魔王は今日も仕事する
作者: 瀬嵐しるん
本文
とある世界の、とある時代にとてつもなく有能で、とんでもなく美形の魔法使いがいた。
ちなみに性別は男性。
彼はこれまたなかなか可愛らしい弟子(男子)を伴い、今日も大陸中を暴れまわっている。
暴れると言っても自由気ままに好き勝手をしているわけではない。
高額な報酬を対価に、どんな我儘な依頼でも達成して見せるだけだ。
つまり、隣国との境にある貴重な金属の鉱脈をちょちょいと曲げて自分の国のものにしたいだとか、そうやって曲げられた鉱脈を元に戻してほしいだとか。
誰にも味方せず、誰にも従うことのない魔法使いは仕事を終えた後のことなど気にしない。
『目的は達成した、だが、未来永劫状態を持続させろとは頼まれていない』
問い詰められてもそう答えるだけ。
悪い評判だって十分に広まっているはずなのに、彼ほどの魔法使いはいないから、次から次へと仕事の依頼は後を絶たない。
魔法使いとその弟子は、今日も空飛ぶ馬車で依頼の地へと向かう。
「お師匠様、あいつら、いつ気づくんでしょうね?
貴方の正体が、魔王だということに」
「気付いているやつは気づいてるだろう。
だが、賢いやつは言わない。
藪をつつかない」
「そんなもんですか?」
「人間世界はややこし過ぎて、頭のいいやつほど結果に責任が取れないからと足が竦むのさ」
「お師匠様は魔界へ戻るつもりはないんですか?」
「魔界は統率が取れてしまって面白くないからな。
その点、人間というのは実に無駄な思考ばかりで興味深い。
誰しも、いずれは命が尽きるのだし、そもそも人間などほんの短い生涯だ。
なぜ、殺し合う?
なぜ、奪い合う?
さっぱりわからないが、そこが面白い」
「お師匠様が人間に飽きた時はどうするんです?」
「勇者とやらが現れて、魔王退治に乗り出すのかもしれないな」
「えー、じゃあ魔王城の奥で待ち構えるんですか?」
「退屈そうだな、それは。
人間が魔界へ来るのは間の障壁がぶ厚すぎて無理だから、人間界のそれらしい場所に、それらしい城を建てるのは面白いだろうが」
「今度暇が出来たら、城のデザインでも考えてみましょうよ。
……そろそろ、今日の目的地へ着きますね」
「うむ、城のデザインか。それは気分転換になりそうだ。
それにしても、人間とは不可解だ。
自分の国に過剰に良い様にすれば、バランスが崩れて周囲の国が良くないことになるとわかりそうなものを。
事前にわかっていても知らんふり、事後に気づいても見ないふりで、今が良ければそれでいいのだからな」
鉱脈を曲げて戻した国境では、結局、ずっと戦争をしている。
実にばかばかしい。
人類にとってありがたいことかどうかはわからないが、魔王は人間界になかなか飽きずにいる。
けれど仕事が多すぎて時々さぼりたくもなる。
そんな時は、適当な場所で魔王城の試作をすることにした。
せっかく城を建てるのだから、なかなか最奥の部屋にたどり着けないほうが面白い。
そう決めたせいで、とにかく城の中は入り組んでいる。
思いついた時に思いついた場所で、そんな試作品を作り始めては途中で飽きて放り出す。
各地にできた魔王城の試作品。
やがてそれは迷宮と呼ばれ、魔王が垂れ流した魔力のせいで発生した魔物を狩ったり、魔王が気まぐれでこしらえた宝物を狙ったりする冒険者が現れ、大いににぎわった。
「あいつら、なんだか楽しそうですね」
「死ぬかもしれない迷宮に挑んでいるのに楽しそうとは、ますます人間がわからない」
魔王は首を傾げつつ、今日も依頼をこなし、明日は魔王城をこしらえる。
そうこうするうち千年が経ち、それでも魔王は人間界に飽きることがなかった。
「お師匠様は人間が好きなんじゃないですか?」
「それは一考の余地がありそうだな」
こうして今まで通り魔法を使い、各地の魔王城を手直しし、思索にふける、魔王の新しい千年が幕を開けた。