軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ヤサエルの命に合わせていくつものボルトや攻撃術が一斉に降り注ぐ。

数は力で、戦いは相性だ。

如何にジグの技量が優れていようと、この数を剣だけで捌ききることなど不可能。

背中合わせの二人が動く。

軸足を中心に半回転。立ち位置を交代すると同時にシアーシャが指をくいっと上に向ける。

せり上がった石壁が無数の飛来物を受け止める。

術を組んだ逆の手で目の前の空間を薙ぎ払えば、防御の壁が攻撃に転じる。弾けるように飛び散った石の塊が四方に撒き散らされた。

防御術で凌ぐ者もいれば、地に身を投げ出し躱す者もいる。

稼いだ時間で彼女はさらに魔術を組む。

「石造りとは感心ですね」

トン、と足を踏み鳴らしたシアーシャは扱い慣れた素材に笑みをこぼす。

床の石材がひび割れながら捲れ上がり、人ひとりを覆い隠せるほどの石盾を三枚作り出す。重さを感じさせずにふわりと浮遊した石盾は彼女の周囲で滞空する。

魔術師相手に遠距離戦は不利と悟った信徒が群がってくる。

その彼らに向かってシアーシャの腕が振り下ろされた。

石盾はその重量を存分に生かして信徒を防御術ごと圧殺。こびりついた肉塊をそのままに別の信徒へ襲い掛かった。質量と勢い、魔力による硬化を施された石盾は生半可な防御など意に介さない。

直撃を食らった者が体の一部をひしゃげさせながら面白いように吹き飛んでいく。

彼女が腕を振るうたびに血が舞い、肉を叩く音と悲鳴が響き渡る。

「石を踏むのです。石に踏まれることもあるでしょう」

血の跡をひきながらころころと転がって来た首に足を掛けると魔女は美しく嗤った。

シアーシャと立ち位置を変えると同時、踏み込む。

背後の攻防を気に留める気はなく、その必要もない。

壇上のヤサエルに向けて一直線に駆ける途中、彼を守るように割り込んでくる信徒たち。手に持つのは重量のありそうなフレイル。

立ち塞がる信徒へ疾走を止めぬままに双刃剣が振るわれる。

助走をつけた小細工なしの横薙ぎは、防御にかざしたフレイルごとその体を両断。分かたれた上半身が回転して宙を舞う。

信徒を斬り捨ててなお止まらぬジグに飛び道具が迫る。

頭部を狙ったボルトを手甲で流し、足元の氷塊と炎球を刀身で弾く。

ガントの言っていた通り、魔力的に安定した物質である血晶纏竜の刀身ならばこの程度の魔術は容易に弾ける。

彼の仕事ぶりに感謝しながらさらに一人、斬り殺す。

ヤサエルの元まで残る信徒は三人。

一気に突破しようとした瞬間、違和感。

相手の動きは素人の場慣れしていない浮足立ったもので脅威になりえない。

……いや、とその考えを否定する。

いくら何でも素人臭すぎる。位の高い者が側近に置いているのがその程度のはずはない。

わずかに感じた違和感を信じて急ブレーキ。無茶な制動を膂力と靴底で強引に抑え込む。

それまでへっぴり腰で振られていた長剣が途端に速度の増した鋭い剣戟へと変化し、速度を緩めなければ直撃したであろう場所を空振る。

鼻先を叩く剣風が相手の力量を伝えてくる。

「チッ」

不意打ちの失敗を悟った相手がフードを脱ぎ捨てた。

いつの間に紛れていたのか、その顔は今日だけでも何度か見たことのある冒険者達であった。

男二人は前衛と後衛、女一人前衛のパーティー。

先程斬りかかってきた男は長剣を左手に、背負っていた中盾を右腕に構える。

前衛の女は槍。取り回しのいい中くらいの長さで、柄が太く 刃長(はちょう) が普通の槍よりも長い。

最後に後衛の男は不可解なことに無手で様子を見ている。腰に短剣らしきものは差しているが、抜く素振りは見せない。

長剣の男が憎々し気に口元を歪めてジグに吐き捨てた。

「人間でありながら亜人共に 与(くみ) する大罪人め……!」

「誤解だな。彼らに肩入れするつもりはない」

「どの口でぇ!!」

相手が動く。

盾で剣の予備動作を隠した隙の少ない刺突。

肩の動きから先読みすると一歩下がってやり過ごし、引き戻される前に強く弾く。

弾かれ、浮いた長剣が戻される前に手首を狙うが、槍の女がそれを阻む。

浮き上がった長剣の隙間を縫うようにして突き込まれる槍を逆の刃で受ける。即座に同じように弾こうとするが、片手の長剣と両手の槍では安定度も速度も違う。危なげなく引き戻された槍が深追いせずにこちらを牽制する。

その攻防に紛れる微かな刺激臭に一歩引くと、足を狙った小さな雷撃が石畳に火花を起こした。

(強い……いや、巧いな)

激しい口調とは裏腹にその連携は実に見事な物だった。

明らかに対人用に磨かれた技術と、実践慣れしたやり取り。ただの冒険者ではない。

「抑える、削れ!」

後衛の男が指示を出しつつ術を組む。

立て続けに目や足を狙って放たれる雷撃。彼ら相手に手を埋めるリスクを嫌って体捌きで凌ぐ。

後衛の男は強力な魔術こそ使わないが、的確にこちらの動きを阻害するように細かい術を配置する。そしてその術を組む速度が非常に速い。

邪魔な男だ。

術を避けながら気づかれぬように硬貨を握り込む。

魔術の途切れたタイミングで距離を詰めると双刃剣を大きく振りかぶってフェイントを掛ける。下がった前衛二人の間隙を突くように指弾を放った。

「っ!?」

蒼金剛の硬貨を咄嗟に腕で防ぐが、防がせればそれでいい。

阻害された術が組まれるより先に斬り伏せる。

男の中盾に蹴りを入れて距離を取らせる。

まずは槍使いからだ。

大振りの斬り下ろしを躱させて反撃の突きを逆の刃で受けると、絡めとるように上から抑え込む。

「させるかっ!」

「おっと」

そうはさせじと槍を逃がすため力を籠めるが、その瞬間を狙って剣を引く。

力んだところに突然支えを無くし、わずかに上へ跳ねる穂先。それを下から双刃剣でかち上げてやる。

「くっ!?」

甲高い音を立てて打ち上がる。わずかではあるが、致命的な隙だ。

がら空きの胴体目掛けて双刃剣を叩き込もうと足に力を入れた瞬間に刺激臭。

想定よりも術の組み直しが早すぎる。

避けるには体勢が悪い。

雷の矢を三本、咄嗟に双刃剣の軌道を変えて斬り払う。

「しゃっ!」

窮地を脱した相手は打ち上げられた槍を上段からの振り下ろしへ繋げる

術を凌いだ剣を急いで引き戻すとすんでのところで槍を防ぐ。

「もらったぁ!」

「ちぃ!」

横合いから薙ぎ払われた長剣を手甲で受けるが、続くシールドバッシュをもろにくらう。

衝撃に苦悶の声を堪えつつ、殴られた勢いを借りて距離を取る。

しかし相手もさるもので、素早く斬り返した槍が横っ腹を浅く捉える。

距離を取ったことで離れた信徒からクロスボウが放たれるのを拾った死体の上半身で防ぐ。

殴られて揺れる視界が徐々に回復する。

やられた。相手の魔術師を見くびっていたようだ。

あそこまで術の構築速度が速いとは。

恐らく以前に聞いたことのある、魔術刻印をその身に直接刻み込んでいるのだろう。

シアーシャが本で覚えたことを誰かに話したくて、食事時にひたすら語っていた内容を思い出す。

魔術刻印を刻むことでオートマチック化した攻撃術は初動の速さにおいて無類の強さを誇る。

その分防御術などは魔具に頼らなくてはならないが、それだけの価値はある……だったか。

見れば男は無手ではあるが、妙な意匠の腕輪や指輪をいくつも嵌めている。

「諦めて、大人しく自分の罪を償ったらどうですか?」

武器を構えてこちらを油断なく見据える冒険者たち。その後方で錫杖を手にしたヤサエルが冷ややかに笑いながらジグへそう言った。

その言い草に思わず笑いがこぼれてしまう。

「罪ときたか。そんなもの、ここへ来るずっと前から重ね続けている」

本当に今更だ。

今までに積み上げた死体は、もはや百や二百ではきかないというのに。

だからこそ、だ。

「俺は無数の死体を跨いでここにいる。殺されることは受け入れられても、自分から死を選ぶことだけは許されない」

死者への冒涜などと大層なことは言うまい。

ただ今まで奪い続けてきた自分が、それを自ら手放すことが何を意味するのか。

道端に撒かれた汚物を見るように免罪官が眉を顰める。

「……本当に、罪深い」

「知っているさ。誰よりもな」

言葉と同時、駆ける。

それを予期していたように放たれる術へ、盾にした上半身を投げつける。

臓腑を撒き散らしながら飛んでいく上半身に魔術が当たり、見るも無残な肉塊と化す。

距離を詰めたジグに前衛二人が左右から同時に迫る。

長剣の斬り下ろしと槍の刺突による時間差をつけての連携攻撃。

先に来る長剣を弾いて、続く槍を横へ逸らすように受けた。

女は受けられた槍の穂先を寝かせると、ジグの指を狙って滑らせる。

「っ」

咄嗟に武器を手放すジグ。

丸腰になった敵に勝機と見た男が踏み込んだ。

―――彼にとっての死地へ。

「待っ……」

後衛の男が制止を掛けるが、もう遅い。

横薙ぎの一閃を姿勢を低くして回避。そのまま盾で見えない男の死角へ入り込む。

「バカが!」

当然、男は盾を突き出してのシールドバッシュ。愚かにも自分から差し出した顔面を砕こうとする……ジグの狙ったとおりに。

肩口から体当たりをするように蹴り足に力を込めてぶちかます。

「っ!?」

鈍い音と衝撃を残してシールドバッシュが、止まる。

手に伝わるのは愚かな罪人の顔を粉砕した手ごたえではない。

ジグは叩きつけられた盾をがっちりと受け止めて、その上下を抑え込んでいた。

後衛の男が魔術で援護をしようとするも、仲間が邪魔になって射線を通せない。

盾にはいくつか種類があるが、ある程度の大きさの盾となると共通するところがある。

持ち手だ。

重量が増せば片手で保持するのは難しくなるため、握るだけでなく腕を通して固定する作りになる。

男の中盾もそうであった。

「……ふん!」

気合と共にジグが抑え込んだ盾を回転させる。

―――盾に嵌め込んだ、男の腕ごと。