軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第20話 保管所と荷受け係

――チリン。

澄んだ音が落ちた直後、中庭の端に若い男が現れた。

片手には干し肉の束。

もう片方には、白百合慈善後援会の紋章が入った白い布。

「うわっ!? こ、ここは、どこっすか!?」

男は足をもつれさせ、布を落としかけた。それからエリナ院長と周囲を見て固まる。

「……え、ここは白百合……慈善院?」

「すごい。ほんとに、ここはどこって言ったね」

「言ったね、騎士のお兄ちゃんの言う通りだったね」

子どもたちがにこにこと笑い合っている。

レイベルナは静かに微笑んだ。

「あなたが偽物の場所で支援物資を受け取った方ですわね。お名前は?」

「え、ええと……俺は荷受け係のラウルっすよ! 言われた通り、物を受け取って、指定された場所に積んでいただけっす!」

ラウルは慌てて両手を振った。

そのたびに干し肉の束が大きく揺れる。

セドリックが視線を下げた。

「危ないので、その干し肉はしまってください」

「え、今から食べるところなのに?」

「振り回されると困ります」

「干し肉にも厳しいのですわね」

「護衛ですので」

ラウルは困惑したまま、干し肉の束を上着の内側へねじ込んだ。

だが、その直前に一本だけ抜き、端をかじっていた。

レイベルナは見なかったことにした。

マルヴィナがすぐに口を開く。

「ラウル。落ち着きなさい。こちらの方々に、保管所の説明を――」

「マルヴィナ様、こ、これ、まずいんじゃないっすか!?」

ラウルの顔は青ざめていた。

「俺、まだ王妃基金の紋章が見える木箱を奥へ下げてないっすよ。後援会の布も、今かけてる途中だし……」

マルヴィナの笑顔が消えた。

「――ラウル、やめなさい」

「あ、あと、白百合慈善院には説明会が終わってから運べって言われて。寄付者に見せる分を前に並べろって」

エリナ院長が息を呑む。

「寄付者に、見せる分……?」

「お、俺は言われただけっすよ! 支援物資は説明会の後で、後援会が運ぶって聞いて……」

「後援会が、なぜ王妃基金の支援物資を運ぶのですか?」

レイベルナはマルヴィナを見た。

マルヴィナは唇を結んだ。

「一旦保管所に置き、分別や準備をして整えているだけですわ」

「では、実際に保管所へ行って見てみましょう」

セドリックが頷く。

「護衛します」

ラウルはいつの間にか干し肉の束を出し、泣きそうな顔で握っていた。

「お、俺、案内したら怒られるんじゃ?」

「それは、あなたの責任がどこまであるか、によりますわ」

白百合東口保管所は、慈善院から少し離れた場所にあった。

保管所という名ではあるが、古びた倉庫ではなかった。

白百合慈善後援会の本部として使われている建物の一角で、大通りから一本だけ外れているが、表の扉は磨かれ、窓には白い布が飾られている。

手入れの行き届いた建物だった。

中へ入ると、甘い香水と磨かれた床の匂いが先に来る。

その奥の広い部屋に、衣類や布、食料の入った箱、薪束、薬箱などが積まれている。

その脇には、支援物資とは別に、なぜか干し肉の箱まで置かれていた。

数だけ見れば、受領済み通知にあった内容とほとんど合っていた。

だが、正面に見える木箱には、後援会の紋章が入った白い布がかけられている。

その左右と奥には、王妃基金の紋章が入った木箱が並んでいた。

王冠を抱いた百合。

王妃基金の正式な紋章だった。

「……これは、王妃基金からの支援物資です」

エリナ院長の声が震えた。

レイベルナは正面の白い布を見た。

「王妃基金の支援であることを見せつつ、後援会の手柄にも見えるように整えている。そういうことですわね」

「後援会が現場を整えているだけですわ。寄付者の皆様に分かりやすく見ていただくには、見せ方も大切ですもの」

ラウルが小さく手を上げる。

「王妃基金の紋章をうまく見せた方が寄付金がって――」

「ラウル!」

「黙っていた方がいいことなら、最初から俺に言ったらダメっす……! 言葉が、勝手に溢れ出るタイプなんで」

セドリックが真面目に頷いた。

「それは正しいです」

「セドリック卿、そこで頷くのですか」

「口止めする側の管理不足です」

マルヴィナの頬がわずかに引きつる。

ラウルは気まずそうに、干し肉を一本かじった。

束が、また少し減った。

レイベルナは薬箱の位置を見た。

奥の壁際。

前には布箱と花飾り用の木箱があり、すぐには見えない。

「薬箱が奥の方にありますわね」

「薬は大切ですから、奥で丁寧に保管しているのです」

「いやいや、薬箱が見えると病人っぽく見えるからって言ってたっすよね!?」

ラウルが言い、エリナ院長の顔色が変わった。

「薬は、見栄えのために隠すものではありません」

「え、ええ、もちろんですわ。ですが、寄付者の皆様に明るい印象を持っていただくことも大切ですの」

セドリックが低く言う。

「使うべき薬を隠してまで、明るく見せる必要はないでしょう」

「近衛騎士様は、本当にまっすぐでいらっしゃいますのね」

「曲げる理由がありません」

レイベルナは少しだけセドリックを見た。

「そこは心強いところですわ」

そのとき、机に置かれた作業表が目に入った。

今日の日付で、いくつかの指示が書かれている。

――寄付者説明会前、薬箱は奥へ。

――食料箱を正面へ。

――王妃基金の紋章が入った木箱は周囲に配置する。

――説明時は、白百合慈善後援会の尽力による支援とする。

「予定は、帳簿より正直ですわね」

マルヴィナの額に、細い汗が浮いた。

「それは作業の目安です。現場の者が勝手に――」

「では、書いた方に聞きましょう」

マルヴィナが鋭く言った。

「お待ちなさい」

「待ってほしい理由が、そこにあるのですね」

その声より早く、銀の音が倉庫に落ちた。

――チリン。