軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ジグたちは尾行を警戒して遠回りしながら拠点へと向かい、追手がいないことを確認すると昼間の事務所に駆け込んだ

「お嬢、おかえりなさ……一体何があったんすか!?」

ただ事ではない様子のカティアと返り血に汚れたジグを見たエラルドは慌てた様子で騒ぎ立てる

その声を聞いたアルバーノ達が血相を変えて駆けつけてくる

アルバーノは強面をさらに険しくしながら詰め寄ってくる

「お嬢!ご無事ですか!?」

「アタシは平気だよ。怪我一つない。ジグが護ってくれたからな」

「ご無事で何よりです……お前も御苦労だったな」

「気にするな、仕事だ。少し任せていいか?着替えと武器の手入れをしたい」

ジグの服は返り血と肉片が付いて酷い有様だった

毎度のことながら防具もボロボロで役割をなしていない

「今日はもう外に出るつもりはないし休んでいてくれ。……後でお湯を持って行かせる。部屋汚すなよ?」

「そうさせてもらおう」

カティアにそう言われたジグは部屋に向かう

その背を見送ったアルバーノがカティアに尋ねた

「一体何があったんです?」

「順を追って話す。色々、面倒なことになって来たよ……ヴァンノは?」

「今は外しています。奴も相手の動きを探るのに苦心しているようで」

「なら朗報だ。奴ら、どうやらカンタレラの下っ端を使っているみたいだ」

「なんですって?」

突然もたらされた情報にアルバーノも驚きを隠せない

長くなりそうだと悟った彼はカティアに椅子を勧めて水差しとコップを差し出す

カティアは椅子に座り水を飲んで一息つくと先ほど起こったことを細かに伝えていった

「……なるほど、そんなことが。まさか、カンタレラの末端が糸を引いていたとは。このことカンタレラ側も当然気づいているでしょう。それなのに何のアクションもないのは……」

「言えるはずないだろうな。自分たちの下っ端が薬に狂って外のマフィアの手引しました、なんて」

もしそんなことになれば面子丸つぶれどころの話ではない

求心力を失ったマフィアの行く末は悲惨なものだ

どうにかして内々に収めようと身内に緘口令を敷くだろう

彼らの縄張り内に手がかりがあるならばバザルタも迂闊には手が出せない

(そうか。だからあのマカールという男もバザルタ側の人間がいることに驚いていたのか)

それならば奴らの動きや尻尾を掴めないことにも得心が行く

「しかし話が大きくなりすぎたな。今回は表側にも被害が出ているためギルドも首を突っ込んでくるだろう」

「いえ、もう動き始めています」

「何?随分早いな……」

予想外の動きの早さにカティアが眉をしかめる

マフィアと違ってギルドは公的機関のため、動くには手続きや上への報告や危険度の判断など手順がいる

また冒険者たちにも暮らしや仕事があるのですぐさま人を集めるというのが難しい

今回の行動速度は異例と呼べるものだった

「……これはまだ正式な情報ではありませんが、冒険者側にも被害が出たという話です」

聞きたくなかった情報にカティアがこめかみを押さえて天を仰いだ

この場合の被害とは襲われたということではない

基本的に自己責任の冒険者が暴漢に襲われたくらいでギルドが本格的に動くことはまずない

襲ったのが冒険者ならまだしも通常の犯罪者の捜索など憲兵の仕事だから当然ともいえる

仮に動くとしてもクランが先で、ギルドは多少支援するくらいだ

つまりこの場合の被害というのは

「冒険者達にもドラッグに手を出す馬鹿が出たか……」

「まずいですね。そこいらのチンピラ程度ならともかく冒険者があのドラッグを使ったとしたら手に負えなくなる」

曲がりなりにも魔獣との戦闘を生業にしている彼らがドラッグを使えばその危険度はマフィアの比ではない

「……そっちの対処は冒険者たちに任せよう。アタシらの知ったことじゃない」

「それが一番かと。取り込まれた冒険者の情報を手に入れ次第、ギルド側に流します」

バケモノの対処はバケモノにやってもらうのが一番だ

「この話、ヴァンノにも伝えておいてくれ」

「了解です。……お嬢、話を聞いていて気になったことがあるんですが」

アルバの疑問は分かっている

何より自分も一度はそう考えたし、今でも状況だけ見れば十二分に怪しすぎる

カティアはコップの水を飲み干してその淵を撫でながら吐き出すように口にした

「分かっているよ……ジグのことだろう?」

「何から何まで怪しすぎる。奴はいったいどこまでこの件に関わっているのかすら見えない」

それら全てを偶然で済ませられるほどアルバーノは楽天的ではない

「お前の疑問は尤もだが、あいつがマフィア側ってことはないよ。現に幹部格の男の腕を斬り落として見せた。邪魔が入らなければ……いや、アタシという枷が無ければ増援も含めて皆殺しにしていただろうさ」

「……それほどでしたか、あの男は。つまりお嬢を殺すにしても攫うにしてもどうとでもできたと?」

カティアはそれに返さず視線のみで答えた

彼女は席を立つと窓際まで歩いて外を見る

薄暗くなり始めた外と仕事を終えて帰路に就く者たちの喧騒が遠くから聞こえてきていた

「ジグを懐に置いておくのが危険だというのは分かっている。だがそれ以上に、あいつが敵の手に渡った時の方が怖い。あれだけの戦力を持つ者がどこにも属していないというだけでも危険なのに、金次第でどこにでもつくなんて言っているんだぞ?リスク込みでも見えるところに置いておかないと怖すぎる」

「……引き入れますか?」

マフィアに勧誘するというアルバの提案に首を振る

そこまで判断する権利は自分にはないという意味もあるが、ジグが了承する絵が浮かばなかったという方が強い

「とにかく今は目の前の問題に注力しよう。なに、上手く使えばこれ以上ないくらい強力な手札になるんだ。給料分はこき使ってやるさ」

事務所の空き部屋でジグが武器を研いでいる

「……細かい傷が目立ってきたな」

蒼い刃を磨きながら刀身を眺める

マカールの武器はかなりの業物だったらしい

あれだけの重量差がある武器だというのにまともに打ち合えていたのがその証拠だ

最後には腕ごと叩き斬ったがかなりの力技だった

これから先、あれと同等の武器を持った相手が出てくると厄介だ

同じ重量武器だった場合一方的に破壊される可能性があるのはまずい

となると買い替えが選択肢に上がってくるのだが……

「七十万かかったんだがな……」

今より良い武器を手に入れようというのだから、当然今より高額になる

普通なら今使っている武器を下取りなどにするのだが、使用人数の圧倒的に少ない双刃剣を下取りに出したところで断られるか二束三文になることは目に見えている

「それ以前に在庫があるのだろうか……」

大きな武具屋でも二本しか置いていなかったのだ、ジグの望むような武器があるとは考えにくい

そうなるとオーダーメイドしかないが、費用も時間もより多くかかる

しかしそろそろ動いておかないといざ破損したときに造るまで何か月もかかります、では困る

「金、足りるか……?」

稼ぐ金額は増えているのだが、それ以上に手練れを相手にすることが多いため更新速度が追い付かない

今回は手甲を駄目にしたし、防具などもう何度壊したことか

「……やれやれ。いつになっても出費に悩まされるのは変わらんな」

傭兵団に所属していた時は諸々の処理を事務方に任せていたので気楽なものだった

その当時からすれば確実に収入は増えているはずなのだが、失われていく額も大きいため妙に損をした気持ちになってしまう

そうして頭を悩ませていると扉がノックされた

「邪魔するよ」

答える前に入って来たのはカティアだった

彼女は双刃剣を興味深そうに眺めると次に破損していた防具に目を向ける

「派手に壊れているね」

「それぐらいには強敵だったさ」

「明日あたり買い替えるか?」

それぐらいだったら寄り道しても構わないと言ってくれるカティア

「そうしたいところだが、先立つモノが……む?」

そういえば契約をした時に……

”期間は五日で日当十万。これは拘束代金で襲撃があった際には別途十五万支給する。破損した装備等は必要経費でこちら持ち……常識の範囲内でな。消耗品は要相談”

「そうだった!」

「うわ!なんだよ……?」

「こんな好条件珍しいからすっかり忘れていたぞ。確か装備品の破損はそちらでもってくれるんだったな?」

カティアは面食らったようにしていたが聞かれた内容にそんなことも言ったなと思い出す

「ああ、確かに言ったな。ついでに常識の範囲内って言ったことも忘れないでくれよ?」

「心配するな、無茶なことは言わんさ。いや助かった。毎度これではいくら稼いでも赤字になってしまうところだった」

経費が安く済むことになったジグは機嫌がいい

(……なんか、アタシだけ無駄に気を張っているんじゃないだろうか?)

ジグの動向が気になって様子見に来たカティアは肩透かしを食らったような気持ちになる

緩んだ気持ちを引き締めると居住まいを正す

それはそれとして、言っておかねばならないこともある

「ジグ。その…悪かったな。あの時疑ったりして」

あの時は危急の事態だったのでうやむやになってしまったが、疑われた方は気分のいいものではないだろう

唐突な謝罪に機嫌よく武器を磨く作業に戻っていたジグは肩ごしにちらりとカティアを見た

「そんなことか……別に構わんぞ。というより、マフィアならそれぐらいの猜疑心を持つのは当然だ」

最近疑われ慣れてきたしな

思わずそう口から出そうになってしまったが悲しくなったのでやめた

カティアはそれでも引かなかった

「それでも、謝っておきたかったんだ」

「……そうか。謝罪を受け入れよう」

「明日もまたよろしく頼むよ。……武器の手入れ、見ててもいい?」

唐突な彼女の申し出だったがジグは深く追求せずに好きにしろと返す

カティアは椅子を足で行儀悪く引き寄せると背もたれに両腕を重ねてジグが武器を磨くのを見ている

(……まだ疑いは晴れていないと見るべきか。我ながら本当に怪しいしな)

だがいくら疑われていようと自分のやることは変わらない

彼女たちが無駄骨を折ることになろうともそこまでは関与できないのだから