軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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装備を整えて店を出る

カティアは極彩色の手甲を見て若干引き気味だったが何も言わずに会計を済ませると店を出た

「ああ、そうだ」

ジグもそれに続こうとしてふと思いつき足を止める

見送りに来ていたシェスカが営業スマイルのまま首を傾けた

「仕事に関わることだから詳しくは話せないんだが……しばらくは一人で出歩かない方がいい。人気が少ないところには近寄らないようにしてくれ」

唐突なジグの忠告にシェスカは目をぱちくりとさせた

しかし冗談を言っているわけではないとジグの表情から理解する

彼女はそこで初めて営業スマイルを消すと自然に微笑んで礼をする

「承知致しました。店の者にもそれとなく伝えておきます。お気遣い、ありがとうございます」

「……話の早い店員が居なくなると困るからな」

そう言って背を向けると店を後にした

少し離れた場所で待っていたカティアが歩き出す

その半歩後ろを歩きながら視線だけを周囲に巡らせた

「これからどうする?」

「昨日、カンタレラと話を付けてきた。そろそろ動き出す頃だ。アタシは何人か連れて遊撃……余計な邪魔や取りこぼしがないようにフォローすることになっている」

事態の早さにジグが意外そうな顔をする

大きな組織の動きは鈍くなりがちだ

大人数の意思を取りまとめることの難しさに加え他の組織との兼ね合いもある

「動きが早いな。流石と言うべきか?」

「今回ばかりは早めに動かないと不味い案件だからね。……それにウチはちょっと前に内輪揉めが済んだ後だったんだ。今のバザルタは実質一人が仕切っている状態で即応性が高い」

「……ほう、そうだったのか」

バザルタの内部勢力争いはジグも良く知るところ

以前に関わった依頼でのことが原因なのは間違いないだろうが、仕事の流儀としても今の依頼主から余計な不信を買わない意味でも黙っている方が賢明だ

「しかし大丈夫なのか?連中と正面からぶつかればタダでは済まんだろう」

腕を斬り落としはしたがマカールはまだ生きているし、あの大弓を持った男もいる

あれ並の実力者が他にもいたとしたら、勝てないとまでは言わないが大きな被害が出ることは明白

バザルタほどの組織がそれを無条件に良しとするとは到底思えない

「アタシもそう言ったんだが、何やら策があるらしい。戦力は十分だってさ」

「ふむ……そう断言できるほどの何かを用意できたと見るべきか」

「詳しくは知らないが、ヴァンノは無策で動くタイプの奴じゃない。信用は出来る」

ヴァンノ

以前もその名を聞いたが、話を聞くに恐らくあの時の人物で間違いないだろう

相手の失脚理由を見つけたとはいえバザルタほどの組織をまとめ上げる手腕だ

直接見た感想としても相当な切れ者なのは間違いない

悟られぬよう気を付けねば

「ジグはあくまでアタシの護衛だけしてくれればいいよ。それ以外は契約外ってもんだ。追加人員は何人か来る予定だよ」

「……その何人かとは、今尾けてきている連中のことか?」

慌てて周囲を見回す愚行は犯さない

視線だけ鋭くしたカティアが何食わぬ顔で世間話をするようにジグを見た

「どいつだ?」

「四時の方向、距離五メートル。二本の剣を腰に下げた若い男」

想像以上に近い距離に一筋の汗が伝う

内心の動揺を押し殺しそちらを見た

丁度ジグがいる方向だったので自然に盗み見ることができた

その男を見た自分の表情が苦々しく変わるのを感じる

悪い意味で、見覚えのある顔だ

「……最悪だ」

「知り合いか?」

「こっちが一方的に知っているだけ……ザスプ=ログナー、三等級の冒険者だ。ギルドが動いてるのは知っていたけど、こんな大物動かしていたとは聞いてないぞ……」

「有名人なのか?」

知らない名前なので尋ねるとため息をつかれた

「しょっちゅうギルド出入りしてるジグが何で知らないんだよ……あの若さで三等級まで上り詰めた天才って話だ。なんでこんな時に……」

ギルドも情報を集めてはいるが当事者でないのとカンタレラも身内に緘口令を敷いているため思うように集まっていない

下っ端を吊るしあげたところで大した情報は得られない、そんな時にマフィアの重要人物を見つけたのならば話を聞きに来るのは当然ではある

舌打ちしたいのを堪えてカティアが考えを巡らせる

「ちなみに、居場所は掴めていないが他にもいるんだが、これは……」

「……あぁクソ……!パーティーメンバー、だろうな……確か三人組で活動してるって聞いた」

我慢できずに頭を掻きむしって苛立ちをあらわにする

(このままあいつら引き連れて現場に行く?駄目に決まってんだろ……あっちから見ればどっちがどっちのマフィアかすら判別付きにくいってのに、余計な邪魔されたらかなわねえ。どうすればいい……?)

頭を抱えて唸る依頼主を横目に見ながら周囲を警戒していたジグの眉が動いた

視線の主が移動していると同時に何か魔術を行使している匂いを感じ取る

「悩んでいる時間は無いみたいだぞ。他二人が動き出した。恐らくだが囲もうとしている」

ジグに急かされてある程度の予測を立てつつ優先順位を即座に決める

「……人気のないところに行こう。一応、交渉してみる」

「了解」

彼女の意図を理解したジグは人ごみから外れて細い路地に入る

急ぎ足で進む二人を追いかけるように気配が三方向からついてくる

両者の距離は縮まっていき足音が聞き取れる程になって来た

(軽い足音、普通の足音、それに重い足音……鎧の擦れる音からして重武装の奴もいる……厄介だな。軽いのはさっきのザスプとかいう冒険者だろう)

表通りから十分に距離をとった所でカティアが立ち止まる

少し広めの通路で周囲にはゴミ箱程度しかなく人影も隠れる場所もない

逆にこちらに近づく者がいればすぐに気づくことができて内緒話をするのにうってつけの場所だ

この手の道をよく使うマフィアならではのチョイス

「こんにちは。少しお話いいかしら?」

声を掛けられたカティアがゆっくりと振り返る

「……何かアタシに用かい?冒険者殿」

その顔は既にマフィアのものだ

物腰には粗暴ながらも品が感じられ、彼女がただ者ではないことが窺える

「あら可愛らしい」

だが今回はそれが通じる相手ではない

三等級冒険者とはそういう存在だ

くすくすと笑いながら近寄って来たのは銀髪の眼帯女だ

カティアの視線を歯牙にも掛けないどころか威圧してさえ来る

「っ……」

その辺りのマフィアとは桁違いの迫力を受けカティアの額に汗が滲む

このまま場を呑んで自分たちのペースを作るつもりだろう

無意識に一歩下がりそうになる彼女の肩をジグの大きな手が掴んだ

「……こっちも忙しい身なんでね。手短に頼むよ」

「へえ……?」

踏みとどまったカティアに面白そうな顔をした眼帯女

その視線がジグに移ると一瞬口元を苦々しく歪めるが、すぐに取り繕ってカティアに話しかけた

「これ、見覚えないかしら?」

そう言って取り出したのは例の注射器だ

あの場にあったものは全て回収していたはずだが、どこかから入手したのだろうか

「……それは?」

「最近出回り始めているドラッグでね?こっちにも被害者が出ているのよ。それで私たちが調査しているんだけど……そちらの大男がこれを使用した疑いが出てきているのよねえ」

(何をどうすればそういう調査になる……)

あらぬ疑いを掛けられたジグが眉をしかめた

事実はどうあれ彼らはそれを足掛かりにこちらを探ろうとしているようだ

カティアは表情を動かさぬままに腕を組んだ

「彼はつい最近アタシが個人的に雇い始めた護衛だ。それとは何の関係もない」

「ではあなたたちマフィアは?こんな危険な代物を誰が扱っているというの?……その大男がとんでもない力で他のマフィアたちを蹴散らしているところを目撃している人がいたわ。およそまともな人間とは思えないほどの殺戮だったそうよ。それに関してはどう言い訳するのかしら?」

(確かに)

間近でジグの戦闘を見ていたカティアは思わず同意しそうになってしまった

アレを見ていた人間からすればジグの方がよっぽどおかしい状態だと思うのも無理からぬことだろう

当の本人は不満そうにしているが

「……あれは襲われたのを返り討ちにしただけだ。そのドラッグのせいで易々とは死なない体になっていたからな。それを持ち込んだのは他所から来たマフィアだ」

眼帯女は鼻で笑った

「それを信じろと?」

「信じてもらう他ないな。ウチとしてもそんなもん持ち込まれて迷惑している所なんだ」

少し考え込むようにしていた眼帯女だったが、やがて首を振った

「……すべてが嘘とは思わないけど、それを鵜呑みにするには情報が少な過ぎるわ。手荒にはしないから、あなたたちのボスに話を通してくれないかしら?」

「言っただろ、忙しいって。あと二日、いや一日待てないか?」

今ギルドに首を突っ込まれては作戦に支障が出る

彼らはまだどこが黒幕かもわかっていない状態だ

先日の戦闘でジグが疑われている以上、下手をすればアグリェーシャに利用される恐れすらある

そう思って時間を稼ごうとしたのだが、返ってきた答えは拒否だった

「子供のお使いではないのよ。待てと言われたから待った、では通らないわ」

「……今からそいつらにお灸を据えに行くから邪魔をするな、って言ってもか?」

向こうにこちらの情報を渡してでもこの場さえ乗り切れるなら

カティアの苦渋の判断に返って来たのは無言の戦意のみだった

「行け、カティア」

交渉は決裂と見ていいだろう

ジグは彼女の前に立つとそう促した

戦闘は避けられないと悟った相手も既に臨戦態勢だ

「……悪い。時間稼ぎ、頼めるか?」

「ああ、終わらせたら合流する。それまで無茶はするなよ?」

「バカ、こっちの台詞だ」

背を叩かれる感覚と共に足音が遠ざかっていく

足音を聞きながらジグも武器を抜いて構えた

眼帯女……エルシアは既に銀色の棍棒をこちらに向けていた

「……三対一でその余裕。随分腕に自信があるみたいね?」

「並み以上の自覚はあるよ」

ジリジリと間合いを詰めながらエルシアとジグが軽口を叩く

大剣を肩に背負ったタイロン、サーベルを両手に下げたザスプは隙を窺いながら横に移動している

「ドラッグに頼っている癖に随分強気ね。そんな紛い物の力で私達に勝てるとでも?」

相手を侮る挑発はあくまでブラフ

エルシアはジグが油断ならない相手であることを理解していた

「さてな。これから試してみるとしよう」

蒼い双刃剣と極彩色の手甲が妖しく光った

二人は言葉を交わすのをやめて相手の動きをほんの一瞬でも見逃さぬように睨み合った