軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12

「――婚約者から殴られる友達を、助けてあげたいと思ったんです」

アイリーンの寮部屋に移動し、あたたかいミルクを淹れてもらったレイチェルは、促す前に自分からそう切り出した。

椅子の背もたれを抱くようにして反対向きに座っているアイザックが、確認する。

「友達ってのは、吸血事件の被害者か。つまりあの事件は、自作自演?」

「……そういうことに、なりますね……」

「はっきりしねぇな。どう見てもあの教授が勝手にやったんだろ。ちゃんと話せ」

「す、すみませ……」

「アイザック、追い詰めるような言い方はやめるんだ。――レイチェル、順番に話してくれないかな」

寝台に腰かけているレイチェルの横に座る。

アイリーンの助け船に、うつむいていたレイチェルは顔を上げた。そしてアイザック、壁に背を預けたままのウォルト、最後にアイリーンの顔を見つめて話し出す。

「最初は、ただの愚痴だったんです。私も、その……友達と同じ境遇だったから。でも、友達の方はどんどんひどくなって、私、見てられなくて。友達も一緒に白百合姫――セレナ様にも相談してみたりして」

ぴくりと眉が動いてしまったが、そのままレイチェルの話に耳をかたむけた。

「悩んでたら、ケーニヒ教授がある日突然、私に話しかけてきたんです。……その、友達が書いたオーギュスト様宛の手紙を持って……」

「オーギュスト宛? それってまさかラブレター……」

「ご、誤解しないでください。友達は、たとえ最低な婚約者でも、自分から裏切ったりする子じゃないです。出すつもりもありませんでした。ただの憧れを形にしただけの……その、男の人には言い訳にしか聞こえないのかもしれませんが……」

語尾をすぼめたレイチェルにアイリーンは頷いた。

「わかるよ。書いてみて、自分を慰めたかっただけなんだろう?」

「そ、そうです」

「……で? その手紙を弱みに脅されたわけか」

アイザックの確認に、レイチェルは首を横に振った。

「最初は違いました。手紙は返してもらえなかったけど、穏便に婚約破棄できるよう協力しようって……相談にのってくれるって言われて、私が友達にそう伝えたんです。日時の仲介も私がしました。……その相談に友達が向かって、その……」

「――」

「こ、こんなことになるなんて、思ってもみなくて……」

瞳を潤ませたレイチェルが唇をかみしめた。ため息をついて、アイザックが先を促す。

「それで? そのあと当然、あんたは教授を問いただすだろ。でも逆にお前も共犯だって言われて、さらに友達の手紙をばらされたくないなら金をよこせって言われた?」

「そ、そうです……と、友達、今、家で監禁状態なんです。私も会えなくて……何があったか、分からないんです。でも私のせいだから、せめて、償おうと思ったんです。今でさえ腫れ物扱いされてるのに、あの手紙が公表されたら、ますますあの子の立場が……」

だから手紙を買い取ろうとしたのか。

(……あの教授、あと五、六発殴っておけばよかったわ)

今から地獄に落とす方法はないものか。算段するアイリーンの前で、レイチェルがまっすぐ顔を上げた。

「どんな理由であれ、原因は私です。処罰は受けます。でもあの子は巻き込まずにおいてもらえませんか」

「被害者抜きでどう説明つけるんだよ、できるわけないだろ。馬鹿かお前」

レイチェルが喉を鳴らした。アイリーンはアイザックをにらむ。

「アイザック、言葉を選んで。……レイチェル、思い詰めなくていい。君にも友達にもなんにも落ち度はない。教授だけ地獄にたたき落とす方法を、今からアイザックが考えるから」

「俺が? なんでだよ、めんどくさい」

「でなければぼくが考えるよ。手っ取り早く物理でいこうか!」

「待て分かった、俺が考える。……最初っから教授はこの女が目当てだったわけだろ」

口に手をあてて考え出したアイザックに、レイチェルが驚いた顔をした。アイザックの指摘にアイリーンも頷く。

「被害者の子がターゲットなら、レイチェルに交渉を持ちかけてきたりしないからね。最初から、直接被害者を脅したはずだ」

「でも、その女にはまず先に金を要求してた。学生じゃ大した金額用意できないって分かってるはずだろう。にもかかわらずってことは、教授は少しでもいいから金がまず欲しかった。つまり金に困ってるはずだ」

「正解。君はなかなかやるな。教授は賭け事好きでね。今は負けがこんで借金を抱えてる。やばい薬にもはまってるみたいだし、金はいくらあっても足りないだろう」

ずっと黙って聞いているだけだったウォルトがそう声を上げた。レイチェルの手前、魔香を薬と表現しているのだろう。アイザックは胡散臭そうな顔をしたが、すぐにアイリーンに向き直る。

「わかった。俺は資産家の息子だ。――ま、なんとかなるだろ」

驚いた顔でレイチェルがまばたく。アイリーンも首をかしげた。

「金で手紙を買うつもり? それでも教授の口を封じられるかどうか」

「そんな難しいことじゃないだろ。ただ手紙を処分して、事件のことを一切明るみにせず、教授を破滅させりゃいいだけなんだから」

すましたアイザックの顔に、アイリーンは無言になる。

(……わたくしをよく止めるけど、アイザックもやると決めたら過激じゃないかしら)

あまりやりすぎないように、あとで念を押そう。たぶん、説得力はないが。