軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「そっかぁ……魔獣より人斬った数の方が多いかぁ……」

ジグによる想像以上の人斬り報告にがっくりと肩を落とすガント。

「……僕ぁ、魔獣を倒す冒険者のために武器を作ってるんだけどなぁ……まあそれでも? 君に売るって決めたのは僕だし? 綺麗ごとでお金は貰えないし、細かいことは言わないけども?」

細かいところをねちねちとぼやきながらチラチラ横目で見てくる。実に鬱陶しい。

ジグにとって武器とは道具だ。敵を殺すための道具で、それ以上でもそれ以下でもない。彼には悪いが、そこを譲るつもりにはなれない。

「……殺したのは俺だ。お前が殺したわけではない。道具はあくまでもただの道具。武器が人を殺すのではなく、それを持った人間が人を殺す」

「だから僕には何の罪もないって? 詭弁だね。殺すための道具を作っておいて、それが何に使われていようと自分には一切責任がありませんなんて言うほど僕は厚顔無恥じゃないよ。功罪受け止めてこその作り手でしょ」

ガントは鼻で笑うと節くれだった岩の様な手指で刀身を撫でた。

彼なりの流儀というやつだろうか。軽い口調だが、有無を言わせぬ何かを感じさせた。

「……この話は平行線になりそうだからやめよっか。あー、……それで何だっけ? 武器の整備じゃないなら僕に何の用?」

点検がてら武器を磨き終えたガントへ礼を言いつつ背負うと、入れ替わるようにしてシェスカが例の魔具を渡す。

「これを調べて欲しいのです」

「……なにこれ魔具? 壊れてるじゃん」

ガントは手に取ったそれを裸眼でさっと見た後、単眼鏡に切り替えて細部を確かめていく。

「へぇ? 黄銀(おうぎん) 製の魔具とは、いい物使ってる。刻まれている魔術は障壁か……こっちは二流の仕事だなぁ。もったいない……高い品だから良い品だとは限らないとはいえ、買った人はクレームものだよねコレ」

ぶつぶつと独り言を呟きながら魔具の詳細を解き明かしていくガント。言動こそアレだが、間違いなく彼は優秀な技術屋だ。

「……黄銀?」

「魔力の伝導率が高く魔具の素材として優秀な金属です。金属としては比較的柔らかくて、繊細な術式を刻むのに向いています。熱変化などには強いのですが物理的な衝撃に弱く歪みやすいので、内部機構の魔術刻印部分に使うのが一般的ですね」

知らない名称に視線をやれば、素人にも分かりやすい説明が返ってくる。

柔らかい金属と聞けば鉛と 錫(すず) 程度しか思い浮かばないジグに心当たりがあるはずもない。

「……高いのか?」

頭の悪い質問にもシェスカは嫌な顔一つせず答えてくれる。

「はい、結構しますよ。有名なところだと 蒼金剛(あおこんごう) に類する金属だと言えば分かりやすいでしょうか?」

「ああ……あれの同類か」

蒼金剛の名には覚えがある。

魔力を分解するという特殊な性質を宿した金属は小さな短刀程度でも数百万もの値が付く。ジグが礫として使っている蒼金剛をわずかに含有させた硬貨ですら安くはない。

しかし魔力を分解するという性質にはそれだけの価値がある。

黄銀とやらもそれだけ有用な金属なのだろう。

「色の名を冠する特殊な金属はその特異性と産出量の少なさも相まって、冒険者ですら容易に手が出せません。本来、この程度の魔具に使うには惜しいのですが……」

「未熟者でも術式を書き易いから、無駄に高値にして値段に見合わない品を売る不届き者もいる……自分の実力不足を素材に頼ろうだなんて、鍛冶師として失格だけどね」

言葉を濁した彼女の説明を継いだガントが工具片手に肩を竦めた。

凝り性の彼からすれば高い素材を粗末に扱うのには我慢がならないのだろう。

「過負荷で壊れちゃってるね。なにしたの?」

彼は魔具を手にしたまま不機嫌そうに髭をもさつかせた。

ジグは特に深く考えず、魔具の破壊原因を口にする。

「蹴った」

「―――そう」

ガントのジグを見る視線が変わっていく。何というか、まるで未開の蛮族を相手にしているのかの様な諦めすら混じった視線だ。

「おい待て、勘違いするな。蹴ったのは魔具じゃなくて障壁の方だ」

慌てて弁明する。多少の風評被害など気にもしないジグであるが、分からない物にはとりあえず蹴りを叩き込むような野蛮人だと勘違いされるのは流石に困る。

「……別に、君がそこまで頭の悪い人間だとは思っちゃいないけどね」

彼はこれ見よがしに大きなため息をついた。彼のその仕草に少しイラっとするが、シェスカまでもが苦笑いしているのを見るに、どうやら今回はこちらが非常識のようだ。

ガントは物分かりの悪い子供に教えるように説明する。

「確かにこれは二流の仕事だよ? でもそれは言い換えれば、二流程度には仕事が出来てるってこと。小型化しているとはいえ、本来魔獣相手に使うような障壁なの。それを蹴って壊したって君……ホントに人間?」

「……知らん。そいつを作った奴が三流だったんだろう」

ジグは鼻を鳴らすと腕を組んでそっぽを向いた。

「うわ、怪しい……もしかして人型の魔獣とかじゃないよね?」

「もしそうなら、真っ先にお前を血祭りにしてやる。……馬鹿言っていないでさっさと調べろ。バラしても構わん」

「はいはい、了解ですよー」

ふざけるのをやめた彼は手際よく魔具を分解していく。

留め金を外して割れた部分を慎重に開くと、内部を単眼鏡で調べていく。

「どこで作られた物か分かるか?」

「……この組み方は比較的オーソドックスだからなぁ。意匠も平凡だし、これだけじゃ特定は難しいよ。作り手の名も彫ってないし」

製作物に名を彫る鍛冶師や彫金師もいる。割合としては半々くらいだろう。

ちなみにガントはやらない派である。

「……んん?」

ここから情報を得るのは難しいかもしれないと、そう考えていた時。

ヒビの入ったカバーを調べていたガントが疑問の声を上げた。

「何か見つけたのか?」

「いや、魔具自体に変なところは無いんだけど……あ、 刷毛(はけ) とって」

「どうぞ」

魔具から目を離さぬまま出した手に、慣れた様子でシェスカが刷毛を乗せる。

ガントは見つけたそれを飛ばさぬように呼吸を止め、刷毛を使って割れたカバーの内側を慎重にかきだす。

細かな部品を無くさないように置くための皿。そこへ魔具からこぼれた小さな粒が二つ、転がり落ちてきた。

「……ナニコレ」

ガントが 鑷子(せっし) でそれを摘まむ。

白い粉を固めたようなそれは、一見すると砂糖菓子の欠片にも見える。

「隙間から入ったのか?」

「いやないよ。水も入らないほどの密封ってわけじゃないけど、多少濡れても浸水しない程度にはなってた。こんなのが入るほどの隙間なんてない」

欠片は小さいとはいえペン先程のサイズをしている。ヒビが入っているとはいえ、何かの拍子で入り込んだという可能性はなさそうだ。ということはこれが中に入ったのは製作時ということになる。

「……前言撤回、これ作った奴は三流以下だ。よりにもよって、食べながら魔術刻印を彫っていたなんてね……! 見つけたらぶん殴ってやる」

いい加減我慢の効かなくなったガントが青筋を浮かべて拳を握った。

怒りをあらわにするガントを余所に、ジグはその白い粒を摘まむと観察する。

白い粒を指先で押してみる。硬い。

匂いを嗅ぐが、無臭。端の方を爪先で少し削って舐めてみれば、独特の苦みを感じた。ジグはその覚えのある苦みでこれが直接摂取するものではないことを理解した。

「……これを作った奴は食べながらではなく、トビながら作ったんだろうよ」

「飛ぶ? それってどういう…………あー」

ジグの口にした表現と白い粒。その二つが指し示す意味に遅れて気づいたガントが呆れてものも言えないとばかりに顔を手で覆った。

シェスカが白い粒を嫌悪感の混じった目で見る。

「そういう事でしたか……しかし、月まで旅行しながら魔術刻印の様な精密作業ができるものなのですか?」

「 そういう(・・・・) ものもある」

薬物の効能は大雑把に分けると興奮させるか、抑制させるかだ。

痛みを鈍くする、感覚を鋭くする、眠気を覚ますなど。ある程度種類に差はあるが、方向性は二つに分けられる。

「薬で強制的に覚醒状態に持っていくことで、眠気を感じず鋭敏な感覚で作業ができる」

「それだけ聞くと確かに精密作業に向いてそうだけど……長持ちはしなさそうだね」

「当然でしょうね。本来持つ能力以上を引き出せば相応の代償が必要です。それに、ガントさんはそんな薬に頼らずともこれ以上の仕事が出来ているじゃないですか。人間、努力が一番です」

(頼りきりになるのが危険なだけで、道具は使いようだと思うがな)

長期的に見て良くないことは分かっていても、今を凌げなければ全てを失う。そういった場面をいくつも経験してきたジグにとって、道具とは使い処次第だ。ある物全てを使うのは決して間違いではない。

そう思いつつも、ジグはそれを口にすることはなかった。

それでも使わないに越したことはない。何より過去に戦争で逃げるように薬物へ頼る者も決して少なくはなかったからだ。

「さて、これの出所を探すとなると……本職に聞くのが一番か」

「少々お待ちを。私からも一筆、カティアに頼んでおきましょう」

「助かる」

二大マフィアのドン、その娘であるカティアと鍛冶屋の店員であるシェスカの関係は知らぬままだ。しかし何かしらの腐れ縁らしきものがあるらしい。頼みごとの一つや二つは出来るくらいに。

「頼み事……というよりは、“自分たちの縄張りの管理もまともにできないのですか?”と苦情を申し立てるだけですとも」

涼し気にそう言ってのけるシェスカであった。