軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十話:転生王子は芋を掘る

瞼に光が差し込んで目を覚ます。

気がついたら朝が来ていた。

俺は机に突っ伏すように寝ており、体を起こしたときに毛布が落ちた。

「寝落ちしたか……」

久しぶりにやってしまった。

いつもは睡眠をしっかり取るようにしている。

徹夜は一時的にアウトプット量を増やせるが、その後に悪影響が出てトータルではプラスにならない。

だから、毎日無理なくやり続けるように心がけていた。

だというのに熱が入りすぎてしまった。

懸念だった、メロン問題が解決し、一気に地下農場計画を進める目途が付いたせいだろう。

「今回に限っては徹夜も悪くないだろうな。昨日と今日ぐらい無茶するか」

基本的には徹夜は害悪なのだが例外はある。

魔力の回復量は体調にもよるがほぼ一定であり、魔力による地下農場の開拓作業は一日でできる作業量が限られている。

設計で日数を食った遅れを後で取り戻すことは不可能。

たとえ明日、疲れでほとんど頭が回らなくなろうとも、今日で設計を終わらせれば、魔力を使った作業にかかる日数を一日減らせる。そっちは単純作業で頭を使わなくともできるのだ。

「まったく、いつもは私に無理をするなと言うくせに、自己管理がなっていないようね」

ヒバナがハーブティをもってやってきた。

「肩に毛布をかけてくれたのはヒバナか」

「ええ、もう冬よ。気をつけないと風邪を引くわ」

寝落ちしたのだから毛布なんてかぶっているわけがない。

それだけじゃなく、暖炉には薪が焚べられて部屋が温かく保たれていた。

このハーブティといい、ヒバナの気遣いがありがたい。

「ありがとな」

感謝を言いつつ、ヒバナが入れてくれたハーブティを飲む。

ハーブティと言っても山に自生している薬草だ。

それを天日干しにしたものに湯を注ぐと、なかなかいい香りでリラックスさせてくれるハーブティになる。

熱めに淹れたハーブティのおかげでぼやっとした頭が冴えてくるのを感じた。

「それで、地下農場の拡張と城壁の構築は順調なの?」

「まだ一日目だが、俺が作る地下農場の設計も、サーヤたちが手がける城壁の設計もうまく進み始めた」

「それはすごいわね。千人を養う地下農場と、無敵の城壁なんてものが、本当に作れるなんて」

「そうだな。だが、それだけじゃまだ足りない。その作業を終わらせれば、武器作りが待っている。作業をまいていかないと」

「そっちのほうを先にするべきじゃないかしら?」

「それがなくても膠着状態にはもっていける。膠着状態に持ち込んでからでも武器づくりは間に合うんだ。だから、優先すべきは守りとライフライン。……ただ、この作戦の要はもう一つある」

「私達の遊撃隊ね」

「ああ、神出鬼没で無敵じゃないとならないんだ。その存在が敵の消耗を何倍にもする。酷なことを言うが、ヒバナたちが負けることは許されない」

秘密の地下通路から現れ敵の食糧を焼き払う。

そういう存在があれば、食料は当然、司令官を始めとする要職を厳重に守らなければならなくなる。

一般兵も、いつ襲われるのかと怯える。

その負担は、非常に大きく、ボディブローのように効いてくる。

「そのつもりよ。私には最高の見本が二人もいるもの。私が三人目の規格外になる。そしたら、騎士の国にだって負けないわ」

騎士の国には、十二人の黄金騎士がおり、そのうち三人は別格だと彼女は言った。

そして、タクム兄さんとバルムートはその別格な黄金騎士に匹敵する。

あと一人いれば、最強といわれる騎士の国にすら並ぶのだ。

絶対に負けない騎士が三人いる。これは国全体の総戦力からすればさほど大きくないが、そういうカードがあるということに大きな意味がある。

「冬が終わるまでに、あの二人に並ぶことができそうか?」

「やってみせるわ。……言わなかったかしら、私は天才なのよ」

「それでこそ、俺の騎士だ」

「私に無茶振りしたのだから、自分でやれると言ったことぐらい、きっちりやってほしいわね」

「始めから、そのつもりだよ」

「それでこそ、私の主ね」

さきほど俺が使った言い回しをあえて使ったのだろう。

ヒバナと話していると、リラックスできる。

「じゃあ、お互いがんばろうか」

「ええ、訓練に行ってくるわ」

「そのまえに、タクム兄さんにこれを渡してくれないか」

「これは地図ね。この印は何かしら?」

「俺が想定した、敵が利用する水源の予測ポイントだな。森で湧き水が出る場所や、この国にある井戸などだな。国の資料を漁って予想したんだが……ここがまだ使えるか、あるいは他に水源がないかをタクム兄さんの部下を使って調べてほしい。過去じゃなく現時点の情報がほしいんだ」

湖は調査対象から外している。

理由は簡単、大量に飲むと腹を下すし、菌を殺すために煮沸するにしても大量の燃料が必要になるため適さない。

現代人と違い、この時代の人間は、ある程度菌への耐性があり、常に水が流れ続ける川なら、そのまま飲むことができる。

しかし、カルタロッサ王国から川は遠く、近くにあるのは水が淀みやすい湖であり、飲料水には適さない。

野外で水を確保する場合は、湧き水や井戸、あるいは雨水などが主流となる。

だからこそ、敵が水を得るポイントを限定しやすいのだ。

「それも作戦のうちなのね」

「ああ、これは攻めの策だ」

「たしかに預かったわ」

この調査ができるのは、雪がつもってしまう前まで。

それまでに正確なデータが欲しい。

一番いいのは、俺自身が探査魔術を駆使して調べることだが、いかんせん、俺には仕事が山積みだ。

人に任せられることは人を使って片付けよう。

「あっ、それからもう一つある。こっちは、仕事というより……」

俺は特殊な仕事を伝える。

それは面倒ではあるが、きっとみんな喜んでくれる仕事だ。

日が暮れるころ、ようやく地下農場の詳細設計が完了した。

昨日徹夜しなければ、今日中に完成させることは不可能だっただろう。

千人分の食料を余裕をもって賄えるよう設計してある。

ある程度のバッファは重要だ。

なにせ、不作になったから死んでくれとは言えない。

結局育てることにした作物は六種類。

小麦、芋、トマト、レタスに、メロン。最後の一種類はヤギ用の牧草。米は水田を今から地下に作る手間が大きすぎて断念した。

地下の食事は小麦、芋、トマト、レタスと魚及び、ヤギの乳を使った乳製品がメインになる。

カルタロッサ王国と海をつなぐトンネルの出入り口は封鎖するが、そこへ繋がる秘密の通路があり、漁はできるのだ。

問題は敵が海側から攻めてくる場合だが、好き好んで魔物と瘴気に溢れた魔の森を経由するとは思えない。

あんなところを大軍で通れば、大損害を受けるのは誰だってわかる。

そんなことを考えながら、さっそく適当に地面を掘り進む。

無茶をしたせいで意識が朦朧としているので、頭を使わない、とにかく適当に掘りまくって崩落しないように固めるだけの作業を優先して行う。

これを、明日には十分魔力が回復できる量だけやる予定だ。

雑な単純作業のため、計画を練る余裕があった。

「ふう、あとは植える作物の確保だな」

冬越えのために民に分配した後に残った備蓄の小麦はそのまま使えば十分賄えるし、その分をアガタ兄さんに言って確保してもらっている。

レタスはそのために必要な分を買ってきた。トマトは必要量を買えなかったので、一度目の収穫では十分な量を確保できないが、次の収穫からは十分量を得られるようにする。

そして、ジャガイモはと言うと……。

「おいっ、ヒーロ、来てやったぜ!」

「まったく、どうしてこの僕まで呼ぶんだい」

「いいじゃないですか、アガタ兄様。こんな面白そうなこと見逃せません。それに、私、声をかけただけで無理強いしてないですよ。ただ、普通に来たかっただけじゃ?」

「ごほんっ、僕はただ民より先に、その改良された芋を試しておかないといけないと思ったから来ただけだよ」

「アガタはたまに面倒になるよな」

タクム兄さん、アガタ兄さん、妹のナユキが現れた。

その後ろにはヒバナとバルムート、それにサーヤがいる。

「みんな、来てくれたか。じゃあ、さっそく頼む」

「おうよっ!」

タクム兄さんが真っ先に足を進め、彼がたどり着いたのは地下農場の芋エリア。

太い蔓を思いっきり引っこ抜く。

「こいつはすげえな、ひい、ふう、みい、一つの株に十個はついてるぞ。しかもでけぇ」

「これが芋? 僕の知っているものとはまるで違いますね」

「はいっ、お芋ってもっと長細くて小さいものかと。一回り以上大きくて丸々としてます!」

タクム兄さんたちが来たのは、種芋用に実験用の芋をすべて収穫するためだ。

錬金魔術で土を操作すれば効率良くできるのだが、芋はけっこう深く埋まっており、芋を傷つけないようにすると繊細な操作が必要で、かなり消耗する。

だから素直に人海戦術。

一般兵を使えばもっと人数を集められるのだが、現時点ではこの地下施設は極秘。

ここを知るものだけを応援に呼んだのだ。

「おらおらおら、こいつは楽しいな!」

タクム兄さんはまるで人間重機のように次々芋を引き抜いていく。

「あっ、負けませんよ。私も参戦します。ヒーロさん、見ていてくださいね!」

サーヤが土魔法を駆使して、タクム兄さんに匹敵するスピードで芋を掘り起こしていく。

……つまらないことに魔力を使うなんて。

でも、まあ問題ないか。まだ城壁の設計には時間がかかる。今なら魔力の無駄遣いをしても構わない。

サーヤの場合、たぶん何も考えていないのだろうが。

「はははっ、サーヤよ。俺に勝てるとでも?」

「ふふふっ、そのセリフをお返しします。穴掘りはキツネの専門分野ですよ!」

なぜか、タクム兄さんとサーヤの競争が始まる。

そんな二人を見て苦笑していると、他のメンバーも芋を掘り始めた。

「ヒーロ兄様、とっても美味しそうですね。お芋掘りって楽しいです」

ナユキが誇らしげに芋を見せつけてくる。

「うまいぞ。俺が品種改良した芋は甘くて、ぱさつかずほくほくだ。特に獲れたてはたまらない、茹でて塩とバターでいくと最高だ」

「素敵です。それに、自分で掘ったお芋をその場で食べるのがわくわくします」

「そのためなら、訓練後の重労働も耐えられるわね」

「ふむ、錬金術の力で改良された芋、興味がわきますな」

「やれやれ、早く終わらせて仕事に戻るとしよう。僕は忙しいんだ」

うん、平和だ。

こっちの常識人チームはまったり芋掘りを楽しんでいる。

そして、向こうはと言うと……お互いのプライドをかけて、極限の身体能力と極限の土魔術で、とてつもない才能の無駄遣いをしていた。

あれなら、十五分もしないうちに掘り尽くしそうだ。

それが終わったら、種芋用の分と食料備蓄用の分をより分けてから、芋パーティ。

芋というのは、掘りたてが一番うまい。

そして、この芋は俺が品種改良を重ねた品。

まだ、理想には届かなくとも、ほくほくで甘みがある。

焚き火を囲んで、堀ったばかりの芋に、バターやチーズを載せていただく。そして、秘密兵器にこっそり試作していたシオカラも持ってきている、これまた芋との相性は抜群。

きっと、みんな喜んでくれるだろう。