軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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エルメイア皇国はなんという化け物を二人も飼っているのだ、というのが、バアルの感想だった。

聖王の結界ですら手こずった魔竜の攻撃をリリアが神剣で弾き返し、アイリーンが瘴気の中もかまわず突っこんでいく。

「……戦争を回避しようとした余はつくづく慧眼の持ち主だな。――おっと」

魔竜が全身から放った光線が四方八方に飛び散る。それらをすべて結界で防ぎ、バアルは嘆息した。

もう巨大な結界を維持する必要はないが、国を守る役目はこちらにあるようだ。

「まったく、休む暇もない」

「おい、これ」

われた腕輪が目の前に突き出された。

魔竜が現れるようなものをよく持ってきたと感心して、バアルは先ほどまでアレスのそばにいた男を見る。

「ハウゼル女王国から下賜された魔竜を閉じ込める腕輪だ。なんか内側に魔法陣みたいなのが描かれてる。――証拠になるだろ」

「貴様、アレスの副官だったのでは?」

「いいから持っとけって。オーギュストは……いねーか。おいセレナっつったっけ」

「……何よ」

斬り付けられた腕に包帯を巻いた女がじろりとこちらをにらんだ。

「動けるだろ。将軍の屋敷に戻って、他にもなんか証拠持ち出してこい」

「なに、そのえらそうな態度。見てわからない? 私、怪我してるのよ」

「大した怪我じゃないだろ。証拠一つにつき特別手当」

「やるわ」

あっさり意見を翻し、女が立ち上がって歩き出す。

そのやり取りを見て、バアルは腕輪を見た。これはつまり。

「おい、貴様らまさか全員――」

「バアル様、何かきます!」

兵士の叫びに意識を切り替えた。

魔竜の攻撃かと身構えたが、こちらに飛んでくる黒い塊から人間の腕が出ていることに気づいて、咄嗟に聖力で受け止める。地面に落ちたのは、泥のように瘴気で汚れた人間だった。うう、と唸る声に固唾を呑んでいた周囲が騒ぎ出す。

「呑みこまれた奴だぞ! ……まだ生きてる!」

「だ、大丈夫なのか……!?」

「――おい、今すぐ手分けして魔竜から救出された奴らを捕らえろ!」

アレスの副官だった男がそう声を張り上げた。救出という言葉を強調しているのは、あくまで人間を守る姿勢を印象づけるためだろう。

「全員だ、大事な証人だぞ、死なせるな! アレス将軍もその内救出されるはずだ。見逃さず捕らえろ! いいですねバアル様」

「かまわぬ。まかせよう」

今まで出番がろくになかった兵士達が急いで動き出す。ひたすら息を呑んで魔竜の様子をうかがっているより、その方が気が楽なのだろう。

その様子を見て、はあっと大げさに男が息を吐き出した。一仕事終わった、とでも言いたげだ。まだ戦いは続いているのに。

「お前、エルメイア皇国の者だな」

男は頷かなかったが、確信があった。

この男に、第二皇子の婚約者、先ほど屋敷へ向かった女――いったいどれだけの罠をアイリーンは張り巡らせていたのか。ひょっとしてアレスの屋敷にいるという第二皇子も撒き餌なのかもしれない。

「……友人、か。友人にするには惜しい女だな」

ぴくりと男の眉が動いた。おやと思ったが、男はすぐ皮肉っぽく笑い返す。

「それはうちの魔王様に交渉をどうぞ」

「そういえばあの男、生きているのか」

「むしろ殺す方法が知りたいくらいだよこっちは」

「――もうかまわぬだろう。余の正妃を、助けに行ってやってくれぬか」

ちょっと眉根をよせて、男が言葉を選ぶ。

「あんたが行くべきじゃねーの?」

「余は王だ。ここを守らねば」

今こそアイリーン達に魔竜は意識を向けているが、いつこちらに攻撃を向けてくるかわからない。後宮も人がいなくなり、半分ほど消し飛んでいるが、それでも守りの力はいる。

「……わかった。魔王様が助けてるかもしんねーけど、見てくるよ」

「頼んだ」

「いい王様になれよ」

なんという無礼な激励だろうか。ぱちりと目をまばたいたあとで、生意気なと笑った。

後宮の地下牢へ向かう道の途中で、ばったり鉢合わせした。完全に不意打ちで、アイザックは思わず固まる。

「ア、ア、ア、アイザックさん」

動揺しているのは相手も同じだった。そのおかげで、先に平常心に戻る。

「お前、何してんの」

「え、ええと、せめてロクサネ様とクロード様の様子を見てこようと……」

だから両手に着替えや治療箱やらを抱えているのか。納得して、アイザックは頷く。

「あの二人はもう外に出して大丈夫だ。鍵は俺が持ってる。行くぞ」

「は、はい。ええと――あの、私、鍵をいただければ、ひとりでも」

途中で風が強く吹き抜けていった。

風に背中を押されてレイチェルが倒れ込んでくる。それを支えて、アイザックは頭上に向けて舌打ちした。

「もう少しおとなしく戦えねーのかよ、あっちは。――ったく」

「す、すみません、私」

レイチェルが慌てて体を離した。

それを止める立場をアイザックは持っていない。だが抱えた荷物を、半分持つことはできる。

「聖王に頼まれたんだ、俺も行く。仕事だから」

片手があいたレイチェルはぽかんとしていたが、やがて微笑んで、頷いた。

「わかりました。あ、メモはアイリーン様にわたしました。うまくいきましたか?」

「――ああ。サンキュ。あの……さっきは」

「大丈夫です。お役に立ててよかったです」

そんな風に、あまりにも健気でかわいいことを言われてしまったら。

「……えっ? え、あの、えぇっ!?」

「また飛ばされたら困るだろ。ほら行くぞ」

何でもないふりをして手をつなぎ、ひっぱる。どうせこの女も混乱して、アイザックが耳まで赤くなっていることになど気づきはしないし、何より非常事態だ。

頭上で爆音が響く。

振り返ったアイザック達の前で、魔竜が今までにない咆吼をあげた。