軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

すべてが繋がる

オリヴィアの死後、私は生きる気力をなくした。

表情が消え、人と最低限の会話しかせず、ただ朝から晩まで仕事をして寝るだけ。休みもない。

そんな生活を続け、やがて衰弱していった。

両親に何を言われても、貴族たちに嘲笑されても、何もかもどうでもよかった。何も興味がなかった。

ただ自分の犯した罪にひたすら懺悔し、もがき苦しむ日々を過ごした。

彼女が歩いた廊下。

彼女が綺麗だと言った庭園。

気が付けばいつもオリヴィアの姿を探していた。

いるわけないとわかっていても、目が探してしまう。

『ルミナス様』

名を呼ばれた気がして執務室の扉を見ても、誰も入ってこない。

執務中に来るなと冷たく言い放ち、何度もオリヴィアを悲しませたくせに、彼女の声を、彼女の姿を追い求めてしまう。

彼女はもうこの世にいないのに。

自分が殺したのに。

オリヴィア──

君のいない世界を生きるのが、苦しい。

君からの復讐なら甘んじて受けるから、もう一度その声を聞きたいんだ。君に会いたい。

君の元へ行きたい。

なぜ人殺しの自分は生かされているのか。

次第に死ぬことばかり考えるようになり、食事も喉を通らなくなった。仕事中にふらついて倒れても、むしろ死ねるなら本望だった。

そうやって死に場所を探していた時に、思い出した守護の短剣。

時戻りの伝承など信じていないけれど、オリヴィアに会いたいと願えば、最期に会わせてくれるだろうか。

彼女に謝りたい。

罪を償いたい。

「もし伝承が真実だったなら……」

その時は君の幸せのために生きよう──

そして私は、その短剣で心臓を貫いた。

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「オリヴィアを殺めた罪を……死をもって償ったつもりでした。でも、今思えばそれは逃げでしかなかった。自分が辛い現実に耐えられなかっただけだ。だから回帰するのが遅かったのかもしれない」

そのせいで、また同じことでオリヴィアを傷つけてしまった。

悔やんで歯を食いしばっていると、私の話を聞いて沈黙していた母が、確信を得たように口を開いた。

「ねぇ……オリヴィアは、貴方と同じように前世の記憶を持っているんじゃないの?」

「え……?」

「だって前世と行動が違っているもの。今世はメアリーの暗殺依頼なんかかけていない。自分が姿を消しただけ」

──確かにそうだ。

前世では今頃私に、メアリーと距離を置くように口うるさく迫ってきていた。だが今世では私とメアリーを避け続け、挙句に国を出て行ってしまった。

前世と行動が全く違う。

「貴方と同じように回帰したと考えれば、オリヴィアが全てを捨てて国を出たことも辻褄が合うわ。突発的な出奔じゃなく、未来を知っていたから念入りに準備していたんじゃないかしら。だから誰にも捕まらずに国を出ることが可能だったのよ」

計画的だとは思っていた。

だがそれは、メアリーに唆された私の浅ましい気持ちを何かのきっかけで気づいて、それを汲んで身を引かせてしまったのだと思っていた。

だからなんとしても探すつもりでいた。

なんの罪もないオリヴィアが、すべてを捨てる必要などなかった。最悪な決断をさせてしまった。

ザラス公爵家は皆オリヴィアを愛していたのに、愚かな私のせいで、彼らの家族の絆を二度も絶ってしまった。

でもオリヴィアも記憶を所持したまま、回帰していたとしたら——?

だとしたら、それはいつだ?

『ずっと……貴方にお会いしたかった』

ヒュッと喉奥が鳴った。

あの時だ──突然涙を浮かべて私に会いたかったと微笑んだ。あの時に、オリヴィアは回帰したのだ。

私よりも早く。

だからその後、私を避け続けた。

「私が……オリヴィアを追いつめて殺したから……私とこの国に失望して……?」

それですべてを捨てて国を出たのか?

死にたくないから──?

どうしようもない衝動が胸の中を支配する。

そして思い出される彼女との会話。

『あの日から、お前はずっと泣きそうな顔をしている』

『……お気を使わせてしまい——』

『私は謝罪しろと言ってるんじゃない。なぜそんな顔をするのかと聞いている』

『——もう、自信がないのです』

『もう、いろんなことが、わからなくなりました』

今ならわかる。

オリヴィアに投げた質問が、どれほど無神経なものだったのか。どの口が言うのかと思われたに違いない。

目の前の男は自分を捨てて殺す──

ずっとそういう目で見られていたのだ。

だからいつも泣きそうな顔をしていた。

あのガゼボでの話し合いも、何もかも無神経だった。

ただ人目のない場所を選んだだけで、それ以上の意味などなかった。でもオリヴィアはあのガゼボがどういう場所か知っていたのだろう。

なぜなら彼女は、ずっと硬い表情で俯いていたじゃないか。

あの場所で、私とメアリーがキスをしたことを知っていたのだ。だから彼女はキスの後、悲しい笑顔を見せた。

繋がる。

すべてが繋がる。

前世でも知っていたのかもしれない。

だからメアリーを殺そうとしたのか。

『殿下は——メアリー様のことだけをお考え下さいませ』

きっとあの言葉は、私への別れの言葉だった。

あの時から国を出ることを決めていたのだ。

目の前が真っ暗になった。

何のために私は回帰したのだ。

彼女に追い討ちをかけるために会いたいと願ったわけじゃないのに。

「──確かに、失望したのもあるかもしれない。でも一番の理由は違うんじゃないかしら」

「……え」

「オリヴィアが貴方に残した手紙にあるように、あの子は本当にルミナスを愛していたのよ。だからきっと、また同じ過ちを繰り返してしまうのが怖かったんじゃないかしら」

「同じ過ち……?」

「未来を知っていたから、今世でもまた嫉妬に狂い、貴方の愛するメアリーに危害を加えてしまうかもしれない。そんな自分が怖かったんじゃないかしら」

「…………」

メアリーは、私の見ていない所でオリヴィアを嘲笑していた。オリヴィアの怒りは当然だし、メアリーは不敬罪で罰せられても仕方ない。

今の私なら、メアリーの本性を暴くことができる。

(くそっ、もう少し早く回帰していれば……っ)

「きっと、今世でも貴方が他の女性と仲睦まじくしている姿を見るのは耐えられなかったのよ。だから自分が嫉妬に狂う前に王太子妃を辞退したんだわ」

「死に追いやった私を恨んでいるからではなく……?」

「前世の自分の行いで皆が不幸になったのなら、責任感の強いオリヴィアなら自分を責めて苦しんだはずよ。だから今世では、皆の幸せを壊さないように自分が消えることを選んだ。──私は、貴方へのあの手紙がオリヴィアの真実だと思うわ」

「……あの手紙が」

“私はいつまでも、貴方の幸せを願っています。

ですからどうぞ、愚かな私のことは忘れて下さい。

さようなら、ルミナス様。

メアリー様と末永くお幸せに”

「私は……君を殺したのに……っ」

あの悲惨な人生を覚えているなら、なぜ──

声を上げて泣いた。

胸が千切れそうに痛い。

愚かなのは君ではなく私だ。

どうして回帰したのが今なんだ。

仲が良かったあの頃に戻してくれたら、

今度こそ君だけを愛したのに──