城壁と比べて、ドヤ顔しそうね」

「まあな、規模ならともかく技術力と性能なら圧勝だ」

サーヤのドヤ顔が頭に浮かんで苦笑してしまう。

俺たちは入場門に並ぶ。

この国では入場の際に入国審査及び、積荷の検査、関税の徴収などを行う。

五万人が住んでいる街だけあって、商品の流通の活発で行列ができていた。

根気よく待つこと二時間ほど。

ようやく俺たちの番が来た。

いかめしい顔をした門番が御者席にいる俺のもとへ一人、三人が積荷を確認し始める。

「許可証を出せ」

俺は言われたとおり、許可証を出す。それも偽造じゃない本物だ。

グルニッジ王国とはこれでも親交があり、過去に発行してもらった。

本物、つまりヒーロ・カルタロッサ王子としての身分をここで明かすことに、意味があった。

「貧乏国の王子様がなんでわざわざ来たんだ?」

笑いそうになる。

ただの門番が、王子相手にこの態度。

つまり、それだけ我が国が舐められているということ。

「特産物を売って、買えるだけ食料を買って帰るために」

「特産品だと、あの何もないカルタロッサ王国が? いったい何を売る気やら。王子自らが買い出しなんて貧乏国は大変だな。ははっ」

ヒバナが腰の剣に手をかけたので、睨みつけ制止する。

……ヒバナは馬鹿じゃないが時折感情的になってしまう。

しばらくは積荷のチェックを待つ。

すると、うしろからざわめきが聞こえてきた。

「嘘だろ」

「これ、まじかよ」

「なんで、こんなもんが」

驚くだろうな。なにせ、貧乏国に無いはずのものばかりだろうから。

「たっ、隊長、こいつらとんでもないものを積んでます」

「何? 今、そっちに行く。貴様はついてこい」

「ああ、構わない」

門番と共に、積荷を見に行く。

「なんだと、塩、金、それにこの甘い香りをする見知らぬ果物はなんだ」

「メロンだ。名前ぐらい聞いたことがあるだろう?」

「メロン、あのメロンか!?」

メロンは天上の果実として、名前だけは有名だ。

ごくりと四人の門番たちが生唾を飲む。

「言え、なぜこんなものがある」

「最初に説明した通り、カルタロッサ王国の特産品だ。最近、塩が作れるようになって、金山が見つかり、メロンの栽培に成功した」

信じられないものを見るように、俺の顔に視線を向ける。

ありえないと思っているだろうが、こうして目の前にあるはずがないものがあるため信じざるを得ない。

「許可書と積荷のチェックは終わっただろう? 関税が必要なら額を言ってくれ。急いでいるんだ」

「……待て、上へ報告する。それまで、ここに居てもらう」

まあ、予想通りだ。

こういう場合は上へ報告する。

それから、俺たちは門の近くにある勾留所のようなもので待たされる。

「遅いわね。これからどうなるのかしら?」

「可能性は二つ、一つはもっと詳しい話をさせるため、えらいさんのもとへ招かれる。もう一つは積荷ごと馬車を接収、そのまま牢獄行き」

「後者ってありえるの?」

「ありえるというか、前者もほぼ変わらないな。ようするに捕まえて、話を聞き出す。で、その後は王子である俺を人質にとって、その後に行ういろんなことを有利にする」

「街に入ろうとしただけでここまでするの?」

「そこまでさせる品を持ってきた。だからこそ、餌足り得る」

「我が主は肝が座ってますな。その若さでこれとは恐れ入る」

正直に言うと多少の不安はある。

でも、俺の騎士たちが隣にいてくれる。それに、ここまでみんなが勝つために必要なものを積み上げてくれた。

俺だけが恐怖から逃げるわけにはいかない。

扉が開く音が聞こえて、そちらを向く。

「出ろ。おまえたちを案内する。フェイアル公爵が話を聞きたいそうだ」

公爵とは大物だ。王族に次ぐ地位と言ってもいい。

それに、フェイアル公爵といえば有名人。戦場で名を馳せている将軍だ。

おそらく、戦争になれば彼が出張ってくるだろう。

戦う前に、敵将の顔を見ておくのも悪くない。

「行こうか、ヒバナ、バルムート」

「ええ、何があってもあなたを守るわ」

「我ら師弟がいるのです。どのような状況でも問題ありませんな」

頼りになる騎士たちだ。

さあ、ここからが俺の戦いだ。