軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「ぜぇい!」

猿狗の胴を自慢のハルバードが薙ぎ払う。身体強化をしてもなお重いその武器の威力は猿狗に致命傷を与えるのに十分だった。

「よっしゃ次ぃ!」

その冒険者、ハインツは倒れる猿狗に目もくれず次の獲物へ向かう。

けたたましく吠えながら投擲された石を短く持った斧部分で弾きながら距離を詰める。

避けようと力を籠めた猿狗の足に仲間のクロスボウが放つボルトが着弾し動きを止めた。

絶妙なタイミングでの援護に心の中で称賛を送りつつハルバードを振りかぶる。

初動のバランスを崩され膝をつく猿狗。

まるで差し出してくれたかのようなその首へ渾身の力を込めてハルバードを叩き込んだ。

「らぁあああ!!」

振り下ろされたハルバードは猿狗の太い首を根元から切り落とした。

「うっし、四匹目。どーよリザ、俺様の腕前は」

「飛ばしすぎるなよハインツ。猿狗がどんな魔獣を引き込んだのかまだ分からないんだから」

クロスボウに次弾を装填したリザが油断なく周囲を警戒する。

ハインツが猿狗から引き抜いたボルトを彼女へ放り投げる。魔獣の素材を使ったボルトは軽くて丈夫で威力もあるが、消耗品にしてしまうのがためらわれる程度には高い。

さっと血を拭ったボルトを腰の回収用ポーチへ突っ込みながら周囲の戦況を見る。

「この分なら余所への援護は必要なさそうね。今の内に次の準備を……いや、もう一匹来た」

斥候兼射撃職である彼女の目は木々の隙間から見える魔獣を捉えていた。

距離はそれなりにあるが、魔獣の足は速い。ぐんぐんと距離を詰めその姿を大きくしていく。

「……あれ、なんかでかくね?」

「猿狗じゃない……?」

そう呟いたハインツの示す通り、影が猿狗程の大きさに見えても魔獣との距離はまだあった。

木の影で種類までは分からないが、二本腕で何か棒状のものを手にしているその魔獣はどう見ても猿狗には見えない。

そう判断したリザが目を吊り上げて叫ぶ。

「警戒しろハインツ!恐らく奴が猿狗の引き込んだ魔獣だ!」

慌てて構える彼を待たずに首に下げた警笛を吹き鳴らす。

短く二回、三回目は長く。事前に取り決めていた新手が来た時の合図。

やがてその魔獣が姿を現す。

「こいつは……!」

その異形にハインツは冷や汗が背筋を伝うのを感じた。

背丈は猿狗の二倍弱、三メートルほど。

しかしその盛り上がった筋肉は倍程度の力ではとてもすまないだろうことを感じさせる。

手にした巨大な棍棒は二メートルにも及ぶがその重さを感じさせることなくがっしりと支えられている。

特徴的なのはその顔だ。

大きな目が二つあるが、その向きは縦向き。人間でいう目のパーツだけ九十度傾いている。縦に並んだ目の間に一本の割れ目のような口がある。鼻や耳は見当たらず、耳のあるべき場所に縦の目が左右一つずつ。

額から捻じれた角が二本生えている。

まさしく異形の化け物。

「 三面鬼(さんめんき) ……!?」

驚いて声を上げたリザに三面鬼が顔を向けた。不規則に揺れる頭部の正面と右についた眼球がぎょろりと動く。

その異形に生理的な嫌悪を覚えながら正面の目を狙ってボルトを放つ。

三面鬼は棍棒を盾にしてボルトを防ぐと勢いよく走りだす。

見た目の動作自体はそこまで速くはないが一歩が長い。

走ってくる三面鬼に慌てて動くリザ。距離を詰めようとする三面鬼の前にハインツが躍り出た。

「てめぇの相手はこの俺だ!」

ハルバードの柄を長く持ち限界までリーチを確保。

足元を薙ぐように振るわれたハルバードにたまらず三面鬼が速度を緩める。

勢いを削がれた三面鬼が中心の口を縦に裂いて吠えると棍棒を叩きつけた。

至近距離で喰らう魔獣の咆哮に竦みそうになる足。

「……っ、しゃらくせぇ!!」

ハインツはそれを振り払うように自身も雄叫びを上げながら魔獣を迎え撃つ。

叫びながらも彼は冷静に対処する。

勢いが削がれたとはいえ魔獣と力比べをするほど馬鹿ではない。

右へフェイントを掛けながら左へ回避する。

避けた棍棒が地面を穿ち凄まじい轟音が響き渡る。

ハインツはそれに肝を冷やしつつ短く持ち直したハルバードで腕を斬りつけた。

太い腕はそれだけで切断できるほど甘くはないが、それでも無視できぬほどの傷をつける。

目を怒りに充血させながら薙ぎ払われる棍棒を下がって避ける。

傷に構わず追撃しようとする三面鬼。その目の一つが飛来する光に気づいた。

追撃を止め短く吠えると左手に氷の盾を生成し、その光を受け止める。

リザの放った火球は盾をわずかに溶かしただけに留まる。

三面鬼の眼球は伊達で付いているわけではない。見た通り視角は非常に広いようだ。

不意打ちを防がれたリザは、それでも笑みを浮かべた。

「残念、そっちは囮なの」

三面鬼は左足の違和感に視線を落とすと、そこにはいつの間にか一本のボルトが突き立っていた。

火球の光に目を取られているうちに射出したボルトは左足の腿に命中。

そのままでは致命傷には程遠いが、当然ながら仕掛けのある特注品だ。

一瞬遅れてボルトに刻まれた魔術刻印が起動する。

眩い光を放ってボルトから解放された雷撃が三面鬼の体を駆け巡る。

予想外の痛手に声にならない悲鳴を上げて苦しむ三面鬼。

それでも頑丈なこの魔獣を倒すには程遠い。

しかし左足は麻痺してわずかな時間動きを止めた。

それだけあれば十分だ。

「せありゃああ!!」

上段から振り下ろされるハルバード。

膝をついた三面鬼は棍棒でそれを受けるが、如何に力のある魔獣と言えど片足が動かない状態では踏ん張りも利かず分が悪い。

徐々に押し込まれるハルバード。

駄目押しの魔術を唱えるリザ。

このまま決まるかに見えた、その時。

「ッ!?ハインツ、避けろ!!」

「―――っ!?」

リザが魔術の詠唱を中断して叫ぶが、ハルバードを押し込んでいた彼は動ける状況にない。

それでも横合いから迫りくる何かに対応して見せたのは流石だろう。

ハインツは咄嗟にハルバードの柄でそれを受けると、斜めに滑らせて衝撃を逃がす。

直撃こそ避けたものの、それでも全ての衝撃を殺すにはとても足りない。

「がはぁ!?」

自らのハルバードの柄が胸を叩き、ハインツの体が横に吹っ飛ばされた。

天地が分からなくなるほどに転がり、やがて止まる。

耳鳴りが酷くて周囲の音が聞こえない。

激痛とこみ上げてくる不快さにえずけば血の塊が口からこぼれた。

右手をついて立ち上がろうとして、失敗した。

見れば右腕があらぬ方向を向いている。

「ぐ、そがぁ……!」

悪態をつこうにも血が鼻に詰まって上手くできない始末だ。

比較的無事な左腕を使って身を起こすとようやっと耳鳴りが収まって来た。

「……ツ、……インツ……ハインツ!!」

そこでやっと自分の名前が呼ばれていることに気づいた。

顔を上げるとぼやけた視界にリザがボルトと魔術を撃ちまくりながら二匹の三面鬼を牽制しているのが見えた。

そう、二匹だ。

ハインツを横合いから殴り飛ばしたのは二匹目の三面鬼だった。

「ぎゃああああああ!!」

悲鳴が響く。

何かが飛んできてハインツの脇に落ちた。

剣だ。握った両腕が付いたままの。

視線を向けると両腕ごと剣を飛ばされた男が三面鬼に持ち上げられていた。

男は必死に逃れようともがくが、両腕のない状態では芋虫が身をよじるのに等しい無駄な抵抗であった。

「は、はなせっ!はなしてくれぇえ!!」

騒ぐ男を持ち上げた三面鬼は顔の中心を走る口を大きく開いた。

不規則に生える歯が幾層にも並んでいる。

生ぬるい吐息が顔を撫でると男は半狂乱になって暴れる。

「や、やめろぉ!?やだ、やだやだや」

暴れる男の抵抗虚しく、その頭から三面鬼がかぶりついた。

両脚をバタバタと激しく動かしていたが、それもすぐに収まる。

大人しくなった獲物を三面鬼は飲むように咀嚼していった。

ほとんどのボルトを撃ち切ったリザがハインツの近くに駆け寄る。

先程のボルトを警戒しているのか三面鬼はジリジリと距離を詰めている。

「ハインツ!」

「ぎこえてる、よ……」

鼻に詰まった血を抜くと気合を入れて立ち上がる。

右腕と胸の怪我が酷く、呼吸をするだけで激痛が走った。

痛む体に鞭打って立ち上がるハインツを見たリザが視線を険しくする。

酷い傷だ。即座に命に関わるわけではないが走って逃げるのは難しいほどの重傷。

他の冒険者たちも乱入してきた三面鬼の対処で手一杯になっているため援護は望めない。

「切り抜けるよ。いいか、まず私が」

「……俺のことはいい。逃げろ」

ハインツがリザの言葉を遮ってそう言った。

三面鬼はリザのボルトが切れたことを悟ったのか徐々に大胆に距離を詰め始めた。

なけなしのボルトを撃って少しでも時間を稼ぐ。

「何を言って……」

口にしているリザが一番良く分かっていた。

二人が助かるのは……いや、ハインツが助かるのは難しいと。

「迷ってる時間はねえ。スリーカウントだ、いいな?」

「了、解……!」

「カウントは任せたぜ」

言い終えたハインツが詠唱を開始する。

いよいよ焦れた三面鬼たちが走り出した。

「三」

最後のボルトを三面鬼の足元へ放つ。

既に氷の盾を生成していた三面鬼は構わず突っ込んでくる。

「二」

ボルトが弾け、閃光が迸る。

周囲を照らす光に三面鬼が怯む。

「一」

稼げるのは一瞬の間だけ。光を見てしまったのとは別の目を使ってこちらを捉えた三面鬼がすぐに走り出すはずだ。

「零」

口にしたとき既にリザは走り始めていた。振り返ることはしない。

それが自分を逃がしてくれた彼へのせめてもの報いだ。

背にハインツの魔術の音を聞きながら、彼女はただ走った。