軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十八話:転生王子は正解にたどり着く

船の完成、そして出港日が決まったことで慌ただしくなっている。

船の完成後は三つのチームに分かれて作業している。

一つ、船の改良作業。船は完成したと言ってもあくまで航行できるという状態にすぎない。魔物対策の兵装や乗員が快適に過ごすための設備を作る必要がある。そこはサーヤが中心となり行う。

二つ、居住先の環境整備。住居及び、畑や、水源の確保。これはサーヤが信頼できると太鼓判を押したドワーフが中心に行う。

三つ、食料の確保。いくら、自然が豊かで現地での食料調達が可能とは言っても、二百人もいるし不測の事態に備えないといけない。現地での狩りや採集では効率が悪いため、小型船を使い買い出しに行く。これは俺とヒバナが担当する。

今日は小型船を使い、居住先に環境整備担当のドワーフたちを下ろしたあと、俺とヒバナはクロハガネのある大陸、その海岸沿いに動いていた。

目的地はウラヌイの先にある街だ。

「あれ、良かったの?」

お供のヒバナが問いかけてくる。

「いいも悪いもないさ。保険だよ」

「そう、できればあれを使う機会がないことを祈るわ」

あれというのはクロスボウのことを言っている。

ただのクロスボウじゃない。

ドワーフたちの魔道具作り技能を活かすことを前提に設計した強力なもの。

第一に弦の強さが半端なく、常人には引けない。ヒバナクラスの魔力持ちが全力で引けばなんとかというおかしな強さ。

次に、それを引くために、滑車を使い少ない力で弦を引けるようにした上で、魔力を用いた巻き上げ装置がある。

魔力を持つものなら、子供だってそれほど強力なクロスボウを放ててしまう代物。

元よりクロスボウというのは非常に強力な武器だ。

鉄でできた鎧すら貫く、それがここまで強化されたのだから、当たれば魔力持ちでも貫ける。

「あれはあくまで船の上から近づいてくる魔物を狙うためのもので、平時は狩りにも使える生活道具だ」

「あなたはそう言ったけど、オーバースペックすぎるわ。……少なくともサーヤは戦うためのものだって気付いているわよ」

威力だけじゃない、短矢を収めるマガジンがつけられており、自動的に給弾される。それを魔力で引くため連射まで可能だ。

このクロスボウは威力・連射能力・精度ともに申し分ない。

こと、魔力持ちが使うのであれば銃など必要ないと思えるぐらいの性能だ。

もっとも、非常に作りが複雑かつ、精度が要求される。こんなものを作れるのは錬金術師かドワーフぐらいだが。

「そうだな。だが、サーヤは気付いていて話に乗ったんだ。彼らにだって戦う覚悟があるってことだ」

「そうね。ちょっと過保護過ぎたわ。この話はおしまいにしましょう。ねえ、そのクロスボウ、カルタロッサ王国では使わないの?」

「魔力持ちじゃないと使えない代物だからな。なかなか、難しいんだ。うちの騎士団は、魔剣を装備した近接のスペシャリストだし、クロスボウはいい武器だけど無理に戦闘スタイルを変えさせると逆に戦闘力が落ちる。ただ、何人かには使わせたいと思うよ」

全員が魔力持ちなんていうのはドワーフぐらいで、人間であれば、十人に一人いればいいほうだ。

クロハガネで開発しているクロスボウは性能的には銃に勝るが、誰でも使えるということに重きを置くなら素直に火薬を使った武器を作ったほうが良い。

……ただ、今のところ銃を作るつもりはまったくない。

銃の原理自体はひどく簡単なものだ。筒の中で火薬を炸裂させて金属を飛ばす。

もし、カルタロッサ王国が銃を作り、配備したとする。

それで効果を上げれば、相手は同じものを作ろうと思うし、作れてしまう。

火薬自体は発明されてしまっているのだから。

銃の利点というのは、誰でも使えてしまうことであり、国力と人口が多い国ほど優位になる。

農民が一日の訓練で何年も剣の修行をした騎士を殺せてしまう。

個の力を否定し、数を肯定する。それが銃という存在。

ようするに、銃なんて概念を世界に公表した瞬間、小国のカルタロッサは窮地に陥ってしまう。

もし、俺が銃なんてものを民に持たせるときがあるとすれば、それは例え未来でどれほど苦難が待ち受けようと、そうしなければそこで終わる状況だろう。

「そうなのね、なら私にも使わせてもらえない?」

「超一流の剣士がどうしてだ?」

「こっちじゃ、攻撃に魔術を使うことはまずないけど、向こうじゃそれなりにいるのよ。たまに射程が欲しくなる。あのサイズだと背負っていられるし、保険にもっておきたいの」

「わかった。それを前提にヒバナ用のを作ってみよう。あくまでサブなら連射機構は外して、その分軽く、嵩張らないように、それから精度を上げたほうがいいな」

「ええ、それがいいわね。任せるわ」

攻撃魔術か。

実物はまだ見たことがない。

国ごとに魔法を開発しており、それらの多くは機密扱いだ。

カルタロッサ王国の場合は、身体能力向上に極振りしており、ほとんど無意識に使えるほど簡略化しているにも関わらず、効率がいいという優れたものだ。だからこそ騎士たちは強い。

逆に、遠距離攻撃に特化している国や、バランス良く開発している国もあれば、特殊な用途のものもある。

国土を切り取られ、弱体化したカルタロッサ王国は魔術の研究を行えていない。いつか、カルタロッサ王国の魔術が時代遅れになる。

そんな日が来るかも知れない。

俺たちが買い出しに来たのは、ウラヌイからさらに先へ行った街だった。

大陸沿いに移動することで、安全にここまで来れている。

賑やかな街だ。

この街だけで、カルタロッサ王国以上の人口がいそうだ。

この街で、保存が効く食料を中心に生活必需品を買えるだけ買っておく。

「ねえ、今更だけど資金はあるの?」

「ああ、こっちの国で使ってる金貨と銀貨と銅貨がたんまり」

ずっしりとした袋を見せつける。

「……私の記憶だとカルタロッサ王国って貧乏だったと思うのだけど」

「間違いないな。ただ、忘れたのか。ドワーフたちの居住先からは金と銀が採掘できるし、銅は船の材料を集めていたポイントでいくらでも取れた」

昨日、居住先の環境整備チームに食料を買うためだと説明し、金と銀を持ち帰ってもらった。

「それ、ただの材料でお金じゃないわよね」

「材料があれば作れるだろう。幸い、サーヤにこっちの貨幣、その実物を見せてもらえたからな」

「突っ込むのはやめておくわ」

「そうしてくれ」

錬金術による分解と再構成。

ただ、問題があるとすれば不純物が少なすぎることだが見た目ではわからない。

「カルタロッサ王国に戻れば、お金の問題は一発クリアね」

「かもしれないが、向こうで露骨に金を使えば、いろいろと疑われる。ほどほどにするつもりだよ」

隣国は、カルタロッサ王国を金づると見ている。

そんなカルタロッサ王国が気前よく金を使えば、その稼ぎを生み出す何かごと奪おうとするだろう。

だから、見えないようには使うつもりでいる。

「さあ、時間がないし急ごう、今日のうちに二往復ぐらいはしたいからな」

「ええ、そうしましょう。でも、賑わっていて良かったわね。売るぐらいに食料があるのはいいことよ」

「そうだな。景気がいい。……なんで、こんな国が戦争なんてしようとしているんだか」

ドワーフたちに課せられたノルマは無茶すぎる。

あれじゃ、潰してしまいかねない。

そして、ノルマが重くなったのは最近らしい。前までは辛いが無理ではなかったと聞いている。

つまり、相手だってドワーフたちの限界がわかっている。

それでも、無理をさせるということは、潰してしまうリスクを負ってでも短期間で多くの武器を求めているということ。

おそらく、どこかと大きな戦争がある。

俺たちは食料を中心にどんどん買っていく。

予算は気にせず、必要なものは目についたら買う。

「こんな贅沢ができる日がくるなんて思わなかったわ」

「俺もだ」

お互い、苦笑する。

貧乏国ゆえの苦悩だ。

そして、買ったものは即座に居住先へと運ぶ。

六人乗りの小型船であり、目いっぱい詰め込んで、一度に運べるのは四百キロほどが限度。

かなりの量に見えるのだが、二百人もいれば二日分の食料にしかならない。

大型船のほうを使えればと思わなくはないが、あれはヴァージョンアップをしている最中で使えない。

むろん、小型船には小型船のメリットがある。軽い分小回りが効いて速度がある。

そして、二周目の買い出しの途中だった。

とんでもないものを見てしまう。

「なぜ、ここにこんなものがある」

「……教会ね」

教会、それは俺たちの大陸ではほぼすべての国に設置されている施設。

隣国に領地を切り取られていくまでは、カルタロッサ王国にもあった。

ただの教会を見ただけじゃ驚きはしない。

そのシンボル、デザイン、建築様式、すべてがこちらの大陸と一緒だったのだ。

それを見たとき、今までの疑問がすべて繋がっていく気がした。

もともと人が住んでいないはずの大陸に、人が居た理由。それはどこか別の大陸から移住し開拓した以外には考えられない。

しかし、大陸を渡るような船を作れるのは錬金術師だけであり、その錬金術師は教会によってすべて処分されて錬金術は封印指定を受けたから、それは考えにくいと思っていた。

だが、違ったのだ。

錬金術師はたぶん生き残っており、教会に保護されている。

教会が行っていたのは、錬金術師の排除ではなく、錬金術師とその技術の独占、教会は囲い込んだ錬金術師を使って、新たな大陸に足を踏み出し、利益を独占している。

そうであれば、船だって作れ、移住し開拓も可能。

だから、大陸をまたいでいるにも関わらず、こちらの言語とあちらの言語は一緒だったのだ。

言葉だけじゃなく、文化や価値観が似ていたのも当然、源流が同じなのだから。

それだけじゃない、教会のみが錬金術師の恩恵を受けられるのだから、とんでもない力を有している。

生唾を呑む。

俺はとんでもないものを敵に回そうとしているんじゃないか?

もし、俺が錬金術師とばれた場合、ただ信仰のみで罰すると考えていた。

だが、俺の推測が当たっているのなら、錬金術師の独占で教会が力をつけているのなら、たとえ、どれだけの犠牲を払おうがなんとしてでも俺も囲い込むか殺そうとするだろう。

「面白いな」

思わず、声を漏らしてしまう。

とんだ生臭い神様もいたものだ。

普通に考えれば、勝ち目がない。

なにせ、数百年間研鑽を続けてきた錬金術師たちが向こうにいるのだ、教会の持つ技術力は、俺の師匠である、かつての錬金術師よりずっと上だろう。

しかし、俺には特別な力が二つある。

一つ、【回答者】によって正解を知れること。

二つ、転生前の知識があること。

……教会を敵に回した場合の想定を引き上げておこう。

たとえ、どんな相手が来ても負けないように。