軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

62

翌日は結局休みになった

ジグの怪我はほぼ治っていたが大事をとることにした

シアーシャ自身も魔術開発に思ったより難航したようで疲れが抜けきらなかったようだ

手持無沙汰になってしまったため、仕事の報告をしようとワダツミへ向かう

体調が良くなったら報酬の話がしたいと宿に伝言が来ていたので丁度よかった

途中で鍛冶屋に寄り胸当ての修理を頼むと繁華街を抜けてワダツミのクランハウスに向かう

扉を開けて中に入るとこちらに気づいた冒険者が驚いたように声を上げた

「うん……?お、おい!来たぞ、例の奴だ!」

「マジでもう動き回ってやがる……ベイツさん達呼んで来い!」

慌てて席を立つと騒ぎながら奥へ行ってしまう冒険者たち

放置されたジグが勝手に歩き回るのもどうかと思い待っていると知った顔がこちらに気づいて近づいて来た

「おや、ジグ様。本日はどういったご用件で?」

「仕事の報告にな。ベイツたちはいるか?」

声を掛けてきたのはカスカベだった

線の細い男が眼鏡を押し上げながら人が善さそうな笑顔を浮かべている

それが作りものであることを知っているジグはそれでも嘘くささを感じさせない表情に感心する

「お二人でしたら今クランマスターに報告中です。そこまで掛からないと思いますので少々お待ちいただけますか」

「分かった」

ではこちらへ、と階段を上るカスカベに続く

以前と似たような、しかし全く違う状況に苦笑いを浮かべるカスカベ

敢えて以前と同じテーブルにジグを座らせるとお茶を出す

「例の賞金首討伐の件は聞いていましたが、外様の協力者がジグ様だったとは……クランの経理として、お礼を言わせてください」

「気にするな、仕事だ」

それが建前なしの本音だと気づいたカスカベはそれ以上言わないことにした

ジグがカスカベと言えばとギルドでのことを思い出す

「そういえば、お前の姉に会ったぞ」

「……そのようですね」

すると今まで完璧な表情をしていた彼が初めてそれを崩した

飄々としたこの男もどうやら姉に対する話題はウィークポイントのようだ

「あの話を聞いた姉は激怒しましてね。まだ頭が痛いですよ……」

そう言って頭部をさするカスカベ

ジグがくっくと笑いながら茶を啜った

「拳骨でも貰ったか?」

「似たようなものです。 踵(かかと) 落としを少々」

中々に直接的なやり取りを好む姉のようだ

辟易とした顔をするカスカベに「お前を心配してのことだ」と言おうとしてやめる

そんなことが分からないほど子供でもないだろうし、また他人にそれを言われることが如何に惨めか知っているからだ

そうして待つうちに階段を誰かが上がってくる

「おう、御苦労だったなジグ」

「……本当にもう動き回ってる。アタシより大怪我だったのに」

ベイツとミリーナが向かいに座る

彼らは先日大怪我したばかりのジグが元気にしているのを見て驚きと呆れの顔をした

ミリーナなどまだ回復術の怠さが抜けきっていない

「まあ健康なのはいい事じゃねえか。それより報酬の話だ」

そう言ってベイツが金の入った袋を差し出す

「これが残りの報酬金二十。事前に話していたトラブルの時は要相談って点についてだが……」

そこで言葉を切ってちらりとカスカベに視線を向ける

カスカベはその意図を汲んで頭の中で算盤を弾く

「……怪我の治療費はこちら持ち。防具修繕費等諸々込みで五十でいかがでしょう?」

中々に太っ腹な追加報酬だ

ジグはその金額に単なる報酬以上のものを感じた

「諸々の詳細は?」

「今回の賞金首討伐はあくまでワダツミのみで行われた。なので歴戦の蒼双兜の素材全てとその名声は当クランに所持権がある……ということでどうでしょうか?」

新人教育に力を入れているワダツミは他クランに比較して尖った功績が少ない

賞金首討伐自体もクランが本腰を入れれば難しい事ではないが、それを若手だけで成したとなれば話は大きく違ってくる

それだけの育成能力や若くても成り上がれるだけの下地があると分かればさらにワダツミの規模は増す

優秀な若手をこぞって掻っ攫われてはベテランの多いギルドも黙ってはいられないだろう

その功績に味噌がついてしまっては価値も大きく下がる

そのための口止め料金を含んでいるとカスカベは伝えてきたというわけだ

彼は平静を装っているが内心は硬くなりそうな表情を押さえつけていた

「……了解した。俺は怪我人の搬送に向かっただけで、怪我をしたのは賞金首とは関係のない魔獣によるもの。これでいいか?」

「はい、十分でございます」

ジグがすんなり納得してくれたことで胸をなでおろす

彼がごねて報酬の釣り上げを行えば若手だけで難行を成したという綺麗な結果の欲しいワダツミは可能な範囲でそれに応じなければならなかった

ジグとしては相手が予想以上の利益を上げたからと言って報酬の釣り上げを要求するのは主義に反するので元よりするつもりもなかった

脅威度の意図的な低減が行われていたならともかく、事前に想定外の危険がある可能性は告げられていた

一度は納得した金額に後からケチをつけるような行為はすぐに広まり、次の仕事に支障が出てくる可能性がある愚行として傭兵界隈では基本的に厳禁だ

(彼ならば一度契約したことは破らないだろう)

以前大人数で囲んだ時も決して依頼のことは話さなかった

結果それが刃傷沙汰になったとしてもだ

カスカベは敵として相対したときにそのことを身に染みて実感していた

「毟り取れるうまい話だってのによ。だがおめえならそういうだろうと思ったぜ。そこで、だ」

どちらの味方か分からないことをベイツが言いながら懐を漁るとテーブルに置いた

大人の拳ほどの大きさをしたそれは暗い赤色の宝石に見えるが、少し違和感がある

「これは?」

「魔繰蟲の核だ。ただの魔獣なんかと違って消えちまう魔力生命体だが、その代わり魔力が凝縮された核を落とすんだよ。こいつは加工すれば魔獣の素材とはちょいと違った効果を付与することができるんだ」

「魔繰蟲みたいな低級の奴からはあんまり役に立たない小粒しか落ちないんだ。だからこれは同じサイズの核以上に貴重な代物。あんなサイズの魔繰蟲の核なんてそうそうないからね」

ベイツの説明をミリーナが継いで話す

「気持ちは有り難いが、報酬は事前に決めた分で……」

「まあ最後まで聞けや」

断ろうとするジグに待ったを掛けるとカスカベを促す

「今回、魔繰蟲の討伐は計画にありませんでした。ワダツミで戦闘したのもセツさんだけですので、これの所有権は彼女にあります。その本人が、ジグ様へ譲渡すると決められました」

そう言ってカスカベはミリーナを見る

それを追うと彼女はその赤毛と同じ色の目でジグを見据えた

「“借りは返しました”……確かに伝えた」

その一言でセツの意図は伝わった

「……了解した」

それだけ答えると赤い核を受け取って席を立つ

「邪魔したな」

「おう、また面倒ごとあったら仕事頼むわ」

「都合が合えばな」

言葉少なに別れを告げるとワダツミを出た

「臨時収入も入ったしまた鍛冶屋に寄ってみるか。この魔力核とやらの用途も気になるな……聞いておけばよかったか」

度重なる臨時収入でジグの懐はとても暖かい

以前から気になっていた武具も現実的に買える金額になって来た

機嫌よさげに鍛冶屋に向かうといつもの店員が首をかしげる

「いらっしゃいませ……おやジグ様。胸当ての修繕にはまだ時間がかかりますよ?」

「別件でな。こんなものを手に入れたんだが、どう使えばいいのか分からなくてな」

魔力核を差し出すと店員が受け取って目を凝らす

「ふむ、魔力核ですか。しかし見たことのない種類ですね……私では細かい判断がつきませんので職人に見てもらいましょう」

こちらへと案内する店員についていくと以前試し斬りをした工房へ案内される

熱気が吹き付ける中一人の職人を呼ぶと渋々作業を中断してやってくる

「ジグ様、こちら職人のガントさんです」

「よろしく頼む」

「ああ、うん、どうも」

ガントは髭を蓄えた中年男性だ

抱いている職人のイメージとは違い荒々しいタイプではなく、多少神経質そうな感じだ

気難しそうなのは職人らしいともいえるが

「ガントさんはその双刃剣の製作者なんですよ」

「おお、そうなのか。これには随分世話になっている。感謝する」

「そりゃどうも。話、それだけ?まだやらなきゃいけないことあるんだけど」

おざなりに返事だけして戻ろうとするガントを店員が引き留める

「待ってくださいガントさん。本題はこちらです。これの鑑定と、詳しい用途をお聞きしたいんです」

ガントは魔力核を見た途端にそれを奪うようにひったくると引っ付かんばかりに顔を近づける

「ナニコレ。見たことない。こんな魔力核あったっけ?どこで手に入れたの?」

「ちょっと、ガントさん」

不躾な行動をするガントに店員が慌てるがジグはさして気にせず答える

「魔繰蟲の魔力核だそうだ。仕事の関係で手に入れてな、入手経路はよく知らん」

「魔繰蟲!あんな小物からこんなサイズのできるんだね!すごい、運がいいこともあるもんだ」

(ワダツミからしたら不運だろうがな)

内心で苦笑しながら騒ぐガントに用件を話す

「こいつで造れるものは何があるんだ?」

「え、そんなことも知らないの?まあいいや。手っ取り早いのは魔具の燃料にしちゃうことかな。これを組み込めば魔力消費を肩代わりさせることができるよ。使い切ったら終わりだけどね」

これを使えば魔具を使えるという情報にジグが浮立つ

魔術を使えないことを口惜しく思っていたがこんな形で使えるようになるとは

しかし続く言葉はそれを勧めないものだった

「でもそれじゃあせっかく珍しい魔力核も味噌糞一緒だからありえないね」

「そう……なのか?」

「うん。そんなこと頼まれたら店から叩き出すくらい」

「そうか……」

ありえないと一蹴されて肩を落とすジグ

「やっぱ造るならこれの特性を生かしたものにしないと。ちなみにどんな魔術使ってたか分かる?魔繰蟲の核なんてランプの燃料くらいにしか使わないから覚えてなくて」

「確か、広範囲に及ぶ衝撃波と斬撃を使っていたな」

「斬撃か……風系?」

「いや……風を飛ばしていたような感じはしなかったな」

「なるほど魔力操作系か。宿主を操るのもその辺から来てるのかな。ならあれが……」

ぶつぶつと呟きながら雑に積んである作品を探し始めるガント

実にマイペースな人物のようだ

それを尻目に店員が頭を下げる

「申し訳ありません、彼ちょっと変わり者でして……」

「職人は大なり小なりそんなものだろう。気にするな。彼らに求めるのは仕事の出来だけだ」

それ以外をフォローするのが店員やオーナーの仕事だ