軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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音に振り返ったジグの視界に映るのは、圧し折られた岩槍が天高く舞い上げられている光景だった。

人の背丈よりも大きい岩槍が回っている様は何かの冗談かのようにも感じられる。

「……あれ?」

魔術を跳ね返されたシアーシャが首を傾げた。

人目もあるので全力で行使したわけではない。しかし風来鮊の脅威は聞いていたので手加減をしたわけでもない。まともな……いや大抵の魔獣なら防ぐことも叶わずに串刺しにされているはずだ。

魔力の匂いとシアーシャの表情、二つからそれを理解したジグの背に冷たいものが走った。

遅れて追いついて来たハインツたちや打ち上げられた岩槍に目もくれず周囲を警戒する。

折れた岩槍が地面に突き刺さる直前、落ち始めた砂埃を掻き分けるように何かが飛び出した。

「来るぞ!」

砂埃を纏いながら迫るそれを視認するより先に双刃剣で逸らす。

ぎゃりぎゃりと音を立ててぶつかるそれは重く、手に伝わる衝撃は激しい。

射出したのではなく伸ばされた長い何かはざらついており、鱗のようなもので覆われている。

勢いの止まったそれがくにゃりと曲がり、先端をジグの方へ向けた。ぱかりと花弁のように開き、握り拳ほどもある眼球が現れた。

ジグと眼球の視線が一瞬交わる。

「ッ、はぁ!」

視線から逃れる様に身を翻しながら一歩下がり、力点をずらすことで泳いだ触腕を弾き上げた。

左手を引きながら下げた足を支点に強く踏み込み、がら空きの胴体部に右手一本による強烈な突き上げ。

鋭い一撃は硬い手ごたえを伝えながらも鱗をぶち抜き、反対側から貫通した剣先が顔を覗かせる。

ジグは捻りながら横に斬り払うことで傷口を広げる。

「―――ッ!??????」

赤い血をこぼした触腕は痛みに身を震わせると、逃げるように引っ込めていく。

手負いの相手を追撃すべく前に出ようとした足を踏み出し、

「うわぁああ!?」

「チッ」

後方から悲鳴が聞こえたので、膝に溜めたバネを後退へ回す。

跳びすさり反撃を警戒しながら声の方を見ると、そこではジグを襲った触腕が複数現れてハインツたちを襲っているのが見えた。

不意を突かれた一人が胴に巻きつかれて持ち上げられている。

「クソ……リザ!」

ハルバードで弾かれた触腕が鱗を散らしながらたわみ、防御の薄くなった部分にボルトが突き刺さる。

火の魔術を籠められたボルトが爆発し、内部から弾けた触腕が黒煙を上げて千切れる。

「無理だ、先に数を減らさないと!」

リザが素早く次のボルトを装填しながら返し、ハインツが焦りの表情を浮かべた。

彼らも援護に向かおうとしているが、他の触腕に対処していて向かえずにいるようだ。

澄人教の僧兵たちも見事な手際で触腕に対処しているが、少し距離があり助けるには障害が多い。

「ぎ、げぇ!?」

巻きついた触腕が冒険者の男を強く締め上げ、くぐもった悲鳴が血と共に漏れた。

あそこまで密着されては防御術も展開できまい。放っておけば男の命はそう遠くないうちに尽きる。

「やれやれ、あまり褒められた行為ではないんだが―――なっ!!」

ぼやいたジグが血の滴る双刃剣を振りかぶった。

右手で頭の横に構えたまま目線は標的から一分も逸らさない。

二歩の助走をつけて勢いを載せ、下半身から上半身へと伝達させた力を一点に集中させ、投擲。

剛速で放たれた双刃剣は狙い過たず触腕に深く突き刺さったが、貫通までには至らない。

加減したのだから当然だ。貫通して飛んで行っては回収するまで無力になってしまう。

「いかん、加減し過ぎたか」

それでも生物相手には致命傷のはずだが、常識で測れる相手ではないらしい。

やはり一度突いただけでは耐久度を測り切れなかったらしく、触腕は胴体から双刃剣を生やしながらも男を放さずに締め続けていた。鎧の留め金が弾け飛び、男の体がだらんと垂れて力が抜けていく。

「高い再生能力を持っています。貫くのではなく切断してください」

聞こえてくる助言の方を見れば、赤法衣の僧兵が触腕を叩き潰していた。返り血を同じ色の法衣で受けながら、滑るように触腕を掻い潜っている。

浮かぶ疑念を後回しに、体勢を立て直したジグは走って男の下へ。

別の触腕による横薙ぎの一撃を飛び越え、行く手を塞ぐ相手を魔具による衝撃波の伴った拳で立ち退かせ、走る勢いそのまま刺さったままの双刃剣に飛びつく。

触腕を支点に遠心力を利用してぐるりと横に一回転。

傍から見ると遊んでいるかのようだが、刃が刺さったままやられた相手は堪ったものではない。

ごっそりと肉を抉られて捥げかけの触腕がやっと男を放した。

着地したジグは動きを止めず、近場の二体を一振りで斬り落とす。

上刃と下刃。 一刀二刃(いっとうにじん) の双刃剣は乱戦でこそ本領を発揮する。

「任せるぞ」

「すまん!」

手の空いた別の冒険者が意識を失った仲間を回収していく。

その背に襲い掛かる触腕をシアーシャの放つ岩槍が貫いた。ちらりと見れば、シアーシャが遠くで怪我人を手招きしている。

彼らを見送りながら、ジグは言いようのない不安を感じていた。

「……この程度ではあるまい」

一見押しているようにも感じるが、相手はまだ本体を見せていない。今戦っているのは所詮は触腕。いくら斬っても大した痛手は与えられていないはずだ。

シアーシャの魔術を跳ね返すほどの何かが、地中に潜んでいる。

血振りをするジグの上を黒い影が横切っていく。

視線を上げると、そこでは風来鮊が触腕との空中戦を繰り広げていた。

宙返りや 横回転(バレルロール) を駆使して触腕を躱し、隙を見せれば反転し巨大な鰭で切り裂いていく。背後を取られても欠けた鋸尾で打ち払い、容易には近づけさせない。

本当に強力な魔獣だ。

奴の戦場で戦えば敵う者などいないのではないかと思わせるほどに。

一方的な戦いを演じていた二体だったが、その戦況に変化が訪れた。

触腕たちが突然距離を取り、その先端を風来鮊へ向けたのだ。

こちらに襲い掛かって来ていた触腕も一斉に引き上げ、風来鮊への対処に向けている。

「今の内に距離を取るぞ! 応援を呼んで、奴らが潰し合ったところで一気に魔術を浴びせ……」

好機だと指示を出そうとしたリザが、思わず言葉を止めた。

「なにを……」

パカリと、一斉に触腕の先が開く。

中から覗くのは眼球ではなく、口。無数の触腕の先端に口だけがあった。

その口が、開いた。

「A――――――」

空気を振るわせて音が鳴った。

触腕から鳴る無数の音が……いや、これは声だ。

何を言っているかは分からないが、間違いなく意味の籠った声。

その証拠にジグの鼻は魔術の匂いを嗅ぎとっていた。

「まさか、詠唱している……のか?」

信じられぬ思いで口をついて出た言葉を引き金にしたように、触腕の先から無数の魔術が放たれた。

炎、水、氷、雷、風、土。

無数の魔術が空を染め上げ、逃げる風来鮊を追い詰める。

「皆さんこちらに!」

その魔力にシアーシャが焦りの表情を浮かべ、魔術の詠唱を始める。

パンと両手を重ね合わせると、地響きを上げながら巨大な壁がせり上がり、皆を護る防壁を作り上げた。

「急げ急げ急げ!」

ジグたちが慌てて防壁に隠れたところで、逃げる風来鮊を狙った魔術が殺到した。

流れ弾が防壁を揺らし、弾ける爆炎や雷轟がその凄まじさを物語っている。

「ちくしょう! 何なんだあの化け物は!?」

「どっちが勝ってる?」

「迂闊に顔を出すな、死ぬぞ!」

好き勝手に騒ぐ人間たちなど知らぬとばかりに二体の戦いは佳境を迎えていた。

地を這う人間と違い、三次元を動ける風来鮊が取れる回避軌道は多い。だが一目散に逃げればいい的であり、遮蔽がないのが問題だった。

凄まじい弾幕を躱しきれず、鰭の一部が被弾した。

風来鮊が飛ぶのにはあの鰭が大きな役割を持っているらしく、途端に飛行速度が低下する。

動きが鈍り、ふらついたところに触腕が殺到した。

一度取り付かれてしまえば風来鮊になすすべはない。何本かを切り裂くもやがて捕まり、全身を雁字搦めにされる。飛び出た尾だけがびくびくと動いており、網に絡まった鳥を連想させた。

眼球の付いた触腕が近づき、動けない風来鮊を観察している。

ただ捕食するにしては妙だ。まるで品定めでもしているような行動だった。

疑問を余所に、触腕が捕らえた獲物を引き寄せていく。

風来鮊ほどの魔獣を捕えるのは一体どんな化け物なのか。冒険者たちの顔に好奇と恐怖が入り混じる。

岩槍や触腕で割れた地面が揺れる。

正体不明の化け物は土砂を巻き上げながらゆっくりとその姿を現した。