軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六話:錬金術師は見届ける

場所を騎士たちが使う訓練場に変える。

さきほどの親睦会に参加した全員がここにいた。

なにせ、最強同士の戦いを見られる機会なんてそうそうない。

見逃すなんてもったいなすぎてできるものか。

タクム兄さんは、騎士団の最精鋭たちを呼んでいる。

彼らの勉強になるのと、バルムートに今後己の騎士を指揮させることを考えているからだろう。

決闘を行う二人がリングの上に立つ。

「バルムートよ。俺の魔剣を試合前に見ておけ」

タクム兄さんが己の剣をバルムートに渡す。

「では、こちらの魔剣も」

逆にバルムートは自らの剣をタクム兄さんに渡した。

お互い、刃渡りや重量、そして魔剣としての性質をその場で調べる。

お互いの武器を知ることで実力が明確に出る形で勝負をしたいというタクム兄さんからのメッセージ。

「こいつはヒーロが使っていた魔剣じゃねえか」

「ええ、我が主から賜りました」

「ちっ……。すまねえ、なら俺はその剣を使わねえ。おいっ! ガルド、てめえの魔剣を貸せ」

「はいっ! どうぞ団長」

ガルドというのはタクム兄さんがもっとも信頼する三騎士のうちの一人だ。

そのガルドから剣を受け取り、二、三回素振りをしてから、バルムートに渡した。

「考えていることはわかります。ですが、それは舐めすぎではないですかな?」

タクム兄さんがこんなことをしたのは、このまま戦えば自身が有利すぎるためだ。

俺の作り上げた魔剣というのは、形状、重心、重さ、性質、それら全て担い手に合わせて最適な形でチューニングしている。

タクム兄さんの魔剣はタクム兄さんの力を最大限引き出せる設計なのだ。

しかし、バルムートの剣は俺のお下がり。つまり、俺が使うことを前提にした剣。

トータルスペックで差がなくとも、このまま戦えばタクム兄さんが有利になる。

そして、タクム兄さんが部下の魔剣を使うことに対して、バルムートが舐めすぎではないかと言ったのにも理由がある。

タクム兄さんは今日はじめて部下の剣を握ったのに対し、バルムートのほうは俺から剣を受け取ってから数日間慣らしをしている。

この状況では逆にバルムートが有利だ。

「心配すんなよ。ちょいと自分の剣と感覚は違うがな、俺が鍛えた男に合わせた剣だ。そうそう違いはねえよ。てめえだって、その剣を受け取ってから日が浅いんだろ。ちょうどいいバランスだ」

「……そういうことであればいいでしょう。ですが、私が勝ったら次は自身の剣で勝負してもらいますぞ」

「ああ、いいぜ」

戦いの始まりの予感に空気が痛いほど張り詰めていく。

そんな二人は剣に薄い伸縮カバーを取り付ける。

それは、俺が訓練のために作り上げた錬金道具。

わずか、五ミリ、二十グラムと超軽量でありながら剣を殺す。

斬れなくなるし、クッションになって衝撃もだいぶ和らぐ。

なぜ、あんなものを作ったかというと、剣士の鍛錬に置いてもっとも有効なのは実際に斬りあうこと。

しかし、剣で斬れば命の危険がある。だが、木刀などを使えば実物の剣と比べると軽すぎるし、重心も違って逆に変な癖がつき、実戦で違和感を持ってしまう。

それだけでなく魔剣などで力が増す感覚は絶対に掴めない。

真剣を使って、安全に斬り合う。それを可能にするための発明がこいつだ。

これは兄とその騎士団、ヒバナにも非常に喜ばれた。

二人はそれぞれの剣を手に取り、距離をとった。おおよそ二メートル。

この程度の距離、あの達人たちにとっては無きに等しい。

「ヒバナ、どっちが勝つと思う」

「……難しいわね。どちらも遥か上にいる人たちだから。だけど、強いて言うならタクム王子だと思う。どっちに転んでもおかしくないわ」

「俺もそう思うよ」

タクム兄さんがコインを指で弾く。

コインが地面に落ちたら試合が始まるのだ。

ここから先、瞬きすらできない。

コインが落ちる、その瞬間二人が消えて、その後に爆音が聞こえた。

魔力と魔剣の力によって身体能力を強化し、その身体能力すべてを速度に変換し、一歩目から最高速に乗る技術。

その踏み込みは音を置き去りにした。

これだけの出力があることも恐ろしいし、その速度を完全に乗りこなせることがもっと恐ろしい。

再びの爆音。

リングの中央で消えた二人が剣を打ち合ったのだ。

それから、無数の剣戟が飛び交う。

身体能力に優れているタクム兄さんのほうがわずかにだが、斬撃が速く、重い。

剣をぶつけ合うたび、徐々にタクム兄さんが優勢になっていく。

このままだとタクム兄さんが押し切る。……しかし、なにかおかしい。徐々に斬り合いが互角なものへと変わっていく。

「なんて柔らかい剣なの」

ヒバナが熱い吐息を漏らす。

速さでも力でも負けているバルムートは、ただ剣を打ち合うだけじゃなく、剣をぶつける角度を工夫し、タクム兄さんの剣戟を逸している。

言葉にすると簡単だが、タクム兄さんの神速かつ重い剣を逸らすなんて芸当、おおよそ人類には不可能だ。

……【解析】で調べた数値上、バルムートの動体視力は俺と大差がない、なのにそんな真似ができているのは技と勘に加え、数度打ち合っただけでタクム兄さんの呼吸を盗んでいるからだ。

しかし、タクム兄さんも負けていない。斬撃がインパクトする瞬間、微妙に太刀筋を揺らす。それにより相手の受けを崩す。凄まじい適応力。

再び、タクム兄さんが有利になる。そう考えた次の瞬間、バルムートはタクム兄さんの剣戟を受けると見せかけ、そのまま引き、タクム兄さんの剣を乗せて回転運動、円の動きで剣を絡め取り、体勢を前のめりに崩し、そのまま首筋を後ろから狙う。……対応されたことに対応したのだ。

なんて鮮やか! 流れる水のように美しく自然。凄まじいという言葉すら生ぬるい技量。

これで決まるかと思ったが、タクム兄さんは一切動揺せずに崩れた体勢のまま肘をかち上げ、超高速で迫りくる刃の側面を叩き、跳ね上げて回避する。

それだけじゃない、前のめりに崩れた体を無理に起こそうとせず、そのまま前に踏み込みながら曲芸じみた回し蹴り。

バルムートの刃は通り過ぎたばかり、剣では受けられず、剣を持たない左手で受けた。

骨が砕ける音と共にバルムートが吹き飛ぶ。

「肝が冷えたぜ。俺の剣を流せる奴なんて初めてだ。しかも、そのままトドメを刺しにくるとはなぁ」

「この技を返されたのは初めてですなぁ。……ますます面白い」

二人の顔が獣じみたものになる。

……気の弱いナユキあたりが気に当てられて震えていた。

そして、また二匹の獣は剣をぶつけ合った。

それから三分ほど戦いは続いており、ついに決着がつきそうだ。

先程から一方的な展開が続いている。

最初は、タクム兄さんの力と速さに対し、バルムートは技をもって対抗するという図式だった。

しかし、その技をタクム兄さんは戦いの最中次々に盗んでいく。そうなれば、バルムートは次々に技を出さざるを得なくなる、その技すらタクム兄さんは盗む。

強くなっていくタクム兄さんに対し、バルムートは為す術を無くしていた。

そして、とうとう限界が来た。

バルムートの剣が弾かれ宙に舞い、タクム兄さんはさらに踏み込み神速の袈裟斬り、その剣が寸止めされた。

「ちっ、俺の負けか。俺も詰めが甘えな。最後の最後に餌に食いついちまった」

「いや、私の反則負けですな」

バルムートのほうは懐から出した短刀をタクム兄さんの首へ寸止めしていた。

最後の最後にカウンターを狙い、ほんの僅かタクム兄さんより速かった。

「申し訳ない。体が勝手に動いてしまいました。カバーをして打ち合うというのがこの決闘でしょう。これを使うのは反則以外のなにものでもない」

バルムートはそう言うと短刀をしまい込む。

「だがな、実戦なら俺の剣がてめえを斬る前に、てめえの短刀が俺の喉を貫いた。俺らはそういう戦いをしていたんだろ」

「……はははっ、あなたはいい男だ」

二人が固く握手する。

「ヒバナはよくバルムートに勝てたな。あの男、想像以上に化物だ」

あの強さを見せつけられた今、クロハガネでヒバナがあの男に勝てたのが信じられない。

「武器の性能差、策、初見故の不意打ち。その結果に過ぎないわ。……まともにやったら、戦いにすらならなかったでしょうね。大人と子供ほど技量差があるもの。まだ、頂は遠い。でもね、すごく勉強になる。この一戦を見たことは二年分の修業に匹敵するわ!」

熱に浮かされるようにヒバナは二人の戦いに夢中になっていた。

俺はヒバナほど多くのものを得られなかったが、ひどく勉強になったのは同じだ。

タクム兄さんの圧倒的な力を捌き続けたバルムートの技は見事だった。

世界中を旅しながら、ありとあらゆる剣を吸収し、磨き上げ、自身のものへと昇華し、たどり着いた芸術的な剣。

……タクム兄さんは生物として強すぎて、あまり参考にはならない。今日だってバルムートの技の数々をほとんど本能と勘と力で叩き潰していたし。

ただ、一つ思うことがある。

今日の決闘でもっとも強くなったのは他の誰でもない、タクム兄さんだ。

タクム兄さんはこの国から出たことがなく、剣の技はカルタロッサに伝わっているものが全てだった。

だからこそ、基礎はしっかりしていても、応用は天性の勘に任せている。

しかし、タクム兄さんはバルムートとの戦いの中で、彼の技を盗み続けていた。最初は技でいなされていたが、その理屈を把握し、対応するだけでなく、自らの剣に取り入れ続け進化した。

タクム兄さんとバルムートは十年来の友であるかのように盛り上がり、しばらくしてからバルムートが戻ってくる。

「我が主よ。あの男と戦わせていただけたことを感謝します」

「お疲れ様、いい戦いだったよ。あのタクム兄さんに勝てるとは思っていなかったよ」

「ありがたきお言葉。ですが、次からは確実に負けますな。ヒバナも天賦の才があると思っておりましたが、あの男もそういう人種だ」

技が盗まれていたことは誰よりもバルムートが気づいていたのだろう。

戦えば戦うほど、手札を奪われていく相手だ。次やれば負けるのは必定。

「戦ったことを後悔しているか?」

「はははっ、そのようなことはありませんな。たしかに世界を巡り、血と汗を流して身につけた技を、ああも簡単に奪われるのは気分が良くない。がっ、あの男と打ち合って私はさらに強くなったし、まだまだ得るものはある。それに、あの男を見たおかげで剣士として最強になることを諦めることができたのです。この一戦で確信しました。あの男がいる限り、私が剣を振るうことで最強という名の頂きに立つことはないでしょう」

清々しい顔でバルムートは笑う。

今の言葉が本心であると痛いほど伝わってくる。

「……こんなことをおまえに頼むのは酷かもしれないが、これからもタクム兄さんやヒバナと戦ってくれないか」

「酷でもなんでもありませんな。二人の天才がどこまで強くなるのか私も気になります。そして、それ以上に剣以外の道を進んだとしても、強さの頂きを目指すライバルは必要です。私の技、その全てを叩き込んで、最強剣士を作り上げてみせましょう。そして、その最強剣士に勝ち真の最強へとたどり着く」

「頼んだ。本当におまえは頼りになるよ」

「お任せを我が主」

この男は最高の拾いものだった。

改めてそう思う。

ヒバナが早速、先程の戦いでバルムートが見せた技の数々に対して質問攻めにしている。

バルムートとの出会いによって、カルタロッサの騎士たちは以前とは比べ物にならないほど強くなっていく。

春がくる頃には、生まれ変わっているのは間違いない。

……なら、俺は俺でやるべきことをしっかりしないと。

騎士が強いだけでは戦争には勝てない。

しばらくしたら、工房にドワーフたちを案内するとしようか。

来て早々で悪いが、仕事を始めてもらうとしよう。