軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「それで事件の経緯だが」

すっと頭を上げた時にはカークの顔はいつもと同じ仏頂面に戻っていた。

まるで先ほどまでのことなどなかったかのような変わり身の速さだ。

だが先の言葉には嘘偽りやその場凌ぎと言った空気は感じられなかった。

彼は彼なりに、ギルドの益になるよう行動しているということだろう。

カークとは損得でやり取りをする間柄であり間違っても味方ではないが、彼のこういう所は嫌いではない。

「……なにかね」

こちらの様子を怪訝に思ったのかわずかに目を細める。

「いや、あんたが頭を下げるとは思わなかった」

「ふん……必要な時に、必要なことをしただけだ。頭なんてものはな、立場が上の人間が下げて初めて価値が生まれるものだ」

強引な物言いに思わず苦笑いする。

カークは憮然とした顔をしているが、頭を下げたことを後悔する様子はなかった。

プライドのために最善の行動をとれぬことこそが恥とでも言いたげな態度からは、彼の仕事に対する真摯さが窺えた。

「話を戻すぞ。……事件の経緯だが、未だに容疑者を絞り込めていないのが現状だ」

「ノートンも言っていたな。風の術師とはそんなに多いのか?」

冒険者の管理をしているギルドの情報網をもってすれば、ある程度の目星を付ける程度は容易いと考えていただけにこの事実は意外だった。

「多少割合は他より多いかもしれんが、そこまでの差があるわけではない。……正直に名乗り出ていればな」

「……情報を秘匿していると?」

ジグの言葉に眉間に皺を寄せて頷く。

「君も人間同士の荒事を生業としているから詳しく説明はしないが、手札の露見とは本来避けるべきものだ」

「当然だな」

こちらの攻撃手段を知られてしまえば余程の馬鹿でもない限り、対策をする。

弓が得意ならば開けた場所を避け、射線が通りにくい所を選んで仕掛ける。

槍が得意ならば狭い場所で、満足に取り回しにくい状況に追い込む等々、得手不得手を知られるだけでもデメリットなのだ。

「だがそれは人間相手に戦う傭兵や賞金稼ぎの話だ。冒険者の場合は得意分野をアピールした方が仕事をしやすいんじゃないか?」

「その通りだ。自分は何が出来て何に向いているのかを伝えておけば、それに適した仕事が回ってくる。だがな、悪さをする者はどこにでもいるということだ。それ自体は珍しい事ではないのだが……風の魔術は証拠が残りにくいのだよ」

そういう事かとジグは口を閉ざす。

火は無論のこと、土雷水氷は人にも物にも特徴的な傷跡や物証を残す。

しかし風ならば証拠も残りにくく、傷跡を見ても剣によるものと区別が難しい。

ジグが左手で脇腹を撫でる。

以前エルシアのパーティーにいた風の術を扱う男……ザスプとか言ったか。

剣に纏わせた風の術で斬られた時のことを思い出してみるが、鋭利な刃物で斬られたと言えばそれで納得してしまうだろう。

「静音性に優れ、物証も残さない風の魔術師は他の属性に比べて犯罪に走りやすい。……無論、全員がそうではないことは重々承知の上だがね。悪さを思いついた時に、それができる手段があるというのがいけないのかもしれん」

カークは長くギルドにいるようなので、過去にもそう言った冒険者を見てきたのだろう。

忸怩たる思いを抱えるようにその言葉尻をわずかに濁らせる。

「そういった手合いはギルドにも虚偽の報告をしている可能性がある、ということか」

「……そういうことだ。これを見たまえ」

手にした書類の一枚をこちらに滑らせる。

目を通してみると、どうやら冒険者の名簿のようだ。

パーティー単位でまとめられており、等級や武器に加えて使える魔術の種類と強度まで記録してある。

その数ざっと三十人。

「そこに載っているのは事件の容疑者だ」

「……いいのか、俺にこんなもの見せて」

仮にもギルドの内部情報だろうと視線をやるが、無言でカークは鼻を鳴らしてみせる。

その仕草だけで彼の意図を理解した。

「……俺に官憲の真似事をさせるつもりか?」

「報酬さえ払えば何でもするのだろう?」

「それはそうだが……」

確かに傭兵とは基本的に金さえ払えば何でもする。

ある程度規模の大きい傭兵団ともなれば大きい依頼しか受けなくなるが、フリーの傭兵だったり暇な団員は日銭を稼ぐために雑多な依頼もこなす。

用心棒や新兵の教育などに始まり、馬車や船の荷下ろしなど力仕事全般はお手の物だ。

とはいえそれは、何でもかんでも拒まずという意味ではない。

「畑違いの仕事だ……とでも言いたげな顔だな」

こちらの内心を読んだカークが口の端を釣り上げて笑う。

「違うのか?」

「生憎と、君の嫌がる顔を見るために冗談を言うほど暇ではない」

思わずほっとするが、考えてみれば当然か。

この男は無駄を嫌い、ギルドの益を最優先して動く。

わざわざ傭兵に仕事を頼むのはそれ相応の理由があると見ていいだろう。

カークは席を立つと戸締りを確認し、壁に掛けてある円筒状の魔具を起動させた。

見覚えのある魔具だ。

確か以前澄人教絡みで話した時に使っていた防音機能がある魔具だろう。

あの時はシアーシャの怒りにあえなく暴発した品だが、それを今使うことの意味はジグにも理解できる。

「今回の件、どうにもキナ臭くてな」

几帳面そうな顔に皺を刻みながら重々しくカークが言う。

「過去に同じような事件が起きていて、刃蜂の巣が危険なのは周知の事実。だからあそこへ行けるようになった冒険者にはまずそのことを叩き込むように徹底している」

シアーシャもその説明を受けたのだろう。

その教育はカークも言ったように徹底しているようで、部外者のジグですら知っているほどだ。

「だというのに今回の件だ。ただ注意を怠っただけ……にしては少し不自然に感じてね」

「上がりたてがやらかしたとは考えないのか? 話を聞かん奴なんてどこにでもいるだろう」

「それもないとは言えん。だが、そこまで考え無しの者にしては証拠が無さ過ぎる」

カークの言葉にも一理ある。

蜂の巣を突けばどうなるかなど馬鹿でもわかることだ。それすら分からないほどの愚か者ならば誰かしらに目撃されているなど、どこかでボロが出るはず。

あれだけ冒険者がいるというのにそれが全くないというのは、確かに不自然かもしれない。

「その容疑者リストは複数の証言から確実に不可能であった者だけを除外したため数が多い。犯人が死んでいなければ、確実にその中にいる」

書類を指してカークが続ける。

「お前は死んでいないと思っているようだな」

「それを含めて、君に犯人を調べてもらいたい。死んでいれば良し、もし生きていたのならば……」

そこで言葉を切ったカークの後を継ぐ。

「 償(つぐな) わせる?」

「まさか。金品でどうにかできるラインはとうに超えている」

視線を鋭くしたカークが鼻で嗤う。

だがその眼は、ただの一度も笑ってなどいない。

「もしこれを意図的に起こしたのだとすれば、これで終わりではない。必ず 次(・) が起こる」

「……だろうな」

仮にもし、これを引き起こした者がいるとすればその目的はギルドへの損害。

そう考えれば今回の刃蜂騒動は期待外れだったことだろう。

被害は出たが甚大と言うほどでもなく、救出された者も多い。

犯人が更なる被害を求める可能性は十分にある。

(犯人が本当にいれば、だがな)

ジグは正直なところ半信半疑ではあった。

偶然で片づけられない気持ちは分かるが、それ以上にギルドへ喧嘩を売る意味が理解できなかったからだ。

カークもそこは分かっているだろうからあえて何も言わなかったが。

「期間は二十日、報酬は五十万。これは何も見つからなくても支払われる最低金額だ。もし何かしらの証拠を見つければ追加で五十万。犯人を見つけられたならば百五十万出そう」

「ほぅ……気前がいいな」

予想外に大きな金額に出来もしない口笛を吹きたくなる。

「それだけの価値はある調査だ」

「……しかし俺は今護衛依頼を受けている最中でな」

「アレに護衛はいらんだろう……だがまあ、問題ない。護衛という体であれば、冒険者を調べるのに君がいても不自然ではないからな。部外者が嗅ぎ回っていては警戒されてしまうが、君の場合は今更珍しくもないだろう?」

普段の仕事をしながらで構わないとカークは言う。

「君ならば裏にも顔が利く。後ろめたいことをしている冒険者はマフィアなどにも繋がりがあることも多いから、探ってきてほしい。当然危険で、ギルドの者を使えない理由もここにある。しかし君ならその心配は無用だ」

断る理由を次々に潰されてしまう。

だがまあ、仮に何も見つからなくとも少し手間を掛ければ五十万が入るのだ、悪い話ではない。

「……見つけられる保証はないぞ?」

「それならそれで構わないさ。君は手付金だけ持っていくような輩ではあるまい?」

この一件でのカークからの評価は思ったよりも高いようだ。

彼からの信用は報酬の金額以上に役に立つだろう。

「さてな……ともあれ、その依頼受けた」

「結構。そのリストは持っていきたまえ。表向き存在しない物なので扱いには十分気を付けるように」

ジグは報酬金を引き出す書類と容疑者リストを手に立ち上がり、踵を返して部屋の扉に手を掛ける。

座ったままそれを見送るカークが思い出したように付け足す。

「あぁ、そうだった。そのリストはただ並べている訳ではなく、素行の悪く評価値の低い冒険者から順に並べてある。必ずしもそれが正しい訳ではないが、調査の参考にしてくれたまえ」

言われて書類をちらりと見れば、確かに端の方に何か書いてある。

そこにはギルドから冒険者へ対する評価が端的に記してあった。

「随分丁寧な仕事だ……む」

リストの一番下、つまり最も素行の良い冒険者がジグの目を引いた。

「亜人か」

「世間の感情はともかく、能力人格共に高水準を誇っている稀有な人材だ。話を聞いてみるといい」

ジグに亜人に対する忌避感はなく、ウルバスといった人格者が参考になるため彼らの第一印象は悪くない。

事情を聴くのにうってつけと言えるだろう。

「そうさせてもらおう」

「吉報を待っている」

そうして新たな依頼を受けたジグは部屋を後にした。