軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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大通りから外れた富裕層のとある高級レストラン

様々な組合や幹部などその筋の者達が会合に使うことで有名なその店は今、マフィアの貸し切り状態となっていた

その店の顔ともいえる豪奢な大広間で二人の男が向き合っている

一人はバザルタの次期首領とも目されるヴァンノ=ロータス

その彼の正面に座っている老人こそがカンタレラ首領、ベルトルド=ロマーニ

二人は背後にお互いの部下を引き連れて睨み合っている

「……さて、俺を呼び出した理由を聞かせてもらおうか。ヴァンノ?」

話を切り出したのはベルトルドの方だった

豊かな腹を揺らして喋るその様は滑稽にも見えるが、彼の鋭い眼光がそれを許さない

対してヴァンノはいつものくたびれたトレンチコートに葉巻を片手で弄んでいる

「今日はうちの招待に応じてくれて感謝しますよ、ドン・ベルトルド」

「こんなもん送りつけられちゃあな。無視するわけにもいかねえだろ」

ベルトルドがテーブルの上に何かを放る

乾いた音を立てて転がったのは注射器だった

カティアから受け取ったアルバーノが報告用にと自分に流したものだ

それが何かを知っているカンタレラが無視できないのは分かっていた

ベルトルドはドスの効いた低い声でこちらに問いかけてくる

「……こいつをどこで手に入れた?」

「いやですなドン。分かり切ったことを聞かないでくだせえよ」

ベルトルドの鋭い眼光に粘ついた笑みで返す

視線が険しさを増すがヴァンノはどこ吹く風と飄々とした態度を崩さない

やがてため息をついたベルトルドが根負けしたように話し出した

「……ウチの庭先で随分派手にやらかしてくれたじゃねえか?死体を片づけるのもただじゃねえんだぞって、おめえんとこのお姫様に伝えといてくれねえか」

「うちのお嬢はお転婆でね。俺程度で止められる御方じゃねえんですわ」

あの騒動はカンタレラ側も当然把握していた

バザルタ側がどの程度まで知って動いていたのか探ろうとしていたベルトルドはヴァンノの態度からそれを悟った

「……回りくどいのは無しだ。本題に入れや」

「流石、話が早くていい。……今回の件はうちで片つけさせてもらいたい。そちらにはあくまでも傍観者を務めてもらいますぜ」

このことを黙っている代わりに美味しいところはこちらに寄こせと伝える

ヴァンノの要求にカンタレラの幹部たちがいきり立った

外敵の駆除に尽力したのがバザルタだと伝われば組織の影響力も大きく高まる

カンタレラの庇護下にあった組合や下部組織なども身の振り方を考えるだろう

「ふざけるなっ!うちの 縄張り(シマ) で起きた問題に余所が口突っ込んでくるんじゃねえ!!」

「黙れ三下がぁ!!てめえらが自分のケツもろくに拭けねえからこっちが仕方なくやってやろうってんだ!一丁前な口叩くんならまず通すべき筋ってもんを通してから言えクソガキィ!」

テーブルに拳を叩きつけて返されたヴァンノの啖呵に吠えていたカンタレラの幹部が気圧される

怒号を上げる彼にそれまでの昼行燈染みていた雰囲気はなく、マフィアの大幹部としての気迫がそこにはあった

それを受けたカンタレラの幹部たちの反応は二つ

怯むか、戦闘態勢に入るか

目を殺気立たせた武闘派の幹部たちが自らの得物に手を当てる

それに応じてバザルタ側も臨戦態勢をとった

緊迫した空気が部屋中に広がり、先ほどとは意味合いの違う睨み合いが始まる

「……よせ」

一触即発の彼らを制したのはベルトルドだ

カンタレラの幹部たちが戸惑うように戦闘態勢を解いた

「しかしボス……」

「二度は、言わねえぞ」

それでも食い下がろうとした若い幹部は見もせずに言い放った言葉で黙らせる

自分たちのドンの怒りを帯びた声音に青い顔をして引き下がる

ヴァンノは先ほどまでの気迫はどこへやらとばかりにへらへらとそのやり取りを見ていた

バザルタの幹部たちは指示を仰ぐようにヴァンノの方を見ると、彼はひらひらと片手を振って応える

それを見た幹部たちは無言で戦闘態勢を解いて何事もなかったかのように直立した

その様子を見たベルトルドは練度の違いにため息をつく

「……ガスパロの野郎は跡継ぎに恵まれていて羨ましいぜ」

「ドンにそう言ってもらえると自信が付きますな」

心にも思っていないことを……そう悪態をつきたくなるのを堪えるように眉間を揉むベルトルド

「だがよぉ、うちも間抜けばっかりじゃねえんだぜ?……てめえらが下抑えきれなくて 人身売買(ジンバイ) に手ぇ出したってのもしっかり聞こえてきてる」

カウンターの一撃は見事にヴァンノの脇腹を捉えた

(気づいていたか。地獄耳爺が……)

盛大に舌打ちしたい衝動を抑えて葉巻を口にすると部下がすぐに火をつけた

紫煙を 燻(くゆ) らせて思案するヴァンノにベルトルドが笑う

「お互い知られたくないことがあるって立場は同じなわけだ?」

「冗談言っちゃいけねえよドン。こっちはあちらさんとも話ついてるんだ。穏便にってな。先走ったバカ以外は誰も死んでいないし、被害も出ちゃいない」

痛いところを突かれたベルトルドが渋い顔をして嘆息する

とはいえヴァンノも表情程楽観的でいるわけでもない

確かに加害者被害者共に納得した件ではある

仮に明るみに出たところでカンタレラほどの被害は出ない

だがバザルタも世代交代が進み始めているナイーブな時期だ

ただでさえアグリェーシャとの騒動もあり、あまり組織内部に波風を立たせたくないのも事実

「七:三。これで手を打ちましょうや、ドン」

「……仕方がねえ。今回は譲ってやる」

「そらどうも。悪いようにはしやせんよ。ワシらもあんなもん広められちゃあ困るんでね」

「ふん、どうだか」

重苦しく頷くと席を立つベルトルド

彼は部下に葉巻をつけさせながらふと思い出したように尋ねてきた

「そういやよ。よくあのジィンスゥ・ヤ共相手に穏便に収めることができたな。どんな手品を使いやがったんだ?」

その目はヴァンノのわずかな動きも見落とさぬように注視している

何気なく聞いているようでベルトルドの関心はかなりのものだろう

(そりゃそうだ。俺だって奴らの心変わりの理由が知りてえよ)

個々の戦闘力が非常に高く迂闊な手出しができないあの異民族共にはヴァンノも手を焼いていたのだ

仲間内での結束が固く金銭でも靡かない彼らと交渉するのは容易ではない

身内以外に排他的で、とりわけこの街に移ってきた当時諍いがあったマフィアには敵対的だった

それがどうしたことかあの事件で出会った白雷姫は交渉に応じる素振りを見せた

ジィンスゥ・ヤでも有数の達人である彼女が働きかけたのならば交渉も実現しうる

そう判断して博打をしてみれば上手く事が運んだ、それだけのことだ

あれだけ頑固だった彼らが変わったのには何かしら理由やきっかけがあったのは間違いないだろう

ヴァンノも必死に探ったのだがそれに関する情報は何一つ出てこなかった

あのジィンスゥ・ヤとの交渉を成功させたことで跡目争いの結果は決まったようなものだ

下手につついて関係を悪化させることを恐れた彼は水面下で探りつつも表面上は事件の負い目で協力的に動いているという体を演じていた

彼の沈黙を訝しんだベルトルドが返事を促した

「どうなんだよ、おい」

「誠実に対応した。それだけのことですわ」

しばらく無言で視線を交わす

先に逸らしたのはベルトルドの方だった

「……そうかよ。ガスパロによろしく言っといてくれ」

「ええ、 仲良く(・・・) やっていきましょうぜ?」

食えない男を一睨みするとカンタレラのドンは鼻を鳴らし部下を引き連れて出て行った

それを見送ったヴァンノが大きく息をついた

額の冷や汗を拭って水を飲み干す

ベルトルドとの会談は非常に気を張る必要のあるものだった

弱腰に出るわけには行かないが加減を間違えれば身の破滅が待っている

「俺もまだまだ青いな……経験が足んねえよ。荒事苦手だしなぁ……」

(今でこそデブだけどあの爺さん現役時代は相当修羅場潜ってたって話だしな。目とか超怖え)

だがその甲斐はあった

ジンバイのことを知られていたのは誤算だったがそれを含めても上々の交渉だったと言えるだろう

「後はギルドの横槍が入る前に仕上げちまうか。その前に飯食うか。さっきは緊張して全然食えなかった……」

「ヴァンノさん、今いいですか。アルバーノからの連絡です」

すっかり冷えてしまった料理をパクついていると部下が報告を持ってくる

わざわざ今持ってくるということはそれなりに重要な用件のようだ

「おう、聞こう。飯食いながらで悪いな」

「コート汚さないで下さいよ?ただでさえうらぶれて見えるんですから」

「言ってくれるね。無駄にたけえのより着慣れたのが好きなんだよ」

軽口を叩きながらも言われたとおりにコートを脱いで食事を続ける

そのコートを慣れた様子でしわを伸ばして畳むと口頭で報告をする

食事を摂りながらそれを聞いていたヴァンノの表情がわずかに変わる

「ギルドがもう動いている?早いな……身内から馬鹿が出たかね。そうなると腕利きを投入してくる可能性が高いな。ぶつからねえように気をつけねえと……」

「カンタレラに続いてギルド……うちも、もう一度内部を洗っておきます」

「頼む。……で、なんだぁアルバの野郎。たかだかいち傭兵程度を俺にもう一度調べろだと?前に問題ねえって調査報告したじゃねえか。あれじゃダメなの?」

面倒臭そうにパスタを巻く彼に苦笑いする

「アルバーノの話だと腕が立ちすぎるとか」

「いいじゃん。護衛なんだから腕が立って」

投げやりに言いながらスープを行儀悪く啜る

「例のドラッグを使ったアグリェーシャの幹部他数名を単身で撃破してもですか?」

ごふぉ、と汚い音が響く

嫌そうな顔をして部下が布巾を渡し、むせながら顔についたスープを拭うヴァンノ

「さらにカンタレラの下っ端が普通のドラッグを捌いていたのも知っていたとか」

「怪しすぎるだろ!なんでお嬢はそれ知って手元に置いてるんだよ……いやそんな奴放っておくのも怖いけど」

肝据わりすぎだろう

「ハァ……分かった、その傭兵はもう一度調べさせる。あと暇を見つけて直接会っておくとアルバに伝えとけ」

「了解です」

部下が頷いてすぐに動く

それを見送ることなくヴァンノが思考を深く巡らせる

「さて、どう立ち回れば一番利益が出るかね?」