軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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両者は互いの隙を窺いながらじりじりと足を横に運ぶ。

限界まで張り詰めた空気の中、ジグの足が砕けた長椅子の破片を踏んで乾いた音を立てた。

首筋に感じるチリっとした感覚と、遅れて漂う刺激臭。

―――来る。

ヤサエルが石弾を時間差で三発放ち、その後を追いかけるように駆け出す。

同時、ジグも前に出る。

射線から身を外しつつ一発を回避、もう一発を武器で弾いて逸らす。遅れて飛んでくる最後の一発は当たる軌道ではないので無視。

そのまま距離を詰めて勢いをつけた一撃を見舞おうとする。

瞬間、突如速度を上げたヤサエルが錫杖を振るう。間合いはまだ遠く、魔具の類を発動させたわけでもない。

彼の錫杖は遅れて飛ぶ宙の石弾を打ち、その軌道を強引に変えたのだ。速度を増した石弾はジグ目掛けて飛来する。

自分で放った術に追いついて打ち返すという曲芸。

まさに意表を突く一手だが、元よりつまらない牽制目的でこの男が術を使うとは思っていない。

振りかぶっていた双刃剣、その逆の刃で石弾を防ぐと続けざまに叩き込まれた錫杖を受け止めた。激しい音と共に互いの武器が火花を散らす。

「これだけの力を持っていたなら、もっと違う道も歩めただろうに!」

ぶつかり合う双刃剣を錫杖の下に潜り込ませるように位置を変えると、曲げた膝を一気に伸ばす。

軸足をねじり込むようにして上半身を捻転。すくい上げるように錫杖ごとヤサエルを持ち上げると壁に向かって力の限り投げ飛ばす。

一直線に壁に吹き飛ばされるヤサエル。

この勢いでは受け身など関係なく、どうぶつかっても致命的なダメージになりかねない。

だがそれに対処してこその免罪官。

宙を舞うヤサエルは脚を畳んで姿勢を制御。

薄く張った防御障壁二枚を緩衝材にして勢いを殺しつつ、くるりと回って壁に足を向ける。

ぶつかる前に畳んだ脚を伸ばし、着地の瞬間に膝を柔らかく使って衝撃を殺しきる。

追撃しようとするジグへ岩槍を放ち足止めも忘れない。

体が重力に従って落ちる前に、再度畳んだ足に力を籠める。

膝のバネを溜め、緩から急へ。

最善のタイミングで身体強化へ注ぐ魔力を全開に。

足場にした壁を大きく抉らせ、投げられた時以上の速度でジグへ向かって跳ぶ。

ヤサエルはそこで錫杖の魔術刻印を起動。

仄かに光る錫杖の軌跡が流星のような光の帯を引きながら一直線に向かう。

「―――っ、」

呆気にとられたジグが、それでも即座に構えて正面から突っ込んでくるヤサエルを迎え撃つように受け止める。

破砕音の様な激突。ヤサエルの勢いを殺しきれず、ジグの足が教会の石畳を大きく滑る。

壁を使った強烈な踏み込みは二人の膂力差を差し引いても余りある勢いだ。

ジグは全力で踏ん張り、歯を食いしばって押しとどめる。

業と魔具を用いて力の不利を消し去ったヤサエルが苛烈に攻め立てる。

「その言葉、そのままお返ししましょう!!」

突進を受け止めたことで痺れの残る腕に鞭を打ち、何とかそれを凌ぐ。

捌ききれぬ打撃に脇を打たれ、鈍痛と衝撃に呼吸が乱れる。

「その腕を 何故(なにゆえ) 傭兵などに消費するのです! 金も、名誉も、欲しいままにできるでしょうに!!」

その状況でなお、ジグは前に出る。

吠えるヤサエルの一撃が額を掠めた。

一歩間違えば頭部を砕かれるギリギリの回避から反撃へ。

下からの斬り上げの瞬間、握りを弱める。

限界まで柄を長く持つように武器を滑らせて間合いを誤魔化した斬撃。

気付いたヤサエルが体を逸らすが、わずかに間に合わず脇を捉えた。

切っ先が法衣に接触した瞬間、刻まれた防御術が展開する。

しかし血のような赤黒い刃はいとも容易くその防御術を食い破ると、肉に食らいつく。

「―――っ!?」

これにはヤサエルも驚いたようだ。

痛みと、それ以上の驚きでわずかにテンポの乱れた錫杖を見逃す手はない。

上下の刃を代わるがわる用いたバッテンを描くような斬り上げ。

重く、強く、立て続けに振るわれる剛撃を凌ぐヤサエルの体勢がわずかに揺らいだ。

「ちぃ!」

双刃剣の威力と手数相手では一度崩した体勢を立て直すのは難しい。

不利を悟ったヤサエルは体勢を整えるために防御用の石壁を二人の間に生成。

人ひとり覆い隠せる程度の石壁が二人の視界を遮る。

相手がどこから攻めるかを悩んだ隙に立て直そうと目論んだヤサエルの頭上に影が映る。

(それは功を急ぎすぎというものです!)

迂闊にも壁を乗り越えようと無防備を晒す相手に錫杖を突き込む。

幾多の罪人を屠って来た光纏う祭具は閃光のように伸び上がり、標的を狙い違わず貫いた。

―――放り投げられたジグの外套を。

「!?」

まんまと釣られたことに己を叱咤しながら錫杖を引き戻して襲撃に備える。

右左と即座に視線を巡らせるが、どちらからも相手は見当たらない。

そして、目の前の石壁が四散した。

「ぐっ……!」

咄嗟に体を捻り、魔具から放たれた衝撃波だけは何とか回避するが、至近距離で撒き散らされる石の礫に堪らず距離を取る。

散弾のように迫る石弾。

体は法衣の防御術でどうにかなるが頭部はそうもいかない。

しかしこの傭兵相手に視界を塞ぐのはあまりにも危険すぎた。

礫が頭部を打つのを甘んじて受け入れる。

頬や額を叩き、皮膚が裂けるが幸いにも目は無事だった。

グローブで石壁を正面から突破して距離を詰めるジグを、額から血を流しながらヤサエルが迎え撃つ。

「ずっとこの生き方をしてきた! 儲かるからと都合よく鞍替えできるほど、器用ではない!!」

幾多の命を踏みにじって生きて来た。

無数の屍を乗り越えてここまで来た。

それ自体に罪悪感も、罪の意識も感じることはない。

それでも、今までの自分に背を向けることだけはできない。

「気が合いますね―――私もですよ!」

再び双刃剣と錫杖がぶつかり合う。

光を帯びた錫杖は威力を増しており、ジグの双刃剣と比べても遜色はない。

「物心ついた時からここにいた、ずっとこうして生きてきた! ならば今更、他の生き方などできようはずもない!!」

教えを信じ、教えに殉じて来た。

もし亜人は罪人ではなかったら、今までの行為は全てただの殺人になる。

それが恐ろしい……などと寝言を言うつもりはない。

澄人教の罪人認定も、一般的な罪人としての基準も。

全ては形成された社会が健全に機能するための規範に過ぎない。

澄人教では亜人が罪人という規範だった。

自らが所属する群れの規則を守っている、ただそれだけ。

それでも。

信じるのも、殉ずるのも、自らの意志で成してきたこと。

そこから逃げるのだけは、赦されない。

身体強化に魔具の発動に加え、魔術の行使。

目減りしていく魔力を考えれば長期戦は望めない。

だが、手加減できる相手ではない。

出し惜しむ愚を、免罪官は犯さない。

後のことは、後で考えればいい。

この男は、ここで確実に始末する。

力で渡り合えたのならば、技で勝るヤサエルに天秤が傾くのが道理。

徐々に形勢が見えてきた打ち合いの最中、ヤサエルが魔術を重ねて行使。

一瞬の気の緩みさえ許されない剣戟を交わしながらの詠唱。

目を瞑ったまま針の糸を通すような離れ業を、数多の修羅場を潜った経験で成して見せた。

ジグの真下から突き出した地の杭。

一時も手の放せない状況の中、その一撃はまさに致命の一手。

躱せたのは事前に察知できるジグの特性ゆえか。

しかし生まれた隙だけは消しきれない。

一瞬緩んだ連撃の合間を縫うように錫杖が双刃剣に絡みつく。

持ち手を捻るように武器を巻き上げ、上に飛ばす。

絡めとられた武器は一つ。

しかして宙を舞う武器は二つ。

絡めとられると判断した時点でジグは武器を手放し、右足で錫杖を蹴り上げていた。

蹴り足を即座に降ろして踏み込みへと変える。

無手になったからと言って止まることはない。

打ち上げられた武器へ視線をやることすらなく二人が動く。

踏み込みが同時ならば攻撃も同時。

ヤサエルの左脚が蛇のようにしなり、

ジグの左脚が破城槌のように唸った。

互いが互いの頭部を狙った上段蹴り。

空気が破裂したかのような音と衝撃。

左足で蹴り、右腕で防御。

やはり同時に命中したそれは、過程は違えど同じ結果をもたらしていた。

まともに当たれば的確に 頸(くび) の骨を折るであろうヤサエルの鋭い蹴りは、ジグの防御をわずかに掻い潜り側頭部を揺らし、

まともに当たれば頸ごと粉砕するであろうジグの重い蹴りは、ヤサエルの防御の上からでもその頭部へ衝撃を伝えていた。

『がっ……!?』

二人はぐらついた頭を振り払うように前蹴り。

揺れる頭で受け身もままならず距離が離れる。

彼らの前に落ちた武器。

二人は見もせずにそれを掴むと、よろよろと立ち上がる。

「……粗削りな技で、よくやりますね」

「……非力な身で、大したものだ」

軽口を交わしながらも両者満身創痍。

余力はなく、次が最後の衝突になると視線だけで悟る。

共倒れになる気も、引き伸ばすつもりもない。

―――ここできっちり、ケリをつける。