軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十四話:転生王子は虐殺する

剣士としての己に限界を感じ、錬金術師として戦うために準備してきた。

そのための武器を取り出す。

それは……銃。

俺は銃を兵たちに装備させるつもりはない。

人口が少ないカルタロッサ王国にとって兵の質とは重要なアドバンテージ。

しかし、銃は誰でも手軽に人を殺せるようにしてしまい質を否定する。

しかも構造自体はさほど難しくもなく、銃という概念が広まれば容易く真似されてしまい、そうなればどこかの未来で人口が少ないカルタロッサは絶望的な数の差で押しつぶされてしまう。そんなものを使えるはずがない。

だが、俺個人が使うとなれば話は別だ。

この銃を使うにあたり誓約を用意した。身内以外で銃を見たものはすべて殺す。

銃という概念を持ち帰らせないために。

これは、その覚悟なしに使っていい武器ではない。

「……実戦では初めてだな」

地下の射撃場でそれなりに数を撃ったとはいえ、人に向けて撃つのは初めてだ。

若干、手が震える。

銃への信頼がないわけじゃない、すでに人殺しの経験をしたというのに未だに忌避感がある。

それを飲み込み、銃を組み立てる。

この銃は性能要件を満たすため大型であり、携帯するにはこうした機構が必要だった。

まず、銃身がアサルトライフルなどと比べても太く長い。

アサルトライフルの口径は7.62mm、対戦車ライフルで12.7mm程度なのだが、こいつは25.4mmと規格外。

口径が大きくなれば弾丸は大きくなり、込められる火薬の量も多くなり威力が跳ね上がる。

当然、反動も比例して増え、こんなものは人間に使える代物ではなく、反動を抑える機構をつけた上で、俺自身が全力で魔力による身体能力強化をしてぎりぎり運用できる代物。

でかいのは銃身だけじゃない。

給弾機構と弾倉もでかい。

弾丸がでかくなれば、そうなるのも必然。なおかつ、でかい弾丸を大量に詰め込むために弾倉も長大になった。

そして、全体的に銃は分厚く魔物素材が使われている。

超火力を耐えるには、それなりの強度がいるし、反動抑制機構も大型化に拍車をかける。

一般的なアサルトライフルの重量は五キロ弱だが、こいつの重量はおおよそ十キロ強はある。

鉄より軽く、強度がある魔物素材を使ってもこのざまだ。もし鉄で作っていればさらに巨大で重い銃になっていた。

「やはり、重いな」

苦笑しながら、銃を構え、敵である精鋭五人に狙いをつける。

こんな化物を作ったのは趣味ではない。

必要だからだ。

俺の世界にある銃というのは人間を効率よく殺すための設計に過ぎない。そのラインで威力を定め、威力を抑えた分、他の性能を底上げしている。

しかし、魔力持ちというのはその速さも防御力も人間なんてものを超越している。

常識的な銃では魔力持ちは殺せない。

俺の銃は、規格外、その筆頭であるタクム兄さんクラスを殺しうるものを前提に設計してあり、こうなった。

ぎりぎりまで敵を引きつける。

こいつの真価は、おおよそ十メートル以内で発揮されるのだから。

「サーヤ、耳を塞いで俺の背中に張り付いておけ。絶対前に出るな」

「わかりましたっ!」

サーヤがキツネ耳をぺたんと倒しながら背中にくっつく。

この銃の性質上、狙いがかなり大雑把だ。

前に出られれば確実に巻き込むし、あほみたいな量の火薬を詰めた弾丸は対策なしでは鼓膜が一瞬でいかれる。

剣を抜いた五人が 殺傷圏内(キルゾーン) に入る。

鋼鉄の化物、その引き金を引いた。

「……っ」

圧倒的な破壊の雨が降り注ぐ。

弾倉へ大量の弾丸を詰め込んだことには意味がある。それだけの弾丸を一瞬で吐き出してしまうからだ。

分速三百発もの速度で超大型口径の弾丸、対戦車ライフルの二倍というふざけたものを吐き出す。

全力で身体能力を強化し、考えうる限りの反動抑制機構を積んでるのに、それでも身体がふっとばされそうになる。

その分威力は絶大。

俺と同格に強い剣士が、ミンチになり、目の前にある木々がぶち抜かれ、砕かれ、景色から消えていく。

眼の前にあるものすべてが消えていき、風景が変わる。

これだけの広範囲に攻撃が及ぶのにはわけがあった。

放たれているのは散弾。

そう、これは超大口径でフルオート射撃が可能なショットガン。

現実ではありえない非常に頭が悪い武器。

なにせ、ショットガンは至近距離での一撃必殺で運用されるもので、連射は必要ない。

しかし、タクム兄さんレベルを相手に考えるならこれ以外の選択肢はなかった。

タクム兄さんなら、音速を超える弾丸をも躱してしまうだろう。そして、一度躱し、銃というものを理解すれば二度と当てられない。

なにせ、銃口が向いている方向に弾丸を吐き出すという構造上、銃口の直線上に居なければ弾は絶対に当たらない、タクム兄さんならそれを敢行しながら押し切ってくる。

タクム兄さんクラスに当てるには、点や線での攻撃ではなく面での攻撃が必要であり、散弾、つまりはショットガンにするしかない。

そして、ショットガンは広範囲に弾が散らばるため、散らばった弾の一発一発は威力が落ちる、これだけ大型弾丸でも威力に不安がでてしまう。

ならば、その威力を補うには数だ、連射すればいい。

そうして、完成したのがこいつだ。

タクム兄さんでも躱せない広範囲に、超火力の弾丸を、凄まじい勢いで放ち続ける。

「……これが、こいつの力か。タクム兄さんすら殺しうる」

十秒ほどで弾倉にあった弾を打ち尽くし、弾倉交換する。

再び引き金に指をかけ、その必要がないことに気付いた。

……一人残らず死んでいる。

わずか十秒で、精鋭たちがひき肉に変わったのだ。

俺の目論見どおり、一流の剣士でも散弾はかわせず、無数の弾一つ一つが魔力で強化された肉を穿ち動きをとめ、次の瞬間には次弾が襲いかかり、あっという間にミンチの出来上がり。

あまりにもふざけた光景だ。

剣士たちの、鍛錬を全否定する鋼の化物。

俺と同格の剣士たち五人が、何もできず、ただ理不尽に命を落とした。

「あっ、あの、これ、すごすぎないですか? ちょっと、怖いぐらいです」

爆音から身を守るために倒していたキツネ耳を伸ばしながら、サーヤがしがみついている。その体は震えていた。

かなり、ショッキングな光景だったようだ。

「俺も怖いよ。……俺たちみたいな魔力持ちはさ、まず死なないって思ってる。なにせ、一般人と比べ物にならないほど速くて頑丈だからな。だが、こいつを持ち出されたら、ただの人間と同じだ。俺たちの強さが誤差になる」

「同感です。こんなものが当たり前になったら、そう考えると背筋が凍ります。だって、もう、引き金を引く指があれば、誰でも無敵の兵士で、命が、強さが、全部無価値です」

サーヤは頭の回転が速いだけあって、すぐに本質を見抜いてしまった。

おおよそ、ありとあらゆる剣士たちの鍛錬を、その魂を無意味にしてしまうことに。

「そうだな。だが、これがあったから俺たちは助かった。……もし、命の価値、強さの価値、それをそのまま受け入れていれば、俺たちは死ぬしかなかった。そういう当たり前をひっくり返すために発明はあるんだと思う」

震えるサーヤの肩に手を回して抱き寄せる。

すると、サーヤは素直に身を預けてきた。

違和感がある、サーヤは怯えて震えているままだ。だけどそれだけじゃない。サーヤの身体が熱く、頬が紅潮している。

熱い吐息を吐くようにして口を開いた。妙に色気があって、どきりとしてしまう。

「怖いです。でも、その、変な子だと思わないでくださいね……怖いですけど、とっても面白そうって思ったんです。後ろから見てると基本的な構造はわかって、たぶん、私、それ作れちゃいます。作りたい、私なら、こうするって、ずっとアイディアが浮かぶんです」

好奇心、いわゆるモノづくりへの欲求が爆発している。

純粋で、まるで新しい玩具を与えられた子供のように。

眼の前で、これだけ凄惨な光景が繰り広げられているにも関わらずだ。

この子は発明に向きすぎている、それが頼もしくもあり、怖くもあった。

諌めるべきか、応援すべきか……。

「俺の国に来たら、やってみるといい」

応援することに決めた、サーヤのメンタルと能力はカルタロッサ王国の武器になる。

「はいっ!」

とびっきりの笑顔をサーヤは見せてくれた。

俺の決断は間違っていないはずだ。

「それより、向こうに戻ろう。おそらく、もう追手はいないはずだ。俺たちは地下への入り口を入念に隠してから陸路で海へ向かうぞ」

「みんなの無事が気になります!」

そうして二人で走り出す。

それから一度だけ振り向いた。

俺が鋼の化物で生み出した光景を胸に刻むために。

これから、カルタロッサ王国を救うために、こういったことをまたするだろう。

だが、躊躇することはない。

覚悟はもう決めている。

俺たちが地下への入り口に戻ったころには、クロハガネの民は全員地下へと進んでいたようだ。

入り口を開くと、地下道が崩落していて先へ進めなくなっている。

ちゃんと言いつけが守られており、安心した。

……これでもうクロハガネの民は大丈夫。

地下を進む限り、追手に気付かれることはない。

「これだけ念入りにやれば安心ですよね」

「ああ、仮に見つかっても扉を開けることすらできないしな」

俺の錬金魔術による分解・再構成を使っている。どんな馬鹿力でも扉は開けないだろう。

これでもう奴らが秘密ドックにたどり着くことは考えられない。

そして、気配を感じて振り向く。もう一つの懸念が減ったようだ。

「ただいま。遅くなったわ。もう、あらかた終わったようね」

ヒバナが追いついてきた。

よほど急いできたのか、珍しく息が乱れている。

「ああ、終わったよ。ヒバナのおかげでずいぶん楽ができた」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。私としては七人も通してしまったのはショックだけど」

地雷で二人、ショットガンで五人、数は合うな。

「七人もじゃなく、七人しかだ。なんとなくわかる。あの七人よりもよっぽど強いやつと戦ってきたんだろう」

俺も長年、剣の鍛錬をしてきた。

だからわかるのだ。

今のヒバナは限界まで高めた闘気の残り香がただよっている。ヒバナにそこまでさせる相手ならば、俺が対峙した相手より数段格上。

「驚いたわね。その通りよ。ヒーロの武器がなければ勝てなかったわ。その人について話があるの。……でも、話すのは走りながらにするわ。きっと、みんなが待っているもの」

「はいっ、私も賛成です!」

「そうだな、行くか」

俺たちがこなくとも、夜明け前には出発するように伝えているが、きっと彼らはそうはしないだろう。

少しでも速く合流し、暗いうちに船出しないと。明るくなると万が一がある。

新たな居住先に連れていくまでが俺の役目だ。それまであと少し、頑張ろう。