軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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基本的に魔獣の解体が済んだパーティーから帰るが、消耗している場合は他と足並みを揃えることもある。今回は肉や骨まで解体しているため、他の冒険者たちはそうするようだ。

流石にそこまで付き合う義理もないのでジグたちは早々に帰り支度を始める。

治療を終えて意識を失っているハインツを背負ったリザも解体作業には参加せず、荷台に積めるだけの素材だけを剥ぎ取るとジグたちの後を付いてくるようだ。

前衛が倒れ、矢玉の切れた後衛ではまともに戦えないのでジグたちの戦力をあてにするのだろう。

「回復術はもうかけないのか?」

ハインツの怪我は大きな所だけを治したもので完治には程遠く、しばらくは入院が必要な状態だった。

それを不思議に思ったジグが荷台へ素材を積み込みながらシアーシャに聞いてみると、彼女は苦笑いしながら頬をかいた。

「……あれ以上回復術使ったら衰弱死しちゃいますよ。大きな怪我はそれだけ体力の消耗も激しいんです。骨折とかは繋げるだけなんでその割なんですけど、出血を伴う傷は時間が経つと不味いです。出血それ自体が体力の消耗ですからね。流した血の量が多ければ回復術を掛けることが命の危険になりかねません」

「そうなのか」

彼女の説明を聞きながら、そういえば以前治療してくれた先生もそんなような事を言っていたと思い出す。あの時は空腹を鎮めるのに忙しくてあまり真剣に聞いていなかったが。

ハインツを背負ったところでリザが固まった。どうやらジグが返したハルバードを見て困っているようだ。ハルバードは重く嵩張り、残り魔力の乏しい彼女では仲間とまとめて運ぶのは難しい。荷台には魔獣の素材を積み込んであるので武器まで乗せては重量過多だ。

「……はぁ」

どちらかを諦めるしかないと判断した彼女は武器を選ぶことにしたようだ。

冒険者の武器は素材次第で非常に値が張るので当然の選択と言えるが、それでも今後の治療費等を考えれば少しでも金は欲しいはず。

ジグはシアーシャの肩を軽く叩くと踵を返してリザの元へ向かう。

ハインツを降ろそうとした彼女の前を横切ると、ハルバードを片手で持って肩に担いだ。

驚いているリザに向かって腰の長剣をトントンと叩いてみせる。

「代用の武器だけでは心許なくてな。ギルドまで借りるぞ」

「……助かるよ」

ジグの意図を理解したリザがそのままの姿勢で頭を下げる。

「……なんだ?」

戻ってきたジグにシアーシャが視線を向けてきている。

どことなく湿度を感じるその視線に少したじろいだジグ。

「いえ別に。ただ、彼女はもう相手がいると思いますよ?」

「……何を勘違いしている。こんな時に女にちょっかい掛ける程飢えてはいない。優秀な冒険者に恩を売っているだけだ」

心外そうな顔で彼女の勘違いを正すジグ。

実際ジグがやっているのは武器一つ運んでいるだけだ。この程度の労力で恩を売れるのならば安いもの。

そんなことより、とジグが話題を変える。

「俺はあまり詳しいわけじゃないから感覚でしか言えんが……多くないか? 今日のような想定外」

冒険者でもない上にそう長い事やっていたわけでもない。それでも幽霊鮫に始まり狂爪蟲の大群、魔繰蟲や削岩竜に加え今回の三面鬼。

魔繰蟲は別だが、シアーシャと共にこなしてきた依頼の半分以上が想定外の危険を孕んでいた。

こうも頻繁に起きるものを想定外で済ませるのは無理があるというもの。

ジグの指摘にシアーシャが腕を組んで同意する。

「言われてみれば確かに酷いですね……私たちが気付くくらいですから、ギルドもそのことについては把握していると思いますよ」

「……把握していて、これか?」

ジグが眉をひそめた。

異常事態が起きているのに呑気なことを考えているのか、それとも多少の犠牲は致し方なしと考えているのか。

「冒険者は数が多いですからねぇ……多少減っても構わないって考えてるのかも?」

「そこに関しては私から説明しよう」

ギルドの考えを想像していると、リザが足を速めて追いつくと話に割り込んできた。

彼女は後衛だが体力がないという訳ではなく、大の大人一人を背負っていても息を切らせる様子はない。残り魔力が乏しく身体強化に割く余裕もなさそうだったので、これは彼女自前の鍛錬による持久力だろう。

「ギルドも決して馬鹿ではない。該当区域で一時的に必要等級の引上げ等や注意勧告も行っている。君も聞いているはずなんだが……」

少し困り顔で言うリザの言葉にジグが無言でシアーシャを見た。

「……そういえば、毎回そんなような事を言っていたような気がしなくも?」

「やれやれ……」

どうやら彼女が危機感に欠けていただけのようだ。

毎度定型文のように気をつけろと言われているうちに慣れてしまったのだろう。気持ちは分からないでもないが。

リザが苦笑いしながら続ける。

「ギルドも注意勧告こそしているが、結局のところそれを聞くかどうかは冒険者次第だからな。痛い目見ないと分からない者もいれば、私たちのように脅威度を見誤る者もいる。それに危ないからといって大人しくできる程、財布に余裕のある冒険者は少ない」

稼ぐ金額も大きければ出ていく金額も大きいのが冒険者だ。装備の維持だけでも金は必要、そういう事だろう。

「私が聞いた限りではギルドも何度か調査をしているらしい。高位冒険者がギルドからの依頼で幾度も留守にしている話は聞いたことがある」

「高位冒険者か……」

ジグは今度イサナあたりを揺すってみようと考えた。口が軽いタイプではないだろうがそれぐらいの貸しは十分にある。

自然に悪いことを考える彼とは裏腹に、シアーシャは先達の意見を参考にしようとリザへ問いかける。

「一連の異常、あなたはどう見ますか?」

「……共通しているのは本来の生息域を越えた魔獣の出現。現れる魔獣もまとまりがなく、食料の不足や生態系の大きな変化は観測されていない」

リザは事例を列挙しながら考えを巡らせる。しかし、考えれば考える程に一つの答えを導くのは難しくなっていった。

強力な個体が現れて追い立てられたということも考えたが、複数の地域でそれが同時に起きたというのは考えにくい。

「……すまない、分からない」

「そうですか」

シアーシャはそれにさしたる不満も見せず、考えてもわからないことは仕方がないと割り切ることにした。

幸い帰りの道中は特段異常が起きることはなかった。途中何度か血の匂いを嗅ぎつけた魔獣の襲撃があったが、ジグが動く前にシアーシャの魔術で沈んでいった。

そうして転移石板の元まで戻り、ギルドへ帰還する。

「このお礼は必ず」

光が収まると同時にリザはジグたちへそう告げると、ハインツを医者へ運んで行った。

ギルド職員に急患を伝えるとすぐに医療知識のある人間が出てきてハインツを奥へ運んでいき、リザもそれに付き添って行った。

容体を診た後、手の空いている医者の元へと搬送されるのだろう。

ジグとシアーシャはこれといった反応も示さず、普段通りのまま受付へと向かった。

いつもの受付嬢、シアンがにっこりと笑顔で対応してくれるのを見て、少しだけシアーシャの頬が緩む。

「お疲れさまでした。……あの、何かあったんですか?」

そう聞くシアンは不安そうに運ばれていったハインツの方を見た。猿狗討伐に向かった冒険者が重傷を負っていたので同じ依頼を受けていたシアーシャに事情を聞きたいようだ。

「ちょっと猿狗の連れていた魔獣が想定より厄介だったんです」

「……と、言いますと?」

「三面鬼の群れ……一家? 合計八体のご家族を引き連れてきまして」

事も無げにそう報告したシアーシャ。それを聞いたシアンの表情が歪む。

「八体、ですか……」

渋い顔をしたシアンが近くの職員に何かを伝える。その職員はすぐに奥へ引っ込んでいった。

「おおよそで構わないんで、被害状況を教えていただけますでしょうか」

「何人か死んでましたけど……どうでしたっけ?」

シアーシャは額に手を当てて思い出そうとするが、記憶力のいい彼女にしては結果は芳しくないようだ。

それもそのはずで、彼女にとって人間の死んだ数ほどどうでもいいものはない。今まで無数に殺してきた彼女にとって蹴った石の数のようなものだからだ。

「死亡が八名、怪我人五名だ」

「おおー、ジグさん記憶力いい」

「フッ」

「……ありがとうございます」

褒めるシアーシャの無邪気な笑顔。対照的に顔をひきつらせたシアンが書類に羽ペンを走らせる。

同じく無数に殺してきたジグだが、彼の場合は殺した数がそのまま成果になるから死者の数に敏感なだけで、どちらにしろ褒められたことではない。

人でなし二人はどんどん顔色を悪くするシアンのことに気づかぬままに笑いあった。