軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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どうやらすでに、密告のイベントが始まっているらしい。

廊下側では、固唾を呑んで様子をうかがっているベルゼビュート達がいる。不安げな眼差しを全員に向けられ、アイリーンはにこりと笑い、頷く。

「でもクロード様、本当のことです。キースさんは魔物を売ってて……私達、知らないままだったらクロード様が傷つくと思ってしらせにきたのに……」

応接間のソファに座ったリリアがうつむく。その横に座っているセドリックがすかさず批判の声を上げる。

「リリアの言うとおりです、異母兄上。俺達は無視して捜査をすすめることだってできた。それをリリアがあんまりだというから、こうして秘密裏に話にきたんですよ」

「それとも貴殿の命令で魔物を売っていたと? まさか人間が不戦条約違反をしたと、我々に難癖をつけるつもりだったのではないのか」

マークスの侮蔑に、クロードの赤い瞳がぎらりと光る。がたりと家具が、床が、地面が震えた。地震だ。

「いい加減に――」

「怒っても無駄だ。リリアは聖剣の乙女の生まれ変わりだからな」

マークスの自慢げな言葉に、揺れが止まった。リリアが恥ずかしそうにうつむく。

「ま、まだそうと決まったわけじゃ……内緒にしてって言ってるのに」

「何を言ってる。間違いない。君の中から出てきた剣、あれが聖剣でなくてなんだ。魔物達を一掃するあの輝き!」

「そうだ、リリア。自信を持つといい。だから父上も魔物密売についての事件を俺達に任せてくれたんだ」

どうやら既にリリアは聖剣の乙女としての力を目覚めさせたらしい。それでセドリックとマークスはますます心酔したといったところだろうか。失言に気づいていないらしかった。

「この国で聖剣の乙女の血を一番濃く継いでいる女性はアイリーンだ。だが聖剣の乙女にはほど遠い女だった。君を選んだ俺は正し――」

「面白い話をなさってますのね。魔物達を一掃?」

かつんと踵の音を鳴らして部屋に入る。ひんやりと足下に冷気が漂っていた。

「初めて聞きました。魔物を殺めることは不戦条約で禁止されているのに?」

「……アイリーン」

顔をあげたクロードの横に、腰を下ろす。にこにことアイリーンは微笑みかけた。

「相変わらず皆様、頭も口も軽くてらっしゃいますのね。内緒にしなければならないのは聖剣の乙女のことではなく、魔物の一掃のことでは? 故意か過失か存じ上げませんけど」

「せ、聖剣を見て魔物が逃げ出しただけだ! かすり傷一つ負ってない!」

「まあ、それはよかった。ね、クロード様」

ぽんとクロードの握り拳に手を置く。それでやっと、足下に渦巻く冷気が止まった。

「それで、なんのお話でしたかしら? キース様が魔物の密売をしているとかなんとか?」

「そ、そうだ」

「まあ、馬鹿らしい。お引き取りくださいな」

「ば、馬鹿馬鹿しいってひどい! 魔物が可哀想じゃないですか!」

「だって、魔物の売買は犯罪でも何でもなくってよ?」

小首をかしげたアイリーンに、リリアが目を丸くした。セドリックやマークスですらぽかんとしているのだから始末に負えない。

「禁じられているのは魔物を傷つけることです。魔物の売買は禁じられていません。クロード様が怒るからやめよう、とか倫理観レベルのお話です。そもそも、キース様が魔物の密売をしていたとして、人間側が何の罪で捕まえるのかしら?」

「……わ、私は聖剣の乙女だから、魔物と人間の争いは避けたいんです! でないと、クロード様を斃さないといけなくなっちゃうじゃないですか……」

「クロード様はまだ人間でしてよ。聖剣で斃せないでしょう。――とりあえず要約すると」

しょげてかまってもらえる暇をリリアに与えず、アイリーンは優雅に微笑んだ。

「あなたの出番はないので、すっこんでらっしゃいな。それより皇妃の勉強をちゃんとなさった方が宜しいのではなくて? あまりいい噂を聞きませんけれど」

「……ひどい……っ!」

立ち上がったリリアが、泣きながら駆け出す。それを慌ててセドリックとマークスが追っていった。ふうと肩から息を吐き出したアイリーンは、アーモンドを呼ぶ。

「クロード様の力が及ばない可能性があるわ。あの三人がちゃんと森の外に出るまで、空から目で見張って頂戴。近づきすぎては駄目よ、聖剣の乙女の力は本当だから」

「分カッタ!」

ベルゼビュートの頭の上にのっていたアーモンドがばたばたと飛び去っていく。クロードが口を開いた。

「危険なことは――分かった、自己判断に任せる」

「よろしくてよ。魔物より今はキース様を守る時ですから。お分かりでしょう?」

聖剣の乙女が現れた。魔王を狙う者は、まずクロードを魔物にするために、一番狙いやすいキースを狙う。彼は人間だから。

「……疑われるだけの何かがあるのか」

ぽつりと尋ねたクロードは、本当は気づいているのかもしれない。ちらと見ると、廊下にはキースがいた。

アイリーンが目配せすると、一度天井を仰いでから、つかつかとクロードの元まで歩み寄る。

そして、頭を垂れて跪いた。

「――クロード様。私めは、あなたに話さねばならないことがあります」

「……言ってみろ」

「でーすーがー、それはね。アイリーン様に言われた仕事を終えるまでお待ちを」

軽く視線を向けられて、きょとんとした。

――この件が片付いたら、クロード様に全て自分から告白なさい。自分で選択するのではなく、主に決断を仰ぐのよ。それがあなたの一番最初の間違いだわ。

そう彼に言ったのはアイリーンだ。だが別に今、告白してしまってもいいだろうに。

「私めの間違いをそのままにして、あなたの足を引っ張るわけにはいかないんですよ。あなたの左腕ですから」

そう言って、キースはクロードに顔を向けた。その眼差しにある忠誠に嘘はない。

きっとそれをクロードは感じ取ったのだろう。頬杖をついて、溜め息を吐く。

「……分かった。その時は覚悟しておくといい。場合によっては処分も考える」

「承知致しました、我が主」

「あと、お茶の場所は分かる。淹れ方が分からないだけだ」

「それは大変失礼致しました」

そのやり取りを横で聞いていたアイリーンはそっと立ち上がろうとし、何故かクロードに引っ張られてその膝の上に座り込んだ。

「な、なんですの? せっかく二人きりにして差し上げようと」

「男と二人きりにされて何が嬉しい。そういうところがおかしいな、君は。――それで? キースを借り、ベルゼビュートを丸め込み、君は僕に黙って、何を企んでいる?」

背後から喉を指の腹でゆっくりとなでられた。眉を吊り上げ、クロードの鳩尾めがけて肘をたたき込む。油断していたのか、クロードはもろにそれをくらって呻いた。

「わたくし、痴漢の撃退は得意でしてよ」

「ちかっ……!?」

久し振りに外で雷が落ちた。衝撃だったらしい。そのまま雨が降り出す音が聞こえだしたが、まさか悲しかったのだろうか。

爆笑しているキースとおろおろしているベルゼビュート達を横切り、つんとすまし顔で赤くなった頬を見られないように、さっさと応接間を出る。ああいうクロードに過剰反応すると、余計にペースに巻き込まれると学習した。

「魔王様もなかなか純情だよな。あそこはもう一押しなのに」

廊下で待っていたアイザックが何もかも分かったような顔でにやにや笑っていたので、ついでに鳩尾に一発食らわせてやった。