軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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悪事をする者とは基本、精力的に動く。

それは何かを成そうとする明確な目的意識があるためであり、ただ漫然と日々を過ごしているだけではその悪事を防ぐことは難しい。

過去の経験からそのことをよく知っているジグはすぐに動いた。

カークの使いから相手の居場所を聞くとその足で現地へ向かう。伝言役が援軍を寄こすと言っていたような気もするが、こういうのは速度が大事なのであまり当てにしていない。

「周囲はうちの衆で固めておいた。鼠一匹逃しゃしないよ」

カティアが準備は万端だと胸を張った。

本当ならジグ一人で行くつもりだったのだが、相手の居場所を聞いたカティアがどうしても一緒に行くと主張して譲らなかったのだ。

彼女は顔を腫れ上がらせたスキラッチを伝言役としてヴァンノの所へ向かわせると、レダに人を集めさせた。それを率いたカティアは迅速に包囲を敷いた。

「野郎ォ、いい度胸してるじゃないか……!」

青筋を浮かべたカティアがこめかみをヒクつかせながら建物を睨みつけた。

自分たちの縄張りを堂々と侵されているのが相当頭に来ているらしい。

「気をつけろよ。相手がどのくらい腕利きを残しているのかも分からん」

ジグは警告しながら前に出た。

これまでマフィアに見つからなかったことなどを鑑みるに、相手の手勢はそう多くはないはず。ましてや先日の暗殺者のような者が複数いるとは考えにくいが、念のためだ。

「俺の仕事は奴らを捕らえることだ」

ジグが言外に助けを期待するなと伝えると、それを正しく理解したカティアが少しだけ気を落ち着かせる。

「……分かってるよ。アタシも無駄に部下を死なせたくはない。任せたぞ、傭兵」

この大男は外道ではないが、非情にはなれる。彼が優先順位を違えてまで手を貸してはくれないことを、カティアは理解していた。

遠ざかる背中を見送るカティアはそれでも安心していた。

どこの誰かは知らないが、この街でおいたをする馬鹿どもはこれでお終いだと。

―――どれほどの強者であろうと、戦いに絶対などないというのに。

入ってすぐの出迎えは鋭い刃だった。

挨拶代わりに左から体ごと突き込まれる短剣を、ドアノブを握ったまま一歩下がることで躱す。

「ッと……ぐぇ!?」

閉まる扉に男の体が押されて、よろめきながら外に出てしまう。そのがら空きの胴体にジグの蹴りが刺さった。

加減された、それでも大人が浮くほどの威力にたまらず男が呻いて地を転がる。手放した短剣が安っぽい金属の音を立てて滑っていく。

「一人目、任せたぞ」

突然のことで呆気にとられたカティアたちだが、我に返ると慌てて飛んできた男を袋叩きにし始めた。

「てめぇこらクソジャリがぁ!!」

「なめてんじゃねぇぞ!!」

「ひ、ぎゃぁ!? やめ……」

男の悲鳴が上がり始めるのを尻目にジグが次の行動に移った。

先ほど入った際に見た建物内部を思い出しながら歩を進める。

「この辺だったか……?」

扉から一メートルほど右に立ったジグがおもむろに拳を握った。

「ふん!」

気合と共に繰り出される大振りなテレフォンパンチ。

威力のみを重視した右ストレートは、木製の壁をクッキーか何かのようにぶち破った。

「なっ、なんだぁ!?」

目の前の壁から聞こえる声の位置から、当たりを引いたと判断したジグがほくそ笑む。壁をぶち破った右腕を曲げると、狙い通り敵の首を捕らえることに成功する。

そのまま力を籠めると、強引に相手を引っ張り込んだ。壁の穴が人の頭分拡張され、そこから男が無理矢理引きずり出される。

建物内部では混乱が起きていた。

突然壁から生えてきた腕が仲間を引きずり込んでいるという事態に呆気にとられ、他の者もすぐには動けなかった。

「ひぃい!!? やだっ、誰かっ、誰か助け……!」

そうこうしている間に、仲間は壁の穴に引きずり込まれていった。

動けなかった男たちは一様に顔を見合わせ、冷汗を流すことしかできなかった。

「そら、追加だ」

袋叩きにあった一人目が動かなくなったところに、もう一人が投げ込まれる。

今度はマフィアたちも慣れたもので、一人が手に持つ短剣を蹴り飛ばすと全員で寄ってたかってストンピングを始める。

こうなってしまえば実力差など関係なく、数の暴力であっという間に鎮圧されていく。

「奇襲はここまでだな」

労せず二人を無力化したが、不意打ちはもう通用しないだろう。

相手が気付いて待ち伏せていることにさして驚きはなかった。

マフィアを使って包囲しているのだから気取られるのは時間の問題であり、そのリスクを考慮しても数の包囲は有効だと判断したからカティアたちの同行を承諾したのだ。

「さて……っ!」

蹴破るか、斬り込むか。

一瞬悩んだジグよりも、相手が動く方が速かった。

漂う刺激臭と膨れ上がる殺気に先手を取られたと理解する。同時に両脚を曲げてタメを作ると、大きく垂直に跳ねた。

直後、扉が吹き飛び、後を追うように炎が吹きあがる。

風と火の魔術を交互に放ったのだろうか。

まともに食らえば体の表面が炭化するであろう暴力的なまでの熱量。

「やった!?」

「それより先に消火だっ!」

魔術で指向性を与えたとはいえ火は火だ。

扉の無い入り口周辺が燃えているのを水で消火しながら一人が確認に来る。

周囲を見渡すも先ほどの大男の姿はなく、マフィア共が周囲を固めているだけだ。

「は……はははっ! 見ろ、跡形も―――」

彼が人生で遺した言葉はそれで最後となった。

建物入り口直上。壁に双刃剣を突き刺してぶら下がっていたジグが、自由落下と共に男を両断する。

「三つ」

縦に裂けた男の間から敵の数を見る。

確認できる残敵は四。

如何にも市民と言った風貌の長剣持ちが二人、これは雑兵だ。肩で息をしている杖を持った男が魔術師だろう。

警戒すべきは最後の一人、短剣と 刺突剣(エストック) を手にした男だろう。

役人の様な整った格好をした男だが、剃刀の様な視線の鋭さまでは隠しきれていない。仲間の死に驚きもせず、ジグの力量を冷静に測ろうとするその雰囲気は先日襲ってきた二人組によく似ていた。

捕らえた暗殺者を始末したのも奴に違いない。

両断した死体が血を吹き出すのと同時にジグが前に出る。

倒れ行く死体の腰から短刀を抜き取り魔術師に投擲し、ジグ本人は雑兵二人の方へ駆けだした。

それを目で追っていた暗殺者が滑るように動く。

「……援護しろ」

魔術師へ投擲された短剣を苦も無く弾くと、それだけ告げて刺突剣を構える。

長剣持ち二人は躊躇なく見捨てたようで、助けに向かう様子はない。

「くそ!」

見捨てられた長剣持ち二人が必死の形相で剣を構えた。

縦に振られた剣、その間合いの外から双刃剣を横薙ぎに振るう。

持ち手を下刃の根元まで下げ、限界までリーチを伸ばした双刃剣は彼らの間合いの外からでも届く。

相手が振り下ろすタイミングに合わせた一撃は防ぐことも避けることもできない。

「ぐぇあ!?」

赤黒い刃の腹で強かに頭部を打ち据えられた長剣持ちが、悲鳴と共に倒れ伏した。

斬ってはいないが、生きているかどうかは怪しいほどの重傷を負っているはずだ。

既に二人生け捕りにしているので、死んでも構わない……そういうつもりで攻撃をしたので、生きているかは不明だ。

「……ひっ」

目の前で仲間が倒され、戦意を喪失した残る一人。

戦う意思もなさそうなので先ほどと同じ様に剣の腹で殴り倒そうと振りかぶった。

「―――え?」

「ッ!?」

その時、突然男の胸から刃が生えた。

刺し貫くことに特化したその刃は、勢いそのままにジグに迫る。

「くっ!」

縦に振りかぶっていたら間に合わなかったかもしれない。

しかし幸運にも相手を昏倒させようと横振りだったので、左手甲での防御が間に合う。

甲高い音を立てながら切っ先が逸れた刺突剣、その威力にジグが目を剥く。

驚くべきことに、これほど細い刀身だというのに 虹龍蝦(にじしゃこ) の頑丈な手甲を大きく削り取ったのだ。

あまりの貫通力に完全には逸らしきれず、左肩を浅く斬り裂かれたほどだ。

「チッ」

仲間を串刺しにした男は奇襲に失敗すると舌打ちしながら刺突剣を引き抜き、ついでとばかりに膝をついた仲間の首を斬りつける。首を刎ねるのではなく剣先で浅く頸椎を裂いただけだが、男は糸が切れた人形のように倒れて動かなくなった。

「一応、仲間ではないのか?」

無駄と知っていつつもそう口にしたジグに、男は嗤いながら肩を竦めた。

「拷問に遭うくらいなら楽に殺してやろうという仲間心が分からんかね?」

嘯いた男がちらりと視線を外に向ける。

焼け焦げた入り口からはマフィアに捕らえられた二人の仲間の姿がある。

「貴様を始末したら、奴らも送ってやらねばな」

「皮算用か? 仕事の基本を教えてやろう」

「……ほう?」

刺突剣を持つ男の剃刀のような眼がジグへ向けられる。

それを真っ向から見返したジグが不敵な笑みを浮かべた。相手に片手を向けて、くいと挑発してみせる。

「仕事は一つずつ、確実にだ」

「……では一手、ご教授願おうか?」

応じて嗤う男がゆるりと構える。

左脚を一歩引いて右半身になり、右腕をたたんで胸の前へ。バネを溜め込んだその構えは突きに特化した 刺突剣(エストック) を十全に活かすものだ。

左手に逆手で持った短剣は如何なる用途か、腰の辺りに添えたままだ。

「構わんぞ。なに、授業料は安くしておこう。……そうだな―――お前の命ならば、丁度良い値段だろう」

腰を落としたジグが右脚を一歩下げて左半身に構える。

双刃剣の上刃を体の後ろに、下刃を相手に向けた脇構えの崩し。

互いが互いの構えを見て、その力量を悟る。

刺突剣の先端を不規則に揺らしながら男が愉し気に軽口を叩いた。

「お互い、命が安いと苦労するな?」

「ああ、まったくだ」