軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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リザが何度目かのボルトを放った。

地面に突き刺さったボルトに刻まれた魔術が発動し、広範囲に雷を撒き散らす。荒れ狂う雷は地上に体を出していた砂鮫を無差別に捉え、その群れを行動不能にする。地面の上でびくびくと体を痙攣させている砂鮫を別の個体が食い千切った。群れで行動してはいるが、奴らに仲間意識といったものはないらしい。

「お前の相方、優秀だな」

「そりゃこっちの台詞だぜ」

ジグとハインツが互いの連れを評価し合う。

実際リザは良い仕事をしている。シアーシャの壁があるおかげで範囲殺傷型のボルトを遠慮なく使えることもあるが、運用が実に上手い。こちらが一呼吸欲しくなる絶妙なタイミングで支援が飛んでくるのだ。こういった連携の巧みさはジグにはないものだ。

「地中を自在に動くこいつら相手に土魔術はあんまし効果がないってのに、見事に防いでる。どんだけ魔力つぎ込めばこんな硬くできるんだ?」

呆れた口調で飛び掛かる砂鮫を薙ぐハインツ。彼らも砂鮫の突撃タイミングに慣れてきており、軽口を叩く程度には対処の手際が良くなっていた。

「こいつらは何の役に立つんだ?」

ジグに至っては魔術の匂いで出てくるタイミングを読み、土から頭を出した砂鮫を足で踏みつぶしている。まさしくモグラたたき状態である。

「素材は大したことないけど、卵が珍味として高額で取引されてるってリザが言ってたぜ。俺は食ったことないけど」

「なるほど、それで……」

砂鮫からとれる卵が美味いと聞いたジグがちらりとシアーシャを見る。

魔女である彼女がその気になれば、この輸送隊の足場を固めて砂鮫そのものの進路を防ぐことが可能なはずだ。あえてそれをしなかったのは、この魔獣からとれる卵が目当てなのだろう。襲われる機会が無くなっては収入にならない。護衛としては問題外な行動ではあるが、こういった狡猾さも冒険者には必要だとジグも理解し始めていた。

そうこうしている内に砂鮫の群れも終わりが見えてきた。

群れの七割を失った砂鮫は興奮から覚めたのか、旋回して再び襲うようなことはせずに通り過ぎ、輸送隊から離れていく。

被害はほぼない。ハインツが少し引っ掛けられたくらいで、チェインメイルが一部裂けていた。

目線で安否を尋ねるジグに片手を挙げて応えつつ、破けた部分を見てため息をつくハインツ。

「まだ防具は安物で済ませてるんだよな……っと、そんなことより回収回収!」

どうやら以前の負傷から立ち直った際の出費がかなり響いているらしく、彼の等級からすると幾分か下のものを使用しているようだ。だがその曇った顔も晴らすくらいに、砂鮫の卵は二重の意味で美味しいらしい。

ハインツはこれ以上の追撃がないことを確認すると、嬉々として倒した砂鮫を荷台に放り込んでいく。

現金なことだと肩を竦めると、トンと軽やかに着地する音が聞こえた。

「見事な援護だった。随分と派手にボルトを使用していたが、いいのか?」

店で見たあの手の魔具は大抵が高価であり、気軽にポンポンと使うものではないはず。

ジグが木から飛び降りたリザを労うと、彼女は金髪を揺らして首を振る。

「これだけ大規模な砂鮫の群れなら元は取れるから。捌くのが手間だけど」

彼女はそう言ってハインツに混ざり、砂鮫を自分たちの荷台に放り込んでいく。

「……ほう」

自分も手伝うべきかとシアーシャの方を見たが、彼女は嬉々として作業員の手を借りて回収していた。厳つい風貌の職人たちだが、彼女の力を間近にしたせいか素直に手伝っていた。シアーシャもジグと常にいるので威圧的な顔の男には慣れているため、物怖じする様子はない。

こうして見ると、冒険者らしさが板について来たように感じる。もしかすると、新しい環境への慣れという面ではジグよりも秀でているのかもしれない。それが彼女本来の能力なのか、好奇心がなせる技なのかは分からないが、

「―――?」

ジグもそれに混ざろうとして、足を止める。魔術の匂いがしたせいだ。先ほどの砂鮫と同じ様な魔術なのでハグレが出たかとも思ったが、匂いの強さから違うとかぶりを振る。

「ジグ……?」

ハインツの声を無視してシアーシャの作った壁に駆け上がる。高所から周囲を見渡すが、特に異常は見受けられない。それが余計にジグの警戒心を煽った。

振り返る。ジグの突然の行動にバルトやリザたちが臨戦態勢になっている。問うよりも先に何かが起きた時の備えができる彼らは頼もしいが、ジグの感じた異常を察知しているわけではない。

シアーシャを見る。彼女は手を止めて地面へ手を当てていた。

地面が微かに振動する。

「何か……来ます」

魔術の匂いが強まっていく。砂鮫と同じ類の魔術を、もっと大きな規模で使う魔獣。

振動に身を固くした全員が動きを止め、わずかな静寂が訪れる。

どこか心当たりのある懐かしい記憶を思い出した時、職人がドタドタと砂鮫を両手に走り寄って来た。

「嬢ちゃん見ろ、いっぱい持って来たぜ!」

「あ」

威勢のいい大声が響いた。

途端、振動がそちらに向かって一直線に動き出した。

「ッ!!」

振動の主が辿り着くよりも速くジグが動いた。

足元の壁に突き刺さる砂鮫を引き抜くと、職人に目掛けて投げつける。

「ごっはぁああ!?」

放たれた矢のような勢いで飛んだ砂鮫は見事、職人に命中。

両手に砂鮫を抱えていたせいで防ぐこともできずに顔面で受け、後ろに吹っ飛んだ。砂鮫の尖った頭部が当たったせいで、少なくない血が流れている。

彼が倒れ込んだ瞬間、直前まで立っていた地面が盛り上がる。

土砂を巻き上げながら、太い円筒型の魔獣が勢いよく下から飛び出てきた。魔獣は職人の代わりにばら撒かれた砂鮫を頬張ると、丸呑みにしていく。

だが魔獣の食事シーンを悠長に眺めている趣味などない。

ジグは前へ体を傾けながら土の壁を蹴ると、加速しながら双刃剣を振るう。

赤黒い刀身は胴体の中ほどを捉え、ぬるりとした手応えとともに切断する。撒き散った体液が倒れ込んだ職人の体にびちゃりとかかった。

「懐かしい相手だ。来た頃を思い出す」

魔獣の襲撃を受けたというのに、ジグは懐かしむように笑みを浮かべる。

長さは見えているだけで三メートル、太さは大人の胴ほどか。目はなく、筋肉をむき出しにしたようなピンクと赤の混ざった色と質感。円状の口には無数の牙が生えていた。とげのように生えた無数の牙は獲物を切り裂くためでなく、逃がさないための物。がっしりした顎ではなく関節の緩い飛び出すような口。

つまり、この魔獣の捕食方法は丸吞みだ。

「ええ、本当に。あの頃を思い出します」

同意したシアーシャが苦笑した。時間としては大したことはないのに、もう随分経ったような気がする。

魔獣は一匹ではない。

退化した目の代わりに発達した聴覚が音を聞きつけ、次々と地中からその姿を現した。

魔獣が音を頼りに獲物に食らいつかんと体をしならせ、シアーシャ目掛けて殺到する。バルトたちが伸びた胴を長剣で断ち斬ったが、数が多い。

「でもあの時と違って、もう隠す必要はないんですよ。加減は要りますけど」

シアーシャに向かって伸びた体が、止まる。荒縄で縛られた家畜が動きを止めるように。

ただし魔獣自身が縄であり、縫い留めるのは大地そのもの。

魔獣が掘り返した地面が、魔獣ごとその口を閉ざそうとしていた。

どうにか抜け出そうと地上と地下の長い体を蠢かせるが、ビクともしない。どころか、更に穴を塞ごうと圧を増してきた。地中を自在に移動することが当たり前である魔獣にとって、それがどれだけ異常事態であるかは想像に容易い。

「知りませんでしたか? 大地は、あなたたちのものではないんです」

パチンと指を鳴らす。

それを合図に地面の割れ目が一斉に閉ざされた。彼らの安住の地である地面が牙を剥いた。

千切れた体でのたうつ魔獣。

巨大なミミズを思わせる長い胴体は、魔獣という異常かつ異形の生物と初めて遭遇した日を思い出させた。