軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ジグの脚力で頭部を捉えた後ろ回し蹴り。

それは回避もできぬ状況でまともに食らえば、首が原形をとどめないまま飛んでいてもおかしくないほどの威力だ。

まともに食らえば、だが。

「おっと、危ない」

ジグが蹴り足をどけて見れば、支えを失った体が地に倒れ伏す。

そこには男の頭が無事なまま付いていた。

男は顎を砕かれており、だらしなく口が開いたまま血と涎を垂れ流しにしている。時折混じっている白い破片は折れた歯だろう。

死にはしないが、当分の間固形物は食べられないだろう重傷。

「……ギリギリ、生きているな。加減できる状況ではなかったとはいえ、これでは情報を聞き出せない……いや、回復術があったか」

脈を診てちゃんと生きているのを確認し、ほっと息をつく。

男の持ち物を漁ると砕けた腕輪が出てきた。

ジグの後ろ回し蹴りは当たる直前、この魔具によって発生した障壁で守られていた。

腕輪の形をした魔具は虎の子だったのだろう。あるいは剣であれば刃筋を逸らして流すことができたかもしれないが、運の悪いことに打撃だ。

魔具自体は小型で携行性に優れる分、そこまで出力が高いものではないようだ。

過負荷で砕けたとはいえ障壁は蹴りの威力を大きく減退させ致命傷を防いだ。

魔具の発動に気づいたからこそ全力で蹴りを入れたが、思ったよりも障壁が脆かったため意識を奪う程度に留めるはずが重傷を与えてしまった。

もう少し広い場所であればやりようもあったのだが、その場合は彼らが襲ってこない可能性もあったので難しいところだ。

「それにしても、本当に来るとはな……」

正直なところ、期待していた訳では無かった。

確かにきな臭い部分はある事件だったが、まさか情報を調べる傭兵一人に対してこうも早い対応をしてくるとは思っていなかった。

あまりに証拠が少ない状況だ。迂闊な真似をして状況を悪化させるくらいなら泳がせておいた方が良いに決まっている。

余程探られたくない腹をしているのか。

どちらにしろギルドから調査の依頼を受けていることまでは気づいていないようだ。

もし気づいていたらギルドの調査員を消すなどという迂闊な真似はできまい。

「明日にでもカークに報告した方が良いな」

事態は思ったよりも悪い方向に進んでいるようだ。

死体をそのままに、生きている方を縛って引きずっていく。

一応どちらも持ち物は調べたが身元を特定できそうなものは見当たらなかった。

とりあえず憲兵に引き渡してカークに伝えておけばギルドの人間を寄こして尋問してくれるだろう。

「情報を吐くとは思えんがな」

尋問の成果にはあまり期待できないだろう。

必ずと言う訳では無いが、基本的に腕のいい暗殺者ほど口が堅い。

この男の隠密技術は間違いなく一流だった。

最初から襲われること前提で動いていたからこそすぐに対処できたが、そうでなければ気づくのはもっと遅れていただろう。

不意打ちが失敗し、相対してからの手腕も見事な物だった。

役割として暗殺者は直接戦闘能力にそこまで秀でる必要はない。剣を打ち合うのは彼らの仕事ではなく、無駄な筋肉は重いだけで静かな動きを妨げる。

「だが、その分候補も大分絞られるぞ。腕のいい暗殺者が 仇(あだ) になったな」

ここまで質のいい暗殺者を雇うには金だけでなくそれなりの伝手がいる。

カークにはその辺りを探ってもらおう。

犯人たちは相当上手くやっているのだろう。

まだ容疑者もろくに上がっておらず、何の証拠もない段階。あのカークですら何も掴んでいないのがその証だ。

だが犯人は一つだけミスを犯した。

それまで上手く行っていただけに完璧を求めすぎてしまったのかもしれない。

知らなかったのだろう。

―――世の中には信じられぬほど強引なやり方で、過程を無視した結果だけを暴き出す方法があるのだと。

一か零かの結果は出た。

あの事件のことを探られては困る者は……いる。

「それだけ分かれば十分だ」

一つの答えさえ分かっていれば他に手がかりは無くともやりようはある。

それは自分には出来ぬことだが、それを得意とする者はいる。

「適材適所、万歳」

苦手なことを他人に丸投げできることに喜びを感じつつ、ジグは暗闇へと消えていった。

ハリアンギルド副頭取、カーク=ライトの朝は早い。

長年ギルドでの業務をこなしている彼が関わる仕事は多岐に渡る。その全てに目を通すことはできなくとも、 凡(おおよ) そを把握して何か起きた時に対応できるようにしておく必要がある。

今日も空がまだ白い頃からギルドで書類に目を通し、本日の仕事に優先順位をつけている。

「……やはり、冒険者の数が足りないな」

目下の悩みは冒険者の数不足による依頼の消化速度低下だ。

先日の騒ぎで中・低級冒険者に死者と怪我人を多く出した。彼らがこなしていた魔獣の討伐依頼が滞ると魔獣の増加や物資の不足などが問題となる。

魔獣の素材はなくてはならない資源だ。この街が発展しているのも転移石板を多く有し、様々な種類の素材を確保できる点が大きな割合を占めている。

「早急な対処が必要だな」

まずは冒険者への支援としてギルド系列店での消耗品割引だ。今冒険者たちの動きが鈍るのは非常にまずい。多少の損失は無視してでも彼らを止めてはいけない。

それから危険区域の再設定。

動きが鈍るのは困るが、数が減るのはもっと困る。間引きが減ることによる危険区域を学者と協議して周知を促す必要がある。

最後に冒険者の募集。

減った数を増やさぬことにはどうにもならない。冒険者登録に掛かる費用を後払い制にして装備を貸し出すなどでとにかく数を増やす。数ばかり見るのはあまり褒められた手段ではないが、やむをえまい。

彼らをフォローするために有力クランへも根回しをする必要がある。

「差し当たってはベイツ=ラゲート、グロウ=ガラット両名に話を通しておくか。……やれやれ、また文句を言われてしまうな」

若手冒険者への支援が手厚いことで有名なワダツミ。

カークとも付き合いが長い、ワダツミの看板冒険者ともいえる中年二人組のことを思い浮かべる。

二十年以上前の話だ。

かつてのハリアンギルド上層部は非常に 質(たち) が悪く、新人冒険者たちを平気で使い潰そうとする劣悪な環境だった。年嵩の冒険者は甘言で若い子供を騙して借金まみれにさせ、危険な囮をやらせたり奴隷同然の扱いをして利益を得ていた。

取り締まる側であるはずのギルドは彼らから袖の下を受取り見て見ぬふり。

多くの若い命が無為に散っていった。

当時駆け出しだったベイツとグロウはカークを巻き込み、証拠を押さえてその不正を暴こうと持ち掛けたのだ。

上層部の腐敗具合に鬱屈していたカークはそれに乗って根回しに走り回ったものだ。

良心を持った権力者を慎重に見極めて後ろ盾についてもらい、五年かけて腐りきった冒険者とギルド上層部の罪を白日の下にさらした。

それを転機とし、ハリアンは大きく変わった。

一部の者が懐にため込んでいた大量の財は街の発展に使われ、異常なほど多かった冒険者の死傷者は大きく減っていった。

当時ボロボロだったギルドを立て直すためにカークが尽力した結果が今の副頭取の立場になる。

「あれからもう十五年か……歳を取るわけだ」

思えばあの時からここまであっという間だった。

自分は髪に白い物が混ざり始め、ベイツはいつの間にか髪を剃り上げ、グロウは皺ができ始めた。

当時のことを知る冒険者はもうほとんどいない。

死んだか、引退したか。

それでもあの頃を知る者達は三人を指してハリアンの英雄と呼んだ。

三人とも、口では否定しつつもそう呼ばれることを誇らしく思っていたはずだ。

昔を思い出していたカークが目を開く。

そこに当時を懐かしむ温い光はなく、今を見る鋭い眼光だった。

「……それを壊させるわけにはいかん」

「どれだ?」

開いた視界。

いつもと変わらぬ仕事部屋に、巨大な異物。

二メートルもある巨漢が正面に立ち、カークの顔を覗き込んでいた。

自分以外誰も居ぬはずの部屋に突如として現れた男。

驚きに上げそうになる声を精神力で抑え込み、さも気づいていたかのように両手を組んで顎を乗せる。

「―――部屋に入る時は、ノックをしたまへ」

少し動揺が漏れたのは、甘く見て欲しい。

「それで? 私を驚かせに来たのでなければ、相応の理由があるのだろうね?」

顰め面をいつもよりも険しくしたカークが詰問するような口調で言った。

「すまん、脅かすつもりはなかったのだが……目を閉じたまま動かないのでもしやと思ってな」

「……まあいい。しかしどうやってこの部屋に来た?」

一階には早番の職員が既に来て仕事の準備をしているはずであり、彼らに見つからずにここへ来るのは難しい。それ以前にまだ表は開けていない。

「外から壁を伝って」

「……ここの窓は鍵が掛かっているはずだが」

ちらりカークが窓を見るも、こじ開けられた様子はない。

聞かれるとジグは少し得意気に頬を釣り上げる。

「この部屋は、な。奥にある掃除用具置き場は開いていたぞ」

埃っぽい部屋の換気のためか、そこの窓だけは鍵が開きっぱなしになっていた。

ジグはそこから侵入し、カークの仕事部屋まで忍び込んだのだ。

「……昨日の戸締りをした者へ伝えておこう。それで、まさかもう進展があったのか?」

人目を避けてジグが会いに来た理由はそれ以外考えられない。

しかしあまりにも早すぎる。

半ば信じられないような心持でカークが確認すると、ジグは頷いて昨晩のことを話した。