軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「―――!!」

たとえ言葉が通じずとも、喜怒哀楽を示す声音は万国共通。それは化け物が相手でも変わることはないらしい。

体を支える太い脚を二本失った痛みに複数の口が悲鳴を上げる。

見上げるほどの巨躯がぐらつき、それを補うために残った一本が無理をする。いかに頑丈でもこの大きさを支えるのには無理がある。二本の支点を失ったことによる加重は単なる三倍に収まらず、また本来想定していない角度からの負担は想像以上に大きい。

傾ぐ化け物に押し潰されないよう足元から離れるジグとウルバス。

「よし、詠唱が止まった! いま……」

痛みに動きが鈍り、攻撃の手が緩んだ今が攻め時。

そう判断したハインツが斧槍を振りかざして突撃の合図を出そうと声を上げて振り返り……それが出来ぬことを悟った。

度重なる触腕との攻防、そして先の多重詠唱による複合魔術で受けた被害。

それらが及ぼした心身への損傷は決して小さくはなかった。冒険者たちは皆一様に疲労を滲ませており、負傷で満足に動けない者も多い。

またとうとう魔力が尽きたのか、これまで触腕の大部分を防御に回させていた街からの魔術支援がいつの間にか止んでいる。

「クソ、負傷者が多い……そっちはどうだ!?」

ハインツは舌打ちしながら連絡用に用意された共鳴波管を使って僧兵たちへ呼びかける。

魔具の特性上か少し反響するような音で女性の声が返ってきた。

『こちらも似たような状況です。攻め切るのは難しいかと』

向こうの代表者は言葉ほどには焦りの感じない声音でそう言った。

こんな状況でも冷静でいてくれてありがたい……そう受け取るほど彼も純粋ではない。僧兵たちが戦ってはいつつも、どこか積極的に攻めていないことは気づいている。被害が出ているのは嘘ではないだろうが、冒険者たちよりも余力は残しているはずだ。

ヨラン司祭の企み通り、程よく弱らせて捕獲を試みるつもりだろう。

とはいえ証拠はないし戦力は欲しい。今は頼る他ない。

「……分かった。向こうも手負いだ、一旦引いて主力の魔術師が来るまで様子を―――」

ハインツが歯がみしながら口にしかけた時、痛みに呻いていた化け物が突然動きをみせた。

触腕が一斉に持ち上がり、詠唱を始める。すぐには動けないだろうと踏んでいた冒険者たちに対応する余裕はない。

「「D―――」」

「避けっ……え?」

間に合わないと知りつつも声を上げたハインツの頭に疑問が過る。

奴の言っている言葉が分からなくとも、これだけ聞いていればどのような意味を持つかくらいは嫌でも覚える。唱えられたのは恐らく防御の魔術だ。しかしなぜ?

疑問の答えは飛んできた。

圧倒的な質量と、恐ろしいまでの魔力を注がれたそれ。

これまで冒険者たちの魔術を防いできた防御障壁に飛来した巨大な岩槍が激突する。

無数に重ねられた障壁をいとも簡単に打ち破り、その先端を獲物に突き立てんと唸りを上げる。

「こいつは……!」

見覚えのある光景にハインツが声を上げる。

一見すると押しているはずなのに、歓声でないのはその結果が不発に終わることまで知っているから。

そう、あの時も確かこの化け物が未知の魔術を使用して……

「a、」

「私、同じ轍は踏みませんよ?」

岩槍が回る。歪ながらも螺旋状に刻まれた溝が、その真価を発揮する。

先端が障壁を削り、捩じられたことでより多くの負荷を掛けられた障壁が以前よりも速く……化け物の詠唱が完成するよりも少しだけ速く貫いた。

「iィイ―――!!??」

螺旋槍は化け物の掲げた前足の上半分を消失させ、肩口から背中にかけてを削り取った。

外れたのではない。運のいいことに、脚を複数失ったことに加えて逆の前脚まで上げたことで体勢を崩していたようだ。そうでなければ顔面に直撃していた。

また遅れて発生した謎の干渉魔術が螺旋槍の一部を停止、風化させていたためにバランスが崩れて軌道が逸れていた。

「……なるほど、確かに効果的ですね。流石は年の功」

「敬ってもいいんだよぉ?」

それを成した彼女は、もう一人の揶揄するような言葉を鼻で笑って返すと腰に手を当てて敵を見やる。

さらりと風に靡いた髪を払い、颯爽と二人の魔女が遅参する。

「人のいない間に、随分好き勝手してくれたじゃありませんか」

「でもそこまでさぁ……力ってのはね、より大きな力に押し潰されると相場が決まってるんだよ」

やっと到着した主戦力と、その戦果に冒険者たちが今度こそ沸き立った。

あれだけの耐久力を見せていた相手に初めて大きな損害を与えたことに戦意を取り戻している。

「ようやく来たか!」

「まってたよ、シアーシャさん」

化け物の攻撃に備えていたウルバスたちが安堵の表情を浮かべる。

「なに、今の魔力は……? あの男、とんでもない娘を連れているのね」

ずっと一人で攻撃を引き付けていたエルシアは眼帯の奥で眼を瞠る。

魔力の流れを見られる彼女だからこそ、今の魔術がどれだけ異常なのかを理解していた。

彼女の額を疲労だけではない汗が伝う。

「……やはりあの魔力量」

そしてもう一人。錫杖を握り締めたレアヴェルが確かめるように呟いたが、誰の耳にも入らぬまま化け物の咆哮に搔き消された。

「なんだ!?」

悲鳴を上げていた化け物の声から伝わる感情が変わる。

哀から怒へと。

聞いた者が怖気づいてしまうほどの激情が込められた咆哮が響き渡る。

「見ろ、引っ込めるぞ!」

怒りに任せて魔術を乱射するかと身構えていた冒険者たちだったが、化け物がとった行動は想定していたどれとも違った。

あれだけ頼りにしていた触腕を一斉に引き戻し始めたのだ。

目と口部分に空いた虚空を思わせる穴に次々と仕舞われていく触腕たち。どこにしまっているのかと場違いな疑問を抱いてしまうほどの光景だった。

「逃げる気か……?」

「―――いや」

ハインツがこぼした言葉をジグは否定する。

感じる。奴の身体の底でとてつもない規模の魔力が練り上げられているのを。

全力で警鐘を鳴らしているジグの勘が、奴はどちらかが絶えるまで戦い続けるつもりだと訴えている。

「シアーシャ!!」

彼女の名を呼ぶ。

本人も言われる前に感じ取っていたらしく、いつになく真剣な顔で対抗するべく魔力を練り上げていた。脇にいるシャナイアも同様に、不敵な笑みを浮かべながらもどこか引き攣ったような顔をしている。

二人の様子を見たジグの背筋が総毛立つ。

あの魔女二人が本気で魔術を行使しなければならないほどの”何か”を、あの化け物はやろうとしている。

「……まずい」

脳裏を過るのはストリゴに刻まれた地割れのような断層と、二つの穴が開いた夜空。

あれと同じ……あれ以上の災害が、今この場で起きようとしている。

想像しうる最悪の事態を裏付けるように、気づけば痛いほどの刺激臭が辺りを漂い始めていた。

強烈な魔力に中てられたのか、視界の端でエルシアが苦しそうに眼帯を押さえている。

「逃げろ」

「……ジグ?」

消耗している今こそ好機ではないのか。大技を使うのならば妨害しなくては。

何も知らないが故のそんな悠長な反応。ジグはそんな周囲の反応を見もせずに大声で叫んだ。

「逃げろ! 今すぐにだ!!」

「!?」

いつになく声を荒げたジグに冒険者たちが目を丸くする。

普段滅多なことでは焦った様子も見せないあのジグが、あの化け物相手ですら冷静に対処して見せた彼が……本気で恐れていることに戸惑っていた。

「みんな、すぐに逃げて!」

真っ先に反応したのはウルバスだった。

同じく普段物静かな彼が声を上げたことに話の信憑性が増す。

「野郎共! 全力で撤退だぁああ!!」

次にハインツが率先して踵を返した。

彼は周囲に聞こえるように”撤退だ!”と叫んで情報を共有しながら、我先に逃げていく。

この二人は過去にシアーシャの魔術やその戦果を間近で見たことがあり、尚且つジグを信頼に足る人物だと知っているが故の行動だ。

細かい説明よりも何より雄弁な行動に危機感を覚えたのか、冒険者たちも遅れて動き出した。

僧兵たちはどこか不満そうだったが、自分たちだけでどうにかなるとも思っていないようで付いてくる。街へ向かいながらも化け物とシアーシャたちの射線から外れるように動く迎撃部隊。

もはや化け物は人間たちには目もくれない。

たとえどれだけ煩わしかろうと、自身を害しうるには程遠いと知っているから。真に警戒すべき存在が……忌まわしくも憎たらしい存在がいるのだから。

「「aaaaaaa……!」」

残った脚を杭のように地面に突き立てて体を固定し、無数の口で唱えるのはただ一つの魔術。

自身が持つ最大の威力を以て外敵を駆除する。その為だけに全霊を費やす破壊の一手。

化け物の穴の奥が仄かに光り始める。

奥にあるぷるんとしたゼリー状の塊を中心に光が収束し、徐々にその強さを増している。低く唸るような音をさせながら発光は強くなり、ついには空気をも震わせ始めた。

練り上げた魔力。その光が臨界に達した瞬間、化け物が力を解放する。

「「Aaaaaaaaa!!」」