軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

304

ノートンとアラン。

二人は使っている得物こそ長剣と大剣の差はあるが、その戦い方の方向性は似通っていた。

状況に合わせて魔術と剣術を併用したオールラウンダー。

ともすれば器用貧乏となりかねない役割でありながらも、高い地力と適応力で戦いの趨勢を握る重要人物。

「こちらの番だ!」

アランが左手から生み出した炎を横薙ぎに払い、突っ込んできた魔獣の鼻先を炙って牽制。

直後に踏み込みながら右の長剣で追撃を放ち、長剣に炎を纏わせながら斬りかかる。

ウルバスほど特化して修練しているわけではないので、受け止めた魔獣の爪を焼き斬るほどの威力はない。しかし肉を焼く痛みを与えて集中を乱すことぐらいはできる。

爪から伝わる熱を嫌がった魔獣がまた一歩下がる。

距離の開いた相手へアランはすかさず炎の渦を放ち、熱風で周囲を取り巻く霧を晴らした。

すると部分的にしか見えていなかった魔獣の姿が露わになった。

アランはこれまでの現象から、姿を隠す能力は霧の濃さに関係していると見抜いたのだ。

「種が割れれば大したことはない」

炎の渦を隠れ蓑に横合いから距離を詰めたノートンが、大剣を握る手に力を籠める。

両手で肩口に構えて強く踏み込むと、呼応するように大剣が雷撃を帯びた。雷を纏った斬り下ろしが魔獣の爪を激しく斬りつけ、罅をいれた。

続く斬り上げに耐えきれなくなった爪が折れ飛び、さらに踏み込んだノートンが雷大剣で体ごと突っ込む突きを繰り出す。

迎撃しようと振り上げた腕の肩口を炎の長剣が捉えた。

肉を焼かれる痛みに魔獣の動きが揺らぎ、その隙を逃さずに突き込まれた大剣が魔獣の体を貫いた。

「面白い魔獣だね。だが強みを活かすなら多対一を心掛けるべきだ」

大剣はそれにとどまらない。

ノートンは驚異的な膂力で胸を貫く大剣を縦に振り抜いて頭部を真っ二つに斬り裂き、続く斬り払いで首を刎ねた。

今回参加した冒険者たちはいずれも粒揃いの精鋭たちだ。

しかしその中で最も安定した巧い戦いをする者は誰かと問えば、皆が口を揃えてこの二人だと言うだろう。

「ぬぉおお!!」

グロウの大盾が霧の魔獣をがっちりと受け止めた。

ただ力任せに受けたのではない。馬上用かと見まごうほどの長槍で牽制して突進の勢いを削ぎ、大盾を地面に刺して力点を活かして受けている。力と技、二つを兼ね備えていなければ成せぬ熟達の仕事だ。

「よっとぉ!」

動きを止めた霧の魔獣にベイツの戦斧が振るわれた。

一撃で仕留めに行くのではなく、踏ん張る脚を狙っての下段攻撃は地味だが非常に有効な一手だ。

大盾と押し合っているところに二足歩行の弱点である足を刈られてはたまらない。

体勢を崩したところで支えとなっていたグロウが身を引けば、つんのめった魔獣は前のめりに倒れる。

地面についた手を長槍が縫い留め、すかさずグロウが魔具で放った氷の蔦がもう片方の手を覆った。

仕上げに叩き込まれた強烈な 盾打(シールドバッシュ) が鈍い音を響かせて魔獣の角を打ち据える。

四つん這いで両手を拘束され、頭を殴られて動きの鈍った魔獣は断頭台に拘束された罪人さながらだ。

「ほい、一丁上がり」

処刑人の如く振り上げられたベイツの戦斧が一息に振り下ろされた。

「久しぶりの帰郷だってのに、随分と血生臭いお出迎えだこと」

霧を裂いて振るわれた不可視の爪を刀が難なくいなした。

幾度も繰り出される爪の連撃は最初こそ打ち合えていたが、今ではそのほとんどが芯を逸らされて空振りに近い状態となっていた。

速くて重い、そして読み辛い攻撃の数々を、彼女の鋭い感覚は既に捉えている。

「馬鹿の一つ覚えね」

たとえ見えなくとも、これだけ露骨に振り回せば嫌でも覚えてしまう。

爪と打ち合った際の手ごたえが、振動が、空気を裂く音が、得物の長さと形状を伝えてくれる。

聴覚に優れているだけでは説明のつかない超感覚。それは彼女が生まれ持った能力に甘えず、磨き続けた末に体得した技能の一つに過ぎない。

「そこ」

当たらないことに苛立った魔獣が力んだ瞬間を見逃さず、イサナの刀が閃く。

最小限の動作で一歩引き、攻撃に合わせた一刀が返しの遅れた魔獣の手をするりと撫でる。ほとんど抵抗なく断たれた指が長い爪ごとポロリとこぼれ落ちた。

あまりに綺麗な切り口に痛みすら感じなかったのだろう。

魔獣が指に気づかずイサナへ腕を振るった。

だが武器である爪がない腕を振ったところで何も起こるはずがない。

風圧で前髪を揺らしただけのイサナはすかさず間合いを詰め、無造作に刀を振るう。袈裟に線を引いた刀は肩口から先を斬り落とした。

怒り狂った魔獣は負傷に構わず、残った腕ですかさずイサナへ貫手を繰り出す。

「悪いけど」

雷光が奔った。

静から動。

瞬間的な身体強化により爆発的な速度で接近したイサナは既に魔獣の懐に入っており……彼女の持つ刀身は魔獣の胸を貫き、深くまで埋まっていた。

魔獣が捨て身で放った攻撃は彼女の後ろ髪を数本散らしただけに終わった。

「あんたら程度、お呼びじゃないの」

心臓を貫かれた魔獣が驚異的な生命力で彼女を道連れにしようとした瞬間、光が爆ぜた。

刀身からあふれ出した雷光が駆け巡り、魔獣の体を内部から焼き尽くす。声にならない悲鳴が雷の爆ぜる音に掻き消され、次第に消えていく。

ノートンの雷大剣と原理は同じだ。ただ出力と練度が違うだけ。

「この強さの魔獣が群れるなんて……助けを求めてくるわけだわ」

刀を引き抜いたイサナが身を引くと事切れた魔獣が地響きを立てて倒れ伏した。

「ま、私の相手じゃないけど」

イサナは胸を張って鼻を鳴らした。久々の活躍にご満悦のようだ。

彼女を始め周囲の冒険者たちは難なく対処しているが、彼らは冒険者の中でも上澄み。この戦力が一挙に揃うことは大物賞金首相手でもそうはない。

「それにしても……」

イサナは焦げた血を刀身から払いながら顔を顰めて黒焦げになった魔獣を訝し気に見やった。

醜悪な顔は死んでより一層不気味さを増しており、気の弱い者なら卒倒してしまいそうだ。

「こんな魔獣、いたかな?」

魔獣の襲撃は最初こそ効果を発揮したが、そこは魔獣専門である冒険者たち。鎮圧されるまでさしたる時間は要さなかった。

あるいは最初の標的に選んだのが門番ではなく、冒険者たちの乗った馬車であったならもう少し善戦したのかもしれないが……あの魔獣に人間の強さを測る知能まではなかったようだ。

次々に倒される同胞に形勢不利と判断した魔獣たちは霧を噴出して姿を晦ました。

「退いたか」

ジグは周囲から危険が去ったことを確認すると、双刃剣を手の中で回転させて血振るい。

背には納めず持ったまま馬車へ向かうと、御者席に立っているシアーシャたちの様子を見た。シアーシャは背伸びしながら額に手を翳して魔獣の姿が見えないか確認しており、シャナイアは役割が終わったと見るや馬車に引っ込んで本を読んでいた。

「そっちはどうだ」

「敵影なし、です」

「負傷者は?」

「……多分、いません?」

疑問符を浮かべながらの返答はいまいち頼りない。

だがまあ、一応は人間側の被害も確認できるようになっただけ上出来だ。

ジグは馬車の裏側に放り込んでおいたアオイの様子を見る。

「無事か?」

「……はい、まあ、動けます」

外套がもぞもぞと動き、中からしかめっ面のアオイが顔を出す。

一応は外套で受け止めたのだが、それだけで衝撃を殺しきれるはずもない。背を打った衝撃でしばらく噎せていた。自力で回復術を掛けていたようで、立ち上がれるほどには回復したようだ。

彼女はジグの手を借りて立ち上がると、すぐに状況を確認するべく各馬車の冒険者を集めて報告を求めた。戦闘経験があるようには見えないが、持ち合わせた胆力でどうにかしているのだろう。大したものだ。

冒険者側の負傷者はなし。

ラクシャナ側は門番が三人殺されたが、住民の被害はなかった。

最初の奇襲で殺された一人とは別に、もう二人は逃げ遅れた者を護って殺された。

シアーシャが疑問符を付けていたのは、死んだ人間を負傷者の数に入れていいものか悩んでいたためらしい。

「こうなるのを想定してなかった訳じゃないけどよ、思ってたより悪いな」

魔獣の首を放りながらベイツが苦笑いをする。

他の冒険者たちも口にはしないが同じ感想のようだ。

報告を聞いたアオイが痛みとは別の意味で難しい顔をした。

今回は運が良かっただけに過ぎない。本来であれば、あの強さの魔獣が複数現れれば備えのない集落程度なら壊滅してもおかしくはないのだ。

「こっちはオマケのはずでしたが……一筋縄ではいかないかもしれませんね」