軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十一話:転生王子は穴を掘る

いつものように夜明けと共に抜け出し、さまざまな調査をしてから作業に入る。

今日の作業はトンネル掘りだ。

想像以上にサーヤのサポートが優秀で、昨日は予定よりだいぶ掘り進めていた。これなら今日中に開通ができそうだ。……たとえサーヤが来なくとも。

「サーヤを待たなくてよかったのかしら? 二人のほうが早いでしょう」

「二人のほうが早いが、もしかしたら今日は来てくれないかもしれない。俺たちだけでできる限りがんばろう」

あんなことがあったんだ。

顔を出せなくても無理はない。

「昨日、私が働いている間になにかあったようね」

「話を聞いたのか?」

「いえ、ヒーロは顔に出やすいもの」

ヒバナが微笑している。

「ご名答だ。サーヤと少しあってね」

「まさか、強引にものにしようとして振られたとかかしら」

「そういうことをする奴に見えているのはショックだ」

「冗談よ。本気で疑っているならこんなこと言えないわ。……あるとしたらむしろ逆ね」

するどいな。

彼女の言う通り、サーヤから誘ってきた。

……一歩間違えれば、彼女の誘惑に負けていたな。

もっと精進しなければ。

幸い、なんとか自制心が働いた。それによりサーヤの父の信頼を得ることができ、俺たちの計画を了承してもらえた。

そして、そのときにサーヤが急いでいた理由も聞けた。

本当にあの子は自分のことを考えなさすぎだ。

改めて、クロハガネを救いたいと思う。

この集落自体には、さほど愛着はない。

かと言って、自国のメリットだけを考えているわけでもない。俺はサーヤを自由にしてやりたい。

「遅くなってごめんなさい! 今日も手伝います!」

サーヤがやってきた。

いつも通りの笑顔だ。昨日、何もなかったかのように。

いや、違う。

わずかだが声に震えがある。

俺のことが怖いのか、あるいは俺の機嫌をさらに損ねるのが怖いのか。

それでも、彼女はクロハガネを救うためにいつもどおりを意識している。

「ああ、手伝ってくれ。サーヤがいるのといないのじゃぜんぜん違うからな」

「はい、がんがん掘りますよ!」

そういうなり、土魔術で眼の前の壁を掘り始める。

いつも通りを演じる彼女を見て、昨日のことには触れないことにした。それがお互いのためになると信じて。

日が暮れてもない早い時間にトンネルが開通した。

一人なら、絶対にここまで早く開通なんて無理だった。

鉱脈がある場所は広々とした空間になっており、そこらかしこの壁に鉄鉱石が埋まっている。

そして、とんでもない想定外が一つあった。

「まさか、こんなものがあるなんてな。……最高だ。ついてる」

「あの、これなんですか。とんでもない大きさの天井からぶら下がってるいろんな色の鉱石」

「私も見たことがないわね。すごく綺麗なマーブル模様ね」

「スカルン鉱床って言うんだ。マグマで煮立った水が石灰石の隙間から流れこんでできる。そういう水にはいろんな成分が溶け込んでいてな。周囲の石とくっついたりしながら固まることで、こういういろんな鉱石が混じった不思議な状態になる」

検分し、どんな金属が手に入るかを調べる。

「ざっと見ただけでも鉄、銅、亜鉛、鉛が手に入る」

「鉄と銅はわかるけど、ほかはわからないわね」

「なかなか便利な金属だ」

鉄は重要だが、銅や亜鉛も非常にありがたい。

銅は電気を使う場合、必須となる。

亜鉛はさまざまな有用な合金になる他、トタンや電池の材料にもなる。

鉛は鉄よりもずっと加工しやすく用途が多い。

……鉄のおまけがこれだけ手に入るのはありがたい。

もっと調べれば、他の鉱石も見つかるだろう。

「とにかく、片っ端から鉄鉱石を集めてくれ。まずはレールを作る」

レールとトロッコを作るのは一見、遠回りに見せるかもしれないが、二百人が乗る船に使用する金属量は膨大だ。

結果的にこういう手間をかけたほうが効率がいい。

それに、船を作り終わったあともここは使う。

「ええ、体力でなんとかなるものなら協力できるわ」

「私もがんばります!」

全員で鉄鉱石を集める。

必要量はさほど多くない。

今日中に集まるだろう。

数時間後、山のように鉄鉱石が積まれていた。

「だいぶ集めましたね」

「結構疲れたわ」

「これだけあれば、ぎりぎりいけるな。さっそく鉄にしよう」

「あの、こんなところで鉄鉱石を鉄にするのは危険じゃないですか」

そういえば、ドワーフたちの製鉄は炎の魔術でどろどろに溶かして、その状態で鉄に働きかけ、鉄だけを動かし固めることで純度の高い鉄にすると言っていた。

その方法であれば、こういう密閉空間での製鉄は危険だろう。

「言っただろう。錬金術師の力はドワーフのものとは根本的に違う。その本質は分解と再構成だ」

実演する。

鉄鉱石を掴む。

鉄鉱石は鉄を主成分にさまざまな成分が含まれた状態、例えば酸素や水素、炭素などが含まれている。

製鉄とは、さまざまな方法で鉄だけ取り出す手法を言う。

鉄鉱石を鉄にする一般的な方法は、鉄鉱石とコークスを高炉で焼き、コークスの燃焼により発生したCOガスが鉄鉱石の不純物を還元して取り除くこと。

ドワーフのやり方も力技ではあるが製鉄の延長線にある。

だが、錬金術師は違う。

分解の魔術を使用し、一発で鉄鉱石の構成要素をすべて分解する。鉄鉱石という塊から、それぞれの材料へとバラける。

「うわぁ、めちゃくちゃ楽そうです」

「だろうな。最短経路を走っている。あとはレールの形に変えないといけない。ついでだ。俺の作り方を見ていてくれ。サーヤたちの変形と、俺の再構成は似て非なるものだ」

変形というのはその名の通り、形を変えること。

しかし、再構成の場合、細かく分解し並び替えて形を作る。

現象としては同じでも、まったく違う。

そうして出来上がったのは約一メートルのレールで、ジョイントがついている。

一発で長大なものを作るのではなく、こうしてジョイント付きのものをつなぐほうが効率的だし、故障時には故障箇所を入れ替えるだけで楽だ。

「錬金魔術、面白いですし効率的ですね。……これ、私も使ってみたいです」

「それは無理だよ。適性がいるんだ」

俺も錬金魔術を学んでから知ったのだが、錬金魔術は極めて特殊な才能がいる。

あの錬金術師の隠れ家の扉はその才能がない人間には開けられないように作られていた。

また、ドワーフは錬金術師の助手にするために作られた種族のため絶対に錬金魔術は使えない。

普通に考えれば、錬金術師の才能があれば便利であり使えるようにしたほうがいいのだろうが、過去の錬金術師たちはそうは思わなかったらしい。

人間よりも優秀に生み出したドワーフたちが、自分たちに成り代わることを恐れた。だから、錬金魔術そのものではなく、サポートとして使える能力をもたせた。

逆に言えば、絶対に錬金魔術を使えないようにして生み出している。

「残念です。それと提案があります。分担作業をしましょう。たぶん、鉄を作るのは錬金魔術のほうがずっと速いし安全です。でも、レールを作るほうは私もだいぶ力になれます。炎じゃなくて熱で柔らかくして変形なら、ここでも安全ですし。ヒーロさんが鉄づくりに専念。レールづくりは私がやったほうが早いです」

「ああ、頼む」

サーヤの腕は信じているし、そちらのほうが早い。それだけでなく魔力量に不安がある。

任せられるところは任そう。

「私はできたレールを敷いていけばいいのね。でも、ちょっと不安ね。ぴったりと地面にくっつくかしら。でこぼこしてたり、歪んでいたら、レールが浮いちゃわない?」

「安心してくれ。誰が舗装しながら進んできたと思っている。完全な平面がドックまで続いている」

「試してみるわ」

さっそく、ヒバナがトンネルのほうにレール第一号を置く。

するとピタッと隙間なく地面に張り付いた。

「さすがはヒーロね。あと、一つ思ったのだけど、その分解って人に使えばとんでもない武器になるんじゃないかしら?」

「ああ、よくわかったな。人間を分解すれば即死だ。いくら魔力で身体を強化していようとな。欠点は、触れないと使えないことか。超一流相手になると、素手で触れるなんてできないし、俺より弱い奴だと剣で普通に勝てるから、いまいち使い所がない」

「そうね。武器を持っている相手を素手で触れるのは相当の実力差がないと無理よ」

「そういうわけで、ヒバナのほうが俺より強いのは変わらない」

「……別にそんなことは気にしてないわ」

嘘だな。

顔を赤くしてそっぽを向いている。護衛としてのプライドがヒバナにはある。

「ヒーロさん、ヒバナさん、無駄口はだめですよ。どんどんレールを作っちゃいましょう!」

「そうだな」

「私はレール敷き専門ね」

こうして、トロッコ開通に向けて動き出した。

その日は結局最後まで、サーヤは昨日のことに触れなかった。

でも、うっかり鉄鉱石を踏んでころんだ彼女を支えたとき、びくっとした。

反射的な怯え。

……やはりフォローが必要だ。

今日は昨日とは逆に、俺からサーヤの部屋を訪ねてみよう。それからいろんな誤解をといて、本当の意味で仲良くなりたい。