軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18

「……なんだと?」

怪訝な声を上げたのはゼームス本人だ。アイリーンは足を止め、向き直った。

「集団はまとめ役がいないと瓦解します。個々で勝手に動いていたなら、指揮をとっていた会長が優秀じゃないと説明がつきません。ぼくはまだ生徒会に入って一ヶ月程度ですが、実際、ゼームス会長はすごいですよ。一つ一つの仕事の割り振り、的確だし」

「……お前にほめられると気持ち悪い」

ほめたのに嫌な顔をされ、アイリーンは肩をすくめる。

「もちろん、先輩達が個々で十分優秀なのは事実ですし、オーギュストっていう潤滑油は必須だったでしょうし、ゼームス会長だけが優秀とは言いません。でも、もう少し全員歩み寄ったらもっといい生徒会になるんじゃないですか」

「――そうだよなアイリ! お前やっぱりいいこというなあ!」

ばしばしとオーギュストに背中を叩かれ、むせそうになった。

悪いと言いながら全然悪いと思っていない明るい顔で、オーギュストが全員に向き直る。

「せっかくだしさ、これから仲良くしようよみんな! アイリだってこう言ってるし」

「……なんでだろうねー、オーギュストに言われると刃向かいたくなるのは」

「ええ!? なんで!?」

「お前みたいな単純な奴と同じになりたくないからだ」

ゼームスの一言にオーギュストはしょぼんとしたが、カイルは静かに切り出した。

「魔物が学園襲撃を予告しているんだ。学園長が主力だとしても、結束して悪いことはないのではないか」

「はは、俺はそういうの苦手。足引っ張られるのって嫌なんだよねぇ」

ウォルトの笑みに、カイルがぴくりと眉を動かす。そこに透けて見えるのはライバル心だ。

(こういうところ、男って子供よね)

嘆息して、アイリーンは口を挟む。

「いいじゃないですか。誰かの足を引っ張るより引っ張られる方がましでしょう」

「……言うねえ」

「そういうわけで、仲良くしたらどうです?」

投げやりな提案だったが、いい気がしてきた。

ウォルトとカイルはゼームスを殺すために送り込まれた刺客で、オーギュストは最終的にゼームスを斃す役割を持っている。この四人はそれぞれ殺し殺される仲なのだ。

(友情でも芽生えれば、手心だって加えるわよね。ゼームスだってもし誰かに助けてもらえるなら、ミルチェッタ公国を滅ぼそうって思うほど追い詰められないだろうし……)

彼に必要なのは居場所だ。半魔であっても生きられる場所。それがあればミルチェッタを滅ぼす理由はない。それにアイリーンはゼームスを見ていて、どうしても惜しいと思う。

半魔だからこそ、彼は使える。これからクロードが築く時代に。

「仲良く、ねえ……まあ確かに魔物が襲撃してくるってときだしなあ」

「冗談じゃない。私は断る」

そう言ってゼームスが先頭に立って歩き出した。ウォルトが両手を広げておどける。

「だってさ、アイリちゃん。ざんねーん」

「……なあ、なんか変なにおい、しないか」

不安そうに周囲を見回すオーギュストに、ウォルトがおどけた顔をひっこめた。

「なんか、甘ったるいような……ゼームス!」

ぐらりと先を行くゼームスの背中が傾いた。

そのまま地面に倒れ込んだゼームスに、慌ててオーギュストとアイリーンが近寄る。

「おい、大丈夫かよゼームス!」

「……い、いいから、私にかまうな……!」

この匂い、魔香だ。ゼームスの様子がおかしいのはそのせいだろう。

(でも、一体どこから……っいえ、それよりも!)

魔物になりかけているゼームスの方が問題だ。今はまだかすかにしか匂いもしない。離れれば大丈夫だろう。

「オーギュスト、ゼームス会長をつれてすぐ寮にもどるんだ」

「あ、ああそうだな。ほら、ゼームス」

「いい……っ一人で、行ける」

「ゼームス会長、今はこの場を離れる方が先です。早く」

オーギュストに体を抱えられたゼームスは、アイリーンをにらんだ。

「……まさかこれは、お前の仕業……っ」

「行くぞゼームス。顔、真っ青だ。早く横になった方がいい」

「頼んだよ、オーギュスト」

そう言って押し出すように、軽くゼームスの胸に触れる。ほんの少し、聖剣の力を使った。

竜になったクロードを人間に戻した時と同じだ。彼を引きずり込もうとする魔の瘴気を、払いのける。風のように優しい力で。

呼吸が楽になったのだろう。ゼームスが驚いたように顔を上げた。もう一度、つぶやく。

「お前……今、何か……」

何を言うべきか言いあぐねている顔だ。だが、オーギュストが強引にそれを引っ張っていってくれる。

「お前も教師に報告へ行ってくれないか、アイリ・カールア」

「あーカイル、そういうのいいと思うよこの子」

「何?」

「俺たちの正体知ってるから。別筋のお仲間っぽいよ?」

立ち上がったアイリーンを、上から下までカイルが眺めた。文句は言わせないとアイリーンは胸を張るが、カイルは眉をひそめてウォルトにつぶやく。

「こんなひ弱で?」

「そりゃあアイリちゃんは――おっと内緒だっけ」

「なんだと……何を隠している」

「いいから、においの元を探して早く片付けましょう。魔物がきたら厄介ですよ」

ウォルトにいちいちかまっていられないので、アイリーンはにおいをたどりながら茂みの中へと進んでいく。異論はないのか、ウォルトもカイルもついてきた。

「あまり強いにおいじゃないね。使用中というより、使ったあとかも……」

「――あった! これですよね」

草むらに落ちていたパイプを拾ったアイリーンは、ウォルトとカイルに見せる。

「確かに、これだ。――中は、からだな」

「やっぱり使用後か。いや、それにしてもにおいが薄い……濃度が薄いんじゃないか?」

ウォルトの推測に、カイルが頷く。

「そのようだ。通常よりは薄い。魔物を引き寄せる効果もないだろう、これでは」

「だよねえ。じゃあ、一体誰がなんのために……」

「パイプってことは、人間が吸ってたんじゃないですか。ほら、芝生にくぼみがあります」

アイリーンはちょうど木を背にして座り込んでいたようなあとを指さす。

「パイプは落としたんでしょうね。魔香って、吸うと気分が高揚するんですっけ」

「ああ。要は麻薬と同じだよ。使っていればいずれは廃人になる。学生が遊び半分で手に入れられる代物じゃないんだが……煙草を隠れて吸ってみる子供じゃあるまいし」

「だが濃度が低いとはいえ、魔香が嗜好品で流出するなど考えられない」

カイルの発言は、教会で厳しく管理されているのを知っているからこそのものだ。

「――ぼく、ちょっと調べていいですか」

リュックやクォーツに渡せば、何か調べてくれるかもしれない。

そう思ったのだが、カイルは途端に瞳を険しく細め、ウォルトは目が笑っていない笑みを浮かべた。

「そういうわけにはいかない、アイリちゃん」

「お前が何者か知らないが、それはこちらに渡してもらう」

「調べるだけですよ、譲ってください。報告はしますから」

「――それはもちろん、生徒会にもだろうな?」

カンテラの光を向けられ、ぎくっと三人で身をすくめて、振り向いた。

光源の元には、二つ影がある。

「……オーギュスト……ゼームス会長……」

「ご、ごめんアイリ。ゼームスがもう平気だし、皆が心配だって言うからさ。つけてきたんだけど……あの――何があったんだ、これ?」

「ちなみに報告を怠った場合、生徒会長命令違反で全員、退学だ。――何をしているのか洗いざらい話してもらおう。お前たち、ただの生徒じゃないな」

すっかり顔色がよくなったゼームスが冷ややかな目で見回す。渋面になったカイルの横で、ウォルトがわざとらしくため息を吐く。

「……まずったね。さあどうしよう。助けてくれないか、アイリちゃん。君が実は」

「わかりました。全員、ぼくについてきてください」

ウォルトの足を踏みつけ、腹をくくったアイリーンは全員を促して足を進めた。