軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

230

澄人教がストリゴへ来てからも魔獣の襲撃は収まることはなかった。

しかし彼らお抱えの僧兵は練度も高く、本職ではなくともそこいらの魔獣に後れを取ることはない。

冒険者たちも二交代制になったことで余裕ができ、依然油断は出来ないが最も過酷な時期は過ぎたと言っていい。多少の怪我人は出たが、しばらく安静にしていれば治る程度の負傷者しかいなかったのは不幸中の幸いだ。一応、戦力外も含めて。

そして今日、ハリアンからの支援物資を積んだ商隊が到着した。

食糧は勿論のこと、他の物資も豊富に用意した商隊は諸手を上げて歓迎された。

中でも特に大きいのは人員だ。

護るための戦力ではなく、街を管理するための知識を持った人員が圧倒的に不足していたため、シアンたちギルド職員は天からの助けとばかりに彼らを崇めた。

ギルド職員は研修で魔獣大量発生時における非常時の対応などを叩き込まれるのだが、それはあくまでも危急の対応であり、その場凌ぎに過ぎない。街の維持管理は見様見真似程度にしかできないのだ。

引継ぎを終わらせた彼らは何かから解放されたかのような顔をしていた。

商隊を護衛していた冒険者たちはハリアンが寄こした追加人員を兼ねているようで、半数がそのまま残ることとなっている。

そしてなんとも気の早いことに、鉱山採掘の再開を始めたのだ。

どうやら商人たちを動かす際にその利益の一部をチラつかせたらしく、空にした荷馬車に詰め込ませろと要求してきたのだ。

「これだけの食糧を援助する財源が何処にあるのか疑問でしたが、そういう事でしたか……あの腹黒眼鏡め」

上司の顔を思い出して悪態とも称賛ともつかぬ呟きを漏らしたシアンは、鉱山再開を要求する商人たちに自分たちで魔獣をどうにかすることを条件に許可を出す。

すると彼らは満面の笑みで護衛の冒険者を引き連れて鉱山に向かって行った。しかもストリゴの住民へ声を掛けて労働力を確保していくおまけ付きで。

これが暴力で強引に連れて行ったのであれば問題だが、職にあぶれて途方に暮れていた彼らには渡りに船といった様子で、嬉々としてついて行ったのだ。

商隊が来てからはや五日。

こうしてほんの少しずつだが、ストリゴは街の機能を取り戻しつつあった。

「と、言うわけで……冒険者ギルド、ストリゴ支部開設です!」

ジグたちが仕事を終えてロビーに戻ると、ギルド職員たちが歓声を上げていた。

新たにやって来た職人たちに作らせたのか、真新しいカウンターを設置されたロビーでは書類が次々に運び込まれている。

パチパチと拍手する彼らを見た冒険者たちが顔を見合わせ、シアーシャが代表して聞いてみることに。

「あのー、何かあったんですか?」

「実はですね! 街の維持管理を引き継いだことで手の空いた私たちは、ストリゴ支部を任せられることになったんですよ! これでやっと本来の業務に戻れるー!!」

重圧のある仕事から解放されたのが余程嬉しいのか、シアンが歓喜の声を上げている。

「街の防衛とかに関しては任せっきりという訳にもいきませんけど……やっぱり私はこの仕事の方が性に合っています」

そう言ってカウンターに入った彼女は一枚の書類を出すと、ロビーにいる冒険者たちに向かってよく通る声で通達する。

「この度はストリゴ救援という形での長期依頼を受けていただきましたが、ギルド側としましては皆さまを一定給金でひたすらこき使おうという意図はございません。その証拠に、これからストリゴで冒険者の皆さんが倒した魔獣などの報酬・評価値処理などをまとめさせてもらいますので、ご協力をお願いします!」

この宣言には冒険者たちの歓声が上がった。

「え? えっと……」

盛り上がる彼らについていけていないのか、キョトンとしているシアーシャにジグが説明してやる。

「つまり、これまで倒した魔獣や得られた素材に応じた追加報酬が支払われるということだ」

「おおっそれはいいですね!」

遅まきながら事態を理解したのか、シアーシャが嬉しそうに小さく跳ねた。

随分と太っ腹な対応だが、カークらしいとも言える。

冒険者が魔獣を倒すことで得られる素材はハリアンを支える大事な産業だ。こんな依頼を受けてくれるような意欲ある冒険者への報酬を出し渋って、街への愛想を尽かされてしまっては大損となる。

副頭取という立場でありながら、こういった気の回し方が出来るのは流石と言うべきか。

「……まあ、そうでない者も一定数いるようだが」

ジグは盛り上がる冒険者たちの片隅で、不貞腐れている者たちへ冷ややかな視線を送った。

彼らは初日に戦力外として警邏や雑用を回された者たちだ。

危険を冒すことを避け、碌に魔獣と戦ってもいない彼らには当然追加報酬などはない。シアンの通達は彼らにとって、拒否権のない定額働かせ放題であると宣言されたようなものだ。

強制依頼を受けた全員が全員そうという訳ではなく、中には奮起して積極的に魔獣と戦い、初期の評価を覆した者もいる。

あそこで項垂れているのは本当の意味で己の役目から逃げた奴らだ。機会をただ見送り、何の努力もしなかった奴らには誰かを妬む資格すらない。

ジグの視線も冷たくなろうというもの。

これまで関わってきた冒険者たちはそのほとんどが精力的に活動している者ばかりだった。

己の目的のために努力し、腕を磨き、成功を祝い、仲間の死に憤る。

そんな彼らと、あそこで腐るだけの連中を同じ冒険者と呼ぶのに抵抗すら感じた。

―――そんな奴らのどこが 冒険者(危険を冒す者) なんだい? 目障りなんだよ、一人残らず死んで欲しいくらいに。

「……」

少しだけ。

ほんの少しだけ、ノートンの気持ちを理解できてしまった……そんな気がした。

「ジグさん?」

皆が盛り上がる中、雰囲気の変わったジグに気づいたシアーシャが袖を引いた。

その感覚に意識を戻し、ほんのささいな変化に気づいた彼女に少し驚く。

「……いや、大したことではない。それより良かったな。シアーシャの功績を考えれば昇級も近いんじゃないか?」

「前に昇級してから色々ありましたからね……そんなに経っていないのに、随分前のことに感じます」

現在彼女は七等級。

しかし昇級してからは冒険業以外でのゴタゴタが多かったため、少し間が開いてしまっていた。

ギルド側も実力がある者がいつまでも低級に居られては問題があるので、ここが落ち着きさえすれば昇級は早いはずだ。

「そういえば、商隊の一部が冒険者用の嗜好品を積んでいる行商も兼ねているらしいですよ。後で見に行きましょうよ!」

「分かった分かった。だがその前に、倒した魔獣の報告が先だろう?」

「……そうでした。たくさん倒したからいちいち覚えていないですよ……」

魔術で大量に吹き飛ばしたのを思い出したのか、げんなりした顔になる。

シアーシャが覚えていなくともエルシアたちが報告しているはずだ。三等級冒険者である彼女ならば、虚偽の報告をするような心配をしなくともよいだろう。

肩を落として列に並ぶシアーシャを見送ると、またしても袖を引かれた。

振り返ると金の瞳を期待に輝かせた魔女が。

「ねぇねぇ、ボクには?」

「追加報酬は冒険者のみに与えられる。傭兵と債務者は対象外だ」

「そ、そんなぁ……」

無情に告げられて期待に満ちていた目がしゅんと悲しげに伏せられた。

修道服を着ている彼女がそうすると実にいたいけで、男心を刺激する仕草だ。

だが、それに騙されるほどジグも甘くはない。

「そんなことより、今日もしっかり働いたのか?」

「……ちぇっ。はいはい、馬車馬のように魔獣を 膾(なます) にしてきましたよーだ」

演技を見抜かれたシャナイアが不貞腐れた様子で口先を尖らせる。

「ふむ」

ちらりと近くにいたリザに視線を飛ばす。

彼女はそれに気づくと、しっかりと大きく頷いた。どうやら一応は言いつけ通りに働いているらしい。

(たまには飴も必要か)

後で行商人から適当なものでも買ってやるかと考えていると、ふとシャナイアを見てあることに気づいた。彼女が着ているのはかつてストリゴで買った古着屋の修道服だ。随分と状態が良いので買い与えてやったのだが、それについてクロコスがやたらと殺気立っていた。そしてつい最近、その服を着た集団が街に入って来たことを今、思い出した。

そう。彼女が着ているのはハリアンから流れてきた澄人教の修道服なのである。

「……おい、シャナイア。その服、着替えろ」

すっかり忘れていたことに気づいたジグの額から冷や汗が流れる。

見られたからといって即座にどうこうなるわけではないが、連中に目を付けられていいことはない。

信徒全員の顔を覚えているとは思えないが、シャナイアの優れた容姿は非常に特徴的だ。

「や」

しかし彼女は即座に拒否をした。取り付く島もない。

ぷいと反対を向いてしまう。

「……いいから、別の服にしろ」

「やだ」

「それは澄人教の修道服だ。見られると面倒なことになるぞ」

「やぁだ」

「他の服を用意してやるから」

「やーだやだやだ!」

二人の押し問答は平行線を辿るだけ。

「「……」」

しばし、無言で睨み合う。

ジグがずいと一歩詰めると、シャナイアがじりと一歩下がる。

「……何故そこまで嫌がる」

「えー、そりゃぁ…………あれ、なんでだろ?」

自分でも分かっていないのか、首を傾げるシャナイア。

ジグはため息をつくと、彼女に修道服を脱がせるのを諦めた。ここまで固辞する以上、無理強いすれば暴れかねない。いざという時には自分で何とかしてもらおう。

相手の認識を弄るらしき魔術も使える彼女なら大丈夫だとは思うが、相手は澄人教だ。過信は出来ない。

その時は無関係な他人であることを装おうと決めると、未だに首を捻る彼女を放置するのだった。