軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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結局、ジグが満足するまであれやこれやと漁っている内に日が落ち始める時間になっていた。

装備を選び終えて満足気なジグ、疲れた表情のシャナイアとレナード。対照的な顔をした三人が地下倉庫から上がってくる。

「……女の買い物が長いのは覚悟してたけど、男の買い物に長時間付き合うのは……こう、キツイものがあるな」

せっかく居るのだからと手伝わされていたレナードは舌をだらりとさせている。これが女性ならば役得と思えるのだが、筋骨逞しい大男の着替えを手伝ったところで何も嬉しくない。この手の荒事を生業にしている割には比較的清潔なのが救いだったが。

「ジグ君は拘るねぇ……」

シャナイアも普段余裕のある笑みをひきつらせている。二人の言葉が聞こえているのかいないのか、ジグの歩みは軽快だ。

非常時であれば彼とてある物を使うのに文句はない。しかし余裕のある時ならば、なるべく良いものを選ぶのは生き残る上で重要なことだ。幾度かの痛い目を見ることでそれを実感しているジグにとって、装備選びは何より大事な時間なのだ。

「……お前ら、まだいたのか」

屋敷を行く途中、広間の辺りでクロコスたちと鉢合わせた。部下を幾人か引き連れたクロコスは驚き半分、呆れ半分といった様子でジグを見た。あれから随分経ち、とっくに出ていったものと思っていたので無理もない。

「良い買い物をさせてもらった。感謝する」

「そういう取引だ。にしても……随分独特なチョイスだな?」

ジグが背にした黒曜鋼の大剣を見たクロコスは首を斜めにしてややマイルドにそう評した。本音を言えばありえない選択だが、この大男のことだから意味がある行動なのだろうと勝手に納得する。

「その分、防具も多少選ばせてもらったが……問題ないか?」

ジグが選んだのは武器だけではない。壊れた手甲の代わりに、魔獣の骨らしき素材で作られた腕鎧を着けている。他にも大剣を吊るすための剣帯や、予備のナイフなど小物をいくつか。レナードが明確にノーと言わないものを複数選んでいた。

「む? ……まぁ、値の張らない物ばかりだし、いいだろう」

よく見れば外套まで新品に代わっていたが、三級品の魔具とは比べるべくもない。頭の中でおおよその額を算出したクロコスが首を縦に振った。予算内だと概算してはいたが、自信の無かったレナードはそれを見てほっと一息つく。

「これからどうするつもりだ? カララクを探るなら、情報提供と引き換えに場所を教えてやらんでもない」

「いや、大人しくしておくさ」

ハリアンの冒険者ギルドに手を出したのがカララクだと判明した以上、カークから請け負った仕事はほぼ完了したようなものだ。どういう対応をするか決めるのはハリアンギルドであり、これ以上カララクを探る必要はない。

しかし街を出るのにはまだ時間が掛かる。ならばその間はシャナイアに受けた依頼をこなしながら街の様子でも見ておくべきか。こういった街でしか手に入らないものもあるだろう。今は手持ちが少ないが、あらかじめ目星をつけておくなり顔を繋いでおいて損はないはず。

「観光でもするかな」

「笑えん冗談だ」

クロコスが言葉とは裏腹に口の端を歪めて皮肉気に喉を鳴らす。それから視線を動かし、シャナイアの方を見て何か言いたそうにしている。正確には、彼女の服装を見ているようだ。

「ボクになにか?」

「……もしかして、知らずに着ているのか? その修道服を」

クロコスの言っている意味が分からずにシャナイアが首を傾げた。

始めは古着屋の店主が言っていたように“この街で修道服を着るのは多方面に喧嘩を売っているようなもの”という意味合いかと思ったが、それにしては様子が変だ。

「神に祈る存在が嫌われている以外に意味があるのか?」

「……やはり気づいていなかったのか。まったく、そんなものを着けていなければもう少し穏便に対応したものを」

やれやれと首を振ったクロコスは修道服の胸元を指差す。そこにはよくある十字の首飾りが下げられているだけ……いや、違う。

「……人間を模した十字架?」

シャナイアが手にするそれをよく見れば、十字架は人間の姿をしていた。男が十字に手を広げ、首を垂れるようにしている歪な 人十字(ひとじゅうじ) 。

「それは神ではなく、偉大なる祖先である人間を信仰対象とする者達の証。自らを澄んだ人間だと称する、澄人教共の着る修道服だ」

「……そういうことか」

思わず頭を抱えてしまいそうだった。

事情を知ればファミリアの対応も無理はない。自分たちを劣等種として扱うことを教義とする澄人教、その人十字を身に着けた者がのこのこと出向いてくれば怒りもする。

「その人十字は捨てておくんだな。それさえなければただの修道服とさして変わらん」

「そうさせよう……しかしなぜこの街に奴らの修道服が?」

「分からん……だが最近、どこかの街で澄人教の支部が襲撃されたとの噂が立ったことがある」

「…………ほう」

スッと表情を消したジグがさり気なく視線を逸らす。

「調べてもどこの支部も健在だったことから、ただの噂で処理されていたんだが……そんなものがストリゴに流れ着いて来たところを見るに、全くの噂話という訳でもなさそうだ。騒動の際に、どこかから流出したのかもしれない。迷惑な話だ」

「……ああ、本当にな」

やけに実感の篭った言葉にクロコスが怪訝そうにするが、荒事をやっている人間にとって宗教などそんなものかと気に留めずに話を変える。

「まあいい。精々、気を抜かないことだ。お前にその気が無くとも、カララクは遠からずお前に行きつく。奴らは自分たちに楯突く人間に容赦しない。お前がいくら強くとも、組織を相手取るのは容易いことではない。……あまり、長居しない方がいい」

クロコスは警告とも忠告ともとれる事を言うと、背を向けて立ち去っていった。

「行くぞ。カララクどもの動きが活発化したのは西区だったな?」

部下を引き連れたクロコスが状況を再確認する。

西区はカララクではなくアグリェーシャが主に縄張りとしている場所だ。あの組織は一度転落したとはいえ、無視できない程度には勢力を保っている。わざわざそんなところへ出向くには理由があるはずだ。

「へい。調べたところによると、人を探しているとか……なりふり構わないやり方で、相当頭にキているみたいですぜ」

「……まさか、もうジグたちのことを嗅ぎつけたのか?」

ファミリアは亜人の優れた五感による諜報能力と、横の繋がりを活かした連携で随一の情報網を誇る。数で劣る亜人たちが人間と勢力争いを繰り広げられるのもそのおかげだ。強権的な勢力の伸ばし方をしてきた組織は派閥や内輪揉めが多く、情報の速度や正確性という点で劣る。それでも数というのは強力で、人海戦術でどうにかしてしまうのだが。

思考を巡らすクロコスへ部下は首を振り、補足するように情報を追加してくる。

「カララクが探しているのは女だそうですよ。何人かの人間を護衛に引き連れた女一人」

「女……? 今回の件とは別口か」

「みたいですね。カララクの幹部がその女に随分な大恥かかされたみたいで、血眼になってるとか」

「……バカなことを」

哀れなその女は誰に喧嘩を売ってしまったのか理解していないようだ。

間違いなく、二度とこの街からは出られまい。死ぬこともできずに慰み者として狂うか、飽きて殺されるかの二択だ。

「その女には悪いが、いい隙だ。動くぞ」

「へい」

同情はするが、見知らぬ人間の女一人がどうなった所で興味はない。敵対組織に丁度いい隙が出来た……その程度の感覚だ。

「例の冒険者の所在は掴めたか?」

「一応は。呼びかけに応じるかは……あっちの事情次第ですがね」

「十分だ」

現在対処しなくてはいけないのはカララク攻略の上で最も大きな障害である冒険者。ふらりと現れたこの冒険者は如何なる事情か、カララクに与してその敵対勢力を破竹の勢いで始末している。

厄介なことに引き抜きや金銭での交渉には一切応じず、敵対するものをただ始末しているようなのだ。

「だからこそ、おかしい」

世の中には金で動かない人間もいる。金で動くが、金で動かせないジグの様な人間もいる。

それだけならば別におかしくはない。だが冒険者が、マフィアに与しているという状況であれば話は別だ。金ではなく義理人情で動く人間が手段を選ばないカララクに付くわけもなく、ジグのように仕事に忠実な人間ならば冒険者という立場を無視してマフィアの仕事を受けるのはおかしい。

「弱味か、人質か」

恐らくはのっぴきならない事情で仕方なく手を貸している。そうクロコスは読んでいた。

確証はない。だがその冒険者の情報を集めたクロコスは間違いないと確信している。

「あれほどの冒険者がただマフィアの言いなりになっているには理由があるはずだ。そこを突いて味方に付ければ……」

「俺たちが勝つ目も見えてくる!」

勢いづく部下を宥めるようにゆっくりと頷く。

味方というのは流石に夢を見過ぎだが、最悪でもカララクからは離れる。そうなれば奴らに被害を受けたマフィアと手を組み、その牙城に罅を入れられる。

「急ぐぞ」

「へい!」

ファミリアをより盤石なものとするため、世に絶望した同胞たちの最後の城を守るため。彼らは敵を排除するために動いた。

「以前に澄人教共が襲われたという話を覚えているか?」

クロコスは先ほどジグ達と話した際のことを情報収集役を束ねる部下に尋ねてみた。話を振られた赤い鱗の亜人は思い出すように鼻先を上に向ける。

「ああ、確かそんな噂話もありましたね。本当ならいい気味ですが、調べてもそれらしい情報はありませんでしたよ?」

残念そうな声音にファミリアが持つ澄人教への感情が如実に表れている。彼だけでなく他の部下たちもつまらなそうな顔をしていた。

「今度もう一度、詳細に調べろ」

「……あの娘の着けていた人十字ですか?」

その部下も当然目を付けていたのか、目を細めて低い声を出す。

「もちろん偶然の可能性もある。だがストリゴにまで流れてくるとなると、場所は限られる」

シャナイアの着ていた修道服の状態は良かった。あれなら人十字さえ処理すれば買い手はいくらでもつくはず。

「あれだけ状態の良い修道服がストリゴまで売れ残っている可能性は低そうですね。直接流れてきたと考えるのが自然でしょう。この辺で澄人教といえばハリアン、です、が……」

頭の回転が速い部下は瞬時にそこまで考えついたが、そこで言葉が止まった。困ったような視線でクロコスを見やり、懐疑的な目で問う。

正直、クロコスも同じ気持ちであった。

「……あそこには 奴(・) がいる。ありえない」

クロコスはゆっくりと、確かめるようにそう口にした。まるで自分の声が震えていないか心配しながら、一言ずつ話すようであった。

組織の長としてあるまじき醜態。だがそれを咎める者は誰一人としていなかった。